がん患者は、医療者が思うよりも強く戸惑いや不安を抱え、共感を求めている

 近年、外来で化学療法を受けるがん患者が多くなり、調剤薬局においても化学療法に関する調剤・服薬指導が増加しています。こうした患者の気がかりを調査した結果によれば、不安要素の多い順から「再発・転移への不安」「化学療法を継続していく中で、経済面の行く末を案じている」「常に病気のことを考えてしまう」「化学療法による気力・体力の低下がある」となっており1)、がん患者は様々な思いの中で、治療を受けていることがうかがわれます。

 また、がん患者は、新薬が開発されるまで命を繋ぎ止めるためにも治療を継続したいという“希望”と、不確かな治療を継続していくことへの“戸惑い”を同時に抱えて治療を受けています2)。このことは、化学療法に納得しているように見えても、身体的あるいは心理的に窮地に追いやられる状況が生じれば、一気に化学療法に対して否定的な感情が芽生えてしまう可能性があることを意味しています。

 入院時と外来時で、医療者側との関係性が異なることにも、がん患者は戸惑いや不安を感じています。入院中は毎日、担当看護師、主治医との関わりがあり、個別性を大切にして対応されていたと感じていたのに対し、1~2週間に1回の外来受診では、看護師、医師との関わりが短時間であることから、個別性を無視して対応されていると感じることが少なくないようです2)。患者は当事者ゆえに化学療法を自分の命の綱と捉えており、そうした気持ちをもっと理解してほしいと思っているのです。

 このように、がん患者は複雑な心理状態を抱えているため、薬局における服薬指導にも十分な配慮が必要です。名城大学薬学部の川瀬基子氏らの報告3)では、がん患者に不安を抱かせるような薬剤師の“不用意”な発言例が示されています。

▶ 外来がん化学療法を開始する際、抗がん剤の副作用の発現や吐き気を心配する患者に対して、心配に対する十分な共感のないまま「飲んでみないとわからない」と対応し、医療者として無責任な印象を与える発言がみられた。

▶ 服薬中の抗がん剤の副作用に対して不安を伝えた患者に対し、「副作用が重いものでなければ、しばらく我慢して」や、「頑張って飲んでいただきたい」という表現が使用され、治療努力を重ねてきた患者にねぎらいや共感の声かけもなく、十分な配慮がない様子がうかがえた。

▶ 患者が化学療法のレジメンや治療方針に不安を感じているとき、患者の話を十分聞かずに「医師の治療方針に従うように」とすぐに医師に転嫁する発言があり、患者の気持ちを十分に受け止める共感の姿勢がみられなかった。

 同報告では、がん患者に対する服薬指導では十分な“傾聴”や“共感”の姿勢が重要であるとして、薬剤師は患者に一方的に話すのではなく、相手の心理状態や状況を確認しながら患者の話を十分に聴く、という姿勢が必要だと指摘しています。


1)市川裕美子,山口千賀:八戸学院大学紀要 2016;53:37-45
2)鳴井ひろみ,ほか:青森保健大雑誌 2004;6:19-25
3)川瀬基子,ほか:医療薬学 2011;37:559-566