監修
上用賀世田谷通りクリニック 院長
織茂 智之 氏
てんかんのある方は日本全体で60万~100万人(1000人に5~8人)といわれています。小児期のてんかん症状を高齢になるまで持ち越す場合や、成人になってから新規に症状が発症する患者さんもいます。
今回は、成人のてんかんと薬物療法について上用賀世田谷通りクリニック院長 織茂智之氏に解説していただきました。
大脳の神経細胞の電気の乱れ
小児だけではない
WHOによると、てんかんは「脳の神経細胞に突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返す発作(てんかん発作)を特徴とし、これにさまざまな臨床症状や検査の異常を伴う脳の慢性疾患」、と定義されています。大脳の神経細胞は規則的なリズムで調和しながら活動していますが、それが突然崩れ、激しい電気的な乱れが生じることで、てんかんの発作が起こります。てんかんは小児の病気と思われがちですが、小児期発症のものが寛解せずに成人期まで持ち越されることも少なくなく、成人から発症するタイプのものもあります。てんかんは年齢・性別・人種によらず発症するのです。私は主に成人のてんかんを診療しています。
発作別の分類
全般発作と焦点発作
てんかんは全般発作と焦点発作に大別されます。これは、発作として現れる症状が身体全体か一部分かということではなく、大脳の全体に電気的興奮が発生しているのか(全般発作)、局所か(焦点発作)、という意味です。全般発作は発作症状によって、欠神発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作に分かれます。
焦点発作は、単純部分発作、複雑部分発作、二次性全般化発作に分かれます。単純部分発作は意識が保たれる発作です。片方の手足や顔のつっぱりやけいれん、しびれが特徴的で、幻覚、幻聴、恐怖感などの精神症状が発生することもあります。複雑部分発作では意識が次第に遠のいていきます。二次性全般化発作では、焦点発作の症状が全般に広がり、全般発作同様に強直間代発作に進展します。高齢者ではけいれんの伴わない焦点発作がほとんどで、ボーっとしたりおかしな行動をとることもあるため、認知症と間違えられることもあります。
発作の種類によって異なる薬物療法
日常生活を送ることができるようにする
てんかん治療は、発作がほぼなくなり仕事や車の運転など患者さんができるだけ普段と同じ生活ができるような環境をつくることが目指すべきゴールです。治療の基本は薬物療法で、処方内容は焦点発作か全般発作によって異なります。
焦点発作
カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムなど
焦点発作では、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、ゾニサミド、トピラマートが第一選択薬とされています(表1)。
このうち、診療の中では私はカルバマゼピンが最も効果的に感じています。ただし、カルバマゼピンは、副作用やさまざまな薬剤に対する相互作用が報告されており、最近では第二選択薬のことが多いです。レベチラセタムやラモトリギンもよく使用します。レベチラセタムは用量調整がしやすく点滴製剤やドライシロップもあり使い勝手が良い印象です。ラモトリギンは、重篤な皮膚障害や5週間以上のゆるやかな増量に注意が必要ですが確かな効果を実感しています。
第二選択薬としてはフェニトイン、バルプロ酸、クロバザム、クロナゼパム、フェノバルビタール、ガバペンチン、ラコサミド、ペランパネルがあります。脳炎後に焦点発作(二次性全般化)を起こした患者などでは薬剤の効果が得られにくいこともあり、第一選択薬に加えペランパネルやバルプロ酸なども含めた中から3剤から4剤を使用することもあります。
全般発作はバルプロ酸
妊娠可能な女性や相互作用に注意
また、他疾患に対し多くの薬を服薬している場合、バルプロ酸との薬剤相互作用を考慮し、レベチラセタムやラモトリギンを使用することもあります。欠神発作ではバルプロ酸やエトスクシミド、ミオクロニー発作ではバルプロ酸やクロナゼパムが第一選択薬として推奨されています(表2)。
軽度の成人てんかんは
服薬によりほとんどが改善
特に治療初期の診察時には、処方薬を決まったタイミングでしっかり服用する旨を患者さんに明確に伝えています。当院では比較的軽度の患者さんが多いですが、症状改善を実感されやすいこともあり、成人てんかんの服薬アドヒアランスは良好です。
運転中に意識が消失し事故を起こしそうになった高齢の患者さんや、会話中に意識がボーッとして認知症に間違われたような方でも、カルバマゼピンやレベチラセタムなどの第一選択薬を処方したところ、発作が消失しました。一方で、抗てんかん薬は眠気やめまいといった副作用が発現しやすいため、前提として十分な睡眠をとることが必要です。
薬物相互作用の確認や
その他の処方薬の情報共有を
併存疾患があり、てんかん以外でも多くのお薬を服薬している患者さんでは特に、処方薬の薬物相互作用などを薬剤師さんに確認していただけますと大変助かります。また、より適切な診療につなげるためにも、他施設や他疾患での処方薬について知り得たことや気づいた点があれば担当医へ連絡するなど、情報の共有にもご協力をいただければ幸いです。
織茂 智之 氏 プロフィール
1980年信州大学医学部卒業。東京医科歯科大学、関東逓信病院、関東中央病院などを経て現在に至る。1995年以降の一連の研究にて、レビー小体病では心臓交感神経の変性により心臓のMIBG集積が低下することを明らかにした。平成11年度上田記念心臓財団賞、平成19年度日本神経学会楢林賞、平成20年度東京都医師会医学研究賞、平成20年度松医会賞などを受賞。現在脳神経内科の臨床で充実した忙しい日々を送り、“科学者の目と赤ひげの心”で患者の診療ができるよう日々努力をしている。