発熱に関連するバイタルサイン
呼吸回数の確認は薬局でもできる
一般的には、体温が37℃を超えると「熱がある」と表現することが多いと思います。しかし、正常時の体温は年齢などにより個人差があり、体温測定する部位や方法によっても変化します。腋窩温37.5℃程度までは正常時でもみられますので、37℃を超えているからといって必ずしも異常というわけではありません。では、どのようにして発熱の原因疾患を鑑別し、その危険性や緊急性の高さを見分けるのでしょうか。医師の臨床診断では、発熱を訴える患者さんに対して、まず血圧や呼吸回数、脈拍などのバイタルサインをチェックし、危険性や緊急性の高さを確認します。
血圧
血圧の急激な上昇や低下を伴う発熱は、大動脈解離や敗血症など危険性の高い状態の可能性があります。血圧測定器のある薬局では、発熱の患者さんに血圧測定を勧めることは有用です。
呼吸回数
正常時の呼吸は静かで規則正しく、回数は14~20回/分と言われています。呼吸回数は、その人の胸より上の部分(胸元や肩、鼻や口元)をじっと観察する ことで、相手に尋ねなくともカウントできます。30秒間の呼吸回数を数えて2倍することで、1分間の呼吸回数を算出します。呼吸が上がっている場合、一過性のかぜ症候群ではなく危険性の高い疾患の可能性が高まると言えます。特に、呼吸回数が30回/分以上の場合は重症が示唆されますので注意が必要です。
呼吸回数のチェックは、慣れれば会話をしながらでもできるようになりますが、薬剤師さんの多岐にわたる業務の中ではじっくりと30秒間も観察する余裕がない場面もあるでしょう。より簡便な方法と しては、患者さんが話している最中の息継ぎの確認がお勧めです。走った直後のように、1つの文を話し切れずに息継ぎをしてしまうのは、呼吸回数が20回/分を超え異常をきたしているサインととらえます。
脈拍数
発熱と脈拍は相関することが多く、体温が0.55℃上昇すると脈拍が10回/分上がると言われています。病院やクリニックでは、脈拍数はパルスオキシメーター (サチュレーションモニター)などの機器を使用することが一般的となっています。ただし、これは薬局共通の常備アイテムではないでしょうから、脈拍数の確認は病院やクリニックに委ねた方が賢明と考えます。
バイタルサイン以外の重要な確認事項
食欲低下は危険なサイン
食欲
意外に思われるかもしれませんが、食欲の確認は非常に重要です。食欲の低下が栄養やエネルギーの不足をもたらすという意味はもちろんですが、食欲には血圧も関連していると考えられているのです。人間は、血圧が低下している危険な状態を動物的な本能で「敵から逃げなければならない緊急事態」として認識します。その結果、心臓や筋肉、脳など「身体を動かす」ための臓器への血流量が増加する一方で、腸管への血流量は少なくなります。そのため、腸の働きが低下し、結果的に食欲がなくなると考えられます。こうした原理から食欲は危険性や緊急性の高さを示唆するファクターと言えます。発熱に食欲低下が伴う場合はハイリスクの疾患の可能性を考える必要があり、逆に発熱はあるが食欲もあるといった場合は、危険性や緊急性が低いケースが多いです。
睡眠
食欲と同じように、人間の根源的欲求である睡眠欲が満たされていることは重要です。通常のように眠ることができずに発熱がある場合、危険性・緊急性は高まります。薬剤師さんと患者さんの会話でも聴き取りやすい内容だと思いますので、ぜひ確認していただきたいです。
上気道症状(特に鼻水)
上気道症状の有無も危険性や緊急性の高さを知る指標の1つです。発熱以外の症状が、鼻水やくしゃみ、咽頭痛といった上気道症状のみの場合、基本的には危険性や緊急性が低いと考えられます。鼻水やくしゃみがなく咽頭痛と発熱のみの場合、急性喉頭蓋炎という可能性はありますが頻度はごくまれです。発熱 に上気道症状のみという病態は、病院やクリニックを受診しなくともおおむねセルフメディケーションの範囲で治癒可能です。特に鼻水がある場合は、その傾向が強いと考えて差し支えないと思います。
ここまでを踏まえ、発熱患者さんに対する重要な 確認事項を、薬局で実施可能なレベルとして表1にまとめます。
発熱+咽頭痛
上気道にある咽頭の痛みは、頻度は高いものの、かぜ症候群(急性上気道炎)に代表されるように自然軽快する病態が多いです。ただし、症状の部位に よっては危険性が高いものもあります。
まず、頻度は低いですが口腔内があまり赤くなっていないのに喉頭周囲が激しく痛む場合、急性喉頭蓋炎の可能性があります。気道閉塞リスクがある緊急性の高い疾患で、気道確保が必要です。疑われる場合はすぐに耳鼻咽喉科の受診を勧めましょう。のど仏の下に位置する甲状腺周囲の圧痛は、亜急性甲状腺炎の可能性があります。専門施設で甲状腺機能を調べる必要があります(図1)。
一方、咽頭痛の大多数を占める咽頭部の痛みの場合、医師の診断では、体温・咳嗽の有無・年齢などの要素をスコア化します。その結果、溶連菌の感染が疑われる場合には、診断キットを用いて調べ、感染の確認または感染が強く疑われる場合は、細菌性咽頭炎(扁桃炎)として抗菌薬を投与します。抗菌薬は、アモキシシリンやセファクロル、クリンダマイシン塩酸塩、アジスロマイシン水和物などで、症状が軽快しても内服を続けて飲み切ることが大切です。細菌性が否定された場合、ウイルス性咽頭炎(扁桃炎)が疑われます。原因ウイルスには、ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイル スなどがあります。アデノウイルス感染症の場合、発熱と咽頭痛のほかに、全身倦怠感や筋肉痛を伴うケースが多いです。また、頻度はまれですが、咽頭部が痛む場合、扁桃炎の経過中に片側の扁桃に激しい痛みをきたす扁桃周囲膿瘍や、口蓋垂の後ろにある咽頭後壁が腫れる咽後膿瘍に罹患する可能性もあります。これらは、急性喉頭蓋炎と同様、緊急の処置が必要です(表2)。
発熱+呼吸器症状
呼吸器症状には、呼吸困難、咳嗽、喀痰、血痰などがありますが、咳嗽を主訴にした発熱症例の大半はかぜ症候群(急性上気道炎)です。基礎疾患のない健康成人では、まずは対症療法としてNSAIDsの投与が基本となります。呼吸回数20回/分超の頻呼吸や呼吸困難、咳嗽を伴う発熱の場合、肺炎罹患が強く疑われます。肺炎には様々な種類がありますが、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、非定型肺炎の3つに大別されます。細菌性肺炎の症状は、湿った咳と膿性痰、ウイルス性肺炎の症状は乾いた咳嗽や呼吸困難のほか、高熱や全身の筋肉痛、非定型肺炎の症状は乾いた咳が特徴的です。症状発現の2~3週間以内に温泉へ行ったり自宅で循環式風呂を利用した場合、レジオネラ肺炎(非定型肺炎の1つ)の可能性も考えられます。全年齢を通して頻度が高いのは肺炎球菌による肺炎です。なお、高齢者には肺炎罹患者が多いのですが、症状が乏しいことも多く、倦怠感を訴える程度の場合でも肺炎の可能性は視野に入れるべきでしょう。咽頭周囲の痛みとともに、唾を飲み込めない・声がこもるといった症状は、前述の急性喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍でもみられます。こうした患者さんの相談を受けた際は耳鼻咽喉科の受診を勧めましょう。咳嗽が2週間以上長引いてさらに血痰を伴う場合、肺結核の可能性が疑われますので、総合病院や結核の診療が可能な施設の受診が必要です。全国の保健所でも結核に関する相談に対応しています。
発熱+下痢
下痢は「1日に3回以上の軟便〜水様便がある状態」と定義されます。発熱に伴う下痢で多いのは、ウイルス性腸炎、細菌性腸炎、食中毒です。いずれも 便中白血球や便培養検査で原因微生物を調べないと特定できません。ノロウイルスなど対症療法しか治療選択肢がないものもありますが、1日に6回以上の下痢または体温が 38℃以上など、症状が比較的重い患者さんには、やはり医療機関の受診を勧めていただきたいです。
初期の評価としては、脱水の有無、下痢の持続期間、発熱・血便・テネスムスの有無を確認します。脱水症状がみられる患者さんが来局された際は、まずは経口補水液を勧めてください。ただし、脱水症状が強いと飲食の経口摂取ができずに入院で点滴処置を要する患者さんもいます。経口補水液を飲めないような患者さんには一刻も早く医療機関の受診を促していただきたいです。下痢の持続期間は、2週間未満(急性)、2週間以上4週間未満(持続性)、4週間以上(慢性)に分けられますが、急性下痢の多くは一過性で予後良好ですので、一般用医薬品を用いた対症療法でも対応可能なケースが多いです。一方、持続性または慢性の下痢症状がある場合は、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患、抗菌薬関連腸炎、過敏性腸症候群、悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症といった可能性がありますので、消化器科の受診を勧めてください。
発熱+皮疹
発熱を伴う皮疹は原因疾患が多岐にわたります。そのため鑑別は容易ではなく、医療機関の受診を勧めることを基本としていただきたいです。
頻度の高いものとしては、ウイルス感染による発疹があります。有名な風疹・麻疹は、流行状況とワクチン接種歴を把握することが鑑別に極めて重要ですが、全体の数からすると頻度は高くありません。むしろ、ほかの種々のウイルスが原因となることが多く、それらの皮疹症状は非特異的です。軽症の薬疹も頻度が高い病態ですが、疑われる薬剤を中止し経過を観察しない限り鑑別は困難です。そのほか頻度の高い発熱と皮疹の疾患としては、皮膚の緊張を伴う浮腫や、皮膚の潰瘍、頻脈、頻呼吸、皮膚病変の範囲を越えた痛みなどの症状がみられる軟部組織感染症があります。
一方、頻度は低いものの、緊急性が高い疾患としては、電撃性紫斑病、輸入感染症、重症の薬疹などがあります。電撃性紫斑病は、紫斑・点状出血が出現して急速に進行する病態です。多くは敗血症を呈しているため、バイタルサインのチェックが重要で緊急搬送を検討すべき病態です。1カ月以内の海外渡航歴(特にアフリカ、アジア)がある患者さんの皮疹と発熱は、ウイルス性出血熱、デング熱、腸チフスなどの輸入感染症が考えられますので専門施設での検査が必要です。全身の発疹に加え、口腔や眼の粘膜にも病変が出現している場合は、重症の薬疹が疑われます。原因となりやすい薬剤としてアロプリノール、抗てんかん薬(特にカルバマゼピン)、抗菌薬(サルファ剤)が知られています。重症の薬疹が疑われる場合、緊急対応が必要となりますので医療機関へ誘導してください。
薬剤熱
薬剤熱とは、「薬剤の投与に関連して発生し、薬剤の中止後に消失するものであり、身体診察や検査所見にて原因が明らかでないもの」です。発疹がみられれば薬剤熱の可能性を探りやすくなりますが、発疹がないからといって薬剤熱を否定することはできません。また、37℃台の微熱から悪寒・戦慄を伴う重度の発熱まで、発熱のパターンも様々です。
薬剤熱の鑑別は非常に困難であるがゆえに、発熱の患者さんに対しては、わずかながらでも薬剤熱の可能性を常に念頭におくことが大切です。薬剤熱を引き起こしやすい薬剤の代表例を表3に示します。特に抗菌薬は注意が必要です。安易な抗菌薬の投与が逆に発熱の原因になりかねません。医師が原因微生物についてしっかりと検討した上で抗菌薬を処方したのであれば良いのですが、そうでないようなケースでペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬が処方されている場合、薬剤熱の可能性が高まるため、処方薬の中止や変更の可能性も視野に入れて疑義照会
を行っても良いかもしれません。薬剤熱に関連する薬剤歴を調べる際は、できれば直近のものだけでなく、数カ月前までをお薬手帳や聴き取りによってさかのぼってください。
発熱+関節痛・背部痛・腰痛
関節痛を伴う発熱をきたす疾患は、感染性関節炎、痛風、偽痛風、関節リウマチ、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症など多岐にわたります。鑑別にはX線撮影や血液検査を要することが多いため、ここでは疾患の紹介のみに留めます。
背部痛や腰痛に発熱を伴う病態の多くは、特別な治療が必要のないウイルス感染などの感染症によるもので、鎮痛剤や湿布剤などで治療することが一般的です。ただし、一部に注意すべき疾患もあり、それらは発症時期を踏まえた鑑別が必要になります。発症時刻が特定できるほどに突然痛みが発症した場合、血圧上昇がみられれば大動脈解離、血尿を伴えば尿路結石が疑われます。発症から数日程度の急性の痛みの場合、咳嗽があれば急性肺炎、胆石があれば急性膵炎、膿尿があれば急性腎盂腎炎の可能性が考えられます。慢性的な痛みが続くケースでは、体重が減少していれば悪性腫瘍が疑われ、糖尿病・慢性腎臓病・アルコール依存といった基礎疾患があったり経静脈麻薬を常用していれば腸腰筋膿瘍の可能性もあります(表4)。
発熱+泌尿器症状
診断によって治療法や治療期間が異なるため診断を明確にする必要があり、医療機関の受診が基本です。排尿時痛、残尿感、下腹部痛、頻尿、尿混濁、血尿といった膀胱炎の症状に発熱を伴う女性は腎盂腎炎の可能性があります。腎盂腎炎は女性に多い疾患で、同じ症状が男性にある場合は急性前立腺炎が考えられ、肛門周囲の不快感、下部腰痛などがみられます。このほか、精巣上体炎や腎膿瘍、腎周囲膿瘍といった疾患の可能性が考えられますが、いずれの疾患であっても適切に抗菌薬による治療を行います。
臨床推論による処方薬提言や医療現場のコミュニケーションに対する期待
発熱疾患の治療において最近問題視されているのが、抗菌薬の不用意な処方や長期の処方です。特に、痰や気道炎症に対する作用を期待してマクロライド系抗菌薬が長期処方されるケースが散見されますが、マクロライド系抗菌薬の処方により突然死が増加したという臨床試験の結果1)もあり、不整脈などの有害事象発現も懸念されます。必要以上の抗菌薬の処方は、薬剤師のみなさんが疑義照会などを通じて薬剤整理や減薬を行えると是正されるのではないかと期待しています。
近年、医師だけでなく薬剤師も臨床推論を行うべきという流れがあると思いますが、私はぜひそのようになってほしいと考えます。特に医師の人数や病院数が少ない郊外の地域では、薬剤師さんに医療を支えられているのが現状です。薬剤師のみなさんには、来局された患者さんの疾患についてご自身で探索し、OTCを用いた対応方法を患者さんに指南したり、医師へ処方薬の提言をするくらいの姿勢で取り組んでいただきたいと考えています。
さらに、患者さんや医療チームでのコミュニケーションについても期待しています。患者さんには医師や看護師には話しづらいこともあると思いますので、薬剤師さんが本音を聞き出して汲み取っていただけると助かります。たとえかぜ症候群であっても患者さんの辛さに共感することは重要です。OTCを求めに来た患者さんにも常に共感の姿勢で対応していただくと、より良いサービスが提供できると思います。また、今後は多職種で医療連携する場面が増えます。薬物療法はあらゆる疾患治療の中心ですので、様々な立場から成るチーム医療においても薬剤師さんの役割は大きいと思います。ぜひ色々な医療関係者とのコミュニケーションを試してみてください。
1) Ray WA et al. N Engl J Med. 2012 ; 366(20): 1881-1890