前号に引き続き、服薬指導ケア研究会のハイリスク薬についての連続講座を取材した。今回のテーマは免疫抑制剤。講義の前半では免疫系についてじっくりと確認され、後半では、各薬剤の機序について解説された。
免疫抑制剤を服薬指導する上で知っておきたいこと
免疫抑制剤は、免疫系の活動を抑制することにより、体内の過剰な免疫反応を抑える薬物であり、臓器移植に おける拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療などに対して用いられる。逆に、正常または低下した免疫能を活性化 し、抗腫瘍免疫能や感染防御免疫能の増強などに用いられる免疫刺激剤として、サイトカイン製剤(IF・IL)や免疫グロブリン製剤がある。免疫グロブリン製剤は自己免疫疾患などに用いられる場合もある。
服薬ケア研究会会頭の岡村祐聡氏は、「免疫抑制剤は、個々の薬理作用を把握しておけば服薬指導の際に問題になることは少ない。ただし、その服薬指導の際、正しく免疫機構を理解せずに薬理作用の部分のみを患者に説明しても説得力に欠ける」と説き、講義の前半で人体の免疫機構について解説した。
免疫とは
免疫とは、人体(自己)にとっての異物(病原微生物など)を「非自己」と判定して排除し、自己を守るためのシステムである。生体内で異物として認識され、抗体産生などの免疫反応を誘導する物質を「抗原」という。免疫系の構成因子としては、リンパ球、好中球、マクロファージなどの免疫細胞(白血球)のほか、抗体、補体、サイトカインなどの免疫に関わる物質や分子、胸腺、骨髄、リンパ節、脾臓などのリンパ器官がある(表1)。
自然免疫と獲得免疫
免疫学は、2000年前後から急激に発展した。免疫の種類として自然免疫と獲得免疫の2つがあることはよく知られているが、これらの理解も大きく変化した。
自然免疫は、非自己と認識したものに対して、無差別(非特異的)に働く免疫反応であり、免疫機構の一次防御としての役割を果たしている。皮膚バリア機能といった体表面での異物排除のほか、皮膚を通過した細菌やウイルスなどに対し生体内で機能する(炎症反応)。好中球やマクロファージなどが異物や細菌が貪食・殺菌し、NK細胞がウイルス感染細胞を破壊する。
一方、獲得免疫は、感染などによって生後新たに獲得される、より精密で強力な免疫反応である。ある特定の異物に反応するリンパ球(T細胞、B細胞)だけが増殖し、これに対処する。具体的には、B細胞が抗体を産生し、T細胞がB細胞の分化や抗体産生を誘導、ウイルス感染細胞を特異的に破壊する。獲得免疫は自然免疫に引き続いて起こるが、作用の発現は数日を要する。
自然免疫と獲得免疫の両者が互いに協調・活性化しあうことで、免疫機構が成り立っている。
自然免疫機構の概要
自然免疫では、NK細胞が感染細胞を殺し(獲得免疫で感染細胞を殺すのは細胞傷害性T細胞)、マクロファージ や好中球が病原体を貪食する。こうした直接的な攻撃以外に、自然免疫では、感知して警報を出すシステムがあるという。
マクロファージは貪食の後、異物を感知して活性化している。また、自身の活性化と同時に、炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-α)やケモカイン(IL-8)を分泌し、近くのマクロファージの貪食を促す。これにより炎症が惹起される。
炎症反応では、血管内皮細胞の収縮とともに、血液透過性が亢進し、体液やタンパク質などを含む血漿成分が組織中へと流出する。さらに内皮細胞が接着分子を発現し、白血球(単球や好中球)が血管内皮に付着、形を変形させることで血管外へと移行する。さらに炎症の起きている部位へと移行する。
獲得免疫の概要
相手かまわず貪食し、その後に異物を認識する自然免疫とは異なり、獲得免疫では、特定の成分にだけ結合する(抗原特異性)。獲得免疫の機序を理解するポイントとして、抗原特異性を含め、5つのキーワードが挙げられた(表2)。
特定の成分にだけ結合する細胞が体内に何百万種類も存在し(多様性)、それが用意されている状態を「レパトア」という。服薬指導時には使用せずとも、免疫関連の論文を読む際の知識としては押さえておきたい用語だ。自己の抗原ペプチドを認識しないよう自己反応性細胞が除外されることを「自己寛容」という。レパトアは、膨大な数の自己寛容が発生した後の状態ともいえる。免疫抑制剤のターゲットのひとつである自己免疫疾患は、自己寛容がうまく機能できていない状態にある。
また、ある病原体が侵入すると、抗原提示を受け、その病原体に特異的なレセプターを有する細胞が大量に増殖する(クローンの増大)。病原体の消失後も増大したクローンが残存し(免疫記憶)、次に同じ病原体が侵入した際は、増大したクローンが速やかに反応する。
獲得免疫の一連の流れは、樹状細胞やマクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞(APC)からスタートする。樹状細胞は強力な抗原提示能を持つ細胞で、外来性抗原(細菌など)を捕捉し、ペプチドの状態にまで分解して提示する。その情報がヘルパーT細胞に認識されると、ヘルパーT細胞はTh1またはTh2細胞に分化する。Th1、Th2細胞は様々なサイトカインを放出し、マクロファージや細胞傷害性細胞の活性化(細胞性免液)やB細胞(形質細胞)による抗体産生(液性免疫)を誘導する。なお、「細胞性免疫、液性免疫」という区分けは「自然免疫、獲得免疫」とは全く別の概念として理解する必要がある。
細胞性免疫や液性免疫で重要となるMHC分子
MHC分子は、細胞表面に発現し、自己の証明や抗原提示に関わる糖蛋白。細胞内で合成した抗原や細胞外から取り込んだ抗原を分解処理した抗原ペプチドを乗せる“器”としての役割を担っている。MHC分子に納められた抗原ペプチドは、細胞表面に運ばれT細胞へ提示される。
MHC分子は、クラスⅠ分子とクラスⅡ分子に分類される。MHCクラスⅠ分子は、感染細胞を含む全ての有核細胞に発現しており、細胞内で合成された抗原ペプチドを提示する。ただし、APCのうち樹状細胞は、外来抗原をMHCクラスⅠ分子でも提示できる「クロスプレゼンテーション」という経路を持つ。感染細胞などでは、MHCクラスⅠ分子から自己由来ではない抗原ペプチドが提示されるため、提示された細胞傷害性T細胞(CTL)が異常と認識し、感染細胞を傷害する(細胞性免疫のひとつ)。
一方、MHCクラスⅡ分子は、APCにのみ発現し外来性の抗原ペプチドをT細胞に提示する作用を持つ。これによりTh2細胞とB細胞が抗原を提示し合うことで、B細胞が形質細胞となり抗体が産生される。抗体は、オプソニン化や補体の活性化、中和、抗体依存性細胞傷害といった免疫反応を示す(液性免疫)。
免疫抑制剤は免疫機構の中での作用点を理解する
講義は、前半の免疫機構の基礎をおさらいした上で、免疫抑制剤の説明に入った。概要を表3にまとめる。
お知らせ
本セミナー主催の服薬ケア研究会が、2020年秋、「服薬ケア医療学会」に生まれ変わる。本シリーズのほか、年次大会や「頭の中をPOSにする!」ワークが予定され、過去のセミナーもアーカイブとして映像を配信中。