骨粗鬆症
「リエゾンサービス」により骨折率低下を目指す

高齢化が急速に進む現代の日本では、健康寿命の延伸が重要な課題となる。骨粗鬆症を原因とした骨折、中でも大腿骨近位部骨折は、寝たきりの主要原因の一つであるにもかかわらず、骨粗鬆症の治療率は低く、治療を開始したとしても継続率が非常に低いことが指摘されている。そこで近年、日本骨粗鬆症学会は、骨粗鬆症の啓発、予防、診断、治療のための多職種連携システムである「骨粗鬆症リエゾンサービス」の運用を推進している。今回は、骨粗鬆症リエゾンサービスに積極的に取り組んでいる、武蔵台病院の理事長・整形外科部長の河野義彦氏と薬剤師の宇津木冬枝氏に、骨粗鬆症治療のポイントと同院の取り組みについてお話を伺った。

Part.1
医療法人和会 武蔵台病院
理事長・整形外科部長
河野 義彦氏

Paet.2
医療法人和会 武蔵台病院
薬剤部
宇津木 冬枝氏

Part.1 専門医の処方を読む
関連施設と協力し小規模病院でリエゾンサービスを実現

医療法人和会 武蔵台病院 理事長・整形外科部長 河野 義彦氏

治療率が低い骨粗鬆症
予防と治療が必要な骨の疾患

WHOによると、骨粗鬆症は「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患」と定義される。骨粗鬆症の患者数は1,280万人(男性300万人、女性980万人)と推定されるが、医療機関で治療を受けているのは、全体の20〜30%にすぎないともいわれている。武蔵台病院の理事長で整形外科部長の河野義彦氏は「骨粗鬆症は単なる『骨の老化現象』ではなく、『骨の病的老化』を示す、予防や治療が必要な疾患であることを認知していただくことが非常に重要です」と語る。

脆弱性骨折の有無や骨密度から診断
骨密度はYAMからの変化量で評価を

原発性骨粗鬆症の診断においては、続発性骨粗鬆症や、骨密度の低下をきたす骨粗鬆症以外の疾患と鑑別する。その上で、脆弱性骨折の有無とその部位、骨密度を合わせた診断基準により確定診断を行う。「原発性骨粗鬆症の診断基準2012年度改訂版」では、①椎体骨折または大腿骨近位部骨折を有する、②その他の脆弱性骨折があり骨密度が若年成人平均値(Young Adult Mean:YAM)の80%未満、③脆弱性骨折はないが骨密度がYAMの70%以下または−2.5SD以下、のいずれかを原発性骨粗鬆症とし、治療開始の対象にしている。また、骨粗鬆症ではないものの、骨量が減少していると診断される例においても、将来骨粗鬆症を発症するリスクが高いとして、一部薬物治療の対象にもなる。
骨粗鬆症の診断について、河野氏は、専門外の医師の骨粗鬆症に対する意識はまだ低いことを指摘する。「非専門医では、骨密度測定の結果を同年齢比較で捉えてしまい、年齢相応の骨量であるから大丈夫と判断してしまうこともあるようですが、骨密度はYAMで評価して、骨質の劣化と併せて診断することが重要です」と話す。

骨吸収と骨形成のバランスが低下
予備群の予防法は栄養や運動、検診

全身の骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返し、一生を通じて再構築(リモデリング)し続けている。このリモデリングは約3ヵ月で一周期のペースで行われる。
骨密度を維持するためには、骨吸収と骨形成の量が等しくなければならないが、加齢や、閉経によるエストロゲンの欠乏などによって骨吸収が異常に活性化し、骨形成によって十分に補充できないと骨密度が低下することになる。また、骨密度の他に骨質も骨の強度に関与している。骨質は加齢や閉経、生活習慣病の罹患などによって劣化すると言われている。骨密度と骨質のいずれか一方が低下または劣化すると骨強度が低下し、骨折のリスクが高まる。
こうした骨強度が脆弱した骨粗鬆症予備群では、予防の観点が極めて重要となる。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では、骨粗鬆症予防の有効な手段として、カルシウムやビタミンDなどの積極的な摂取や、軽度の動的荷重運動(歩行など)と強度の動的荷重運動(ジョギングなど)の両者の実施を推奨している。また、骨粗鬆症検診の積極的な実施も望まれるとしている。なお、食事指導については予防だけでなく治療としても推奨されており、同ガイドラインに食品の種類が示されている(表1)。

参考文献1)を参考にクレデンシャル編集部作成

年齢や骨密度を考慮した薬剤選択
アドヒアランスの維持が課題

骨粗鬆症治療の薬剤には様々な種類があり、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」で位置づけられている特徴や各有効性に対する評価も様々である(表2)。
武蔵台病院では、年齢や骨密度に応じて薬剤が選択されている。年齢が若く骨密度がそれほど低くない症例では選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)や活性型ビタミンD3製剤のエルデカルシトールが選択されることが多いという。一方、骨密度の低下が大きい症例では、年齢にかかわらず副甲状腺ホルモン薬のテリパラチド(遺伝子組換え)を積極的に選択する。
ビスホスホネートは、特に骨密度を向上させる薬剤として知られ、経口剤や注射剤として複数種が実臨床で用いられている。一方で、顎骨壊死や非定型骨折のリスクについても指摘されている。武蔵台病院では、ビスホスホネートを使用する場合は、3〜5年間投与したところで一度薬物療法を中止する「ドラッグホリデー」を設け、年に1度は骨密度を測定して経過観察を行う。骨密度の低下がみられたら再度薬物療法を検討しているという。
薬剤選択については、患者のアドヒアランスも考慮することが重要である。高齢者の骨粗鬆症では服薬アドヒアランスの低下がしばしば問題となるが、河野氏は、頻繁に通院できるか否か、介護施設で生活することがあるのか、薬剤の管理が難しい認知症などの罹患がないかなど、各患者のバックグラウンドをも考慮して薬剤を選択する必要があるという。また、他にもアドヒアランス低下の原因として「治療効果が実感されにくいという点があると思います。骨代謝マーカーの値や骨密度の測定結果を示し、服薬の効果を実感してもらうことでアドヒアランスが維持されると考えています」と説く。

参考文献1), 2)、各製品添付文書よりクレデンシャル編集部作成

上昇する骨折率への対応
多職種連携システム「リエゾンサービス」

大腿骨近位部骨折をはじめとした四肢骨折発生率は、上昇し続けているとの報告がある。この背景として、骨折リスクが高まった患者に対する骨折予防や骨粗鬆症の治療が適切に実施されていない点が指摘されている。しかし、骨折の手術を実施している病院の外科医や、多数の患者の診察を余儀なくされる診療所の医師が、限られた診療時間の中で十分に対応するのは困難な場面が多いのが現状である。こうしたことから、日本骨粗鬆症学会では、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士などの多職種連携システムである「骨粗鬆症リエゾンサービス」(以下リエゾンサービス)の運用を推進している。英国、オーストラリア、カナダでは同様のサービスが実施されており、死亡率や再骨折率が低下し、医療費の削減につながる可能性も報告されている。
武蔵台病院では数年前からリエゾンサービスに取り組んでいる。同院は、もともと母体となる企業が開発し住宅地の住民に対し医療を担うために開設された病院である。開設当初は若い世代の住民の医療ニーズに応えるために、産科などを中心に医療を提供してきたが、地域住民の高齢化に伴い、整形外科の需要が年々高まっている。リエゾンサービスは大規模病院で実施されることが多いが、河野氏は、地域住民の生活に密着した小規模病院であるからこそ、リエゾンサービスが必要であると感じ、2016年から取り組みを本格化した。

小規模病院における骨粗鬆症リエゾンサービスの取り組み

小規模病院の限られたリソースの中で、リエゾンサービスを開始するにあたってまず念頭においたのが、このサービスに関わる職員の業務効率の向上と活動負担の軽減を行いながらサービスを充実させていくこと、そして地域住民の骨粗鬆症に対する理解と認知度の向上を目指すということであった。
骨粗鬆症マネージャーの資格を取得した4名の看護師を中心にリエゾンチームを発足し、①骨粗鬆症の知識をチーム内で共有し今後の活動について検討する「リエゾン会議」の開催、②地域住民に骨粗鬆症を啓蒙する市民講座「武蔵台健幸塾」の開催、③骨粗鬆症二次予防のクリニカルパスの運用、④患者の諸活動を記録する「健幸骨日記」の運用、の4つの活動を開始した(表3)。
骨粗鬆症二次予防のクリニカルパスは、武蔵台病院の回復期病床から退院し、その後外来でフォロー予定の患者を対象とした。骨粗鬆症患者の治療経過を把握しやすくするため、A4用紙1枚に骨折歴(部位、入院歴、手術歴)、治療内容、検査結果、身長、体重、骨代謝マーカーを記載し、紙カルテに挟む形で運用した。
自院で作成した健幸骨日記は、骨密度、治療歴、骨折歴を記入した日記を渡し、患者自身に薬剤の服用状況と毎日の運動、栄養について○△×で記載してもらうようにした。しかし、血圧管理票などとは異なり、患者の日記への記入のモチベーションは決して高いとはいえないものだったと話す。

骨粗鬆症マネージャー:日本骨粗鬆症学会では骨粗鬆症リエゾンサービスの普及を目的に、骨粗鬆症の診療支援サービスに関わる医療職を対象にした教育プログラムを策定し、普及・推進を図っている。このプログラムを受講し、学会認定の資格試験に合格することで、学会認定の骨粗鬆症マネージャー資格を得ることができる。

編集部作成

骨粗鬆症の認知度は向上
情報共有の不足による受診率低下も

武蔵台健幸塾は、2018年10月までに全30回開催し、参加のべ人数1,103人(実人数515人)を数えた。骨粗鬆症の受診者数およびDXA検査(骨密度測定検査)の件数も著しく増加し、地域の骨粗鬆症認知度は上昇したと思われた。しかし、2016年1月〜2017年3月までの受診率を骨粗鬆症二次予防のクリニカルパス運用前後で検討してみると、武蔵台病院退院から3ヵ月後、6ヵ月後の受診率は、運用後にむしろ低下していることが分かった。
の原因として、患者増加により整形外科医の負担が急増し、治療継続のための十分な対応ができていなかったことや、予約制の診療ではないため、患者に次の受診日について明確な日時の提示をしていなかったことが考えられた。また、患者およびその家族に骨粗鬆症治療継続の意義について説明が不足していたこと、二次予防のクリニカルパス運用について院内で周知不足であったこと、介護施設などの関連施設との情報共有が不足していたことなどもあった。

リエゾンサービス周知により受診率が改善
他施設とのさらなる連携も

こうした経験を経た後、改善策として、「定期処方お願い致しますカード」(図)を作成し、患者に次回の受診日を明確に知らせるようにした。また、看護師だけでなく多職種の職員に骨粗鬆症マネージャーの資格取得を促し4名から12名に増加させ、リエゾン会議に各部署および関連施設からの参加を要請してリエゾン会議の規模を拡大し、リエゾンサービスの周知を図った。
この結果、退院3ヵ月後、6ヵ月後の再診率が著しく上昇した。小規模病院では、大規模病院で行っているリエゾンサービスをそのまま取り入れるのではなく、施設の規模や特性に応じてトライ&エラーを繰り返し、各施設で最適なスタイルを模索することが必要と考えられた。
今後の展望として、循環型地域医療連携システムの構築(地域のクリニックや病院、歯科などとの連携)や、退院後に介護保険施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設)で過ごす患者の外来治療の継続を進めていくという。河野氏は、リエゾンサービスの最終目標を、骨粗鬆症治療後の骨折率の低下と定める。武蔵台病院では、電子カルテの導入を近い将来に予定しており、「外来患者の管理の面で、今後さらなる取り組みも可能になるだろう」と話す。

提供 河野 義彦氏

薬剤師の役割の大きさ
治療継続のための服薬指導を期待

骨格の健康は、身体の健全な形態と運動性を保障し人間らしく生きるための必須要素であり、骨粗鬆症治療における骨折予防や骨折再発予防はQOLの維持に重要な意味を持つ。しかし、骨粗鬆症は、薬剤服用による効果を実感しづらくアドヒアランスが低下しやすいと言われる。この点から、薬剤師が骨粗鬆症治療に寄与する部分は大きいと河野氏。「骨粗鬆症は治療が必要な疾患であるということ、また、治療の継続がいかに重要であるかなどの基本的なことを、薬剤師の立場からも重複して説明してもらうとともに、顎骨壊死などの副作用によるリスクばかりを強調しすぎず、治療薬で得られるベネフィットを明確に説明してもらうことが非常に大切だと思っています」と話す。「治療の要は何といっても薬ですので、患者さんに前向きに服用に取り組んでもらうためには薬剤師の力が必要不可欠だと思います」と薬剤師の活躍に期待を寄せる。

■参考文献
1) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.
東京,一般社団法人日本骨粗鬆症学会,日本骨代謝学会,公益財団法人骨粗鬆症財団,2015.
2) 川口浩.骨粗鬆症の基礎と最近の話題.脊髄外科 29; 259-266,2015.

Part.2 エキスパートの服薬指導
治療薬に関する細やかな指導でリエゾンサービスを支える

医療法人和会 武蔵台病院 薬剤部 宇津木 冬枝氏

自己注射剤で高いアドヒアランス
月1回のコミュニケーションで状況を確認

武蔵台病院では、自己注射剤のテリパラチドの処方は院内の薬剤部で対応しており、薬剤の説明や皮下注キットの取り扱い方法の説明を行っている。患者の多くは、治療開始前は注射剤に対し消極的な反応を示すと武蔵台病院薬剤師の宇津木氏は話す。同氏は、ネガティブな印象を和らげるように、注射時の痛みは耐えられないレベルではないであろうことを伝える。また、1日1回の注射を継続することの必要性を伝え、「値段も安くはないお薬だと思いますので、しっかり続けていきましょう」と話すという。
気になるアドヒアランスについて尋ねると、意外にもテリパラチドのアドヒアランスは良好のようだ。「テリパラチドは約1ヵ月(28日)で使い切る仕様になっていますので、患者さんはほとんど毎月薬剤部にいらっしゃいます。そこで使用状況を確認するのですが、皆さん意外にしっかり使えているのがわかります」と語る。前回処方された皮下注キットを持参して、残量を見せてくれる患者もいるという。宇津木氏は、この毎月の投薬時に患者とのコミュニケーションをとることで、アドヒアランスを維持するように努めている。

ビスホスホネートの服薬指導は理由を交えて患者の理解を深める

ビスホスホネートには、服用のタイミングや服用前後の摂食、服用時の体勢などについての様々な制限があるが、宇津木氏は「なぜそうしなければならないか」という理由を交えて説明し、患者の理解を促している。「飲料水としてミネラルウォーターを常用している方も多くいます。カルシウムを多く含むミネラルウォーターは、ビスホスホネートの吸収を阻害する可能性があることを説明し、『水道水での服用は問題ないですが、一部のミネラルウォーターでの服用は避けてください』、と説明すると、患者さんも納得して治療に取り組んでくれます」。同様に、服用時の体勢についても、消化管を刺激する可能性があるために服用後30分間は横にならないように、という理由付きの指導を心がけている。
また、ビスホスホネートは薬剤によって服用頻度が異なる。週に1回のアレンドロネートや月に1回のリセドロネートなど、服用頻度がさほど高くない薬剤を処方されている患者に対しては、服用を忘れないよう服用予定の旨をカレンダーに明記することや、万が一服用し忘れた場合の対処などについても指導している。

入院時には他疾患の罹患についても配慮

骨粗鬆症性骨折の患者が武蔵台病院に入院する際、他疾患の治療中であることが少なからずあるが、どのような疾患に罹患し治療しているのかを患者自身が把握していないこともある。しかし、たとえば活性型ビタミンD3製剤の重大な副作用には、血清カルシウム上昇を伴った急性腎不全があり、腎機能が低下している患者に活性型ビタミンD3製剤が処方されている際は特に注意が必要とされる。宇津木氏は、入院時には他科や他院での治療と薬剤処方状況を確認し、必要に応じて処方薬を整理していると話す。

骨粗鬆症リエゾンサービスにおける薬剤師の役割

武蔵台病院の骨粗鬆症リエゾンサービスには管理栄養士も含まれるため、食事の栄養指導については基本的に管理栄養士が行っている。宇津木氏は薬剤師の立場として、「活性型ビタミンD3製剤やカルシウム薬を服用しているからといって、食事でカルシウムやビタミンDを摂取しなくても大丈夫ということではない」と説明を加えているという。
また、骨粗鬆症の治療薬には、ビスホスホネートなど服用時の注意点が多い薬剤もあるが、保険薬局の現場では一人ひとりの患者に服薬を指導する時間を十分に確保できないことも多く、患者の理解を十分に深めることが難しい場面もある。武蔵台病院の病院薬剤部では、院外処方の薬剤についてもできる限り丁寧に指導することを今後目指していきたいという。「骨粗鬆症の薬物治療が開始される時点で一度しっかりと説明し、治療開始後も、少なくとも年に1回程度は改めて説明するなど、定期的な指導の機会を作っていければと思っています」と語る。
骨粗鬆症リエゾンサービスでは、近隣の保険薬局と連携し、服薬指導や治療継続のためのサポート、受診を中断した 患者への対応などを行うことで、骨粗鬆症性骨折の減少に寄与できるのではないかと話す。骨粗鬆症リエゾンサービスで薬剤師が担う役割は大きいようだ。

出題者よりコメント

骨粗鬆症治療薬のラインナップを覚える事が重要です。
それぞれの薬がどのように作用しているかの理解ができると、自ずと副作用の理解も深まると思います。また栄養の知識は重要でビタミンDの役割、必要カルシウム量などの理解はしていただきたいと思います。