加齢によって筋タンパク質の合成反応は減弱する Medical Diagram 124
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の転帰において、「低栄養」との関連が指摘されています。たとえば、2020年の報告では、「軽度栄養リスク/リスクなしの患者」に比べ「中等度/重度の栄養リスクがある患者」のほうで生存率が有意に低いことが示され、「中等度/重度の栄養リスク」と「PaO2(動脈血酸素分圧)/FiO2(吸入中酸素濃度)比の低値」が、独立した死亡リスク因子であることが同定されています1)。
COVID-19に限らず、「低栄養」はサルコペニア(加齢による骨格筋量の低下)やフレイル(加齢によって生じる可逆的な身体衰弱)につながり、寝たきりのリスクを増加させます。65歳以上の日本人4,341例を対象とした前向きコホート研究では、健康な人の集団と比べてフレイルを有する集団は要介護となるリスクが約5倍であることが示されています2)。このため、高齢者の栄養状態を把握することは、寝たきりや疾患の重症化を防ぐポイントの1つとなりますが、思いのほか、栄養状態が不良の高齢者は多いことがわかっています。居宅サービス利用者1,142人(男性460人、女性682人、年齢81.2±8.7歳)を対象とした検討では、「栄養状態良好」は318例(27.8%)に過ぎず、「低栄養のおそれあり」は633例(55.4%)、「低栄養」は191例(16.7%)と、およそ70%の高齢者が栄養状態に問題を抱えていました3)。
高齢者が「低栄養→フレイル」を招く原因として挙げられるのが「タンパク質同化抵抗性」です。体内では、筋タンパク質の合成(同化作用)と分解(異化作用)が常に生じています。栄養の摂取により筋タンパク質の合成が促され、空腹時やストレス、疾患時に分解されます。この合成量と分解量が等しければ、骨格筋の量は一定に保たれます。空腹安静時では、若年者と高齢者の骨格筋タンパク質の合成速度や分解速度に差はありません。
しかし、若年者に比べて高齢者では筋タンパク質の合成反応(同化反応)が減弱することが示されており4)、これを「タンパク質同化抵抗性」と呼んでいます。つまり、同程度のアミノ酸やタンパク質を摂取しても、骨格筋の合成量は若年者よりも高齢者のほうが少ないのです。
高齢者においては、この「タンパク質同化抵抗性」を踏まえた栄養摂取が望まれますが、ただ闇雲にアミノ酸やタンパク質を摂取しても効果的ではありません。1回当たりの筋タンパク質合成反応には上限があるため、3食でアミノ酸やタンパク質を均等に摂取する必要があります。しかし、高齢者では食の嗜好性の変化や食欲の低下により、アミノ酸やタンパク質の摂取量を増加させることが困難な場合が多いため、サプリメントによる補充も有効と考えられます。嚥下機能の低下には、ゼリーやとろみ剤、オブラートのほか、ゼリー状や粉末のサプリメントの活用も一案です。
また、筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行うレジスタンス運動は、骨格筋のタンパク質合成反応を刺激する重要な因子であるため5)、日常生活にレジスタンス運動を効果的に取り込む必要があります。
参考文献
1)Recinella G, et al.: Aging Clin Exp Res 2020; 32: 2695-2701
2)Makizako H, et al. BMJ Open. 2015; 5: e008462
3)榎 裕美, ほか: 日老医誌 2014; 51: 547-553
4)Katsanos CS, et al.: Am J Clin Nutr 2005; 82: 1065-1073
5)Dreyer HC;, et al.: J Physiol 2006; 576: 613-624