ファルメディコ株式会社 
代表取締役社長 狭間 研至 氏

2021年12月10日に「令和4年度診療報酬改定の基本方針」が公開されました。従来のかかりつけ機能の強化に加え、リフィル処方箋の導入も言及されています。
今回の改定により起こる変化と薬局・薬剤師のあり方について、ファルメディコ株式会社代表取締役社長、狭間研至氏に解説いただきます。

令和4年度診療報酬改定の印象
「患者のための薬局ビジョン」の反映

 今回の改定は、薬局の立地ではなく機能の評価、対物から対人業務へのシフト、かかりつけの推進など「患者のための薬局ビジョン」が反映されたという印象を受けました。立地により効率性が高い敷地内薬局・医療モールなどは調剤基本料が見直され、機能で評価すべきとなると思います。対物から対人中心の業務へのシフトとは、薬剤師の最終業務を 「薬を渡す」にするのではなく、渡した後までフォローして、その時の状態に応じて適切な対応をするまでに変えなくてはいけないという意図があるのでしょう。今までこれらの点を変え難かったのは、既存の調剤報酬制度のあり方が原因との指摘もあり、今回の改定はそれを変えるものだと感じています。

基本方針の中で注目すべきは
「かかりつけ薬剤師」と「連携」

 2021年12月10日に公開された「令和4年度診療報酬改定の基本方針」のなかで私が特に注目したのは以下の2点です。1点目は「かかりつけ薬剤師」という文言が含まれたこと。これは、国民に薬剤師であれば誰でも良いというのではなく、薬剤師を決めて欲しいというメッセージでもあり、そうした取組が評価され、仕組み作りが進むということでもあると思います。

 もう1つの注目点は「連携」です。医師、病院薬剤師と薬局薬剤師の連携についても言及されていますが、特に入退院時の連携を強化するという事なのだと思います。今まで薬剤師はお薬手帳や薬剤情報提供書などを確認し、その時点 (現在)の書面情報をもとに服薬指導を行っていました。連携においては、薬が処方されるまでの経緯(過去)とそこから予測される今後(未来)までを把握しておくことが重要です。例えば、アムロジピン2.5mgが処方されていた場合、5mgから減量したばかりの状況なのか、このまま定常量として継続するものなのか、はたまた、薬物療法開始の漸増過程なのか。連携の場では患者さんの現在だけでなく過去や未来を含め期間で捉えた視点が求められるでしょう。

連携を主眼において考える
敷地内薬局、門前薬局、地域連携薬局

 敷地内薬局について今回の改定の議論において強い指摘を受けています。医療提供という国費を投入する仕組みのなかで、立地を理由に特定の薬局に過剰な収益が入るのは制度設計として是正すべき、との動きは致し方ないこととも思います。

 一方で、抗がん剤を処方された患者さんは地域の薬局で大丈夫だろうかという不安もあって敷地内薬局や門前薬局を訪れるケースも多いかもしれません。地域の薬局側としても、急に不慣れな抗がん剤の処方対応に不安を感じるかもしれません。私は、敷地内薬局や門前薬局は、薬薬連携だけでなく薬局間連携をけん引する役割を担うべきではないかと考えています。たとえば、がん化学療法は、開始時はプロトコルやレジメンなどをよく理解している敷地内薬局や門前薬局が担当し、そのノウハウを患者さんの居住近くの薬局に共有する。そうすれば、数コース目以降、地域の薬局でも質が担保された投薬が可能になります。こうした連携を実施するような敷地内薬局等であれば、評価されるべきと考えます。

 地域連携薬局の評価の動向も注目されています。現状は調剤基本料1以外の薬局に対する地域支援体制加算のハードルが高いため、地域連携薬局の認定が取得できていれば同加算を何らかの形で認める方向に進む可能性はあります。

リフィル処方箋の導入
薬剤師と医師の協業関係構築

 処方箋の反復利用(リフィル処方箋)は、症状が安定している患者さんについては数か月に1回の頻度で医師が診る、という流れが見込まれており、導入が進めば薬剤師が患者さんの様子を確認するのが基本になると思います。

 私は、医師の役割は究極的には「診断」と「救命」と考えています。しかし、慢性疾患の診療行為としては、服薬状況の確認と、処方箋を出すだけの診察に追われているのが実情でしょう。慢性疾患の服薬状況や服薬後の状況の確認などは、本来、薬が身体に入ってからどうなるかを学んできた薬剤師の方が適していると考えています。

 医師は、初診の患者さんや奏効していない患者さんの薬物療法をしてもらう。薬剤師は順調に治療ができている患者さんの薬物療法を担当し、そのなかで副作用や有効性の低下が疑われる状況が起きれば、医師に繋ぎ対応してもらう。この分担により、総合的に診る患者数が飛躍的に増え、医師は本来の役割の「診断」や「救命」により専念できると思います。リフィル処方箋は、医師の働き方改革にも繋がるものでもあります。導入にあたり、来院者数が減少する医師に対しては診療報酬等で調整する必要はあると思いますが、医師は未だ診断がつかない患者さんに時間と気力を注入し、症状の原因を特定できる環境を作ることが、地域が望むことであり、医師にとっても良いはずです。そのためには、医師と薬剤師の協業、つまり薬剤関係の業務を薬剤師に振り、何かあった時は医師が駆けつけて対応するというチームを組むことが重要になるでしょう。

立地依存からの脱却
薬局の「専門性×個性」で選ばれる時代へ

 薬局は立地依存型から機能型への変化が進むと思われます。リフィル処方箋では薬は同じ薬局から受け取る想定ですので、わざわざ門前の薬局に行くよりも地元の薬局を選ぶ患者さんが増えるでしょう。

 しかし、それだけでなく、薬局の機能が選定されるポイントになると思います。機能とは、たとえば、自分の服薬している薬剤や罹患している疾患にとても詳しい、オンライン服薬指導が可能、薬の受取BOXがある、薬剤師の対応が親切で説明がわかりやすい、などです。こうした機能では、専門性の高さと個性の強さが重要だと思います。専門性と個性の兼ね合いで自分に合った薬局を選ぶ。薬局が何を提供してくれるかで選ばれることになります。

 来局される患者さんが真に望むものは、薬剤そのものというより、その先にある健康維持や症状の回復や、生活の質の向上です。真のニーズに薬剤師がいかに気づき、それに対しどのような解決策を提供できるか。薬剤師によるニーズの認識と解決力は、立地の優位性を凌駕するのではないでしょうか。

薬剤性の症状を見抜け
医師との信頼関係と成長のために

 私は常々「患者さんの症状の謎を解いてください」などと自局の薬剤師に伝えています。患者さんの訴える様々の症状のなかには、薬剤性のものもあります。投薬後のフォローを行った際に、「この薬の副作用なのでは」「投与量が多いのでは」などと疑われた際は、まずは医師に確認しましょう。薬学をもとに考える薬剤師と、医学をもとに考える医師では、「謎の解き方」が異なります。薬剤師のとおりに医師が処方を変更した場合、不安や責任感を強く感じると思いますが、その後のフォローを通して患者さんの改善を実感できれば医師との信頼関係も厚くなりますし、薬剤師自身も非常に成長します。

対人業務に注力できる環境整備とそのステップ

 薬剤師が対人業務に注力できる環境、また、薬剤師の対人業務のスキルを上げる環境をどう整えるのか。それにはまず、経営者が「うちの薬局を変える!」と宣言し、イニシアチブを取って進めることが必須だと思います。その上で次のようなステップで進めていきます。

❶機械化・ICT化の推進

 2019年に厚生労働省より、「薬剤師以外の者に実施させることが可能な業務の基本的な考え方」(0402通知)が示されました。当通知に則り、薬剤師の対物業務を非薬剤師にある程度移行させます。非薬剤師が行える業務は、薬剤師の目の届く範囲で薬学的専門知識が不要な機械的作業とされており、機械化・ICT化によって非薬剤師に任せられる機械的作業へと落とし込むことができます。

❷薬剤師の対物業務を非薬剤師へ移行

 非薬剤師に移行できる業務を整理し、非薬剤師の教育を行います。

❸バイタルサインの確認や薬物動態・製剤学などの復習を兼ねた教育

 実際に患者さんを見て薬学的に判断するためのスキルを養います。

 対人業務のための時間や気力の余裕がないという、薬剤師の多忙な状況を打破することが先決であり、まず❶と❷を進め、薬剤師の手が空く時間を作ります。その後、❸を実施して薬剤師のスキルアップを図ります。

患者のための薬局ビジョンの実現と将来像から現在のあり方を考える

 今回の調剤報酬改定は明らかに基本的な考え方を変えており、例年の改定とは異なると感じています。薬機法改正により薬剤師の業務は服薬後のフォローまでと義務付けられたこともあり、薬局ビジネスのあり方も変えなくてはいけないでしょう。今後は実施した事柄で評価される出来高の考え方になると思います。

 「患者のための薬局ビジョン」の公表から7年が経ち、ビジョンの実現が急がれています。今回の改定では、薬局の立地ではなく機能の評価、対人業務としての薬歴管理料への評価付け、かかりつけの強化やリフィル処方箋、さらにOTCを含めた継続管理。これが街の薬局のかかりつけの姿だと示しました。オンライン資格確認で患者さんの情報をトレースできる仕組みは10年もかからず実現するでしょう。それが実現した際の薬局のあり様は明確に門前薬局ではないと思います。そこを見据え、薬局と薬剤師のあり方を逆算して考えることが大事なのではないかと考えます。

狭間 研至 氏 プロフィール

ファルメディコ株式会社代表取締役社長。一般社団法人日 本在宅薬学会理事長。医師、医学博士。調剤薬局経営のかたわら、医療法人嘉健会にて地域医療の現場等で医師として 診療を行うとともに、一般社団法人薬剤師あゆみの会・一般社団法人日本在宅薬学会の理事長として薬剤師の生涯教育 に努めるほか、熊本大学薬学部等で薬学教育にも携わる。

狭間氏の書籍プレゼント

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2022年度調剤報酬改定セミナー案内

2月~3月に開催される調剤報酬改定に関連したセミナー開催情報をご紹介します。各セミナー名をクリックいただくと各セミナーの情報をご確認いただけます。
(各セミナー名をクリック後は外部サイトに移動します。)

セミナー名日時会場参加費主催
「第1回classA未来セミナー」開催概要2022年2月19日(土)
15:00~16:30
オンライン(ZOOM)無料株式会社クラスAネットワーク
調剤報酬改定と薬局IT活用2022年2月24日(木)
19:00~20:00
オンライン(ZOOM)無料株式会社グッドサイクルシステム
「2022年改定にどう対応するか?②」
~厚労省通知を受けて~
2022年3月9日(水)
14:00~16:00
オンライン(ZOOM)19,800円(税込)株式会社ネグジッド総研
22年度調剤報酬改定を踏まえた中小薬局の経営戦略
(※当記事を解説した狭間氏が登壇)
2022年3月29日(火)
19:30~21:00
オンライン無料PHBDesign株式会社/株式会社カケハシ

※開催時間等は変更になる可能性がございます。
※セミナーの詳細内容については、各セミナーページよりご確認/お問い合わせください。