伊藤 建 氏
厚生労働省大臣官房総務課企画官
(医薬・生活衛生局併任)電子処方箋サービス推進室長


2021年夏より、厚生労働省大臣官房総務課企画官(医薬・生活衛生局併任)。今年5月に成立した緊急承認制度の創設を含む改正薬機法を担当し、本年7月より電子処方箋サービス推進室長を兼務。2005年経済産業省入省。これまで、カーボンニュートラルに向けた環境エネルギー政策や、医療分野を含む日本の質の高いインフラ輸出戦略の推進、世界貿易機関(WTO)での越境データのルール策定やコロナ渦での医薬品を含む輸出規制対応などを担当。

電子処方箋の運用が2023年1月26日からスタートしました。電子処方箋の運用開始から約1か月が経過しましたが、まだ電子処方箋の導入方法やメリットを理解できていない方も多いのではないでしょうか。今回は2023年3月9日に開催された株式会社アクシス主催「開始から1ヶ月厚生労働省電子処方箋推進担当者ご登壇どうする?どうなる?電子処方箋・オンライン資格確認セミナー」にて、厚生労働省電子処方箋サービス推進室室長の伊藤建氏に電子処方箋の意義と最新の電子処方箋状況を解説いただきました。

電子処方箋の導入は「骨太の方針」の一環

 2022年の出生数が80万人を割りました。これは推定されていた時期より11年早く、少子高齢化による日本の人口構造が大きく変わってきていることを示しています。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、1990年代から減り始めた現役世代の人口はその後も減少し続け、65歳以上の人口は2040年ごろをピークに、以降は減少していくことが予想されています。

 人口動態の変化に伴って医療需要も変化します。在宅患者数の増加によって在宅医療のニーズが右肩上がりで高まることが予想されます。こうした事態に備え、打ち出されたのが「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太の方針)です。

 政府は「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」として行政と関係業界が連携して全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXに取り組み、医療情報の利用・活用について法整備を進めるために「医療DX推進本部(」本部長:岸田文雄内閣総理大臣)の設置を2022年年6月7日に閣議決定しました。電子処方箋の導入はその一環です。

医療機関、薬局が処方箋データをリアルタイムで共有

 電子処方箋とは、オンライン資格確認などのシステムを拡張し、現在紙で行われている処方箋の運用を電子で行うしくみです。システム化によって、医療機関と薬局の間で処方意図や調剤結果などに関する情報を共有することができ、医師と薬剤師のスムーズな連携が期待されています。患者は直近の処方や調剤内容の閲覧や、重複投薬などをチェックすることが可能になります。

 患者の処方箋データは、運用主体である支払基金・国保中央会の電子処方箋管理サービスに蓄積されていきます。オンライン資格確認のネットワークを通じて医療機関、薬局が処方箋データを共有することになります。

 このシステムで特に強調したいのは、薬局のメリットです。これまでおくすり手帳や患者からのヒアリングで得られていた情報から推測を交えて捉えていた患者像は、リアルタイムでデータを入手できることで、患者の実像を把握できるようになります。さらに、情報は自動転記されるので事務の効率化にもつながります。

2025年3月末までに全医療機関・薬局が導入

 電子処方箋の導入状況(2023年3月9日現在)は、全国の751施設(大半が薬局)で運用が開始され、システム改修前の42,000施設が利用申請をしています。また、電子署名に必要なHPKIカードは約44,000枚発行され、申請件数も単純に足し上げると10万を超えています。

 電子処方箋の運用状況を地域別にみると、医療機関、薬局とも開始している市町村があるのは13都府県に留まっています。医療機関か薬局のいずれかが開始している市町村があるのは25道府県となっています。電子処方箋のシステム導入に対応(見積り、改修)が可能な事業者は21社あります。

 現在、マイナンバーカード、健康保険証のどちらでも電子処方箋を利用できますが、2024年秋を目途にマイナンバーカードと健康保険証の一体化によって健康保険証は廃止されます。電子処方箋は2025年3月末までにすべての医療機関・薬局への導入を目指すことが閣議決定されています。

システム導入、カード発行に補助金

 電子処方箋の導入は、①準備開始、②システム事業者へ発注、③導入・運用準備、④運用開始・補助金申請の4段階で進められます。なお、前述の利用申請42,000施設は「システム事業者へ発注(電子処方箋利用申請)」の段階にあり、改修前でHPKIカード申請済み、事業者への発注済みといった状況です。

 電子処方箋の導入費用については補助金が交付され、施設の規模等に合わせて4段階で上限額が設定されています(表1)。また、HPKIカードの発行費用の一部が補助されます(表2)。電子処方箋のメリット、導入の手順、利用方法、運用マニュアルなど、電子処方箋に関する情報が公開されています。

電子処方箋システムは医療DXを構築する骨幹の1つ

 電子処方箋を導入した施設に感想を聞くと、「導入時の作業自体は数時間程度で完了した」、「システムを止める必要もなくスムーズに移行できた」、導入後の業務について「業務全般が迅速化され、さらに服薬指導については患者のアドヒアランスの向上も期待できる」など、案ずるより産むが易しといった感触を持っていました。一方、患者の反応としては、「高齢者でも電子処方箋でスムーズに薬をもらえた」、「おくすり手帳を持参しなかった時でもチェックできるので助かる」、「電子処方箋と聞くと不安だったが、実際にやってみると簡単だった」といった声が届いています。

 電子処方箋導入のモデル事業を実施した日本海総合病院(山形県酒田市)、公立岩瀬病院(福島県須賀川市)は「患者の医療安全の観点から電子処方箋は有効」、「大規模災害、パンデミックでの有益性に期待できる」と手ごたえを感じています。

 電子処方箋システムは医療DXを構築する骨幹の1つであり、マイナンバーカードと健康保険証の一体化、オンライン資格確認の義務化など、国策として不可逆的な流れのなかで進められていきます。薬局には、早期着手で日本の医療を変えていくという気概でこの流れをリードしていっていただくことを期待しています。