セルフメディケーションの概念も馴染み始めている今日この頃。一般用医薬品として幅広く用いられている漢方の基礎知識や身近な漢方の植物についての講座「第1回 ファーム to ファーム」(一般社団法人リードコンファーマ主催)を取材した。

漢方医学の基礎知識「気・血・水」

漢方医学には、「気・血・水」という、体の不調や疾患の原因を考える概念がある。この3つの要素のいずれかのバランスが崩れることで体の不調をきたす。本講義では、この「気・血・水」の説明がなされた。講師は、埼玉県の調剤薬局で薬局長を務める沖原雄氏。
体の部位でいうと、「気」は脾臓、「血」は肝臓、「水」は腎臓と深く関わっているという。腎臓は、体内の余分な水分や毒素を適切に振り分け浄化する役割があるが、体内の汚水が腎臓へ運ばれるルートが遮断される状態は『水滞』、逆に、浄化された水分が腎臓から体内の各細胞へ運ばれるルートが遮断される状況は『腎じん虚きょ』と呼ばれる。代表的な症状は、水滞ではむくみや冷え、腎虚では睡眠障害としてあらわれる。
「気」では、細胞へのエネルギーが不足した状態を『気虚』や『気 鬱』、細胞からのエネルギーが留まってしまうことを『気滞』と呼ぶ。気虚や気鬱は、やる気が出ない、食欲不振、不安、のどの違和感としてあらわれ、気滞はイライラや偏頭痛としてあらわれる。「気」は胃などの消化器系の臓器と関連が深いという。
「血」では、主に肝臓から全身の細胞に届く栄養分のルートが遮断されると『血虚』となる。血虚では爪や皮膚に影響があらわれることが多いという。細胞からの運ばれる毒素が肝臓に運ばれずに留まってしまう状態は『於血』。
このように、「気・血・水」のそれぞれで、『虚』や『滞』のモードになると、体がアンバランスな状態になる。

身近な漢方を知る

講義の後半には身近な漢方の植物が紹介された。まず、先述の「血」に関連したたんぽぽ。たんぽぽは、生薬としては『蒲公英』と呼ばれ、胃や肝臓の機能向上や胆汁の分泌促進から、食欲不振や胃もたれ、肝臓疾患の改善に効果が期待できるとされる。また、血行促進や解毒作用、鉄分・カリウムなどのミネラルが豊富なことから、母乳不足の改善や授乳中の水分補給にも適している。タンポポ茶やタンポポコーヒーが製品化されているが、自作もできるという(表)。

オオバコは、道路など踏み固められたところに好んで生える、ごく身近な植物だが、種子は『車前子し』と呼ばれ、頻尿、排尿痛、残尿感、下肢痛、腰痛、しびれなどに効果があるとされる。車前子が配合された漢方薬として、牛車腎気丸、五淋散、清心蓮子飲、竜胆瀉肝湯がある。 山野に自生しているクロモジは、漢方として使用すると、抗菌や消炎作用が期待できる植物だ(生薬としての名称は『烏薬』、『烏樟』)。他にも、サツマイモの便秘や食欲不振に対する効果、米を含む漢方薬(白虎加人参湯、竹葉石膏湯、麦門冬湯)、整腸の効果が期待できる菊芋などが紹介された。

気軽に使える漢方を患者に勧めてみる

講師の沖原氏は、薬局での漢方の勧め方について、「今まで試したことのある漢方で良かったものを患者さんから聞き出すことはひとつのポイント。別の病態に対して前向きに使ってもらうこともできます。特に一般用医薬品の漢方やお茶類などは、適応や症状をあまり限定せず、気軽に使ってみることができるのが良いところです。」と、メリットを強調した。
医療用医薬品ほど急速な効果は得られずとも、漢方には、疾患予防の観点で気軽に使用できるものがたくさんある。対人業務への注力を求められる昨今、馴染み深い植物から作られる漢方の話題は、患者とのコミュニケーションの足掛かりにできるもしれない。