【監修】田中 榮一 氏
東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター 膠原病リウマチ内科 准教授

壮年女性に好発し日常生活に支障をきたす関節リウマチは、近年、効果的な治療薬が次々に開発され、早期発見・治療で患者さんのQOLが向上しています。その半面、治療費が高額になるなど、社会的負担の大きな疾患ともいえます。関節リウマチの基礎・臨床研究では日本屈指の施設である東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センターの田中 榮一 氏に、関節リウマチの薬物療法と費用対効果について解説していただきました。

患者の約80%が良好な状態を維持

関節リウマチは、全身の関節に慢性的な炎症が生じる、進行性の自己免疫疾患です。主に手足の関節で起こりますが、内臓が侵され生命に関わることもあります。日本人の有病率は人口の0.5~1.0%で、患者数は60万~70万人と推定され、男女比は1:4となっています。診断時の年齢は40歳代が最も多く、以下50歳代、30歳代、20歳代と続きます。働き盛りの年代で発症し、さまざまな症状によって日常生活が制限されるため、社会的な負担の大きい疾患として注目されています。

免疫の異常が関節リウマチの原因であることがわかっていますが、根本の原因は明らかではありません。関節内の滑膜が免疫の攻撃を受けて炎症を起こし、増殖・肥厚した滑膜から破骨細胞の活性化因子やさまざまな炎症性サイトカインなどが放出され、関節破壊が進行します。最近の研究で、特定の遺伝子を持っていると、さまざまな環境要因によって異常な免疫が誘導されるのではないかと考えられています。環境要因として喫煙、歯周病、腸内細菌叢の異常などが指摘されています。

関節リウマチの治療は、薬物療法、外科的療法、リハビリテーション、患者教育の4本柱で成り立っています。薬物療法が基本で、早期からのリハビリテーションも有効な治療法です。疾患が進行すると、増殖した滑膜を切除したり、破壊された関節を人工関節に置換・再建したりする手術が必要になります。

薬物療法で目指すのは、症状がほぼ完全に抑制され、かつ疾患の進行が防止できている状態、すなわち寛解です。治療薬を継続的に投与することによって寛解状態を維持し、長期予後を良好にすることが関節リウマチ治療の目標です。

わが国の関節リウマチの前向き大規模コホート研究IORRA(コラム)が、2000~2019年の20年間における関節リウマチ治療の進歩について興味深いデータを示しています。それによると、寛解する患者さんは2000年には全体の10%に満たなかったのが、2019年には60%を超えています。低疾患活動性の患者さんも加えると、約80%が良好な状態を維持できていることがわかります。一方、高疾患活動性の患者さんは20年の間に約20%から約1%に減少しました。治療成績が大きく向上した理由のひとつは治療薬の開発です。

column 関節リウマチの大規模コホート研究 IORRA

IORRA(Institute of Rheumatology, Rheumatoid Arthritis)研究は、日本で初めてリウマチ性疾患領域 で開始された、関節リウマチの前向き大規模コホート研究。2000年10月にスタートしたJ-ARAMIS(Japanese Arthritis Rheumatism and Aging Medical Information System)が前身で、2006年4月1日よりIORRAに改称された。

IORRAは、東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センターによる関節リウマチ患者に対する前向きの研究で、年に2回、毎回4,000名程度の関節リウマチ患者の情報を集積(回収率は97%以上)。患者情報・医師評価・臨床検査値に基づくデータベースを構築し、専門的な統計解析を行っている。IORRA研究は、臨床疫学的研究、薬剤経済学的研究、遺伝疫学的研究の3本柱で行われており、2020年4月までに136本の研究論文を発表している。

選択の幅が大きく広がった薬物療法

この10年で、関節リウマチに対する治療選択肢は大きく広がりました。2020年11月現在、関節リウマチの治療で使われる薬剤は、非ステロイド性抗炎症薬( NSAIDs)、ステロイド薬、抗リウマチ薬、生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬などです。

NSAIDs

関節リウマチの疾患活動性が高い初期の疼痛や腫脹を軽減する目的で使われるのがNSAIDsです。NSAIDsは必要なときにワンポイントで使うことが重要で、漫然と使うことによって、消化管障害、腎障害などの副作用が生じやすくなります。米国食品医薬品局(FDA)は、すべてのNSAIDsに対して心血管および消化管リスクの可能性があることを添付文書に記載することを指示しています。そのため最近は、漫然とした使用は避け、オン・ディマンドでの使用(痛みがあるときのみの使用)が推奨されています。

ステロイド薬

強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を有するステロイド薬は、これまで60年以上にわたって世界中で関節リウマチに使われてきました。少量で痛みなどの症状を急速に緩和しますが、大量あるいは長期投与によって、易感染性、骨粗鬆症などさまざまな副作用が生じる可能性があるため、必要最小限の使用が勧められています。

抗リウマチ薬

関節リウマチ治療の潮流は抗リウマチ薬が開発されたことで大きく変わりました。抗リウマチ薬は関節内の免疫異常を改善して炎症を抑える効果があります。抗リウマチ薬は免疫調整薬と免疫抑制薬に分けられます(表1)。

免疫抑制薬のメトトレキサートは、優れた免疫抑制作用を持ち、有効性、安全性の高い世界の標準薬として認識されてきました。日本では、1999年に疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)として承認されました。メトトレキサートは、肝障害、流産誘発などのリスク、腎機能障害時服用の副作用リスクなどがあるため適応を見極めることが重要です。また、メトトレキサートは1週間のうち1~2日だけ服用するタイプの薬剤であり、服薬コンプライアンスの低下しやすい高齢者では、誤って毎日服用すると血中濃度が一気に上昇して骨髄抑制を生じるリスクがあります。

なお、抗リウマチ薬は効果が現れるまでに早くて1カ月、多くは2~3カ月で、遅いとそれ以上かかることもあります。

田中榮一氏ご提供

生物学的製剤

2003年に生物学的製剤が登場し、薬物療法はさらに進展しました。生物学的製剤はTNF、IL-6など特定の炎症性サイトカインを細胞外で遮断することによって、炎症を引き起こす刺激が細胞内に伝わらないように働きます。現在、わが国で使われている生物学的製剤は10種類(標的分子としてTNFαが7種類、IL-6が2種類、CTLA4が1種類)です(表2)。当センターでは、関節リウマチの患者さん全体の約3割に生物学的製剤を投与しています。

生物学的製剤は、メトトレキサートと併用することで有効性が高まるとされています。特にTNFαをターゲットにした薬剤を使った場合の効果は顕著です。また、生物学的製剤を初めて使った場合、どの薬剤でも有効性が期待でき、患者さんの約7割で効果が見られるという報告がある一方、2剤目以降の生物学的製剤は最初の薬剤に比べて効果は劣るといわれています。生物学的製剤の市販後調査では、入院を要するような重篤な副作用が5%程度に見られることが明らかになっており、特に感染症が起こり得ることを想定した治療戦略が必要になります。

また、関節リウマチを治療している患者さんの事情は、「疾患活動性をとにかく早く抑えたい」、「投与量を調節したい」、「メトトレキサートを併用できない」、「安全性について懸念がある」、「頻回に通院できない」、「経済的に余裕がない」、「挙児希望がある」など個々で異なります。年齢も若年者から高齢者まで幅広く、個々の希望や条件などを考慮して生物学的製剤のいずれかを選択します。

田中榮一氏ご提供

JAK阻害薬

生物学的製剤とはまったく作用機序の異なるJAK阻害薬が2013年に登場しました。JAK阻害薬は、複数種類の炎症性サイトカインに対し、細胞内のシグナル伝達に関与する酵素であるJAKを阻害し、サイトカイン受容体からの刺激を遮断することによって炎症を抑えます。関節の腫れや痛みなどの炎症を抑える効果は、生物学的製剤と同等以上といわれ、関節破壊の進行を抑制する効果も生物学的製剤と同様に認められています。副作用として肝障害、感染症などのほか、日本人では特に帯状疱疹の発現が多いことが問題点として指摘されています。2020年11月現在、国内で使われているJAK阻害薬はトファシチニブ、バリシチニブ、ペフィシチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブの5種類です。

モノクローナル抗体

現在、日本でのみ使われているデノスマブは、RANKLを標的としたヒト型IgG2モノクローナル抗体で、RANKL を特異的に阻害して破骨細胞の形成などを抑制し骨吸収を抑制する働きがあります。デスノマブはもともと骨粗鬆症の治療薬で、関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制の効能・効果が追加されました。ただ、軟骨破壊の抑制効果はなく、関節リウマチの薬物療法での位置づけは今後の課題となっています。

関節リウマチでは、治療薬の選択肢が広がってきたことで、これまで疾患の進行や症状を抑えられなかった患者さんも救えるようになりました。

日常臨床における関節リウマチの薬物療法は、世界で最も多く用いられているEULARリコメンデーション2019年改訂版に基づく関節リウマチ治療アルゴリズムに従って、段階的に進められます。第一段階では、メトトレキサートの適応が検討され、寛解維持または低疾患活動性を目標に、3カ月以内に50%以上の改善、6カ月以内に治療目標の達成を目指します。第一段階の治療が効果不十分、あるいは副作用で投与が継続できない場合は、第二段階として、予後不良因子の有無を踏まえ、生物学的製剤かJAK阻害薬の追加を検討します。

膨れ続ける医療費
高額な関節リウマチの治療

人口の高齢化に伴い、わが国の医療費は右肩上がりで増加しています(2017年度の国民医療費は42. 2兆円)。この背景には、さまざまな疾患領域で新規薬剤が次々に開発され、高価な薬剤が医療費を押し上げていることがあります。関節リウマチに関しては、特に生物学的製剤が高価で、体重50kgの患者さんの自己負担額(3割負担)は1カ月あたり30,000~40,000円(高額療養費制度などを考慮しない薬剤費のみの負担額)かかっています。

医療費は直接費用と間接費用に分けられますが、さらに、直接費用は直接医療費(疾病の診断、治療のために支払う費用)と直接非医療費(交通費、介護費など)に分けられます。当センターの関節リウマチ患者さんの直接医療費(2007年)は、1人あたりの平均自己負担費用が年間264,000円(内訳は、病院への支払額132,000円、薬局への支払額84,000円、代替医療費146,000円)となっています。

我々は、「関節リウマチの活動性が高い」、「日常生活が不自由」、「生活の質(QOL)が悪化する」といった指標が高いほど、直接医療費が高くなることが示されたデータを2013年に発表しました。これは、逆にいえば、関節リウマチの活動性を抑え関節の変形が進行しないようにして、QOLを維持していくことができれば、生涯にわたる医療費を抑えることができる可能性を示すデータともいえます。

本調査では、生物学的製剤を使用しない場合の直接医療費は年間25万円程度であるのに対し、使用する場合は年間約70万円と、約3倍に膨れ上がるという結果でした。生物学的製剤はそれ自体が高額である一方、治療効果の面では優れており、疾患を制御することで他の薬剤処方料や手術費を減少させ、生命予後の改善も期待できます。毎月約6万円を患者さんに負担させる生物学的製剤。果たして積極的な使用は妥当なのでしょうか。

薬剤経済学的検討
生物学的製剤の費用対効果は?

ここで、視点を患者個人から社会に移して考えてみましょう。その際に重要なのは薬剤経済学的検討です。薬剤経済学的検討は、安全で効率的な患者中心の医療政策を作るために、その経済性・効率性を評価し、費用対効果を検証するプロセスです。わが国でも2016年4月からC型肝炎治療薬や抗がん剤など一部の高額な薬剤を対象に費用対効果の評価が始まりました。その結果として、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボの薬価が下がったことは記憶に新しく、ほかの疾患領域でも高価な薬剤を使っている患者さんの期待は高まっています。

何らかの疾患で寝たきりになってしまう場合、介護費や身体障害者制度などの社会保障費が発生し続けることになります。高額な医薬品であっても、その疾患を治療しQOLが改善すれば、その人が働き続けることで逆に税金が徴収され、国全体として使える社会保障費が増えることになります。社会全体としては、こうした医療費の間接費用という観点もとても重要なのです。

関節リウマチのような慢性疾患の薬剤経済学的評価では、主に費用効用分析が用いられます。この分析でポイントになるのが質調整生存年(Quality-Adjusted Life Year;QALY)という概念です(図1)。質調整生存年とは、生存年数にQOLの概念をかけ合わせて「健康な状態で過ごす」状態を評価する基準のひとつです。1QALY(完全に健康な状態で過ごす1年間)を獲得するための必要な費用を、増分費用効果比(Incremental Cost-ffectiveness Ratio;ICER)として考えます。日本ではICERが540万円以下であれば医療経済的に許容し得ると判断されています。

田中榮一氏ご提供

当センターの関節リウマチ患者さん(平均年齢約55歳)を、生物学的製剤を使ったグループと使わなかったグループ(メトトレキサート投与)に分けてQALYを比較したところ、生涯累積費用は生物学的製剤投与群のほうが約1,000万円多いという結果でした(薬剤費は10割負担で計算)(表3)。一方で、生物学的製剤を使用しなかったグループに比べ生物学的製剤を使ったグループで獲得できるQALYが多いことが示唆されました。これらよりICERを計算すると、生物学的製剤を使った場合のICERは、300万円台~400万円台でした。生物学的製剤投与群のICERがいずれも、540万円(医療経済的な許容範囲のボーダー)以下のため、必要な患者さんに対する生物学的製剤の使用は妥当と判断できる、という検討結果になりました。

田中榮一氏ご提供

費用対効果におけるバイオシミラーの価値

当然ではありますが、同じ医薬品であれば、薬価が下がるほど費用対効果は上がります。そうした期待を背景にした社会的要請で開発されたのがバイオシミラー(バイオ後続品)です。バイオシミラーは、国内ですでに新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品(先行バイオ医薬品)と同等/同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品として、異なる製造販売業者により開発される医薬品です。

先行品と同じ構造式のジェネリック医薬品とは違い、バイオシミラーは承認申請に必要なデータも多岐にわたります。バイオ医薬品は、変化に敏感な微生物や動物細胞などを用いて作られる、非常に大きくて(分子量:約1 万以上)複雑な構造を持つ医薬品であるため、より厳格な製造工程管理が必要とされるのです。その半面、承認されたバイオシミラーは、基本的には、先行品と同じ適応が臨床試験を実施せずに追加されることが認められています。

2020年11月現在、国内では14種類のバイオシミラーが承認を取得しており、関節リウマチの領域ではインフリキシマブBS、エタネルセプトBS、アダリムマブBS(薬価収載)の3種類があります。2014年11月に発売されたインフリキシマブBSの薬価は、当初は先行品の約70%でしたが、薬価改定によって現在は約58%まで下がっています。

薬剤師に求められるポリファーマシーのチェック

関節リウマチの治療はこの70年で劇的な変化を遂げてきました。かつて薬物療法はNSAIDsやステロイド薬で疼痛の軽減を図り、短期的QOLの改善を目的にしていましたが、近年、効果的な薬剤が次々に開発され、骨関節破壊を食い止めることができるようになり、長期的QOLの改善が望めるようになりました。それに伴って、NSAIDsやステロイド薬の使用率は年々減少しています。薬物療法で骨破壊が抑えられるようになったことで、特に膝関節や股関節といった主要な関節の外科的療法の割合も減少してきました。

いまや関節リウマチの治療は、痛みを抑える治療から寛解を目指す治療に変わってきました。その恩恵を受け、患者さんは発症以前の生活ができるまで回復が見込めるようになりました。半面、薬物療法のアドヒアランス低下が懸念されます。関節リウマチの薬物療法では抗リウマチ薬、生物学的製剤を処方どおりに使い続けることで関節の炎症、破壊を防ぐことが可能です。服薬を中断・中止すれば再燃を招きやすくなります。薬物療法を継続するための啓発や教育が重要になります。

最後に、関節リウマチの患者さんでは、抗リウマチ薬、生物学的製剤、JAK阻害薬などに加え、副作用の対症療法や合併症の治療で多剤併用になるケースが多いことをあらためて指摘したいと思います。関節リウマチ治療におけるポリファーマシーは、単に薬剤数や重複処方だけでなく、長期連用による影響にも注意する必要があります。薬剤師には服薬管理に加え、ポリファーマシーのチェックと、医師への情報のフィードバックを期待しています。

まとめ 関節リウマチ治療の現状と展望

  • メトトレキサートはすべての関節リウマチ患者で投与が考慮されるべき薬剤である
  • 各生物学的製剤にはそれぞれに特徴があり、さまざまな因子を考慮し、患者との協働的意思決定の上で選択する
  • J AK阻害薬などによる新規の分子標的治療薬やデノスマブなども期待されている
  • 関節リウマチなど高額な医薬品は特に、薬剤経済学的検討によって使用の妥当性が評価されるべきである
  • 関節リウマチの治療では、薬剤数や重複処方、長期連用による影響を考慮したポリファーマシーのチェックが重要である