心房細動(atrial fibrillation;AF)は脳梗塞の主要因であり、日本でも高齢化に伴い患者数の増加が続く。無症候例が4割に達するとの報告もあり、健康診断や短時間の心電図では捉えきれない発作性AFのスクリーニングは医療現場の課題となっている。こうしたなか、オムロンヘルスケア株式会社は記者発表会で、家庭・医療機関の双方を結ぶ心電事業の新たな戦略を示した。


日本:長時間ホルター心電図サービス
「Heartnote®」で発作性AFを捉える

 オムロン社は2005年から家庭用心電計を展開。不整脈の自覚症状がある患者が発作時にすぐ測れる環境を整えてきた。2019年には心電計付き血圧計を発売し日常的な血圧測定と同時に、早期のAFスクリーニングの環境作りに貢献してきた。

 今回新たに明確にされたのが、家庭でのスクリーニング➡医療機関での検査➡治療➡家庭での経過観察という循環型モデルの構築である。この中心に位置づけられるのが、JSR株式会社と連携し展開する7日間ホルター心電図解析サービス「Heartnote®」である。

 JSR社の小林氏は、心房細動による脳梗塞がQOLを急激に下げ、医療費・介護費を押し上げる大きな要因であると指摘。加えて、検診での30秒心電図では無症候性AFを捉えきれず、24〜48時間ホルターでも発作を逃す例が少なくないと説明した。

 JSR社の小林氏が紹介したHeartnote®のデバイスは、薄型・軽量・防水設計で7日間の連続装着を可能とした点が特徴である。7日間記録するとAFの検出率は従来のホルター(24時間)に比べ約3倍に上昇するとのデータも示され、実際に「3日目の1時間だけAFが出現した」など短時間検査では発見が難しいAFを捉える可能性が高いという。医療機関側には初期費用不要のレンタル方式、レポートは解析済みで返却され、患者は取り外したデバイスを郵送するだけという運用の簡便さも利点だ。全国の医療機関で採用が進み、累計15万件以上の検査が行われている。

 薬局薬剤師にとって、長時間ホルターでAFが拾われやすくなることが、抗凝固療法の適正化、血圧管理の重要性の説明、リスクの高い高齢・高血圧患者への助言など、日常業務と直結する可能性がある。医療機関での短時間検査では検知できなかった心房細動や血圧の変動は、家庭で継続的にフォローする際に調剤薬局も関わり得る。薬局での血圧測定、血圧計の販売と測定指導、継続的な家庭血圧のモニタリング支援といった、家庭データの入口としての役割が期待される。

インド:TRICOGがAI遠隔心電解析で
スクリーニング格差を解消

 一方で、医療アクセスのばらつきが大きいインドでは、循環器専門医の数が日本・米国の1/25しかなく、心電図検査を受けられない地域が広く残る。TRICOG社CEOのCharit氏は、インドの心疾患死亡者が急増し、2050年にはアジアだけで7億人以上が循環器疾患を抱えると予測される心疾患パンデミックの状況を示した。

 TRICOG社は、医療機関で取得した心電図をクラウドに送信し、AIが即時解析➡専門医が確認➡平均6分で診断返却という遠隔心電解析モデルを構築。すでに12,500の医療機関で導入され、3,100万例以上のスクリーニングが行われている。重大所見があれば上位の医療機関へ搬送し、治療介入につなげる。

 さらに、オムロンと協業する心不全患者向け遠隔モニタリングサービス「Keebo Health」では、家庭用心電計・血圧計・ウェアラブルデバイスのデータをAIが統合し、心不全治療の最適化を支援する仕組みを実装。米国やインドで実施した臨床研究では、6カ月以内の再入院率を50%➡8%へ大幅に減らす成果を示している。家庭で取得したデータを基に、症状悪化前に介入できる点は、日本のHeartnote®の取り組みとも親和性が高い。

 今年3月には日本高血圧学会が「デジタル技術を活用した血圧管理に関する指針」を発表し、家庭血圧・ウェアラブル血圧計・クラウド記録を活用した継続管理の重要性を明確にしている。デジタルデバイスを用いた血圧・心電の管理は、循環器領域全体の大きな潮流となっており、医療機関と家庭をつなぐ実践モデルとして薬局の関与領域も広がりつつある。

薬剤師は家庭モニタリング時代の心疾患を支援

 今回の発表は、心疾患管理が医療機関中心から家庭・医療機関をつなぐ継続的なモニタリングへ移行しつつある現状を示すものだ。薬局は患者の生活導線に一番近い医療拠点であり、血圧計や心電計の活用、AFリスクの啓発、服薬アドヒアランス支援など、多職種連携のハブとして重要性が高まる。

 日本とインドという異なる医療環境での取り組みだが、共通するキーワードは「早期発見」、「家庭でのモニタリング」、「データを介した医療連携」である。薬剤師がこうした動向を把握しておくことは、地域の心血管疾患予防に寄与するうえでも欠かせない視点となる。