春は異動や転勤、新入社員の配属など職場でも何かと出会いが多くなる季節ですね。この時期、私が苦労するのが名前を覚えることです。顔を見て、「確かご挨拶したはず…」と記憶を掘り返してもどうしても名前が出てこない。自分の記憶力の悪さに情けなくなることもしばしばです。今回は、記憶について調べてみました。
一説によると、ヒトの脳の記憶容量は17.5TB(テラバイト、1TB=1000ギガバイト)と言われています(脳を構成する神経細胞同士をつなぐシナプスの数と処理能力から計算)。しかし、このような大容量をもってしても、私たちが受け取る情報はさらに膨大なため、その全てを記憶することは難しいのです。
そのため、無意識に脳がその情報をどれくらい覚えておくべきか、という選別を行っている、という考えがあります。記憶は、大きく分けて、①短期記憶(日常生活の中でほんの少しの期間だけ覚えてすぐに忘れてしまう)、②言葉で表現できる長期記憶(経験や知識のエピソード記憶、百科事典的な知識など)、③言葉で表現できない長期記憶(自転車の乗り方などの技能、第六感など)の3種類があるといわれます。②の長期記憶のうち、エピソード記憶は色々な情報を複合的に繋げて覚えるため、長期的に記憶に留まる傾向にあります。一方で、名前や英単語、数学の公式といった情報は、覚えにくく忘れやすいそうです。
名前などが覚えにくく忘れやすいのは、それ自体が感情を動かさない記号だからともいえます。そこで、初対面の人の名前を覚えるときは、その人の第一印象を名刺やメモに書き残すことで、名前と、その人の外見や声などの特徴や、それに対する自分の印象を結び付け、忘れにくくすることができると考えられます。ほかにも、初対面の人と自分の知人の共通点を探すことで、本来は無関係の人同士を脳で関連づけるという方法も効果的だそうです。
一方で、ヒトの記憶はあてにならないという研究もあります。作り話なのに、それを3週間で3回イメージトレーニングすると、それが本物の記憶と勘違いする人が被験者の25%にも及んだという研究です。また、自分の顔や良く知っている人の顔は、実際よりも魅力的に記憶しているそうです。写真映りが悪い、と自分で言う人が居たら、今度こっそり、「それが客観的に見た本当のあなたです」と教えてあげてください。
参考資料
澤田誠 『脳科学者が教える 本当に正しい記憶力の鍛え方 なぜ名前だけがでてこないのか』 誠文堂新光社 2013年
後藤和宏 監修 『図解入門 よくわかる 最新「脳」の基本としくみ』 秀和システム 2009年
加藤俊徳 『脳の強化書』 あさ出版 2010年
ジュリア・ショウ 『脳はなぜ都合よく記憶するのか』 講談社 2016年