解説
まつもと薬局本店 管理薬剤師
大野 伴和 氏
腎機能の低下については日々の投薬の際に目を光らせていることと思いますが、医療機関や診療科を複数受診する患者さんなどでは、思わぬところで引っかかってしまうケースもあります。腎臓病薬物療法認定薬剤師の大野伴和氏に、処方監査のポイントや腎機能が低下している方への栄養指導について解説していただきます。
腎臓病患者と関わる機会が多い薬局調整食の取扱いも多様
当薬局は総合病院の近隣に位置しており、1日120枚程度の処方箋を応需しています。循環器科と総合診療科では慢性腎臓病(以下、CKD)患者、透析センターでは透析患者の処方箋を受けているため、CKD患者に関わる機会は比較的多い環境といえるでしょう。日本栄養士会が認定する栄養ケア・ステーションの流れもあり管理栄養士が在籍する保険薬局もここ数年増えてきましたが、まつもと薬局では20年以上前から管理栄養士を配置して栄養相談を行う体制を取ってきました。腎臓病関連の成分調整食品の取扱いも多く、近隣の病院から成分調整食品を紹介されて来局されることもあります。
整形外科、眼科の処方に注意医療事故のニュースもチェック
内科系の診療科では、診察時に患者の腎機能を確認していることが多い一方で、整形外科や眼科など他の診療科では見過ごされることがあります。ここ最近、整形外科でもNSAIDsには気を配るようになってきたと思いますが、慢性疼痛に対してはNSAIDs以外にもデュロキセチンやトラマドールといった薬剤の処方頻度が増えています。見落とされがちですが、デュロキセチンや持効型のトラマドールは高度の腎機能障害のある患者では禁忌となっていますので処方時には注意が必要と感じています。
眼科は比較的高齢者の受診が多い診療科です。先日、心臓血管外科で定期薬としてアゾセミド(利尿薬)を服用している腎機能低下患者が、眼科を受診した際にアセタゾラミド(眼圧降下薬)を通常量処方された事例がありました。アセタゾラミドは90%以上が未変化体として腎臓から排泄されるため腎機能低下時には減量が必要な薬剤です。処方当初、対応した他の薬局で見落とされ、7日間服用した結果、眼圧は低下したものの脱水により腎機能の急激な低下がみられました。その後、心臓血管外科でアゾセミドを減量し改善しましたが眼圧降下薬処方時のチェックも欠かせません。
最新の医療事故のニュースも疑義照会のきっかけになります。2021年7月に、透析患者が抗不整脈薬(ピルシカイニド)の過量投与により亡くなる事例が発生しました。抗不整脈薬は腎排泄型の薬剤が多いと感じている薬剤師の方もいると思いますが、改めて抗不整脈薬について気を引き締められた方もいるでしょう。私も腎排泄型のシベンゾリンで、高齢者では初回投与量50mgが推奨されるところを100mgで開始されていた症例に遭遇したことがあります。こうした最新のニュースにもアンテナを張り巡らすことで、監査の意識が高まるものと思われます。
処方薬からの情報収集CKD重症度ステージの推測
当薬局の近隣の病院からの処方箋には検査値が記載されていないため、患者情報の収集は処方内容の確認から始まります。一概にはいえませんが、経験上、患者の腎機能低下が疑われる処方例を示します。
腎機能低下が考えられる処方例
- 高齢者への利尿薬の処方
- 腎機能低下による尿酸値の上昇を抑える高尿酸血症治療薬(フェブキソスタット等)の処方
- 腎機能低下による減量が必要な薬剤の用量調節(DPP-4阻害薬、DOAC、H2ブロッカー、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗不整脈薬、スルピリド等)
また、リン吸着薬や高カリウム血症改善剤、球形吸着炭は、いずれもCKD治療薬ですので、これらの処方があった際は確実に腎機能低下例と考え、他の処方薬の用法・用量に注意すべきと考えます。
さらに、処方薬からCKDの重症度ステージ(参考)をある程度推測できます。リン吸着薬や球形吸着炭が処方されていれば、ステージG4以降と考えられますし、鉄剤や高カリウム血症改善剤はG3b以降で使用されることが多い印象があります。
疑義照会の裏付けとなる検査値と確認事項
処方内容から疑義照会をするにあたり、患者が手元に検査値を持ち合わせていない場合には、患者の帰宅後に電話で確認したり、在宅訪問などで外出する機会にあわせてご自宅を訪問することもあります。
まず確認する検査値は、クレアチニンとeGFRです。次にナトリウムとカリウム、カルシウム、リンといった電解質、尿酸値やアルブミン、その他たんぱく質の摂取量や脱水の目安となるためBUN(尿素窒素)/クレアチニン比も確認しています。尿検査では、尿蛋白定性試験における(2+)、(3+)の表示や、尿蛋白/クレアチニン比から1日尿蛋白排泄量なども確認しています。
ステージG3以降からの介入が多い栄養指導成分調整食品をうまく活用
特に糖尿病性腎症の栄養指導は、ステージG3までに介入することが理想ではありますが、当薬局での栄養介入はカリウム上昇がみられるステージG3bの段階が多いです。病院での栄養指導も初回のみという方が多いため、より早期からの栄養介入が望まれます。ステージG4以降のたんぱく制限によりエネルギー不足となり、サルコペニア(筋肉減少症)の進行とともに腎機能が悪化している患者もいるのではないかと思います。当薬局では栄養介入後、管理栄養士が成分調整食品もうまく活用しながら、患者の検査値や日々の食事のフォローアップを行っています。
高齢者には積極的な栄養摂取を重視
CKD患者では食事制限や運動不足などによりサルコペニアをきたしやすい傾向があります。またサルコペニアの合併はCKD患者の末期腎不全の進行および死亡リスクを高めるともいわれており、何らかの介入が必要です。私は介入対象を検討するうえで、来局する患者の杖や歩行器の使用を筋力低下の一つの目安としています。対象患者には握力の測定、BMIの確認、下腿周囲径の測定をさせてもらい、筋力低下が疑われる場合にはリハビリ施設を勧めたこともあります。また、体重減少に歯止めをかけるために管理栄養士と体重を維持する方法を検討することもよくあります。量を食べられない患者が多いため、油で炒めてカロリーを上げる、でんぷん質の高いイモ類やタピオカを献立に盛り込む、MCTオイルをサラダ等にかけるなど調理の工夫を伝えたりします(図)。手軽に摂れて、+αを成分調整食品で少し補える方法をお勧
めしており、店舗で取り扱う成分調整食品では、カロリーアップ用のゼリーやドリンクが人気です。高齢者への栄養指導については、食事管理の徹底よりも好きなものを工夫しながら摂取できる方法を勧めています。
栄養士との繋がりを作る
栄養指導をするうえで薬剤師も基本的な知識は持つことは必要ですが、疾患と結びつけて栄養に関するすべての指導を薬剤師が行うのは難しく、幅広い知識から対策を考え提案することができる管理栄養士の視点が大切になってきます。管理栄養士が不在の薬局であれば、互いの知見を深めるためにも、地域で開催されている管理栄養士の勉強会に積極的に参加して繋がりを作ることをお勧めします。薬剤師が栄養指導に携わる際には、確認する項目と指導する項目をあらかじめ自分の中で、ある程度決めておくということも大切です。高血圧であれば塩分摂取量の確認と減塩の手段の伝達、カリウム制限であれば野菜の摂取状況の確認と水さらしの方法の伝達、カロリーダウンであれば「ごはんを食べすぎる人」「どか食いをする人」「早食いする人」など特徴にあわせた工夫を伝えるようにしています。このようにポイントを絞ったうえで栄養介入を行い、管理栄養士との繋がりで指導事項や提案の幅を広げていくことが良いのではないでしょうか。
まとめ
・腎機能の低下については、内科系以外の診療科(整形外科や眼科等)にも注意。デュロキセチンや持効型のトラマドールは高度の腎機能障害のある患者には禁忌。眼科で眼圧降下薬の処方時には腎機能を確認。
・抗不整脈薬は腎排泄型が多いため、腎への影響を忘れず用量を確認すべし。
・処方薬から腎機能の状態を推測。CKD治療薬(リン吸着薬、高カリウム血症改善剤、球形吸着炭など)を見たら、他の薬剤の腎機能への影響は必ずチェック。
・腎機能関連の検査値は、まずクレアチニンとeGFRを確認。次にナトリウム、カリウム、カルシウム。他にリン、BUN、尿酸値、アルブミン、尿検査の結果などもあわせて確認。
・サルコペニアとCKDを合併している場合は、両者のリスクを評価して栄養指導を行う。
・地域で開催されている管理栄養士の勉強会に積極的に参加し、栄養士との繋がりを作る。
大野 伴和 氏 プロフィール
札幌にある手稲渓仁会病院の勤務を経て、現在のまつもと薬局本店に勤務。病院勤務時代には腎臓内科と泌尿器科病棟を担当していた。
同薬局においても栄養面含め腎臓病患者との関わりは深く、薬局勤務開始後に腎臓病薬物療法認定薬剤師を取得する。