2026年8月(7月末に一部先行販売)、エスエス製薬株式会社は、ED治療薬である「シアリス🄬」をスイッチOTC医薬品(要指導医薬品)として発売する。発売に先立ち、2026年6月10日に「エスエス製薬 新製品ED治療薬『シアリス』発表会」が開催された。本稿では、EDの基本的な知識とともに、その背景にある社会的な課題を含めて薬剤師の役割を考える。


第1章 EDを取り巻く現状と社会的背景
受診率の低さと偽造薬問題の深刻さ

EDの定義と現状
20歳代と50歳代が同等の有病率

 昭和医科大学 客員教授・横浜新緑総合病院 泌尿器科 部長 の佐々木 春明氏は、ED(Erectile Dysfunction;勃起不全/勃起障害)の病態および社会的背景について解説した。

 EDとは、「満足な性行為を行うに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」と定義される。日本性機能学会が2024年に発表した調査によると、国内におけるED患者数は約1,400万人にのぼると推計される(日本版EHS[Erection Hardness Score;勃起の硬さスケール]グレード2以下)(表1)

 同調査において注目されるのは、20歳代前半の有病率(26.6%)が50歳代前半の有病率(27.8%)とほぼ同等の結果を示した点だ。佐々木氏は、「EDは加齢による機能低下と思われがちだが、高齢者層のみが抱える悩みではない。40歳代から有病率は上昇するものの、近年は20歳代などの若年層においても珍しくない」と強調した。

勃起のメカニズムと
EDが全身疾患のサインとなる理由

 勃起は、陰茎にある陰茎海綿体に大量の血液が流入し、海綿体が血液で満たされるとともに、その状態が維持されることで成立する生理現象である。そのため、血管内皮機能の低下や動脈硬化などによって十分な血流が確保できなくなると勃起機能は低下しやすくなる。

 佐々木氏は「EDは健康な血管と血流のバロメーターである」とし、生活習慣病に伴う動脈硬化や血管内皮機能障害の初期サインとしてEDが現れる機序を説明した。

 陰茎動脈は内径約1〜2mmと、冠動脈や頸動脈といった全身の動脈と比較しても細く、動脈硬化の影響を早期に受けやすい。複数の研究でも、EDが心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントに先行して出現することが示されている。

 糖尿病、高血圧、脂質異常、肥満、運動不足、喫煙などは、EDの重要なリスク因子になる。佐々木氏は「EDへの介入は性機能の改善だけでなく、将来的な心血管疾患のリスクを評価し、生活習慣病の是正や適切な治療につなげる契機にもなり得る」と訴えた。

インターネット購入の危険性
安全な製品の入手方法の啓発

 EDは、「恥ずかしい」「人に知られたくない」「通院が面倒」といった心理的なハードルや、「ネット購入の方が手軽で安価」といった理由から受診を避け、インターネット経由で治療薬を入手する人も多い。

 佐々木氏は、このようなインターネットで流通するED治療薬について、「約7割以上が偽造品であるとの報告もある」と警鐘を鳴らす。偽造品による事例では、血糖降下薬が混入していたことによる健康被害や、海外では死亡例も報告されている。さらに「ネット購入者の多くは、偽造品が多く流通していることを認識しながらも、『自分が購入した薬は本物だから問題ない』と根拠なく思い込んでいる点も大きなリスク」と指摘した。

 偽造品による重大な健康被害を防ぐためにも、医療機関や薬局など専門職が介在するルートを通じて、安全性が確認された正規の治療薬へアクセスする重要性を継続的に啓発していく必要がある。

ED治療薬の正しい理解と相談できる環境

 ED治療薬の普及においては、いまだにED治療薬を「性欲を増強させるような薬剤」といった誤解を抱いている人は少なくない。佐々木氏は、「ED治療薬は性的刺激がある時にのみ勃起を補助する薬剤であり、服用によって強制的な勃起が続くものではない」と解説し、薬剤の正しい特性を広く周知することの重要性を強調した。

 最後に佐々木氏は、EDは恥ずべきことではなく、「生活習慣病との関連も踏まえた健康課題として捉えるべき」と改めて訴えた。ED治療薬の正しい理解を広めるとともに、一人で悩みを抱え込まず、医師や薬剤師などの医療関係者へ気軽に相談できる環境を整備していくことが重要であると締めくくった

第2章 大規模調査から読み解く日本人のEDの実態と心理

エスエス製薬株式会社は、2025年年末から2026年年初にかけて、「EDとSexual Well-beingに関する調査」を実施した(対象:日本の20~69歳の男女5,000名[男性:4,000名、女性:1,000名]/アメリカ・イタリア・スウェーデン・韓国・タイの20~69歳の男女 計5,000名[各国男性:800名、女性:200名])。当調査から日本のEDの実態と心理を考察する。


日本人男性のEDの傾向
中高年・若年層の有病率はほぼ同等

 同社が実施した調査では、EHSのグレードのみでは確定診断には至らないものの、グレード0〜2に加え、EDが疑われるグレード3を含めると、「日本人の約2人に1人はEDの可能性がある」と同社ブランドマーケティング・新商品開発統括部長の阿部 麻樹子氏は指摘する。

 さらに年代別の有病率に着目すると、阿部氏は「『EDである/その可能性がある』との回答は20歳代で53%、50歳代で57%と、大きな差が見られない結果だった」と言及した(図1)

 これに関連し、EDのイメージを尋ねた設問では、「中高年男性の悩み」、「男性としての自尊心が損なわれるもの」、「プレッシャーを感じる」、「知られたくない」といった回答が上位に挙がった。しかし、先述のとおりEDは「中高年特有の問題」という印象とは異なり、若年層も中高年とほぼ同程度にみられることが明らかになった。また、単なる身体的な健康課題にとどまらず、自尊心に直結するデリケートなテーマとして捉えられていることが示された。

EDの認知度と医学的な理解との差
自覚にも差がみられる

 EDの認知度に関する設問では、男性の66.9%(2,673名)が「正しく/大まかに理解していると思う」と回答した。阿部氏は「疾患自体はある程度認知されている」とみるが、女性の回答率は5割程度にとどまった(図2)

 ただし、この認知は主観的なものであり、医学的な定義とは異なる。「正しく/大まかに理解している」の回答者(2,673名)のうち、医療上の定義の説明を読み、EDに対するこれまでの自身の認識と一致していたと回答したのは、男女ともに6割程度だった。本人は理解しているつもりでも、一部に誤認が生じている実態が読み取れる。

 EDの正しい理解の不足は、症状の自覚にも影響していると考えられる。先述の「正しく/大まかに理解している」の回答者のうち、EDが疑われるグレード3に該当した方(1,165名)の47.7%が「EDだと思ったことがない」と回答。グレード0に該当した方(90名)でも18.9%が自身を「EDと思ったことはない」と回答した。

 これらに対し、阿部氏は「疾患の正しい理解の不足と、男性として『認めたくない』という心理が、治療に向かう大きな障壁になっている可能性がある」と考察した。

相談意向と行動間の差の背景にある
諦観や心理的ハードル

 EDと自覚している層(896名)を対象に、医師やパートナーなど他者への相談状況を尋ねた設問では、「相談したことがある」が23.9%だったのに対し、「相談はしていないが相談したいと思ったことがある」が29.3%、「絶対に相談したくない」が11.2%、「相談したいと思ったことはない」が35.7%だった(図3)。EDは自覚があっても他者への相談には至らないことが多い実態が示された。

 他者への相談に対する懸念を尋ねた設問では、「恥ずかしい」「不安を感じる」「笑われそう」といった心理的ハードルが多く挙がった。また、「パートナーを心配させたくない」という回答も一定数みられ、阿部氏は「日本人特有の他者への配慮といった心理が働いているのではないか」とみる。

 また、相談による解決への期待についても、各国との比較で違いがみられた。ED自覚者を対象とした調査では、「EDについて他者に相談すれば解決するという期待がある」と回答した割合は、日本では17.9%(対象896名)であったのに対し、タイでは51.5%(対象344名)、韓国では48.6%(対象216名)、アメリカでは44.6%(対象370名)、スウェーデンでは32.7%(対象156名)、イタリアでは28.8%(対象229名)と、調査対象国の中で最も低かった。

 こうした心理的ハードルと、相談による解決への期待の低さ(諦観)が、受診や相談をためらう背景にあることが示唆された。

「茶化し」の対象となった経験と
相談・受診を阻む2つの壁

 前述のED自覚者896名の調査では、EDを他者から茶化された経験についても確認している。それによると、20歳代(113名)で35.4%、30歳代(192名)で25.0%、40歳代(208名)で16.8%、50歳代(234名)で6.0%と、若年層ほど高い傾向がみられた。「こうした周囲からの茶化しを受けた経験が、より他者への相談や受診を躊躇させる要因になっている」と阿部氏は指摘する。

 同氏は、これらの一連の調査結果を踏まえ、受診や相談が進まない現状には「2つの壁」が存在すると分析する。「1つ目は、『本人の誤認と心理的ハードル』です。疾患への理解が不足していることに加え、男性としての自尊心から認めたくないという心理、さらには『相談してもどうにもならない』という諦観が、医療機関への受診や周囲への相談を阻んでいます。2つ目は、『社会の意識の壁』です。他者に相談しても茶化されたり笑われたりするのではないかという社会的な偏見を当事者が認知しているがゆえに、ますます一人で悩みを抱え込んでしまう現状があります」。

 EDには根深い心理的ハードルと社会的偏見が存在する。薬剤師には、当事者が抱える心理的負担や相談しづらい背景を理解したうえで、一人ひとりに真摯に向き合う姿勢が求められる。

第3章 要指導医薬品としての適正販売管理と
現場に求められる力

国内初となるED治療薬のスイッチOTC化に際し、本誌ではエスエス製薬株式会社に追加取材を実施した。適正販売に向けた薬剤師向けeラーニングや接客ガイドなどの教育体制、受診勧奨を含む販売支援策、店頭での情報提供の考え方などを聞くとともに、EDを誰もが向き合う健康課題として捉える「EnD the joke」に込めた思いと、薬剤師に期待する役割を伺った。


OTC化の意義
期待される行動変容と正規ルートの提供

 同社統括部長の阿部氏は、「製品の訴求にとどまらず、EDのノーマライゼーション(一般化・偏見の払拭)にも積極的に取り組みたい」と話す。EDに関する知識不足や偏見は、受診をためらう要因の一つとなっている。阿部氏は、EDを恥べきことではなく多くの男性に起こり得る健康課題として捉え、要指導医薬品によるセルフケアも治療の選択肢の1つであることを啓発していきたいとした。そのうえで、「現在、約9割を占めるとされる未治療の方が、治療に踏み出す契機として、まずは薬局・ドラッグストアの薬剤師へ相談するといった行動変容を促していきたい」と、OTC化による今後の展望を語った。

 また、ED治療薬では、インターネット上で流通する偽造品への対策も課題となっている。インターネット経由で入手されるED治療薬の約7割以上が偽造品であるとの報告もあるなか、阿部氏は疾患啓発と並び、正規の流通を介し、薬局やドラッグストアで適正な医薬品を入手することの重要性を周知していくこともメーカーの大きな役割であると強調した。

 「薬剤師というヘルスケアプロフェッショナルによる相談や服薬指導のもとで購入できる環境が整うということは、適正使用の推進だけでなく、偽造品に起因する健康被害のリスク低減にもつながると考えています」。

薬剤師へのトレーニングと適正販売体制

 シアリスは、硝酸剤または一酸化炭素(NO)供与剤との併用禁忌をはじめ、服用にあたって重大な注意点を持つ薬剤であり、既定の研修を修了した薬剤師による服薬指導と販売管理が必須となる。

 同社はシアリス専用のオンライン研修サイトを開設し、適正販売に必要な製品知識や購入希望者とのコミュニケーションなどを学ぶeラーニングを提供している。研修受講後、確認テストに合格した薬剤師には「修了証」が交付され、修了者のみが販売できる。

 購入希望者は、チェックシートを用いて事前スクリーニングを行う。当チェックシートは、要指導医薬品での対応が可能か、あるいは受診が必要かを判断するツールであり、判定結果が「購入可」となった対象者に対し、薬剤師は確認と服薬指導を行い、最終的な販売の可否を判断する。

 薬剤師は、購入希望者が提示したチェックシートを単に受け取るだけでなく、各設問の背景を理解したうえで、申告内容を精査することが求められる。阿部氏は、虚偽申告を完全に見抜くことは困難としながらも、薬剤師の確認には大きな役割があると指摘し、次のように説明した。「なぜ併用薬や既往歴を尋ねる必要があるのかという『質問の意図(臨床的リスク)』を、薬剤師が購入希望者に丁寧に説明しながらヒアリングを進めることで、記憶違いや申告漏れのリスクを低減できると考えています。併せて、薬剤師の説明を通して自身の健康課題として自覚し、責任をもって回答いただくことが重要です」。

 確認の結果、少しでも不審な点や健康上の懸念、判断に迷う要素が認められた場合は、無理に販売せず、受診勧奨を行う。その際、近隣の泌尿器科専門医を紹介できるよう専門医リストも用意されている。

ソフトスキルが強く求められる
ハラスメント対策にも備えを

 EDは極めてデリケートな健康課題であるため、要指導医薬品としての販売にあたっては、従来の服薬指導とは異なる「患者背景の理解を踏まえたコミュニケーション能力」、すなわちソフトスキルの習得が薬剤師に強く求められる。同社はこれを重視し、ソフトスキルに重点を置いたeラーニング研修を提供している。

 同社マーケティング本部HCPエンゲージメントリード 武知 裕一氏は、「購入希望者は、羞恥心を乗り越え、勇気を出して相談に訪れています。そのような購入希望者に対応する薬剤師側には、疾患に対する偏見を排し、Sexual Well-beingの考え方や患者背景を十分に理解したうえで応対することが求められます」と話す。

 薬局現場は女性薬剤師の比率が高く、異性間でデリケートな症状や薬物治療について応対する際には、双方に心理的ハードルが生じることも想定される。また、センシティブな領域ゆえに、服薬指導時のコミュニケーションが意図せずハラスメントに発展するリスクも懸念される。

 こうした課題に対し同社は、応対時の言葉遣いやコミュニケーションのポイントをまとめた標準的な「接客ガイド」を整備する方針だ。一方で、ハラスメントには主観的な側面もあることから、画一的な対応だけでは十分とはいえない。武知氏は、発売後に現場で生じた事例を収集・分析し、ガイドを継続的に更新するとともに、その知見を販売に携わる薬剤師へフィードバックしていくことが重要だと付け加えた。

いかに店頭でPRを行うか
消費者行動に基づく導線設計

 店頭におけるシアリスの認知拡大や啓発について、阿部氏は「基本的には調剤カウンター周辺へのショーカードや製品空箱の設置、店内のポスター掲示などを通じて、まずは製品を知っていただくことから始めたい」と話す。

 一方、ED治療薬はセンシティブな製品であるため、店頭での目立つ販促を避けたいと考える店舗も少なくない。その懸念に対し、阿部氏は消費者行動調査に基づいた対策を次のように説明した。「購入希望者が店頭で初めてOTC化を知り、その場で購入に至るケースは極めて稀だと考えています。多くの方は、店頭で製品を認知した後に帰宅し、ブランドサイトなどで正しい知識や安全性を確認したうえで、改めて店舗を訪れるという行動になることが予想されます。

 そのため、大々的な販促活動を行うのではなく、製品の存在を知らせる掲示と併せて、人目を気にせず持ち帰れるQRコード付きのミニリーフレットや、店内各所へ配置できるQRコード付き販促資材を販売店へ提供します。製品に関心を持った方が、信頼できるメーカーの情報サイトから正しい情報を自ら確認できる導線を整備しています」。

「EnD the joke」の実現と薬剤師の役割

 シアリス発売に合わせ、同社は「EnD the joke(エンド・ザ・ジョーク)」プロジェクトを始動する。このプロジェクトは、EDをからかいやジョークの対象として片付けるのではなく、男性であれば誰にでも起こり得る身近な健康課題として、ニュートラルに受け止める社会の実現を目指すものだ。

 阿部氏は、販売に携わる薬剤師への期待を次のように語った。「羞恥心や笑われることへの恐怖から、一人で悩みを抱え込み、結果として未治療のまま過ごしている方が多くいます。そうした中、購入希望者は勇気を出して薬局の窓口を訪れています。その際、対応する薬剤師には、ヘルスケアのプロフェッショナルとして、疾患やSexual Well-beingに対して偏見を持つことなく、フラットかつ専門的な姿勢で一人ひとりの価値観に寄り添っていただきたいと思います。薬剤師を通じて、EDに悩む人が『ED治療薬を普通に購入できる社会になった』と実感できることが、『EnD the joke』の実現につながる重要な一歩になります」。

 ED治療薬のOTC化は、単なる治療選択肢の拡大にとどまらない。薬剤師が、EDに悩む人にとって安心して相談できる存在となり、適正使用や受診につなぐ新たな役割を担う契機となるのではないだろうか。