漢方薬は一般用医薬品としても身近な医薬品ですが、選択肢は数多く、薬剤師とのコミュニケーションでより安全に体調に合ったものを選択できます。今回は、漢方煎薬を中心に取扱い、来局者とのコミュニケーションを重視した販売体制を構築するタキザワ漢方廠執行役の宮田輝氏に販売戦略等についてお話を伺いました。
コロナ禍以降、増える漢方への問合せ
体質改善やコロナ後遺症への期待
コロナ禍以降、漢方薬への注目が高まり、当社の漢方煎薬(第2類医薬品)にも調剤薬局等から取扱いに関する問合せが増えています。これは、漢方薬に免疫力の強化を含めた体質改善やコロナ後遺症等への効果を期待する一般の消費者が多いことが影響しているのではないかと思います。
当社は、「ティーバッグ式」の漢方煎薬をメインに扱っています。服用にあたっては、煎薬を入れたポットに水を入れて電子レンジで数分間温めるといった多少の手間はかかりますが、煎薬は生薬の複雑な成分が残らず抽出され、液状のため消化吸収が良いというメリットがあります。また、煎薬の香り成分である精油成分はさまざまな薬効を含んでおり、それを体感することもできます。
薬局店舗に当社の煎薬を置く際には、基本的には電子レンジを設置し、来局者が購入した煎薬をセルフで調製して服用できるスペースなども設けてもらいます。
漢方薬の服用継続を優先
来局者のライフスタイルを考慮した提案を
一般的に漢方薬として普及しているのは、エキス製剤でしょう。やはり水のみで服用できるエキス製剤の利便性は非常に高いと思います。先述した煎薬のメリットは大きいものの、漢方薬は継続することが重要であり、多忙な生活のなか煎じる時間を取れず服用できないと意味がありません。煎薬はリラックスして時間が取れる夜間帯のみ、あるいは週末のみの服用をお勧めするなど、煎薬とエキス製剤の特長を鑑み、来局者のライフスタイルに応じて提案することが重要です。
コミュニケーションの時間を生み出す手段
店舗にセルフ式の煎じ調製スペースの設置
薬局店舗にセルフで煎薬を調製できるスペースを設けているのには、次の3点の意図があります。
1)質問しやすい空間を提供する
製品の陳列棚とともに、煎薬を調製してその場で飲めるスペースを設置することで、来局者に相談しやすい印象を与え、製品説明や症状に合わせた製品の紹介依頼など来局者からのコミュニケーションを発生しやすくします。漢方薬を物販の棚に陳列しているのみだと、薬剤師と話すこともなく来局者自身が製品を選び、購入する流れになってしまいます。
2)調製の「待ち」時間は、信頼獲得に繋がるコミュニケーションの機会になる
電子レンジで煎薬を調製している時間は、より詳細な製品説明とヒアリングに使うことができます。
何らかの悩みがあって相談にきた方でも、一番の悩みを最初に打ち明けることは少ないといいます。まずは簡単な相談をし、その悩みに対して薬剤師が十二分に対応してくれるかを見極めたいと思っている方が多いのでしょう。来局者は、「この薬剤師さんならもっと真剣な相談をしても問題ない」と信頼感を持ってから、最も相談したい内容を話すことが多いのです。
煎薬を調製する数分間での薬剤師とのコミュニケーションは、「実はこういった別の悩みもある」という話を引き出す時間になります。この薬剤師であれば、より良い提案してくれるのではないかと感じれば、次のより深い相談事項へと進展し、他の製品紹介に繋がっていきます。
3)漢方薬に関する別の効能の知識を提供する
葛根湯を例に挙げると、風邪の初期症状で服用する方も多いですが、肩こりなどでもよく使う処方です。一般の消費者にはあまり知られていないため、調製時間中に別の効能等を説明することで、風邪症状の治癒後に肩こりがあれば、対策の1つとして葛根湯を想起させることが期待できます。
薬剤師が漢方薬を紹介する意義
専門性と親しみやすさのバランスも大事
薬剤師は、何らかの症状や兆候が発現している患者さんに対し、処方薬の投薬以外にも対処法を考え、提案する役割を担っていると私は考えています。服薬指導時は、一般用医薬品の漢方薬などによるケアを患者さんに提案する最適の機会ではないかと思います。一方、来局者自身が能動的に物販棚に並ぶ漢方薬を選んで購入しようとした際は、薬剤師から見てその製品に懸念点があれば、お薬手帳を確認し、必要に応じて別の製品を提案することも必要でしょう。
漢方薬は医薬品であり、服用する方は何らかの症状や疾患に悩み、それを治療・改善したいという思いがあります。薬剤のエキスパートである薬剤師から説明を受けて勧められたものへの信頼度の大きさや購入意欲は、自己判断でインターネットや店頭などで選択したものとは比べ物にならないでしょう。特に漢方薬を求める来局者は専門性に重きを置いている方が多いと思います。一方で、調剤薬局に気軽に入り難い、薬剤師に相談しにくいと感じる方も多いと思います。そのため親しみやすさを重視してエプロン等を着用して「カフェ風」に当社の煎薬を紹介していた薬局もありました。しかし、白衣着用の方が問診や製品説明の際に説得力を与えられると白衣に戻した事例もあります。「親しみやすさ」と「専門性」のバランスを取って紹介することも大事でしょう。
漢方薬を患者さんや地域の方の
セルフメディケーションの要に
商店街の中や門前ではなく、桜並木の道沿いに店舗を構えるはりま坂薬局。高齢者の世帯割合は他の地域と比較して低く、子ども連れの若い家族や単身者が多い環境にあります。今回は漢方を専門とする国際中医師の資格を有し、漢方を中心としたセルフメディケーションの支援で地域医療に貢献したいと考える同薬局の矢田有美氏にお話をお伺いしました。
健康への意識が高い女性が多く来局
健康食品やリフレクソロジーの施術も提供
来局者層は30〜60歳代の女性が比較的多い傾向です。健康維持に対する意識の高い方が多く、自然由来のもので対応したいと考えて当薬局を訪れる方が多いと感じています。開局して間もないこともありますが、処方箋調剤はまだ少なく、当薬局で中心に扱う煎薬の紹介や健康相談の依頼を受けることが多い現状です。貧血や更年期障害などの婦人科系の悩み、イライラ、不眠、浮腫み、めまいといった相談を多く受けます。
漢方薬は煎薬を中心に取り扱いつつも、ライフスタイルや煎薬の調製を負担に感じる方も考慮してエキス製剤も取り扱っています。そのほかにナツメ・クコの実などの薬膳食材、健康茶、健康食品なども販売しています。リフレクソロジーの施術も提供しており、これらの食品やサービスを目的に来局した方から詳細な症状の相談を受けて、煎薬を紹介することもあります。
当薬局の近辺には一般薬を取り扱う薬局がありません。そのため、独自性・専門性の発揮とともに、いつでも気軽に立ち寄り相談できるサロンのような薬局と地域の方に認知してもらうことが第一歩だと考えています。来局する方が健康維持に繋がるものを新たに発見できる場所になれたらと思っています。
漢方薬はセルフメディケーションにおける
薬剤師の価値を発揮するのに役立つ
頭痛を例に取ると、西洋薬では対症療法として鎮痛薬とその副作用を予防する胃腸薬など複数の薬剤を服用することがあります。一方、漢方では頭痛の原因を探り、原因が水の代謝(水滞)であれば、水滞を改善する漢方薬を服用します。この時、水滞によって起こりえる吐き気や浮腫みも一緒に改善できる可能性があります。漢方薬が適している症状においては、副作用リスクの軽減や同一の原因による他の症状の改善にも繋がるというメリットがあります。また、冷えや病後の気力・体力の低下に対する西洋薬はなく、こうした悩みにも効果的です。
セルフメディケーションの支援は薬剤師の大きな役割の1つであり、相談を受けて未病の段階であれば、初期対応策を提案し、経過を見守るというのは薬剤師の存在価値です。薬剤師がこのような役割を担うなかで、特に漢方薬は有用なアイテムだと私は考えています。