現在、薬剤師においては対物業務から対人業務への移行が求められています。その中で、いま注目されているのが、調剤薬局事務員の役割です。薬剤師の補佐にとどまらず、調剤薬局の責任の一端を担う存在となることが期待されています。いち早く調剤薬局事務員の役割に着目し、その活用に踏み切ったHYUGAPRIMECARE株式会社の巣山貴裕氏と、調剤薬局事務員として後進の指導に当たる清水万里氏に話を伺いました。
巣山 貴裕 氏
HYUGAPRIMARYCARE株式会社
在宅訪問薬局事業本部長兼東日本在宅訪問薬局事業部長
2008年大学卒業後、投資銀行やコンサルティングファームにて、M&Aアドバイザリー業務や戦略コンサルティング業務に従事。その後、大手調剤薬局にて取締役、子会社代表等を経て、2020年に独立。経営コンサルタント事業や投資事業を行う中で、HYUGAPRIMARYCAREの上場期に参画し、現職。
設立以来、在宅訪問薬局事業が業務の中心
当社は2007年11月、福岡県太宰府市で設立されました。現社長の黒木の「地域に密着した医療を提供できるような調剤薬局をつくりたい」という思いが出発点になっており、今現在(2022年12月)、全国に39店舗(関東で13店舗、福岡地区で26店舗)あります。メインは在宅訪問に特化した調剤薬局で、その7~8割を占めます。
調剤薬局以外の事業としては、中小薬局向けの経営支援などを行うコンサルティング業務(きらりプライム事業)、介護施設の運営をする介護本部事業、それらに付随するICTの開発を行っています。
現在当社は営業利益率で10%を目標としています。人件費がかかる在宅訪問業務を中心にする薬局としては、非常に高利益率を保っている企業体ではないかと自負しています。
調剤薬局事務員だけで店舗が回るような体制を目指す
当社では調剤薬局事務員をPCという役割としています。PCはファーマシー・クラーク(Pharmacy Clerk)の略です。PCと呼ぶことで、単なる事務ではなく、医療関係者の1人であることを意識づける目的があります。
そのため一般にいわれる調剤薬局事務の業務内容よりも幅広く「薬剤師でなければできない業務以外は全部担当する」という認識でいます。処方箋入力はもちろん、その後の処方箋に基づいたピッキング業務、調剤業務も、薬剤師でなければできない散剤、水剤等々以外はほぼすべてPCに担ってもらいます。在宅業務は先服薬で、薬剤師が服薬指導で患者さん宅に行った後で、PCが薬の配送をします。
薬剤師は基本的に対人業務に特化してもらいます。当社は在宅訪問薬局でもあり、薬剤師は外に出て往診同行をしたり、在宅で服薬指導をしたりすることが多いです。その為、店舗に残る薬剤師が少なくなっても、PCを主軸として店舗が回るような体制をとっていきたいと考えています。
調剤事務未経験者の採用を優先
当社ではPCとしては、調剤事務未経験者を優先して採用するようにしています。その理由としては、従来の調剤事務業務しか経験してなかった方だと、事務業務以外の業務を行うことに難色を示すことがあり、これまで調剤事務を経験してなかった方が当社のPC業務への適応が高いためです。
当社の場合、PCは入社後、まずピッキング業務や調剤業務を覚えてもらいます。今まで薬剤師が担っていた部分をPCが担当することで、薬剤師が在宅業務に専念できるようにするとともに、薬剤師の人件費の軽減にもつながります。
PCに対する教育や研修に関しては改善を繰り返しています。現在はOJT(日常業務につきながらの職業教育)の形で行っていますが、それだと人的依存度が高いのが課題です。来期からは東日本と西日本に教育店舗を1店舗ずつ作り、そこで教育することを考えています。現在も「教育パッケージ」があり、入社1日目、1週間目、1か月目等の研修内容をまとめていますが、それだけではまだ足りないのが現状です。
PCに対してはスキルチェックがあり、処方箋が入力できる、保険がわかる、調剤業務がどこまでできるなどの細かいチェック項目があり、その1つ1つができるようになるとスキル評価の報酬が加算される仕組みになっています。それに加えて、今年4月からはPCのレベルに合わせた給与体系に変更する予定です。一般に事務の給料は低いのですが、当社では業務内容が幅広い分、通常よりも多く還元したいと考えています。
発想を変えることで利益率が上がる薬局に
処方箋の入力は現状ではPCの主要な仕事ですが、当社では集中入力センターをつくり、そこで一括して入力することを考えています。また、調剤の外部委託も議論されています。それができるようになれば調剤センターをつくり、そこで一括して調剤を処理することが可能になります。 そう考えると、今後はPCも薬剤師のように、対物業務から対人業務にシフトしていってほしいと思っています。すでに薬局は薬剤師で回していく時代ではなくなっています。いかに事務を雇って、その事務を教育することで戦力にしていくか。そう発想を変えるだけで、利益率が高い薬局になるはずです。
患者様のために調剤事務員ができること
清水 万里 氏
HYUGAPRIMARYCARE株式会社
在宅訪問薬局事業本部東日本在宅訪問薬局事業部SVPC
2015年にHYUGAPRIMARYCAREに入社。入社後6年間は、西日本地区において、入力業務、レセプト業務、請求業務等の業務を行う。その後、2020年に東日本へ転勤となり、SVPCとして、PCの教育や、店舗運営の管理及び業務改善などを担っている。
OTCだけでなく処方薬のことも知りたいと転職
もともとドラッグストアの登録販売者として働いていました。そこで調剤薬局で処方された薬との飲み合わせなどについて相談を受けることが多く、OTCだけでなく、処方薬についてももう少し知っておきたいと思うようになりました。どうせ転職するなら在宅など新しいことに取り組んでいる会社がいいのではと、資格なし、未経験でも受け入れてくれた当社でPCとして働くことになりました。
入社当初は在宅業務で施設などへの配薬を、その後は薬局で処方箋の入力などを担当しました。現在はPCのヘッドとして未経験者の教育や研修、事務のスキルに関するルール選定やスキルチェック、各店舗からの要望の吸い上げや、それに対する改善提案、個人で解決が難しいのであれば上司に取り次ぐといった業務を担当しています。
事務と薬剤師はお互いに協力して仕事をしたい
薬剤師とPCの役割分担として、この工程はだれが担当するといった制度設計が社内で作成されており、PCに移管すべきところは移管します。そのため店舗内の業務がどうしても事務に偏ってしまいます。それを理解している薬剤師は協力してくれますが、事務が薬剤師の手足のような感覚で動かされている店舗もまだないわけではありません。私としては、事務と薬剤師はお互いに協力して並んで仕事をしたいという気持ちがあり、今はその仕組みを整えていきたいと考えています。
また、在宅がメインなので、薬剤師の訪問に同行したり、薬剤師が訪問した後にPCが単独で薬をお届けに行く事も多く、施設の入居者やスタッフとのコミュニケーションも大切にしています。PCに薬のことを聞かれることも多いのですが、その場合は聞き取ってメモし、「あとで薬剤師が電話でお答えします」と伝え、薬剤師とも連携を取るようにしています。
業務が増えることは、事務にとっては大きなチャンス
当社の場合、事務が担当する業務は幅広く、どうしても他の薬局の事務職とはギャップがあります。未経験の人でも、普通の外来の調剤薬局の事務をイメージして入社したら、こんなに仕事量が多いと驚かれることも多く、早期退職につながったりします。このギャップをいかに埋めるかが課題でもあります。
事務でも患者さんのためにできることはたくさんあります。薬剤師でなくてもできることがあるというのは、事務にとっては大きなチャンスです。調剤業務など事務とは関係ないなどと決めつけず、積極的にいろいろと覚えて、患者さんのためにつながるような仕事をしていただければと思います。