対人業務の推進や薬機法改正を受け、患者とのコミュニケーションが重要視されています。薬剤師のコミュニケーション能力向上を図り、患者主体の医療推進を活動目的としているファーマシューティカルコミュニケーション(PharmaceuticalCommunication;P-Co)学会で理事を務める、帝京平成大学薬学部薬学科教授井手口直子氏が、患者とのコミュニケーションのコツを解説、さらに薬剤師の悩みに答えます。
☑コロナ禍での来局者の相談の変化
免疫力のアドバイス
私が経営する薬局には慢性疾患の患者さんが多く来局します。コロナの重症化リスクが高い方のコロナ禍での一番の心配事は「罹かりたくない」ということでした。免疫力を高めるための相談を多く受け、ビタミンC/D/Aやミネラルを補う食材やサプリメント、青汁などを紹介することが増えました。また、十分な睡眠や口腔ケアなども含め、免疫力を強化する生活のアドバイスが重要だったと感じています。
☑薬局の強みは実質的な提案
継続しやすいようアドバイスを工夫
薬剤師の役割には公衆衛生の向上及び増進への貢献が含まれ、2016年に施行された健康サポート薬局設立の背景には未病対策に薬剤師が積極的に関わることが求められています。
薬局の強みは、アドバイスだけでなく実際に健康食品などのモノを扱える点です。相談や不安を聞いて受け止めるだけではなく、実質的な手段を提案し、その場で提供できるのです。糖尿病患者さんを例に挙げると、前回来局時よりもHbA1cの値が上昇していた場合、インスリン抵抗性を下げるイヌリンを含むサプリメントや難消化デキストリンを含む健康食品(商品例:賢者の食卓)などを紹介することがあります。「食生活を変えにくければ、1日に特に重い食事をする際だけで良いので、血糖の上昇を抑える健康食品を利用してみるのはいかがでしょうか」と。本来は1日3回食事時の摂取が良いですが、コストも高くなるため継続しやすいよう提案方法を工夫します。
☑フォローアップ手段の使い分け
電話とメッセージ送付
薬機法改正により、2020年9月から薬剤師による服薬期間中のフォローアップが義務付けられました。特にがん患者さんは高率に副作用があらわれ、不安を感じる方も多いため、フォローアップは効果的です。フォローアップ実施にあたり最も重要なのが、患者さんとの事前アポイントです。5W1H(いつ/どこで[自宅/携帯に]/誰が/何を/どのような手段で[電話/SNS])を明確に取り決めておけば、スムーズに実施できるでしょう。フォローアップ手段は主に電話だと思いますが、最近ではSNSなどのメッセージ機能の利用もあります。高齢者やがん患者さんには、電話を利用するのが良いでしょう。アドヒアランスにそれほど問題のない、あるいは副作用や用法用量に関してあまり懸念がない場合は、患者さんと相談して手段を決めると良いと思います。SNSは患者さんとツールを共有していれば手軽に実施できますが、患者さんが通知を見逃したり返信を忘れる可能性もあります。
SNSの場合、フリーコメント機能があることが必須です。患者さんからのフィードバックの内容は、主に「少し気懸りだが薬局に電話で相談するほどの事でもない」と患者さんが考えている事象の「報告」だと思います。こうした報告は今まで薬剤師が得られなかったもので、気軽にやりとりできるSNSだからこそ実現できるものであり、私は非常に意義があるものだと思っています。このなかには重要な情報が含まれていることもあり、薬剤師が電話確認やフィードバックレポートとして医師にトレーシングレポートを作成することもあります。また、その報告により来局までの期間に起きたことを把握できるため、次回来局時の服薬指導の質は格段に向上します。
☑オンライン服薬指導
手元にない薬をイメージさせる
オンライン服薬指導は、患者さんにとっての利便性が向上する反面、課題もあります。私は、服薬指導時に患者さんの手元に薬がないことが一番の問題点だと感じています。指導時は画面にしっかりと薬袋と薬を映して説明し、処方薬をイメージしてもらいます。ひと通り説明が終わった後に再び薬袋と薬を見せて「こちらの薬はいつ服用するか/何の薬かご理解いただけましたか」と必要に応じて確認するのも効果的だと思います。
薬剤師さんのお悩み相談
Q
「テレビやネットでこんなことを耳にした」「友人から聞いた」など、情報に振り回されて服薬を怖がっている患者さんにどう対応したら良いでしょうか?
A
矛盾を明確にし、患者さん自身で答えを出すように導きましょう
まずは事例に示す通り、患者さんの訴える言葉を繰り返し、共感を示して相手の気持ちに寄ります。患者さんの「怖い」という訴えを否定したり、ただ薬剤の安全性を説明して「大丈夫」と言うのは薬剤師の決定を押し付けることになるので避けた方が良いでしょう。
そして、薬が怖い、不安なのに薬局に来るという患者さんの矛盾を汲み取り、患者さんの隠れている別の思いを話してもらいます。言動が矛盾していることに気がつくと、患者さんは自身で解消しようと考えます。最終的に患者さんは自分で答えを出して、服薬の意思決定をします。薬剤師はその後押しをしてあげましょう。
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