監修
ワタナベ薬局上宮永店
松本 康弘 氏

前号では、発達障害特集の第1回として注意欠如多動症(ADHD) および自閉スペクトラム症 (ASD)の特徴や治療法、発達障害の 人が抱える生きづらさに焦点を当てて解説しました(表1)。第2回となる今号では、発達障害の薬物治療に焦点を当て、ワタナベ 薬局上宮永店の薬剤師として約20年に 渡り発達障害の人とその家族に関わってきた松本康弘氏に、薬物治療の基礎知識や服薬指導時の工夫、薬剤師の関わり方などについてお話しをお聞きしました。


発達障害について薬剤以外にも様々な知識が必要

 本邦における発達障害者数は増加傾向にあり1)、それに伴って発達障害に関わる処方や服薬指導の機会も増えると考えられることから、薬剤師も発達障害について理解を深める必要があります。

 発達障害の人とその家族に関わってきた20年間で強く感じたことは、発達障害の人やその家族と信頼関係を 築くには、いただいた質問に正直かつ正確に答えることが肝心で、そのためには発達障害について薬剤以外にも様々な知識を身につける必要があるということです。浅薄な知識はすぐに見破られて信頼を得られず、信頼関係がないと聞き取りが不十分になり、適切な情報提供が難しくなります。私は、発達障害の服薬指導のためには発達障害の理解を深めることがとても重要と考えています。

薬物治療の開始時に伝えるべきこと

 初めて薬物治療を開始する発達障害の人やその家族は、薬物に対して「一生飲み続けないといけないのか」、「依存症になるのではないか」、「薬に頼っていいのか」 などの不安を感じています。それらを和らげるために、「薬は学校や職場で周りとの摩擦を減らすための補助的なもので、ずっと飲み続けてもいいし、必要がなくなればやめることもできます」と話し、薬物治療の役割を理解してもらうようにしています。そのうえで、依存性を含めた副作用についても不安をあおらないように、ただし必要なことはできる限りすべて説明します。薬によっては、覚醒剤の成分に近いものや、統合失調症など他の精神疾患の治療にも使用されるものもありますが、医師の指示を守って使用すれば安全であることを伝えます。昨今はインターネットで簡単に情報収集できるので、 患者さんが不安に感じる可能性があることについて最初に伝えておかないと、後で知った時に不信感を抱く原因となります(表2)

ADHDに対して使用される4剤

 ADHDの病因の一つに、前頭前野におけるカテコールアミン(ドパミン、ノルアドレナリンなど)による神経伝達の機能低下があると考えられています2)。ADHDに対する薬物療法では、ドパミンやノルアドレナリンによる神経伝達を活性化する中枢神経刺激薬の2剤(メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン)と、非中枢神経刺激薬の2剤(アトモキセチン、グアンファシン)が使用されます。リスデキサンフェタミンは小児のみの適応です。

中枢神経刺激薬は即効性で、依存リスクに注意

 メチルフェニデートとリスデキサンフェタミンは、いずれもシナプス前終末の細胞膜にあるドパミントランスポーターとノルアドレナリントランスポーターを阻害することでシナプス間におけるドパミン、ノルアドレナリンの濃度を上昇させ、ADHDの症状を改善します2)。メチルフェニデートはADHDの治療薬として最初に使用されることが多い薬剤です。剤形は、メチルフェニデートは徐放錠、リスデキサンフェタミンはカプセルです。

 メチルフェニデートとリスデキサンフェタミンは、朝1回の服用により約10〜12時間効果が持続するとされています。また、いずれも量によって乱用と依存リスクがあることからADHD適正流通管理システムで厳格に管理されており、登録された医療施設と医師、薬局と薬剤師のみに取り扱いが許され、患者にも登録が義務づけられています。処方上限は30日で、他の薬局への譲渡は禁止されています。過剰摂取を回避するため、処方のたびに残薬を確認することが必須です。

中枢神経刺激薬の要注意な副作用は食欲不振、不眠、チック

 メチルフェニデートとリスデキサンフェタミンの副作用として特に注意が必要なのは、食欲不振、不眠、チックの3つです。

 ドパミンは消化管運動を低下させるため、ドパミン濃度を上昇させる中枢神経刺激薬を服用すると高頻度で食欲不振になります。そのため服用は朝食を摂った後とし、学校で給食がある場合は給食の量を減らすよう学校に相談することを勧めています。昼食を十分に摂れない時は間食や夕食の増量により必要な栄養分を補うよう助言します。来局時には体重の変化を聞き、減っているようであれば食事の量や回数を増やすよう伝えています。

 ドパミンの覚醒作用により起こります。服用時間が午後にずれると夜眠れなくなるため、必ず朝食後に服用するように伝え、それでも不眠が続く場合は薬剤の変更を医師に相談するよう伝えます。朝服用できなければその日は服用しなくてよいとも伝えています。発達障害の人はそもそも睡眠サイクルが不安定であることが多いので、きちんと睡眠がとれているかの確認は大切です。

 メチルフェニデートもリスデキサンフェタミンも、運動性チックのある患者、Tourette症候群*またはその既往歴・家族歴がある患者にはそもそも禁忌です。しかし、小児を対象としたメチルフェニデートの国内臨床試験ではチックの発現率が7.1%と報告されており3)、メチルフェニデートの投与により新たにチックを発症する可能性があることから、服用中にチックらしき仕草に気が付いたら医師に相談するよう伝えています。家族が気付いていなくても、チックを疑った場合にはトレーシングレポートなどを用いて私から主治医に伝えることもあります。

*運動チックと音声チックの両方が1年以上にわたり続くチック障害

アトモキセチンは「副作用が先、効果発現が後」と説明

 アトモキセチンはシナプス前終末のノルアドレナリントランスポーターを阻害することでシナプス間におけるノルアドレナリン濃度を上昇させADHDの症状を改善します。ドパミントランスポーターへの作用がほとんどないため依存リスクは低いと考えられています4)

 中枢神経刺激薬のような即効性はなく、効果を感じるまでに6〜8週間かかることがあります。朝と夕方の1日2回服用すると効果は24時間持続するとされています。剤形にはカプセルと内用液があり、カプセルを飲み込むのが難しい場合にも使用できます。

 アトモキセチンの副作用として発現頻度が高いのは、頭痛、食欲減退、傾眠、腹痛、悪心です。これらは服薬を始めたばかりの頃によくみられ、次第に改善することが多いので、服用開始時は忍容性を確認しながら1週間以上の間隔を空けて漸増し、至適維持量を決定します。

 効果を実感するより先に副作用が発現するので、患者さんが自己判断で服薬を中止してしまうことがあります。服薬指導では、「服用を始めると、なんとなく胃がもたれたり、頭痛がしたりするけれど、しばらくするとそれらの症状は軽くなって、『授業中座っていることができた』、『宿題を集中してできた』などの変化があるので、それまで薬をやめないでください」というように、患者さんが感じることを時系列に説明すると理解しやすいようです。効果の発現がわかりにくいという相談を受けた場合は、学校の先生に数週間前と比べて変わった点があるか聞いてみることを勧めています。

グアンファシンは約1週間で効果発現、眠気に注意

 グアンファシンは他の3剤と異なり、前頭前皮質の錐体細胞の後シナプスにあるα2A受容体を活性化することにより神経伝達を増強し、ADHDの症状を改善します。ドパミン濃度を上昇させないので依存リスクは低いと考えられています4)。投与1週間ほどで効果を実感でき、1日1回朝に服用すると24時間効果が持続します。剤形は錠剤のみです。

 グアンファシンで注意が必要な副作用は眠気です。眠気が起こって欲しくない時間帯に応じて服用時間を変更することで対処します。また、高所での遊びや運動、作業などが頻繁にある場合は、眠気によるふらつきなどに注意を促します。

 グアンファシンは、当初降圧薬として開発されたため血圧低下作用があります。もともと血圧や心拍数が低い患者さんでは、グアンファシン投与により徐脈や失神が起こる可能性があるため、投与開始前と用量変更の1〜2週間後、至適用量決定後には4週に1回を目途に血圧と脈拍数を測定するよう添付文書に記載されています5)。医師からの指示がない限り、家庭で定期的に血圧を測定する必要はありませんが、服用を急に中止すると血圧の急激な上昇や頻脈が起こる可能性があるので、自己判断で服用を止めないよう伝えます(表3)

ASDの易刺激性に対するリスペリドンとアリピプラゾール

 2025年3月現在、ASDの中核症状(対人コミュニケーションが苦手、こだわりが強い、感覚過敏)に対する薬物治療はありません。小児期の易刺激性(小さな刺激で怒ったり、暴れたりすること)に対して、リスペリドン、アリピプラゾールが使用されます*。

 リスペリドンは、ドパミンD2受容体拮抗作用とセロトニン5-HT2受容体拮抗作用を介して症状を改善します。アリピプラゾールはドパミンD2受容体に対する部分作動薬であり、ドパミンが過剰であれば抑制的に作用し、不足していれば促進的に作用します。リスペリドンは1日1〜2回服用、アリピプラゾールは1日1回服用で、剤形はいずれもOD錠/錠剤、細粒/散、内用液です。

 リスペリドンとアリピプラゾールで発現頻度の特に高い副作用は、食欲不振/食欲亢進、不眠症、アカシジア(座ったままじっとしていられず、そわそわする)、体重増加などです。中でも体重増加は、リスペリドンの小児臨床試験で34.2%6)、アリピプラゾールの小児臨床試験で18.8%と7)、比較的高頻度に発現しているので注意が必要です。抗精神薬の副作用といえばアカシジアやジストニア(筋肉の過度な緊張により異常な姿勢や行動が無意識に起こる)などの錐体外路症状を思い浮かべると思います。私自身、リスペリドンを投薬していた患者さんで急性ジストニアを経験したことがあり、発現頻度が5%未満と報告されている副作用でも注意する必要があると実感しました。副作用の説明では、発現頻度が高い眠気や体重増加などの他に錐体外路症状についても説明することが大切です(表4)

*リスペリドンの先発品と後発品のOD錠および錠の3mgは適応外、アリピプラゾールの先発品のOD錠 24mgおよびすべての後発品は適応外

発達障害の併存症/二次障害の薬物治療

 ADHDやASDなどの発達障害が原因で、不安症や強迫性障害、うつ病などの二次障害を発症することがあります。

 うつ病や不安症などに対して、成人では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が使用されます。SSRIのうち小児の適応があるのは強迫性障害に対するフルボキサミンのみですが、適応外でセルトラリンやエスシタロプラムが使用されることがあります。

 不眠に対して小児ではメラトニン受容体作動薬を使用できます。小児の適応があるのはメラトニンだけですが、適応外でラメルテオンが使用されることもあります(表5)

 ADHDとASDは併存することが多いとされていますが、併存している場合、ADHDとASDのいずれの要素が優勢かを医師が確認し、二者で治療の優先順位を判断します。なお、ADHDと二次障害である不安症やうつ病が併存する場合、不安症やうつ病が重篤なケースを除き、まずADHDの薬物治療を行うことが推奨されています。ADHDの症状が改善するに伴って二次障害も改善することがあれば、二次障害に対する薬物治療は行われません4)。なお、中枢神経刺激薬は、過度の不安、緊張、興奮性のある患者に対して禁忌であり、メチルフェニデートは重度のうつ病のある患者に対しても禁忌です。

発達障害では服薬アドヒアランスの維持が課題

 発達障害の人は、決まった時間に薬を飲むことが苦手、薬剤の味や色が気に入らない、副作用、漠然とした不安などの理由から服薬アドヒアランスの維持が難しいことが課題です。グアンファシンのように服薬を急に止めると血圧上昇や頻脈が起こり得る薬剤や効果発現までに時間がかかる薬剤を使用している時には服薬アドヒアランスの維持が特に重要です。

飲み忘れへは声かけ、味の問題は“味変”で対応

 同居する家族がいる場合、薬剤は家族が管理し、飲む時間に家族から声かけをすると飲み忘れを防げます。独居の場合、薬剤を定位置に置き、飲む時間にスマートフォンでアラームをかけるなどしておくと効果的です。

 発達障害児は、薬剤の色、形、味に敏感です。嫌だと感じた薬は全く飲めなくなり、似たような薬剤も拒否する傾向にあります。私は、甘いものが好きであればカカオパウダー、辛い物が好きであればカレーのように、味と色を変えられる食品に混ぜることを勧めています。これだったら大丈夫という食品を聞いておくとよいでしょう。カプセルを飲み込むのが難しい場合、舌の奥の方にカプセルを置くと飲み込みやすくなると伝え、それでも難しければ内用液や錠剤への変更を医師に相談するよう勧めます。

副作用や漠然とした不安による服薬拒否には丁寧な説明を

 副作用が不安な時は起こり得る副作用について丁寧に説明します。薬に頼らなければならないことを不安に感じている時は「薬は補助的なもので、周りとの摩擦を減らし、個性を活かすためのもの」と伝えています。非中枢神経刺激薬は治療効果がわかりづらいことがあります。服用期間中は小さな変化であっても患者さんや家族と共有し、治療効果を感じてもらえるようにしています。また、発達障害ではない方との言動の比較がしやすいという点では、毎日顔を突き合わせている保護者の方よりも大勢の生徒を見ている学校の先生の方が変化を感じ取りやすいことがありますので、学校での様子を聞いてみるよう勧めています。

服薬指導は静かな場所で時間をかけて

 発達障害の人に服薬指導をする時には環境面の配慮が必要です。発達障害の人は大きな音や人込みが苦手なことが多いので、可能であれば人目のない静かなところで対応します。また、時間をかけてゆっくりと話を聞くことも大切です。当施設では、患者さんが車で来局した時には車内で服薬指導を行うことがあります。

 小児の場合、家族に服薬指導することが多いと思いますが、発達障害の特徴を知るために本人と直接話す機会を持つことが大切です。ASDの特性があると視覚優位なことが多いので、薬の飲み方などを説明する時にはイラストや写真を使って視覚に訴えると効果的です。当施設では、カプセルの飲み方を教える時などにイラストを活用しています(表6)

発達障害の人やその家族と信頼関係を築くために

 発達障害の人は基本的に他者とのコミュニケーションが苦手です。また、保護者の方も発達障害のお子さんへのケアに疲弊し、薬局で説明を受ける際、薬剤師とゆっくり話す気分ではない、といったケースは少なくないと推察されます。私は初回から積極的に話しかけることはせず、回数を重ねるごとに日頃の生活や家族のことなど共有できる話題を増やすようにしています。また、SNSを利用して気軽に質問できるようにしています。

 発達障害の人や家族の信頼を得るために、インターネットで知り得る以上の情報を提供できるよう、発達障害についての深い知識を持つことが重要です。メチルフェニデートやリスデキサンフェタミンを調剤できる薬局は限られており、薬局を何軒も回ってようやく調剤できる薬局にたどりついたという患者さんは珍しくありません。そうした苦労を理解し、発達障害の人やその家族と真摯に向き合い、受け入れることのできる薬剤師でありたいと考えています。


松本 康弘 氏
熊本大学薬学部から大学院を1984年に卒業し、旧吉富製薬・東京研究所に入社。循環器の新薬の研究に従事。その後、中枢神経薬や代謝性疾患治療薬の研究を行い2001年に退職し、現在、勤務しているワタナベ薬局に転職。入社以来、23年間小児科の調剤に携わっている。小児薬物療法認定薬剤師を取得し、日経DIでコラムを書いている。薬局以外では中津市のファイビオラ看護学校と大分県立看護科学大学・大学院で薬理学を教えている。