インタビュー先
クオール株式会社

関東第二薬局事業本部 関東第四事業部
管理栄養士 宮代 由佳 氏

 食事と健康の関係性は言うまでもない。今号特集で取り上げたIBDを含め、糖尿病や脂質異常症など既に何らかの疾患を抱える患者さんは日々の食事のケアが重要になることや、疾患に至らなくとも健康診断の結果を受けて食生活の見直しを考える方も多い。今回はクオール株式会社関東第二薬局事業本部関東第四事業部の管理栄養士、宮代由佳氏に薬局での栄養相談についてお話を伺った。

クオール薬局の栄養相談体制

 全国に817店舗(2021年5月31日時点)を展開するクオール薬局は、薬局店舗における栄養相談にも注力して取り組んでいる。クオール薬局はエリアごとの事業部制を敷き、各事業部は30店舗程度で構成される。管理栄養士は各事業部に2~3名が在籍し、事業部エリア内の1店舗に常勤しながら、エリア内全店舗の栄養相談にあたっている。

離乳食、生活習慣病、在宅など幅広く関わる管理栄養士

 宮代氏は、通常はクオール薬局石神井公園店に勤務しているが、同薬局店舗から訪問やオンラインで繋ぐなどして他店舗での栄養相談にも対応している(写真1)。最近は新型コロナ流行の影響を受けてオンラインで実施する機会が増え、相談方法の形態が変化してきていると話す。

 栄養相談における食事指導内容の比重は、管理栄養士が担 当するエリアの環境や時期によって異なる。宮代氏は現在、 離乳食相談に対応することが多く月に20~30件、成人を対象とした栄養相談は月に数件ほどの割合だ。

 過去には在宅にも関わり、地域ケア会議への参加や居宅訪問も行っていたという。居宅訪問の際には、患者さんの食事内容の確認や、実際に食事の様子を見てアドバイスをするなどしていた。現在は少なくなってしまったが、体組成計や口腔内の細菌チェックといった機器を用いた健康イベントも数多く開催し、栄養相談を行うこともあった。イベントには薬剤師が同席することもあり、「自宅に多数の薬があって、どういった作用の薬かわからなくなってしまった」、「飲み合わせを改めて確認したい」といった参加者の薬の悩みを拾う機会にもなっていたという。 

栄養相談を始めるきっかけ

1)離乳食相談

 同薬局の離乳食相談は、医師と連携して実施することが多い。乳幼児健診後に、薬局で離乳食に関する説明を受けるよう医師から促される。宮代氏によれば、「月齢によって悩みはさまざまだが、与えている食品の種類に偏りが見られたり、食事量や固さがわからない、アレルギーを心配して食品の種類を増やすことできない、ミルク・母乳と食事の量が適正かといった相談を受けることが多い」という。新型コロナ流行以降、マスクができない乳幼児を連れた外出は避けたいといった要望も多く、宮代氏は相談者の要望に応じてオンライン・対面を選択して対応している。

2)生活習慣病、健康診断による栄養相談

 成人に関していえば、具体的な栄養相談に来る患者さんは、糖尿病や脂質異常症を罹患した方が多く、宮代氏は「今までの経験上、糖尿病と脂質異常の両方があり、悩まれている患 者様が多い」と指摘する。また、40~50歳代の男性で、体重、尿酸値、中性脂肪といった健康診断の項目でひっかかってし まい、何から対策を始めたらよいかという相談も多いという。

 栄養相談のきっかけは、薬剤師から連携を受けて始めるこ ともあれば、店舗に掲示したポスターなどを見て、患者さん から直接依頼を受けるといったケースもあり、「割合的には半々くらい」と、宮代氏。相談依頼者が服薬していれば、宮代氏は栄養相談に臨む前に、薬剤師から服用中の薬の特徴や注意事項を確認しておく。糖尿病の治療薬のなかには、食欲増 進や体重増加を招くものもあり、指導内容に影響する可能性があるためだ。

5つのステップで進め、継続的な指導に繋ぐ

宮代氏は次のような流れで栄養相談を進めている。

1. 相談者の現状確認
  • 指導の判断材料とするため、直近の健康診断結果や血液検査結果を必ず持ってきてもらう(体重測定を依頼することもある)。
  • 事前の食事記録の作成は相談者の負担にもなるので、相談時に数日間の食事内容を確認する。
2. 相談者主体の目標設定
  • 重要なのは「相談者自身が目標を設定すること」。薬局の栄養相談では、管理栄養士はあくまでフォロー役であり、指導内容を実践する主体は相談者本人である。
  • たとえば糖尿病治療の場合、目指すべき医療的な数値はあるが、まずは患者さん自身がいつまでに体重をどの程度の値まで落としたいか、という希望に応じた目標を設定する。
  • 「自炊できない」、「付き合いで飲み会が減らせない」といった 相談者の譲れないポイントを考慮する。
  • 目標設定が高すぎる場合は、達成可能な範囲の目標値の提案もするが、基本的には相談者の希望に合わせる。栄養指導が医師の依頼であれば、医師の依頼内容を相談者に伝えたうえで、話し合って目標を決める。
3. 指導内容をひとつずつ実践
  • 最初に指導内容を3つ程度挙げ、初回はそのうちの1つを実践するよう提案する。その1つが実践できれば、2回目の相談以降に2つ目、3つ目と進めていく。基本的に1回の栄養相談 の指導内容は1~2つ。
  • 目標設定時に確認した相談者が譲れないポイントは、「代わりにこれを実践すれば問題ない」として、相談者が指導内容に 納得して継続的に取り組めることを優先する。
4. 次回予約の確保
  • 継続的に指導を受けることが効果的と説明し、「1回の栄養相 談では、なかなか食生活を変えることは難しいし、困ることも多いと思うためフォローしたい」と相談者に伝えて、初回 相談時に次回の相談予約を取るようにする。「次回予約を取るか取らないかで継続に大きな差が出る」と 宮代氏はその重要性を指摘する。
5. 薬局全体でフォロー
  • 栄養相談実施後には、クオール薬局独自の「相談記録」といっ た薬局内の情報共有ツールや薬歴に、来局日や相談内容、目標、指導事項、経過などを記録する。
  • 栄養指導は1回の相談で効果がみられるものではなく、継続 的に指導の効果を確認する必要があるので、記録を残して経過を追う。
  • 薬局内で情報を共有することで、管理栄養士が不在時に相談者が来局しても、店舗の誰もが「前回はこうした内容のお話 をしたようですね」、「数値がよくなっていたようですね」と いった声掛けができるようになる。
  • 店舗全体で見てもらっているとの実感を相談者が持つこと で、栄養相談に対するモチベーション維持や指導継続のバックアップになる。

最初の指導内容はハードルを下げて継続させることを優先する

 宮代氏は、具体的な指導内容では「ハードルを上げ過ぎないこと」を大事にしている。

 疾患にもよるが、相談者がどうしてもお酒をやめられない、尿酸値の高いという方であれば、初回の栄養相談では少量の 飲酒は認めたうえで、尿酸を体内から出すために「1日2リットルを目標に水を飲むようにしましょう」と提案する。糖尿 病の患者さんの場合は、血糖値だけの問題ではなく、中性脂肪もひっかかる方も多いという。そうした方の場合、外食の頻度も高いことが多いため、「外食を1回減らしましょう」。間食の頻度が高い方は、毎日食べるのであれば、「間食は1日おきにしましょう」「週1回は間食をやめましょう」など。自炊ができない方であれば、コンビニや惣菜、外食メニューの活用方法などを紹介する。

 ハードルを低くし、気軽に取り組めるように促せば、継続的な取り組みへと繋がり、ひいては患者さんの食生活や生活習慣の改善に繋げることができる。

健康食品やサプリメントの活用と地域性の理解

 栄養相談のなかで、相談者が食事では摂りにくいと感じた ものがあれば、宮代氏はサプリメントを勧めることもある。サプリメントと薬の相互作用は薬剤師に確認する。宮代氏は 取り入れやすいサプリメントや健康食品の一例として食物繊維関係の商品を挙げ、「糖尿病患者様や、食事をすぐに変える ことが難しい方、体重を減らしたい方や中性脂肪・コレステ ロールに悩んでいる方にもメリットが大きいかと思う」。栄養相談を受けた相談者も手に取ることが多いという(写真2)。

 健康食品やサプリメントといった物販品目の取扱い状況には、薬局の地域性が影響するようだ。宮代氏によれば、「明確な理由は定かではないが、郊外ではカロリーの少ないおやつや血糖値に影響を及ぼしにくい糖尿病患者様向けの間食など、普段の生活に取り入れられるものの取扱いが多いと感じる。都市部になると、こうした菓子類の取扱いは減る傾向にある」と地域性の違いを指摘した。薬局にとっては興味深い知見で、他の傾向についてもぜひ知りたいところだ。

薬局は気軽に栄養の相談ができ、相談者主体の解決策を提案できる存在

 宮代氏は、薬局の管理栄養士は相談者主体の栄養指導が実 践できると考えている。「病院では、栄養指導に対して患者様 が受け身になりがちで、希望や疑問を言い出しにくいケース がある。一方で、薬局の管理栄養士には、患者様は自身の希望 や疑問を伝えやすいように見受けられる。病院で受けた栄養指導に対する患者様の疑問を解消したり、希望をかなえたりといった役割を担える。薬局薬剤師も栄養指導に関する具体的な提案は難しくても、基本的な指導内容は理解しており、 簡単なアドバイスはできると思う。そもそも病院の栄養指導 を受けていない方も多い。薬局は食事面で困っている方、血 液検査の結果が気になるという方が気軽に相談できて、その 解決策を提案できる存在だと思う」と薬局の役割をまとめた。