発達段階に合わせた服薬指導とコミュニケーションのポイントを、『医療を受ける子どもへの上手なかかわり方』(日本看護協会出版会)などの編著者で、チャイルド・ライフ・スペシャリストの原田香奈氏に聞きました。

東邦大学医療センター大森病院看護部看護師
チャイルド・ライフ・スペシャリスト
原田 香奈 氏

赤ちゃんは母乳とミルク以外のものを口に入れたことはありません。パパやママもどうやって薬を飲ませればいいのか戸惑います。パパやママ(親)の不安は赤ちゃんに伝わりますから、パパやママが自信を持って薬をあげられるように支援することが大切です。
この時期は粉薬やシロップを水や白湯、単シロップに溶かして飲ませるのが一般的です。ミルク嫌いになってしまうので、決してミルクで溶かないことが原則です。哺乳瓶の乳首(にゅうしゅ)に薬を入れて、吸綴(きゅうてつ)反応を利用して吸わせます。スポイトで少しずつ口の中に入れてあげる方法もあります。粉薬をシロップなどに溶くときは、少量で、練るくらいの硬さで溶きます。量が多すぎて水気が多いと、口から溢れてしまいますし、何回も飲まなければいけないと、嫌になって、口から吐き出してしまいます。1回で飲める少しの量を、口から出してしまわない程度の練り具合で、口の奥の方に入れてあげるか、広角から入れてあげるのがポイントです。舌の上に乗せると美味しくないのがわかってしまうのでNGです。
薬を与えるタイミングも重要です。眠いときやお腹いっぱいのときに与えても飲みません。「もうお昼になっちゃう!」と慌てて寝ている赤ちゃんを起こして無理矢理に薬を飲ませるのは赤ちゃんにとっては嫌なことでしかありません。赤ちゃんにとって良いタイミングで与えることが大切です。お腹が空いているときがもっとも吸綴が強いので、先に薬を与えて、そ の後で母乳やミルクを与えるのが理想です。
何よりも大切なことは、服薬を嫌な記憶にしないことです。服薬の後は母乳やミルクを与えて、いつも以上に褒めて、ふ れあって安心感を与えてあげると、赤ちゃんは「これを飲んで嫌だと泣いてもすぐにお母さんがほめてなぐさめてくれるな」と感じます。ママと赤ちゃんが格闘する時間ではなく、スキンシップの時間にすることで服薬を継続し、習慣化することができます。こうしたポイントを医療者がきちんとパパやママに伝えてあげることが必要です。

いろいろなことに好奇心や興味が湧いて、自己主張ができるようになります。ある程度の言葉は理解できるようになり、物事の因果関係の理解も進み始めます。たとえば家族が風邪をひいて薬を飲んでいるのを見たことがあれば、薬は症状をよくするために飲むと理解できます。
“ごっこ遊び”をする時期なので、人形を使って薬がなぜ 必要なのか説明します。身体の仕組みの絵本で、「お薬がお口から喉に入っていくよね」と仕組みを説明して、「お咳がこんこん出るよね。お咳のばい菌をやっつけるお薬だよ。だからこのお薬を飲もうね」とストーリー立てて話します。
服薬のモチベーションを維持するために、私たちは“がんばりシート”を使います。薬が飲めたらシールを張るというもので、薬を飲めたことを目に見える形で評価してあげられるものとして、スタンプやシールは使いやすく幼児期には効果的です。シートは子どもの好きなキャラクターに合わせて作ります。親子が一緒にシートを作ることもあります。
子どもにとっては、お医者さんと両親が薬の白い袋を前にして、難しい顔をして話しているだけでも、何かいつもと違うと感じます。薬は何か不安なもの、怖いものに感じます。両親だけでなく、本人にも薬の説明をして、恐怖心や抵抗感を減らしてあげることが大切です。
服薬のときは、子どもに選択肢を提案します。たとえば、「スプーン、シリンジ、スポイトのどれで飲む?」と選択肢を示して、選ばせます。次に、薬を準備して飲むまでの行動の中で、役割を与えて、能動的に服薬に取り組めるようにします。そして、飲めたことと、手伝ってくれたことの両方を褒めましょう。
飲まなかったときに「注射してもらうよ!」と叱ったり、脅すことは、絶対にやってはいけないことの一つです。「お兄ちゃんは飲めたのに、なんで飲めないの?」などと、自尊心を傷 つけるような言動もNGです。なぜ服薬が嫌なのか、その理由を確認して、嫌な気持ちを受け止めてあげることが大切です。服薬行動は子どもの経験や背景によっても異なりますから、個別性を重視した対応が基本です。

物事を関連づけて理解し、分類し始める時期です。病態と薬を関連づけた説明を理解して主体的に治療に参加できるようになるので、理解度に合わせたアプローチが必要になります。
錠剤が飲めるようにもなり、剤形の選択肢が広がります。たとえば粉薬で苦い思いをしていた子に、「同じ効果でつぶのお薬があるよ。挑戦してみる?」と働きかけができます。
薬の名前にも興味が出て、覚えるようになります。複数の薬剤を服用している場合は、これは痛みを抑えるお薬、これはウイルスをやっつけるお薬、などと違いを説明します。
この時期になると周囲の子どもたちとの競争意識が芽生えます。「○ちゃんはこうやって飲んでたけど、△ちゃんはどうやって飲む?」と競争意識を上手に利用することもできます。ただし、薬が飲めない自分を卑下してしまうような自尊心を傷つける言動をしないように気を付けましょう。

論理的な思考ができるようになります。親ではなく、子どもとの一対一の関わりの中で、服薬の必要性を論理的に説明することが大切です。子どもがどこまで理解して、どこに疑問を持っているかを確認することが大事なので、身体の仕組みや病状、薬効などのつながりを具体的に順序立てて説明します。
学童期は経験を積んで行く時期でもあります。今回初めて飲むことになったお薬が、前回のお薬とどう違うのかも説明が必要です。もし前回の治療体験が苦痛であったり、嫌な体験だった場合、新しい治療と前回の治療を切り離して、別のものとして理解を得ることが大切です。そのためにも過去の治療体験を先に聞き取っておくとよいでしょう。
幼児期から学童期は思春期につながる大事な時期です。この間に服薬の大切さや必要性を理解した服薬行動にむすびついていないと、思春期に服薬拒否や自己管理ができないといった問題行動につながります。
学童期は、言葉できちんと表現し伝えられるようになりますから、薬剤師さんは、「病気のことを先生から聞いているかな?」と聞いてみて、説明を受けていないようであれば、医師や看護師に「この子には病気と治療の説明が必要です」と伝えてほしいと思います。薬剤師さんがキーパーソンになって他の職種と連携してほしいです。
薬剤師さんという“お薬の先生”が子どもに説明することはとても効果的です。「薬剤師はお薬の先生です。お薬のことはなんでも聞いてね」と伝えると、子どもは信頼して、薬に関することは薬剤師さんに相談しようと思えます。そのように子どもと一対一の信頼関係をつくってほしいと思います。