監修
慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 教授
免疫統括医療センター・センター長
金子 祐子 氏
1999年のMTXの登場以降、生物学的製剤、JAK阻害薬が臨床に導入されたことで、関節リウマチ治療はパラダイムシフトを遂げたといえます。一昔前までは不治の病と考えられていた関節リウマチも寛解が可能な疾患になりました。
日本の関節リウマチ診療のリーダーの一人、慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 教授 免疫統括医療センター・センター長の金子祐子氏に現在の関節リウマチ治療について解説いただきました。
関節リウマチは
全身性の自己免疫疾患
関節リウマチは関節滑膜炎を主体とする全身性の炎症性疾患であり、自己免疫疾患です。免疫の異常により関節の内側を覆っている滑膜に炎症が生じ、滑膜が増殖することでさらに炎症が悪化して周囲の骨や軟骨を破壊していきます。骨破壊が進むと関節の変形や脱臼、癒合などが生じ関節機能障害が起こってきます。病因や病態は未だ解明されていない部分も多いのですが、関節リウマチの進行にはIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインが大きく関与しているといわれています。
関節症状
朝のこわばり、関節の腫れ、痛み
関節リウマチでは関節症状が必発です。関節症状は主にこわばり、痛み、腫れです。
こわばりは、起床時に手足の関節が固まったように動かしにくくなる症状で、長時間関節を動かさないことにより発生する症状です。身体を動かし始めて30分~1時間程度でこわばりは消失することが多いです。朝起きた時に最も強く症状がでるので「朝のこわばり」といわれていますが、昼寝や長時間関節を動かさない状態で過ごした後にも同様の症状がみられることがあります。
関節の痛みは動かした時だけでなく、じっとしている時にも痛みがあるのが特徴です。また、関節の腫れは、腫れている部位が弾力があってやわらかく、押すと痛いという圧痛がみられます。これらの関節症状は左右対称性に出現することが多く、指の第二、第三関節や、手首の関節に多くみられます。
関節リウマチでは、全身の関節の中で手に症状が発現するケースが一番多いと言われていますが、肘、肩、股、膝、足、足指といった関節にも症状が起こることがあります。足の指は外反母趾や足指の変形をきたしやすく、膝関節炎も頻度が高いとされています。また、頸椎にも炎症が現れることがあり、頸椎障害の原因にもなり得ます。
全身症状
微熱や倦怠感、易疲労感なども
関節リウマチは、全身性の慢性炎症性疾患ゆえに、手足などの関節症状だけでなく関節以外の症状が全身に出現することがあります。
圧力がかかったり慢性的な刺激を受けたりする部位の皮下にできる結節、リウマトイド結節は、関節リウマチの代表的な関節外症状です。
また、微熱や倦怠感、易疲労感、体重減少などを呈する患者さんがしばしば見られます。さらには、炎症が肺の間質組織にも起こることで間質性肺炎となることもありますし、血管に炎症を起こし、重篤な血管炎をきたすこともあります。
関節破壊は発症1~2年で進行
だからこそ早期診断が重要
関節リウマチでは、関節破壊が進行してしまうと関節機能障害は不可逆的で、QOL低下を改善することが困難です。外見的に関節の変形が起こるのは晩期なのですが、骨レベルでみると関節破壊は発症後1~2年で進行することが明らかになっています。
そのため、早期の診断と早期の治療介入が、関節破壊を阻止しQOLを維持するためのカギとなります。早期診断のためのツールとして、関節リウマチの分類基準が世界的に標準化されています。アメリカリウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)の分類基準のACR/EULAR分類基準です(表1)。
まず、少なくとも1つ以上の関節で腫れを伴う滑膜炎がみられ、それが、加齢などによる変形性関節症や膠原病、乾癬性関節炎、ウイルス感染症などの他疾患によるものでないことを鑑別します。また、触診で疼痛関節、腫脹関節、関節可動域の確認を行い、X線や関節超音波などの画像検査で骨びらんや滑膜炎の有無を確認、血液検査でCRPや赤沈などの炎症反応と、抗核抗体やリウマトイド因子、抗CCP抗体などを確認します。
目標に応じて適切な治療を選択
そのために定期的な疾患活動性の評価
関節リウマチの治療の最終的な目標は、関節の変形を防ぎ、機能を保つということです。さらには社会生活を普通に送ることができるようにすることが目標となります。そのために寛解を目指して関節の炎症をしっかりとっていくというのが治療の大きな流れです。
関節リウマチによる関節破壊は、発症後2年以内に特に急速に進行すること、そしてこの期間に積極的な治療介入をすることで患者予後を大きく改善し得ることが分かっていますので、この期間の治療機会を逃さずに、確実にタイトコントロールを行っていくことが重要です。
こうしたことから世界的に取りまとめられたのが、「Treat-to-target(T2T)」という概念のリコメンデーションです。T2Tでは、関節リウマチ治療の基本的な考え方と、
具体的なリコメンデーションが示されており、寛解導入(進行した患者や長期罹患患者では低疾患活動性)、およびその維持という目標を達成するために、定期的に疾患活動性を評価し、治療を適正化していくことが推奨されています(図1)。
疾患活動性の評価の手段
関節リウマチの疾患活動性を評価するためには、関節の所見や血液検査(炎症性因子、リウマトイド因子、抗CCP抗体など)だけでは不十分で、総合的な疾患活動性の評価のための指標として、DAS 28、SDAI、CDAIなどを用います。いずれの指標でも患者さんの全般評価に重みが置かれており、VAS(visual analogue scale)による評価も用いられます。
VASは、100mm(10cm)の長さのラインを患者さんに見せて、左端が一番良い状態、右端が一番悪い状態とした時に現在はどの状態かを位置で指し示してもらう評価方法です。
▶DAS28(disease activity score 28)
全身の28関節(図2)の腫脹関節数と圧痛関節数、VASを用いた患者による全般評価、炎症反応の数値(CRPまたは赤沈)を独自の計算式に当てはめてスコア化する。
▶SDAI(simplified disease activity index)
計算式が単純で、DAS 28と同じ28関節の腫脹関節数と圧痛関節数と医師による全般評価とVASを用いた患者による全般評価、CRPの値を加算した指標である。
▶CDAI(clinical disease activity index)
身体所見、医療者と患者の評価のみで計算される。血液検査所見が必要ないため、リアルタイムの評価が可能となる。
日常生活の不自由具合も
評価する必要あり
関節リウマチは、疾患活動性は低く維持されているものの関節破壊が進行する症例や関節所見や血液検査での炎症所見はそれほど強くないにも関わらず疼痛が強い症例も存在します。また関節炎がどの程度機能障害をきたしているかも重要なので、実際にどのくらい日常生活で不自由があるかを評価する必要があります。
「靴ひもを結び、ボタンかけも含め自分で身支度ができますか?」などの生活の場面を想定した具体的な質問票を用いて、生活機能の程度をスコア化して評価していきます(表2)。
薬物療法の進め方
速やかにメトトレキサートを導入
関節リウマチ診断後、禁忌がなければ速やかにメトトレキサート(MTX)を導入し、2~4週間ごとに適切な投与量まで増量していくのが標準的な治療です。
MTX単独で効果不十分な場合には、他の従来型の抗リウマチ薬の併用を行い、それでも治療目標が達成できない場合には、生物学的製剤またはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の導入を検討することになります(図3)。生物学的製剤とJAK阻害薬の効果は同等、またはJAK阻害薬の方が若干効果が強いと言われていますが、長期安全性や医療経済性の観点から、まずは生物学的製剤を優先して使用することが多くなります。
服用方法が複雑なMTXでは
繰り返し確認を
MTXは関節リウマチのアンカードラッグであり、全てのフェーズにおいて基本的な薬剤とされています。MTXは、1週間あたりの投与量を1回または2〜3回に分割し、分割の場合12時間間隔で1〜2日間かけて投与、また、副作用軽減のための葉酸製剤を適宜投与と、用法用量が複雑です。そのため服薬過誤やアドヒアランスの低下が見られることがあります。特に高齢の患者さんでは、増量のタイミングなどで混乱が生じ、毎日飲んでしまうという患者さんが毎年1、2人はいますので、薬剤師さんにも繰り返し正しく服用ができているか、特に服用方法が変わるタイミングでは重点的に確認していただくことが非常に重要です。
MTXのアドヒアランスの低下には
副作用が関係することも
服用方法が複雑ということだけではなく、MTXは元々抗がん剤ですので、患者さんによっては、服用後に少し気持ち悪くなったりだるくなったりするということがあるということも念頭に置いて服薬指導を行っていただくことが重要です。ひどい吐き気ではないのですが、「飲むと何となく気持ちが悪い」、「何となく身体がしんどくて服用した日や、服用の翌日に1 日寝てしまう」などといわれる患者さんもいます。
こうしたことからMTXに対して「何となく飲みたくない」という感覚を持つ患者さんもいるのです。症状が強い時にはそれでも頑張って飲まれるのですが、調子が良くなると実は勝手に減らしている、といったケースもみられます。だるさや吐き気などの副作用に対しては、葉酸製剤を増量するなどで対処可能ですし、実際減量できることもありますので、薬剤師さんにも患者さんのアドヒアランス低下の原因を捉えていただき、処方医に情報を共有していただければと思います。
生物学的製剤8種類の効果は同等
寛解導入が得られるまで薬剤を切り替え
現在、TNF阻害薬5 種類、IL- 6 阻害薬2 種類、T 細胞選択的共刺激調節薬1 種類、計8 種類の生物学的製剤が臨床で用いられており、それぞれの有効性は同等といわれています。ただし、TNF阻害薬はMTXを併用することで十分な薬効が得られるとされていますので、MTXが使用できない患者さんではTNF阻害薬以外の生物学的製剤を選択することになります。いずれかの生物学的製剤の投与後、3~6ヶ月以内に治療目標を達成できなければ、他の生物学的製剤への変更、またはJAK 阻害薬への変更を検討します。
生物学的製剤、JAK阻害薬は個々の症例によって効果の出方に差があります。つまり、患者さんによって合う、合わないがありますので、例えば最初に選択したTNF阻害薬で効果が不十分な場合、他のTNF阻害薬に切り替えると効果が得られるということもあるのです。現在のところ投与前にそれを見分ける手段はありませんので、使用してみて効果が十分でなければ、寛解導入が得られるまで他の薬剤への切り替えを行っていきます。
バイオシミラーは先行品と同等の有効性
経済的な負担軽減に貢献
生物学的製剤の中でインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブはバイオシミラーが発売されています。日本リウマチ学会の関節リウマチガイドライン2020年版では、これらのバイオシミラーは先行生物学的製剤と同等の有効性と安全性を有するとして使用が推奨されています。経済的な負担が大きくなる関節リウマチ治療では、患者さんの意向を重視することが重要ですし、医療経済的な側面からも、選択肢の一つとしてバイオシミラーの使用が検討されます。
生物学的製剤による寛解導入後は
寛解を維持しつつ徐々に減量
生物学的製剤が臨床導入された当初は、薬価も高く、非常に強力な治療だと考えられていたため、寛解導入後の薬剤の中止について検討するトライアルが数多く行われてきました。結果、生物学的製剤の投与を中止すると大多数で再燃するということ、再燃を繰り返す間に関節破壊が進むことが指摘されていますので、現状では寛解を維持しながら減量を試みるというのがスタンダードになっています。
リウマチ患者の感染症リスク
葉酸入りのサプリメントに注意
関節リウマチ治療中の患者さんで最も気をつけなければいけないのが感染症です。手洗いやうがい、マスクといった基本的な感染症予防が重要なのはもちろんですが、インフルエンザや肺炎球菌、帯状疱疹などワクチンがある感染症についてはワクチン接種も有効な感染予防手段です。ただし、生ワクチン接種は免疫抑制中は不可です。
新型コロナウイルス感染症に関しては、当初はかなり混乱が生じましたが、その後の知見で関節リウマチ治療中の患者さんの感染率や重症化率は一般の方と同程度と言われています。
また、見落とされやすいのが、葉酸が入っているサプリメントです。葉酸の摂取によりMTXの有効性が減弱してしまいますので注意が必要です。薬局でも「サプリメントなど飲んでいませんか」と定期的に確認していただくことも大切だと思います。
患者の心理
絶望感こそないものの、まだ大きな不安
罹患期間が長い患者さんでは関節の変形が進んでいる方はいますが、この10年から15年で発症した方では、診断の遅れさえなければ、ひどく変形してしまう患者さんはほぼゼロともいえるようになってきました。
関節リウマチに対する受け止めも、一昔前は、関節リウマチは不治の病という認識でしたが、TXや生物学的製剤の登場以降は、治療すれば普通に生活できる病気と患者さんの認識も変わってきていると思います。
ただし、一生治療を続けなくてはならない、そのための医療費負担も大きいと、経済的な面も含めて患者さんの不安感は大きいと思います。そして、やはり多くの患者さんが、周囲には関節リウマチであることを知られたくないと思っていますので、調剤薬局でもプライバシーに配慮することが非常に重要だと思います。
寛解イコール治癒ではない
症状が残る患者さんが約3割
現在の有効性の高い治療により、多くの患者さんで寛解基準をクリアできるようになりました。しかし、それがイコール症状ゼロということではありません。寛解基準はあくまでもここまで疾患活動性が治まっていれば、関節破壊に進むことはかなり少ないという最低限のラインですので、寛解となったとしても症状が残っているということがあります。実際に3割くらいの患者さんでは寛解基準をクリアしていても痛みが残っているのが実情ですので、我々医療者はそれぞれの患者さんの症状に寄り添っていくことが重要なのだと思います。
金子 祐子 氏 プロフィール
1997年慶應義塾大学医学部卒業後、数カ所の関連病院での研修の後、2001年から同大学リウマチ・膠原病内科入局。オックスフォード大学留学ののち、同大学講師、准教授を経て2021年4月より現職。日本リウマチ学会指導医。自己免疫疾患全般、特に関節リウマチ、成人スティル病、混合性結合組織病を専門としている。