
2026年2月2日、要指導医薬品として緊急避妊薬「ノルレボⓇ」の販売が開始された。これに先立ち、緊急避妊薬のOTC化を含めアクセス改善に取り組む「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」(緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)が1月29日にオンライン記者会見を開催した。本稿では、薬剤師が押さえておくべき制度上の変更点と、現場対応をめぐる課題等について記者会見で示された内容を中心に整理する。
緊急避妊薬OTC化の経緯と社会的成果
緊急避妊薬は、2025年8月に開催された第2回薬事審議会要指導・一般用医薬品部会にて、要指導医薬品としての製造販売承認が了承された。これを受け、本剤を販売する薬局・薬剤師には、指定研修の修了、プライバシーへの配慮等の体制整備、近隣の産婦人科医との連携体制構築といった販売にあたっての各種要件が示された。
2025年8月の了承を経て、同年10月には日本初のスイッチOTC医薬品として、緊急避妊薬「ノルレボⓇ」が製造販売承認を取得。2026年2月2日に発売に至った。
「緊急避妊薬を薬局で」プロジェクト共同代表の染矢明日香氏は、「2018年からオンライン署名キャンペーンという形で始めて、実現するまで約8年におよぶ長い道のりだった」と振り返る。オンライン署名は、2026年1月時点で18万筆を超える賛同が集まり、アクセス改善を求める多くの声が可視化され、議論を後押ししたとされる。染矢氏は今回のOTC化について、「予期せぬ妊娠の不安を抱える女性が、自らの人生を主体的に決めるための重要な一歩になる」と強調する。
国際水準と日本の比較
若者の購入には支援を
世界保健機関(WHO)は、緊急避妊薬を「必須医薬品」に位置づけており、さらに「健康と福祉のためのセルフケア介入に関するWHOガイドライン」において、処方箋なしで入手できることを強く推奨している。現在、世界約90カ国で、緊急避妊薬は薬局での入手が可能になっており、薬剤師を介さずに購入できる国も少なくない。販売価格面では、諸外国では数百円〜5,000円程度が一般的で、フランスやドイツのように若年者へ無料で提供する国もある。
一方、日本はこれまで医師の処方箋が必要で、価格は2万円を超えるケースもあったという。今回発売されたノルレボⓇのメーカー希望小売価格は1錠 7,480円(税込)で、同共同代表の福田和子氏は、「以前より改善はみられるが、私たちが過去に実施したアンケート調査では、確実に手が届く価格帯は『1,000〜2,000円台』とする回答が多かった」と言及。特に若者に対しては、「保険適用や公的支援を行うといったアクセス改善のための対応が必要では」と指摘する。
試験販売からの変更点と残る課題
● 年齢制限と親の同伴・同意が不要に
2023年11月から実施された「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業」では、薬局販売に際し、「15歳以下は対象外」「16歳〜17歳は保護者の同伴・同意が必要」という条件が設けられていた。しかし、今回のOTC化にあたって、以下のように見直されている。
使用年齢の制限なし:臨床試験等から安全性が確認されているため、医療用と同様に年齢制限は設けない
親の同意は不要:親の同意に関わりなく、予期せぬ妊娠を希望しない若者を支援すべき観点から、親の同意は不要
染矢氏は、「『緊急避妊が必要になったことを親にはどうしても言えない』という未成年者からの声もあり、アクセスを阻んでいた大きな障壁の一つが取り除かれた」と評価する。
● 「面前服用」は継続
一方で、「対面販売」および「薬剤師の面前での服用(面前服用)」は適正使用確保の観点から引き続き義務付けられている。この点について、染矢氏は、面前での服用はプライバシーの侵害や性暴力被害者の心理的負担になり得ることに懸念を示す。また、福田氏は「面前服用を条件としている国は他にない」と付け加える。
面前服用を含む販売方法については、一定期間後に厚労省で検討し、見直しについて議論を行うとされている。
今後の課題と薬剤師に期待される役割
今回のOTC化はスタートラインであり、同プロジェクトからは次のような課題が示された。
1) 取り扱い薬局の偏在
厚労省は、要指導医薬品である緊急避妊薬の販売が可能な薬局・店舗販売業の店舗一覧を公開している(定期的に更新)。2026年2月時点で47都道府県すべてにおいて、購入できる薬局の登録があるが、都道府県下に数店舗や、一部の市区町村に偏っているなど、十分なアクセス環境とは言い難い状況が続いている。
2) 「ユースフレンドリー」な対応
薬剤師には、専門知識だけでなく当事者の心情に配慮した対応が求められる。
福田氏は、特に若者(ユース)に着目し、若年層が安心して相談できる「ユースフレンドリー」な対応が重要と言及する。そこで、「どのような声かけが傷つけるのか。一方でどのような声かけがよいのか」を当事者目線で考え、薬局等で対応時に活用できるリーフレットを提供している(QRよりリンク)。
3)社会的理解と偏見のない情報の選択
会見では、緊急避妊薬の使用を否定的に捉える言説や、事実に基づかない情報が一部で拡散している現状も課題として共有された。
緊急避妊薬の使用自体を「安易だ」「不適切だ」と否定的に受け止める声が一部にみられ、こうした声により、使用に対して自責の念を抱いてしまうケースもあると福田氏は指摘する。さらに、緊急避妊薬を性犯罪や性暴力が起きた場合の「保険」や「隠ぺい」のように受け止める言説や、避妊を軽視してよいかのような誤解も一部でみられる。こうした偏見や誤解、フェイク情報等への対応も課題とされるなか、薬剤師には、薬剤本来の意義や効果を理解したうえで、服用する方が安心できるよう配慮して対応する重要性が増している。
4)性教育の見直しの検討
緊急避妊薬のOTC化は、学校や地域における性教育のあり方とも無関係ではない。薬剤師は、学校薬剤師として思春期の子どもたちへの保健指導などにも関わるなかで性に関する情報提供を行うこともある。
現行の学習指導要領では、避妊や中絶に関する内容は、中学校段階では学習指導要領の範囲外とされ、指導を避けていることもあるという。ピルや緊急避妊薬といったさまざまな避妊法や、そのアクセス方法、さらには中絶という選択肢の理解まで、「全ての人、少なくとも妊娠可能性のある人は、妊娠前に知らされるべき知識」と染矢氏は指摘する。
ノルレボⓇ発売により、薬局は薬の購入場所にとどまらず、地域の「ハブ」として産婦人科や支援機関と連携する役割を担う場として位置づけられている。薬剤師には、性に関する正確な情報提供と、それを踏まえ利用者が安心して相談できる対応が求められている。





