
監修
医療法人和会 武蔵台病院 理事長
河野 義彦 氏
骨折や寝たきりなどのリスクでもある骨粗しょう症への対応は、高齢化社会での重要な課題となっています。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」が10年ぶりに改訂された一方、骨粗しょう症検診の受診率は低く、骨の健康の重要性はあまり意識されていません。そこで、骨粗しょう症外来がありリエゾンサービスなどを通じて包括的な骨粗しょう症のケアを実施している医療法人和会武蔵台病院理事長の河野義彦氏に、骨粗しょう症の診断や治療の考え方、薬物療法などについて、臨床でのさまざまな取り組みも含めてお話しいただきました。
骨粗しょう症では骨折リスクが増大
脆弱性骨折や骨密度を確認する
骨粗しょう症とは骨折リスクが増大した状態であり、骨折を生じるに至る病的過程です。骨強度は骨密度と骨質によってあらわされますが、骨の脆弱性が増大することによって骨折の危険性が増大します。高齢化が進むなか、骨粗しょう症患者に対峙する機会も増加しています。
原発性骨粗しょう症の場合、椎体骨折または大腿骨近位部骨折などの脆弱性骨折があれば、骨密度によらず骨粗しょう症と診断されます(表1)。骨密度はDXA法で測定した若年成人平均値(Young Adult Mean;YAM)で示されますが、その他の脆弱性骨折がある場合には、骨密度がYAMの80%未満で骨粗しょう症と診断します。脆弱性骨折がなければ、骨密度がYAMの70%(-2.5SD)以下であれば骨粗しょう症と診断します。
骨密度は腰椎または大腿骨近位部で測定しますが、骨の変形が強く、椎体が圧縮されている場合には骨密度が上昇することがあります。無症候性の椎体骨折がある患者も多く、腰椎での評価のみでは患者を見逃してしまうこともあるため、骨密度の検査に加えて脊椎のX線検査も併せて行う事が推奨されています。
閉経や加齢によるものが多い
無症状のため早期発見が肝要
骨粗しょう症の多くは女性の閉経、あるいは加齢による変化を原因とする原発性骨粗しょう症ですが、続発性の骨粗しょう症もあるため、問診も重要視しています。問診においては、大腿骨近位部骨折をきたした父母がいないかの家族歴、乳癌や前立腺癌への罹患、喫煙、アルコール摂取、偏食の有無などの食生活を確認します。
栄養障害やアルコール依存症の男性、胃を全摘した若年者で骨粗しょう症が見られることもありますし、糖尿病患者では骨密度の測定値が高い傾向、ステロイド使用中のリウマチ患者は骨粗鬆症のリスクが極めて高いので慎重に診察をしています。若年時からの喘息でステロイドを使用していた患者での多発骨折なども、臨床で遭遇することがあります。
骨粗しょう症はサイレント・ディジーズとも言われ、無症状で進行し突然の骨折を起こします。大腿骨近位部骨折によるADLの低下、運動機能の低下、社会的活動への参加の阻害、寝たきり、生命予後の急激な悪化が最も大きな問題です。また、治療開始後、一定の効果が得られるまでには時間を要するため、発見が遅れた場合は治療に難渋することもあります。
栄養・運動・薬物療法
検査に加えチェックシートも活用
骨粗しょう症の治療は、栄養、運動、薬物療法が3つの柱となります。外来診療では1年に2回の骨密度検査を実施しており、その際にはカルシウムチェックシートと運動チェックシートによる評価も行い、スコアが低い患者には適切な指導を行います。
栄養療法
栄養面では、1日あたり約800mgのカルシウム摂取が必要とされています(表2)。カルシウム不足の患者にはカルシウム100mgが摂取できる食品チャートを配布し、摂取すべき品目を指導します。患者の状態により個別の質問や要望があれば、栄養科に相談して具体的なレシピを提案してもらうなど、多職種連携による取り組みも行っています。
運動療法
運動指導として当院の動画をYouTubeにアップロードしています。チャンネル名は「武蔵台健幸塾」※です。骨粗しょう症患者向けの簡単な運動動画も脊椎の圧迫骨折をきたした場合、筋肉量の多い男性であれば比較的活動できますが、筋肉量の少ない女性には猫背で背筋が少ない状態の方が多いため、背筋運動を行って背筋をしっかりと鍛えることが重要となります。
※武蔵台健幸塾;https://www.youtube.com/channel/UCUV1zo7pp16yWLem9L3PJWQ
薬物療法
骨粗しょう症の治療薬の作用と薬剤を表3に示します。
骨吸収を抑制するか骨形成を促進するかの判断では、骨吸収の度合いの評価が非常に重要です。骨リモデリングにおいて、カルシウムの吸収にはビタミンDが必要であり、ビタミンD不足では副甲状腺ホルモン(Para Thyroid Hormone;PTH)が上昇し二次性副甲状腺機能亢進となり骨吸収亢進をきたし、骨密度低下につながることがあります。PTHの上昇により骨吸収が亢進し、骨密度が低下します。ビタミンDの評価には「25OHD」を検査します。また、骨代謝マーカーである「TRACP-5b」が上昇していれば、骨吸収が亢進していることがわかります。
骨折リスクから治療を検討
長期治療が必要なケースも
骨粗しょう症治療における基本的なゴールは骨密度の上昇で、YAMで70%(Tスコア:-2.5SD)を超えることを目標とします。ただし、大腿骨近位部骨折による入院例など重症例では、現在の薬物療法で目標に到達することは容易ではありません。骨密度は加齢に伴って減少するため、長期の治療継続が必要となることもあります。
薬物療法を行って骨密度が3年ほど維持できれば治療を中断することもありますが、骨密度の検査は継続し、骨密度が低下した場合には治療を再開しています。骨密度がそれほど低くない患者では経口薬を用いることもありますが、骨密度がYAMで50%台であるなど非常に低い場合には、低下した骨形成を底上げするような治療が必要です。
直近2年以内に骨折をきたすなど差し迫った骨折リスクのある患者では、椎体、骨盤、大腿骨近位部骨折では骨形成促進薬が第一選択、ビスホスホネート薬またはデノスマブが第二選択となります。差し迫った骨折がない場合は、骨密度も考慮し治療を選択します。
骨形成促進薬としてはロモソズマブ、PTH受容体作動薬のテリパラチド、アバロパラチドから、投与方法や医療費なども考慮し、患者と相談して決定しています。ロモソズマブやテリパラチドによる治療を中止すると骨密度が低下するため、投与期間後の逐次療法が非常に重要です。
逐次療法では、ロモソズマブ➡デノスマブ➡ビスホスホネート薬で治療を継続することもあります。また、ロモソズマブは再投与も可能ですが、ロモソズマブ➡デノスマブ➡ロモソズマブの投与順序ではあまり治療効果が上がらない印象です。また、ビスホスホネート薬投与後にロモソズマブやテリパラチドの順番では効果が減弱します。逐次療法では、効果が得られやすい投与順序を知っておくことも重要と考えます。
● ロモソズマブ(表4)
ロモソズマブは、骨折の危険性が高い患者に対し、月1回、12カ月間、皮下投与します。投与中は適切なカルシウムおよびビタミンDの補給が必要です。治療終了後または中止後には骨吸収抑制薬などによる逐次療法が必要です。必要に応じて再投与も可能です。過去1年以内の虚血性心疾患または脳血管障害の既往歴のある患者では投与を避けることとされています。
● デノスマブ(表4)
デノスマブ投与時には低カルシウム血症に注意が必要です。また、デノスマブを中止した後に、急激なオーバーシュート(骨密度の低下)が生じます。そのために多発的な椎体骨折を起こしたケースもあります。そのため、患者には骨が弱くなってしまうため治療を急に中止してはならないことを事前に説明し、治療を中止してしまいそうな患者さんに対しては特に入念に、来院を促すための電話連絡などもしています。さらにデノスマブ終了後は、骨密度維持のためにビスホスホネート薬の逐次療法を実施する事も重要です。
● PTH受容体作動薬(表5)
PTH受容体作動薬には、テリパラチド(遺伝子組み換え)、テリパラチド酢酸塩、アバロパラチドがあります。テリパラチド(遺伝子組み換え)、テリパラチド酢酸塩の投与期間は24カ月までで、逐次療法も考慮します。アバロパラチドの投与期間は18カ月までです。デノスマブ同様に、投与終了後は、骨密度維持のためにビスホスホネート薬の逐次療法を実施する事が必要と考えられます。
● ビスホスホネート薬
ビスホスホネート薬には、第一世代のエチドロネート、第二世代のアレンドロネート、イバンドロネート、第三世代のリセドロネート、ミノドロン酸、ゾレドロン酸があります。アレンドロネートには錠剤のほか注射剤、ゼリー剤があり、イバンドロネートは錠剤のほかプレフィルドシリンジがあります。ゾレドロン酸は点滴製剤です。ビスホスホネート薬では、胃腸障害、顎骨壊死、非定型大腿骨骨折などに注意が必要です。
「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」では、原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことが提案されていますが、休薬すべきだとの歯科医の意見や、患者からの休薬の希望など、臨床では見解の相違があります。顎骨壊死を減らすためには、口腔内の清潔度を上げることや定期的に検診を受けることなどが大切です。
なお、ビスホスホネート薬では投与開始後に筋・関節痛、発熱などの急性期反応やインフルエンザ様症状があらわられることがあります。
骨密度によっては経口薬からの治療開始も
骨密度がそれほど低くない患者では、経口薬から治療を開始することもあります。
● カルシウム薬
カルシウム薬にはL-アスパラギン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムがあり、患者の好みにより錠剤か散剤かが選択されます。投与量は食事からのカルシウム摂取量との総和で決定され、便秘の発生は投与量減量の目安となります。活性型ビタミンD3薬との併用時には高カルシウム血症に注意が必要です。なお、あまり浸透していないのですが、カルシウム薬の単独投与では、骨折抑制効果は限られます。カルシウム薬は他剤との併用で役割を発揮する薬剤です。
● ビタミンDの補充
25OHDが低値であれば、ビタミンDの補充を考慮します。活性型ビタミンD3薬にはアルファカルシドール、カルシトリオール、エルデカルシトールがあります。
骨吸収抑制薬のビスホスホネート薬やデノスマブ投与時にはエルデカルシトールを選択し、テリパラチドなどの副甲状腺ホルモン受容体作動薬投与時にはアルファカルシドールを選択するか、天然型ビタミンDの摂取を推奨しています。
活性型ビタミンD3薬では高カルシウム血症に注意が必要です。特に高齢者は腎機能低下例が多く、長期間の使用により高カルシウム血症をきたすことがあります。活性型ビタミンD3内服患者や腎機能障害の患者には、カルシウム含有量が多いサプリメントの摂取は控えるよう指導し、摂取を希望するサプリメントがあれば、医師の診察時に内容を確認するようにしています。
● 選択的エストロゲン受容体修飾薬
閉経後の患者では、選択的エストロゲン受容体修飾薬(Selective Estrogen Receptor Modulater;SERM)であるラロキシフェン、バゼドキシフェンから治療を開始することもあります。深部静脈血栓症や視力障害の発生に注意が必要ですが、寝たきりではなく日常生活を送ることのできる患者では、重篤な血栓の発生頻度は少ないと考えられています。私の実臨床の印象では、SERMで治療を開始した場合に逐次療法でテリパラチドやデノスマブを選択しても治療効果は減弱しないように思われます。ただし、乳癌患者では治療内容を確認するようにする事が重要です。
併存疾患の影響も考慮 薬剤師の貢献も大きい
透析患者ではカルシウム値が変動しやすいため、治療の判断が非常に難しく、透析後の採血の結果を確認したうえで担当医と相談して治療を検討しています。また、関節リウマチ自体が骨粗しょう症を助長する疾患ですので、原因疾患のコントロールが骨粗しょう症予防にもつながります。また、ステロイドが骨形成低下を助長することから、関節リウマチ患者でのステロイドの使用は控えめにしています。
薬剤師からは、複数の医療機関からのビタミンDの重複処方、乳癌や前立腺癌などの治療薬と骨粗しょう症治療薬の併用に問題がある場合などにご指摘をいただくことがあり、多くの場面で助けられています。
また、糖尿病治療薬のチアゾリジン薬は骨折リスクを上昇しますし、インスリン製剤やスルホニル尿素薬では低血糖リスクが高まり転倒リスクが上がります。薬剤師の視点で患者にこうしたリスクの注意喚起をしていただけると助かります。
高齢患者でのアドヒアランスに課題
骨の薬はおざなりになりがち
当院では骨密度を半年に1回の頻度で確認していますが、その際に骨密度値の上昇が見られないときには、適切な服薬ができていない可能性が考えられます。特に認知症の高齢患者では、骨粗しょう症の治療薬を服用したかどうかも忘れてしまうことが多々あります。複雑な服用方法はアドヒアランスを阻害しますし、どのような治療ができるかは家族の協力にも左右されます。
一方、両親の骨折を身近で経験していたような患者、特に比較的若年層ですと、将来の骨折リスクを防ぐための治療意欲が高い方が少なくありません。服薬に対する意識が高い患者さんは、服薬タイミングをカレンダーに記載するなど工夫をしていますが、降圧薬や血糖降下薬に比べ、骨粗しょう症の服薬はおざなりになってしまうこともあります。また、ビスホスホネート薬は服用後の制限も多く、長期処方で残薬が生じることもあります。その場合には注射薬に変更することもありますが、治療の長期化は望ましくないですし、注射を忘れてしまうと問題が生じます。
骨粗しょう症リエゾンサービスや
LINEの活用で治療継続率が向上
当院では、スタッフが骨粗しょう症リエゾンサービスのマネージャー資格を取得し、チームで患者を支える体制を構築しています。受診予約があっても来院がなかった患者への電話連絡も行い、治療継続率はおよそ97%となっています。治療が継続できなかった理由は、高齢者施設への入所、入院、転居、未受診、死亡などでした。
2022年4月の診療報酬改定では、大腿骨近位部骨折患者に対する「二次性骨折予防継続管理料」が新設され、急性期治療や入院中のリハビリテーション、外来で管理料の算定が可能になりました(表6)。
さらに「健幸骨コツ隊LINE」を活用した取り組みも実施しており、月に2~3回「骨コツコラム」を配信しています。提案されたレシピで料理を作ってみたなど、患者からの返信が届くこともあり、治療における一体感を醸成したことでLINE登録者の治療継続率が80%から90%に上昇しています。
そのほか、骨の健康を意識していただくため、地域の和菓子店と栄養機能食品「骨こつ娘(饅頭)」を共同開発するなど独自の取り組みもしています。食品の院内販売はできませんが、10月20日の世界骨粗しょう症デーの際などに、当院の近隣にて購入の機会があります。
検診や日常生活の向上
健康は自分が守るという意識に
骨粗しょう症治療においては、骨粗しょう症がどのような転帰をたどるかなどについて啓発活動を行い、骨粗しょう症検診の受診率を全国平均5.5%の現状から改善することも今後の課題といえます。また、日本人の約98%がビタミンD不足の状態にあるともいわれ、美白を好み日光にあたらない、テレビゲームに夢中で屋外に出ないといった生活習慣も、ビタミンD不足に影響していると考えられます。人間の寿命が大きく延びた時代においては、なにかあったときに病院で対処してもらえばいいというこれまでの考えを、予防も含めて自分の健康は自分で守るという意識に変えていくことも必要だと考えています。
【参考文献等】
・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版.ライフサイエンス出版.2025年
・武蔵台健幸塾(YouTubeチャンネル)
・日本骨粗しょう症学会ホームページ http://www.josteo.com/
河野 義彦 氏
医療法人和会武蔵台病院理事長(2018年~)。日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、日本救急医学会専門医。高齢者の骨折外傷から関節外科、骨粗鬆症まで、地域の高齢者医療に従事。チーム医療として骨粗鬆症リエゾンサービスを展開し、病院・施設にリエゾンマネージャーを配置してOLS活動を推進している。





