
猛暑の深刻化により、熱中症は重要な健康課題となっている。熱中症による救急搬送者数は2025年に10万人を超え、近年は梅雨明け直後の7月から発症リスクが高まっている。死亡者数も8月を上回り7月にピークを迎える年がみられるなど、熱中症リスクの前倒しが進んでいる。本稿では「熱中症診療ガイドライン2024」を踏まえ、熱中症の重症度評価、ハイリスク患者のスクリーニング、および地域薬局に求められる役割について概説する。
熱中症診療ガイドライン2024
押さえておきたい改訂ポイント
日本救急医学会が9年ぶりに改訂した「熱中症診療ガイドライン2024」では、重症熱中症患者をいかに早期に認識し、迅速に冷却治療へつなげるかという視点がより明確に示された。おもな改訂のポイントを次のとおり示す。
1)「Ⅳ度」の新設による熱中症重症度分類の4段階化
従来のⅢ度熱中症のうち、深部体温(直腸温や膀胱温など)40.0℃以上と重度の意識障害(GCS※1≦8)を伴う最重症群が新たに「Ⅳ度」として独立した。これらの患者に対しては特にActive Coolingを含む集学的治療を速やかに開始することが推奨されている。
2)「qⅣ度(quickⅣ度)」による早期介入の指標
臨床現場や救急搬送時では、深部体温を測定できない場合も少なくない。そこで、外表からの評価によって最重症例を迅速に見極めるためのスクリーニング基準として、「qⅣ度」が設けられた。表面体温が40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS※2≧100)の場合にqⅣ度と判断する。qⅣ度が疑われる患者では、Active Coolingを含む集学的治療が可能な高次救急医療機関への速やかな搬送が推奨される。
3)「Active Cooling」と「Passive Cooling」の整理
Active Coolingとは、熱中症患者の身体を冷却する治療法の総称であり、冷水浸水、蒸散冷却、血管内体温管理療法などが挙げられる。2024年版ガイドラインでは、個々の冷却法に優先順位は設けられておらず、患者背景や施設環境に応じて最適な方法を選択することが推奨されている。例えば、冷水浸水は若年者の労作性熱中症では迅速な体温低下が期待できる一方、高齢者では身体的負担や安全性への配慮が必要になる。
一方、冷蔵保存した輸液製剤の投与や、空調の効いた室内・日陰での安静などは「PassiveCooling」に分類される。ActiveCoolingとPassiveCoolingの定義および位置づけが整理されたことで、重症度や病態に応じた冷却法の使い分けがより明確になった(表1)。
調剤薬局でも重症化のサインを見逃さず適切な受診勧奨につなげることが重要になる。特に意識障害や高体温を認める患者では、2024年版ガイドラインで示されたⅣ度・qⅣ度の概念を理解し、重症熱中症を疑う視点を持った対応が求められるだろう。
※1)GCS(GlasgowComaScale):開眼・言語・運動反応の3項目から意識レベルを評価(3~15点)。点数が低いほど意識障害が重い。
※2)JCS(JapanComaScale):刺激に対する覚醒反応を基準に意識レベルを評価(0~300)。数値が大きいほど意識障害が重い。
労作性熱中症と非労作性熱中症の特徴
高リスク群を把握して対策を考える
熱中症を発症状況によって整理すると、安静下で発症する「非労作性熱中症」と運動などの労作で発症する「労作性熱中症」に大別できる(表2)。特に非労作性熱中症では、数日以上かけて徐々に症状が進行するため、発見が遅れやすい点に注意する。
さらに、熱中症の発症には患者因子も重要になる。2024年版ガイドラインでは補助的な位置づけではあるものの、発症リスクを評価する因子として以下の13項目が示されている。これらのリスク因子を把握し、熱中症要配慮者を早期に見出して適切な予防策につなげる視点も重要になる。
1.高齢者 2.施設入所、要介護、独居 3.小児 4.スポーツ選手 5.労働者(農林、土木、製造業などの肉体労働) 6.エアコンの未使用者および非設置者 7.心疾患 8.悪性腫瘍 9.精神疾患 10.糖尿病 11.降圧薬 12.利尿薬 13.向精神薬
暑熱環境下などで注意する薬剤
米国疾病予防管理センター(CDC)は2025年に公表した「Heat and Medications –Guidance for Clinicians(暑熱環境下における薬剤管理ガイダンス)」において、暑熱環境下における薬剤性の熱関連疾患や脱水に伴う有害事象などを防ぐため、患者ごとのリスク評価を行い、必要に応じて用量や投与頻度の調整を含めた服薬管理計画を検討することを推奨している。利尿薬、抗コリン作用を有する薬剤、一部の向精神薬などが暑熱環境下で注意を要する薬剤として挙げられており、これらの薬剤は脱水や発汗抑制、体温調節障害などを介して熱中症の発症や重症化に関与する可能性がある。
熱中症では大量発汗や摂水不足により脱水が進行しやすく、服用薬剤の影響が顕在化することがある。特に利尿薬、ACE阻害薬、ARB、NSAIDsは、脱水時に急性腎障害(AKI)のリスクを高める薬剤として知られている。
また、糖尿病や慢性腎臓病の領域では、シックデイ時の休薬候補を示す「SADMANS」の考え方が知られている。熱中症による脱水を「シックデイ」として捉えた場合、これらの薬剤を漫然と継続することは重篤な腎機能障害など致死的な二次合併症に直結しかねない。
表3では、CDCガイダンスで示された薬剤を中心に、熱中症との関連に加え、SADMANSへの該当性および脱水・循環血液量減少時にAKIを増悪する可能性という観点から整理した。
地域住民の熱中症対策に
薬局ができることを考える
熱中症対策において薬局が担う役割は幅広く、以下のような取組みも行われている。
● クーリングシェルターとして機能
近年では、自治体と連携したクーリングシェルター(指定暑熱避難施設)としての機能を担う薬局も増えており、一時的に暑さを避けられる場所として地域に貢献している。熱中症予防に関する情報提供や、ウォーターサーバーでの冷水の提供、塩分タブレット・塩飴などの配布のほか、おくすり相談等を実施している施設もある。
● 暑熱順化を含めた早めの熱中症対策の啓蒙
2024年版ガイドラインでは、「暑熱順化」が熱中症の発症および重症化リスクを低減する可能性が示唆されている。具体的な取組みに関する有効性および安全性を示すエビデンスは不足とされているものの、暑熱順化により発汗量や皮膚血流量が増加し、熱放散がしやすくなるといわれている。
暑熱順化には1~2週間程度の時間を要する。一方、暑熱への曝露が中断すると4日後からその効果が失われ始め、何もしなければ3~4週間後には元の状態に戻るとされる。そのため、一時的に暑さから遠ざかる期間を過ごした際は、追加の暑熱順化の実施が必要となる場合もある。
近年は梅雨明け直後から熱中症リスクが高まる傾向にあり、暑さが本格化してからの対策では遅い場合もある。暑熱順化を意識し、「少し汗ばむ程度の運動を始める」「湯船で入浴する」など、早めの声掛けや情報提供が重要である。
● 経口補水液の適切な提案と水分補給状況の確認
経口補水液(ORS)の適切な提案や、水分・塩分補給に関する指導を通じても、熱中症予防を支援できる。特に高齢者や慢性疾患患者では脱水リスクが高いため、服薬指導時に熱中症対策についてあわせて確認することが重要である。
一方で、水分補給に関する指導は一律ではなく、患者背景に応じた配慮が求められる。例えば糖尿病患者では、スポーツドリンクなど糖分を含む飲料の過剰摂取が血糖コントロールに影響を及ぼす可能性があるため、病態や管理状況を踏まえた飲料選択が必要になる。そのため、かかりつけ医の指示や治療方針を踏まえて個別に判断することが望ましい。
熱中症予防の段階では、水や麦茶、スポーツドリンクなどを用いたこまめな水分・塩分補給が基本となる。一方、すでに脱水を伴う熱中症を発症している場合には、水のみの補給では血清Na濃度の低下を招く可能性があり、尿量増加によって十分な体液補充につながらない可能性がある。そのため、水分・電解質の吸収効率に優れるORSが推奨される。薬局においては、特に高齢者など熱中症リスクの高い患者を中心に、ORSの適応や使用方法を説明するとともに、備蓄しておく重要性を啓発することも大事になる。
● 熱中症回復後の指導の実施
熱中症回復後の患者に対しては、ふらつきや食欲低下、吐き気などの症状が残存していないことを確認し、体調に応じて日常生活へ復帰するよう説明する。
労作性熱中症の場合は、運動や屋外作業への早期復帰は熱中症の再発や重症化につながる可能性があるため、十分な休養をとり、必要に応じて医師の指示に従い段階的に再開するよう助言することが望ましい。
薬局は、熱中症の予防、早期発見、発症後の再発防止まで一貫して関与できる重要な担い手であり、地域住民の身近な健康相談窓口として積極的な取組みが期待されている。


