Part 1 で紹介したとおり、調査事業における緊急避妊薬の販売実数は、2,000件以上であったと報告されるも、データ不十分を理由に、政府は2025年3月まで期間延長を決定した。女性が健康を守るために、安心して、適切かつ安全に、緊急避妊薬にアクセスできる社会の実現を目指す「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)」は、2024年6月10日「誰一人取り残さないSRHR実現のために緊急避妊薬の薬局試験販売の課題と展望を考える院内勉強会」を開催。Part 2 では、当勉強会で提起された当調査事業および緊急避妊薬に関する現状の課題を示し、今後の道筋を考える。


緊急避妊薬とSRHR
いち早く服用することで高い効果を示す

 「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表かつNPO法人ピルコン代表の染矢明日香氏は、まず、緊急避妊薬へのアクセス改善の根底にあるSRHR(Sexual Reproductive Health & Rights)の理念について言及した。SRHRとは、「性と生殖に関する健康と権利」であり、性や子どもを産むことに関わる全てにおいて、自分の体のことを自分で決めることができること。染矢氏は「人々は他人の権利を尊重しつつ、安全で満足できる性生活を営むことができ、子どもを産むかどうか、産むとすればいつ、何人産むかを決定する自由があります。このなかには、必要な人が、緊急避妊薬を含め避妊に関する適切な情報とサービスを受ける権利があることも含まれるのです」と訴えた。

 現在、日本で承認されている緊急避妊薬のレボノルゲストレルは、おもに排卵の抑制効果があるとされる。今回の調査事業に参加して購入する場合を除くと、入手するには医療機関の受診と処方箋が必要だ。レボノルゲストレルは、性交後72時間以内の服用が薦められており、性交から服用する時間の経過に伴って妊娠阻止率は低下するとされている。染矢氏は、「72時間以内に服用することが効果的な薬ではありますが、妊娠阻止率という観点から、24時間以内に服用できれば、より高い確率で妊娠を防ぐことが期待できます」と、緊急避妊薬をいち早く入手することの意義を強調した。

※日本産科婦人科学会編「緊急避妊法の適正使用に関する指針」(平成28年度改訂版)では、レボノルゲストレルの妊娠阻止率に関して、72時間以内の服用で85%とするが、24時間以内で95%、25~48時間以内で85%、49~72時間で58%と示す。

アクセス面・価格面での日本と各国の違い

 次に、染矢氏は海外諸国の緊急避妊薬の入手に関する状況を紹介した。

 2021年時点で、緊急避妊薬は約90か国で薬局での購入が可能だという。そのうちドイツ、イギリス、イタリアを含む約76か国では処方箋の必要なく、薬剤師の説明を受ければ入手できる。また、アメリカ、カナダ、フランスなど約19か国では、薬剤師を介さずOTCとして購入できると例を挙げた。

 価格に関しては、おもな先進国を示し、イギリス、フランスは約900円、オーストラリアは約1,100~4,000円、ドイツは約2,200円、カナダは約2,400~4,200円、アメリカは約4,200~5,300円ほど。さらに「避妊の無償化の取り組みも広がっており、例えばフランスやイギリス、オランダ、スウェーデン、ドイツ、ノルウェーなどの一部の学校や病院などでは、緊急避妊薬を無料で入手できる国も増えつつあります」と、染矢氏はより緊急避妊薬を入手しやすい取り組みを講じている状況も付け加えた。緊急避妊薬の入手にあたっては、基本的に処方箋を必要とし、調査事業での購入や医療機関を受診後の調剤でも、購入額が平均7,000~9,000円となる日本の現状とは大きく異なる点を指摘した。

調査事業の課題を指摘
性教育の充実を含め、包括的な対策を

 2023年11月から実施されている調査事業について、染矢氏は、全国で145薬局と対象薬局が少ない点や、特に若年者における調査事業のホームページへのアクセスの難しさと対象薬局の確認方法など手順の煩雑さ、未成年者に対する購入時の年齢制限や保護者の同伴、7,000~9,000円という購入価格のハードルの高さといった諸々の課題を指摘した。染矢氏は当調査事業に対し「望むのは調査ではなく、早期の薬局での緊急避妊薬の入手環境の整備とOTC化」としつつ、まずは当調査事業を国民へ広く周知させることと、調査協力薬局の増加について要望書を提出している。

 OTC化とは直接的な関係性はないが、緊急避妊薬の入手をサポートする取り組みが、一部の自治体でも広がってきている。例えば、東京都では、スマホからも緊急避妊の診察が可能な病院が検索できたり、都内在住・在学・在勤の中学生以上の10代の方を対象にした健康相談の相談窓口「とうきょう若者ヘルスサポート」(わかさぽ)では、対面相談に来た10代かつ緊急避妊が必要な方には、医療機関への相談の同行支援なども行っている。染矢氏は、「政府として、緊急避妊薬入手のハードルを下げるようなこうした取り組みの拡充も大切です。また、OTC化にあたっての課題と指摘されている『性教育の不足』への対応や、市民への啓発・告知も含めてもっと注力するべきだと思います」と、緊急避妊薬へのアクセス改善に向けた包括的な対策の実施を切に訴えた。

「購入したかったができなかった」方へも調査
調査事業での購入者は回答者の15%

 「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表で「#なんでないのプロジェクト」代表を務める福田和子氏は、厚生労働省が公開した調査事業の結果報告書は、対象薬局にたどり着き、購入できた人にしかリーチできていない点を鑑みて、調査事業を通して緊急避妊薬を購入できた方に加え、購入できなかった方も対象に2024年4月1日~21日まで独自にアンケート調査を実施した。

 アンケート回答者は68名(図1)で、そのうち調査事業で購入できたのは10名(15%)だった。購入者数(名)/回答者数(名)の内訳を地方別に見ると、東北0/1、関東5/40、中部1/4、近畿0/5、中国2/6、九州(沖縄含む)2/6で、北海道と四国は回答者がいなかった。福田氏は「厚労省が示す2,000件以上の当調査事業の結果とは別に、購入したかったができなかった方も数多くいるのでは」と問題を提起する。

距離、電話予約、対象条件の確認、購入費用など入手ハードルが多い

 調査事業を通して緊急避妊薬を購入できなかった有効回答者53名について、「購入に向けて踏んだ手順」を確認し、どの手順で断念したかも調査した。回答によれば、約7割が当調査事業のホームページにたどり着き、対象薬局から自分が行ける薬局の検索まで実施した。しかし、次の「薬局に電話をする(来局予約をする)」段階に至ったのは1割程度(7名)。福田氏は、「この段階で多くの方が断念した理由として、対象薬局を検索したものの、購入できる薬局が遠過ぎるといった距離的な問題のほか、電話をすることへの心理的なハードルもあったのではないでしょうか」と推察する。

 購入できた/購入できなかった方ともに、緊急避妊薬の入手手順のなかでハードルに感じた点については、「当調査事業のホームページで自分が対象者かどうか、調査事業の条件を確認する」と「7,000~9,000円の薬代を払う」の回答が多かった。価格について、いくらであれば確実に購入できるかとの設問では、1,000円台との回答が21名と最も多く、次に1,000円未満が13名、2,000円台が11名と続いた(図2)。「2,000円未満であれば、確実に購入できるとの回答が約6割を占めます。海外諸国の状況を鑑みても、保険診療で無料の国や1,000~2,000円台で販売している国は多く、高くても5,000円を超えないという印象です」と福田氏は添え、緊急避妊薬の今後の販売価格についても、一考願いたいとコメントした。

薬局での入手を実現し緊急避妊薬を活かす

 福田氏が注目するのは、服用までにかかった時間だ。緊急避妊薬を調査事業の対象薬局で購入できた方10名のうち、9名は24時間以内、残りの1名は48時間以内に服用できた。一方、購入できなかった58名中、医療機関の受診等により緊急避妊薬を入手し、72時間以内に服用できたのは17名にとどまったという。染矢氏が先述したように、緊急避妊薬は性交後、早く服用するほど効果を期待できる。福田氏は「やはり薬局で処方箋なく入手できることは、緊急避妊薬をより確実に活用するための重要な一歩になるのではないでしょうか」と強く訴えた。そのうえで、今後改善が望まれる点(図3)として多く声が挙がった「緊急避妊薬を取り扱う対象薬局が増えてほしい」(64名)、「情報が手に入りやすくなってほしい」(56名)、「価格を下げてほしい」(55名)といった課題解決を含めた制度設計をしてほしいとまとめた。

避妊法と供給方法の最新ガイド「Family Planning」
避妊失敗率の高いコンドームが主流の日本

 明治大学文学部教授の平山満紀氏は、WHOとJohnsHopkins大学が刊行した「Family Planning: A Global Handbook for Providers 2022(改訂第4版)」の翻訳作業を学生とともに進めている。本書は、緊急避妊を含む20種類の避妊法とその供給方法を解説した最新のガイドブックだ。平山氏らは2024年末に翻訳作業の完成を目指しているが、時下の重要性が高いと考えられる第3章「緊急避妊薬」の翻訳を先んじて完成させ、インターネット上に特設サイトを設けて紹介している。

昨年、20種類の避妊法の解説の一部を抜粋して明治大学内で展示したところ、反響が大きく、「特に避妊法では、日本で主流になっているコンドームによる避妊失敗率が高いことが大きな関心を引いた」と平山氏。「そのため日本は緊急避妊薬の必要性も高いと考えています」と説く。

緊急避妊薬への疑念や誤解を解く
WHOでは緊急避妊薬を常備薬に位置付け

 平山氏は、「緊急避妊薬に対し、『女性の健康を害するのでは/妊娠しにくくするのでは』『性行動が乱れるのでは』といった懸念を抱いている方も多いのではないのでしょうか」と指摘する。これらに対して、「思春期の女性を含め、年齢に関係なく使用できる。むしろ判断力が未熟な思春期の女性こそ、緊急避妊薬に簡単にアクセスできることが重要」「中絶を引き起こさない」「一般的な避妊用ピル(低用量ピル)が使用できない高血圧などの女性も、緊急避妊薬は使用できる」「排卵後に服用しても、また妊娠に気づかずに服用しても、健康への影響はなく、胎児への影響もない」「1回の月経周期に複数回使用できる」と本書に基づいて説明した。また、緊急避妊薬を服用した女性は、服用しない女性と比較して避妊をしない割合は高くなく、危険な性行動を増加させないことが調査から示されているという。

 本書は、「緊急避妊薬を必要とする可能性のあるすべての女性にあらかじめ緊急避妊薬を供給すべきである。緊急避妊薬を手元に置いておけば、避妊なしの性交の後、できるだけ早く緊急避妊薬を服用することができ、それが最も効果的である」と述べ、緊急避妊薬を妊娠を望まない女性の常備薬に位置づけるべきと推奨している。平山氏は、「緊急避妊薬のOTC化を巡っては、科学的な根拠のない不安が推進を阻んでいる点もあるかと思います。ぜひこうした知識を多くの人に知ってほしいと願っています」と知識に基づいた今後の展開を願うと語った。