
今号は、第19回日本腎臓病薬物療法学会学術集会・総会2025(11月開催)のシンポジウム「Onco-nephrologyの視点から見たがん患者の電解質異常マネジメント」より、がん診療で合併頻度が高いカルシウム異常と、治療関連で見逃されやすいマグネシウム異常を取り上げる。腎機能・薬物療法・病態生理の観点から総合的に整理し、薬剤師に求められる評価と介入のポイントを示す。
OncologyEmergencyにおける電解質異常・AKI
—カルシウム異常を中心に—
東京都立多摩総合医療センター 薬剤科 八木 亮夕子 氏
がん診療で頻度の高いOncologyEmergency
高Ca血症の基本
高カルシウム(Ca)血症はがん診療における代表的なOncology Emergencyであり、病態の進行に伴い急速に増悪することが多い。八木氏は、悪性腫瘍に関連して発生する高Ca血症と腎障害について臨床上の留意点を解説した。
八木氏は、高Ca血症に遭遇した際には、原発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、ビタミンD過剰の3つをまず考慮するという。特に悪性腫瘍に伴う高Ca血症(Malignancy-Associated Hypercalcemia;MAH)はがん患者の約10~30%にみられ、MAHの約80%は、腫瘍産生の副甲状腺ホルモン関連蛋白(Parathyroidhormone-relatedprotein;PTHrP)による全身的な骨吸収亢進が背景となる。次いで、乳がんやリンパ腫、多発性骨髄腫において頻度の高い局所骨融解によるものが約20%で、その他の要因は稀である。
ビスホスホネート製剤とデノスマブ
低Ca血症への注意
八木氏は、日本では適応が限られるものの「中等度以上や症候性高Ca血症では、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体(デノスマブ)が用いられる」と米国内分泌学会の推奨フローを紹介した。ただし、デノスマブ投与では低Ca血症が起こりやすく、特に腎機能低下例ほど低Ca血症に慎重な姿勢が求められる。また、ループ利尿薬との併用により低Ca血症が生じやすくなる可能性があると報告されている。こうしたことから、デノスマブ投与前後には、血清Ca値測定や、CaやビタミンDの補充をおこなうよう注意喚起されている。さらに、腎機能低下患者ではビタミンD活性化反応が低下するため、G3b以下のCKDでは天然型ではなく活性型ビタミンD製剤を選択すべきとした研究も紹介した。
ビスホスホネート製剤やデノスマブは、骨転移のある固形がん、多発性骨髄腫、また乳がんのアロマターゼ阻害薬や前立腺がんのアンドロゲン除去療法に伴う骨量低下にも広く用いられる。これらの治療のなかでCa製剤や活性型ビタミンD製剤の併用は欠かせない一方で、過量投与により高Ca血症を来す例もあるという。八木氏は活性型ビタミンD製剤の中でもエルデカルシトールはAKIを生じやすい可能性がある点を指摘した。さらに、デノスマブでは中止後の骨代謝回転亢進による「リバウンド高Ca血症」にも注意が求められる。
Alb補正Ca値のピットフォール
CKD・透析患者では誤分類に注意
一般的に血清Ca値は、蛋白結合型Ca(おもにアルブミン[Alb]結合型、約40%)、リン酸との複合型Ca(約10%)、生理活性を持つイオン化Ca(約50%)から構成され、これらの合計として血清Ca値が測定される。Ca代謝異常を正確に捉えるにはイオン化Caでの評価が推奨されるが、日常的にはAlb補正Ca値が多く使用されている。
八木氏は、Alb補正Ca値に関する課題に言及した。「G3~5のCKDでは、Alb補正Ca値は低/高Ca血症を正確に反映しない可能性があり、透析患者ではAlb低値や酸塩基異常の影響により、真の低Ca血症を見逃したり、偽性高Ca血症を呈しやすい」と指摘。特にAlb<3.0g/dLで、誤分類をする頻度が高まるという。これらは薬剤師がCa値を解釈するうえで押さえておくべき点であり、可能な限りイオン化Caを用いて評価することが重要だと強調した。
高Ca血症から腎前性AKIの機序と薬剤師の介入
八木氏は、高Ca血症に伴う多尿が腎前性AKIへ至る機序についても解説。高イオン化Caはヘンレループ上行脚や集合管主細胞にあるCa感知受容体(CaSR)を活性化させ、尿濃縮障害が進行して多尿となる。これが口渇・脱水を招き、腎前性AKIを惹起する。八木氏は、無症候性~軽度の高Ca血症や、中等度で無症候性または症状が軽い症例に対する生活指導例を示し(表)、「生活指導のほか、高Ca血症を来す薬剤の適切な見直しが重要」と述べた。病態評価・薬剤管理・生活指導を通して薬剤師が積極的に関与することが、医療チームへの貢献につながるとまとめた。
チャネル・シグナル伝達を考慮した
がん治療中のマグネシウム異常
社会医療法人明和会 中通総合病院 薬剤部 相楽 勇人 氏
低Mg血症の背景
CKDにおいて見逃されやすい電解質異常
相楽氏は、がん治療中の腎障害や腎障害患者のがん診療に対する体系的な理解を目的とした分野“Onco-nephrology”の視点に加え、マグネシウム(Mg)代謝と低Mg血症の臨床的意義について講演した。
相楽氏は低Mg血症の主因を、①摂取量の減少(低栄養、アルコール依存など)②消化管からの喪失(嘔吐・下痢、炎症性腸疾患、プロトンポンプ阻害薬[PPI]の長期使用など)③腎からの喪失(利尿薬・抗上皮成長因子受容体[EGFR]抗体などの薬剤性、CKDなど)の3つに整理した。
相楽氏は、このうち③腎からの喪失、の要因に挙げられるCKDと低Mg血症の関係性についてフォーカスした。低Mg血症以外の電解質異常(高リン血症、高カリウム血症、低Ca血症)はCKD進行に伴い増加傾向を示す一方、低Mg血症はCKDの全Stage(G1~5)で同程度の有病率があるとのデータを紹介した。さらに尿中Mg排泄率は蛋白尿と正の相関を示すことから、相楽氏は、糖尿病性腎症やCKD進行例ではMg喪失が生じやすいため、Mgも定期的にモニタリングすべきだと強調した。
Mg代謝の生理学 TRPM6/7チャネルの役割
講演ではMg代謝を理解するうえで重要となるTRPM6/7(Transient Receptor Potential Melastatin type 6/7)チャネルにも言及した。
食事由来Mgの約50%は消化管で吸収されるが、小腸ではタイトジャンクションを介した受動輸送、回腸末端~大腸以降ではMgを取り込む特異的なイオンチャネルであるTRPM6/7による能動輸送が中心となる。このため、小腸切除や人工肛門造設、慢性下痢といった病態は重大なリスク因子となり、積極的なMg測定が推奨されると強調した。
消化管吸収後のMgは骨・筋肉に貯蔵され、一部が糸球体で濾過される。再吸収はヘンレループ上行脚と遠位尿細管でおこなわれ、特にTRPM6は遠位尿細管で重要な役割を果たす。
薬剤性低Mg血症(PPI・抗EGFR抗体薬)のメカニズム
相楽氏は低Mg血症の代表的な原因薬剤であるPPIと抗EGFR抗体薬に着目し、作用機序と注意点を解説した。
● PPI
PPIにより胃内pHが上昇するとMg溶解度が低下し、腸内細菌叢の変化に伴う局所的な腸管内pHの変化が加わってTRPM6のMg輸送活性が低下する。その結果、Mg吸収が抑制される。さらにTRPM6は腎にも存在するため、PPIは腎でのMg再吸収にも影響しうる。相楽氏は「PPIのOTC化により、医療者が把握しない服用が起こりやすく注意が必要」と指摘した。
● 抗EGFR抗体薬
抗EGFR抗体薬は、遠位尿細管におけるTRPM6の膜移行を抑制し、Mg再吸収を低下させる。これにより尿中へのMg喪失が増加し、重度の低Mg血症を来すことがある。大腸がんの薬物療法において、抗EGFR抗体薬はFOLFOX/FOLFIRIなどの5-FU持続投与レジメンと併用されることが多く、外来化学療法での管理が重要となる。
セツキシマブ投与スケジュールと低Mg血症マネジメントの工夫
ここで相楽氏は、抗EGFR抗体薬のなかからセツキシマブの投与方法を取り上げた。セツキシマブは250mg/m2を1週間ごとに投与する従来の方法に加え、500mg/m2を2週ごとでの投与(Q2W)も可能となっている。両者の薬物動態プロファイルおよび低Mg血症発現に関する安全性は同等とされ、Q2Wでは来院頻度の減少により患者負担を軽減できる。その一方で、「経静脈的Mg補充の機会が減るという課題が生じる」と指摘した。
また、各薬剤の「適正使用ガイド」ではGrade2~4でMg補充が推奨されるが、短時間点滴投与ではMgの約50%が数時間以内に尿中排泄されることが知られている。外来化学療法では時間制約があるため、より効率的な補充方法の工夫が求められると述べた。

