監修
富永病院副院長 脳神経内科部長・頭痛センター長
竹島 多賀夫 氏

 日本人の片頭痛の有病率は約8.4%。糖尿病に匹敵するほどの多くの患者が存在する片頭痛ですが、生活に何らかの支障が生じている人が片頭痛患者の7割以上にもかかわらず、医療機関を受診している人はわずか3割という報告があります。罹患者の男女比は1:4と女性に多く、特に30~40歳代の女性の有病率が高いとされます。2021年には片頭痛の新薬が登場しました。今回は、富永病院副院長脳神経内科部長・頭痛センター長の竹島多賀夫氏に、片頭痛治療の最新情報を解説していただきます。

片頭痛の鑑別と特徴

 頭痛は、一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛など)と、二次性頭痛(くも膜下出血、脳腫瘍など他疾患による頭痛)に大別されます。血液検査や画像診断で脳内の異常所見がない場合、一次性頭痛として鑑別していきます。片頭痛は、日常生活に支障が生じる度合いの痛み、痛みが拍動性、悪心・嘔吐を伴う、音・光・臭いといった刺激に過敏、といった臨床上の特徴があります。

緊張型頭痛との違いは?
緊張型頭痛+片頭痛=慢性片頭痛

 片頭痛とともに知られているのが緊張型頭痛です。両者の違いを表1に示します。ただ、こうした違いはあるものの、実際は多くの患者さんが片頭痛と緊張型頭痛の症状を合わせ持っています。片頭痛はその名前から片側が痛むと位置づけられていましたが、実際は両側に痛みがあるケースも多いことも分かってきています。

 かつて、緊張型頭痛+片頭痛という診断がなされていましたが、現在、頭痛日数が多いケースでは、緊張型頭痛+片頭痛は「慢性片頭痛」という診断名になりました。慢性片頭痛は、1カ月に15日以上頭痛発作があり、そのうちの8日以上は片頭痛と解釈できるものと定義されます。片頭痛の方が痛みの程度が強いこともあり、片頭痛の症状が少しでもある患者さんは片頭痛として診療していきます。つまり、片頭痛と緊張型頭痛の区別は、現在はそこまで重要視されていないとも言えます。

片頭痛のメカニズム
血管系と神経系の両方に異常

 片頭痛の痛み発作のメカニズムは、以前から血管系の異常(血管説)か、神経系の異常(神経説)かという議論がありましたが、現在はこの2つを融合した三叉神経血管説で説明されることが多くなっています(図1)。

片頭痛の前兆
ギザギザの光やチクチクの痛み

 片頭痛には、頭痛発作の起きる前に前兆が発生することがあります。よく知られているのは、ギザギザした稲妻様の光が現れ次第に広がって
暗くなり見えなくなる閃せん輝き 暗あん点てんと呼ばれる視覚症状です。チクチクとした痛みなどの感覚症状もしばしば発生します。頻度は低いものの失語性の言語障害もあります。

 ろれつが回らないなどの脳幹性前兆、運動麻痺、単眼の視覚障害が片頭痛に伴って繰り返し発現するなどが頭痛発作の前に現れた場合、これらは典型的ではない前兆としてそれぞれ別に分類されます(図2)


 あくびや集中力の低下、食欲亢進など漠然とした前触れのようなものから頭痛発作が始まるものも「前兆のない片頭痛」として、また別に分類されます。
こうした前兆の後、頭痛として諸症状が発生します(図3)

片頭痛の急性期治療

 片頭痛の急性期治療は薬物療法が中心で、重症度ごとに適した薬剤が選択されます。軽度~中等度の片頭痛には、アセトアミノフェン、アスピリンなどのNSAIDs、中等度~重度にはトリプタンが推奨されます。軽度~中等度であっても過去にNSAIDsで効果が乏しかった場合はトリプタンが選択されます。

急性期治療の中心
トリプタン

トリプタンの作用機序

 トリプタンは選択的セロトニン受容体作動薬です。セロトニン受容体である血管壁の5-HT1B/1D受容体を選択的に刺激して、拡張した硬膜血管の収縮や神経原性炎症を抑制し頭痛を抑えます。

トリプタンの服用タイミング

 トリプタンは服用のタイミングが重要で、「頭痛が始まったら早めに服用」というのが最適です。繰り返す頭痛発作を恐れ予兆期の段階で服用してしまう患者さんがいますが、それでは早すぎて効きが悪くなってしまいます。医師や薬剤師の方でも「予感を感じたら早めに服用」という指導をされている場合がありますので注意が必要です。

 一方で、頭痛発作から時間が経ってから服用しても効きが悪くなります。何回か服用するうちに患者さん自身でタイミングが分かってきますが、トリプタンの投与を始めた頃は、頭痛発作を患者さんが実感した際、頭を振って痛かったら飲んでください(頭を振って痛くなかったら少し我慢してください)、と指導することもあります。

 頭痛発作の開始15分前以降の服用であれば有効という報告もありますが、多くの患者さんはそこまで正確に頭痛発作の開始を予測するのは難しいのです。なお、閃輝暗点があり、その15分後に頭痛発作が始まるといった発作開始が予測しやすい方には、閃輝暗点のタイミングで服用してもらうこともあります。

 なお、NSAIDsなどトリプタン以外の急性期治療薬は、トリプタンよりもう少し前、発作が始まりそうな時点の服用が一番痛みに効くと言われています。

トリプタンの種類

 トリプタンは、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタンの5 種類で、剤形は経口薬のほかに点鼻液と注射剤があります(表2)

 片頭痛に対するトリプタンの効果を確認する際、1回の服用だけでその種類が有効か否かを判断することは難しく、3回程度の投与で状況を観察します。効果の有無は、トリプタン服用から2 時間後の時点で痛みが消失または軽減しているか、服用後24時間以内に再発がないか、を指標とします。

 トリプタンは、添付文書上、家族性片麻痺性片頭痛、孤発性片麻痺性片頭痛、脳底型片頭痛、眼筋麻痺性片頭痛の患者は投与不可とされています。各トリプタンの臨床試験ではこれらの片頭痛患者が対象外のため、安全性のデータがなく投与しないことになっているのです。しかし、実臨床では専門医のもとで慎重に投薬されているケースもあります。

その他の急性期治療薬

 トリプタンやNSAIDs、アセトアミノフェン以外に、片頭痛の急性期治療薬として制吐薬のメトクロプラミドやドンペリドンなどが使用されることがあります。また、保険適応外ですが、重症や重積の発作の場合はプロクロルペラジン、ハロペリドールなどの抗精神病薬、副腎皮質ステロイドが使用されることもあります。

 エルゴタミンは、カフェインと併用することによる相乗効果から配合剤として販売されていますが、24時間以内のトリプタンとの併用ができず、悪心・嘔吐の副作用が多いという点に注意が必要です。

片頭痛の予防療法
実施の基準は?

 片頭痛では、急性期に治療をしても十分な効果が得られず日常に支障をきたす場合に予防療法が行われます。具体的な目安として、急性期治療の薬剤を服用から2時間後時点でも痛みで思うように行動ができない、または、服用2時間後時点である程度効果があるけれどそれが月に10回以上もある、こうした方に私は予防療法を検討します。ただ、これは現在の急性期治療薬と予防療法薬を相対的に考えた上で予防療法を勧める目安ですので、今後の薬剤の状況次第で変わることもあるでしょう。

2021年、予防療法に新薬が登場

 これまで片頭痛の予防には、Ca拮抗薬、抗てんかん薬、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、抗うつ薬などが使用されてきました。

 そして2021年、新たな片頭痛予防薬として、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitoningene-relatedpeptide:CGRP)をターゲットとした抗体医薬の3剤、抗CGRP抗体ガルカネズマブ(エムガルティ)が4月、抗CGRP抗体フレマネズマブ(アジョビ)と抗CGRP受容体抗体エレヌマブ(アイモビーグ)がそれぞれ8月に登場しました。これらの抗体医薬品によって片頭痛治療全体が大きく変わっていくと予想されているのです。

CGRP関連抗体薬の作用機序

 CGRPとは、三叉神経血管説により説明される片頭痛発生時に多量に放出される神経ペプチドです。2021年に登場した抗体医薬の3剤は、CGRPの作用を阻止することで、三叉神経付近の血管の拡張や炎症を抑制し、片頭痛発作の発症を抑制します(図4)

CGRP関連抗体薬の有効性

 当院では、各第3相試験の結果をもとに、患者さんに「約半数以上の方では頭痛発作の程度や回数が半分以下に減少、1割はほとんど頭痛発作がなくなる、1~2割の人はあまり効果がない」と説明しています。8月現在、ガルカネズマブはすでに当院で100例以上の患者さんに使用していますが、初回投与後の時点ですでに既存の予防療法では得られなかった効果がある方や、「人生が変わった」とおっしゃる方もいます。

 3剤同士の比較はまだできていませんが有効性と安全性はともに現時点では3剤の明確な違いはありません。日本より先に3剤が発売になった海外の専門医の話によれば、3剤中1剤で効果が得られなかった患者さんでも、残る2剤のどちらかが有効なケースもあるということなので、そのあたりの投与の工夫も今後期待しています。

CGRP関連抗体薬の薬価とやめ時

 ガルカネズマブは1カ月に1回、フレマネズマブは4週間または12週間に1回、エレヌマブは4週間に1回の皮下注ですので、既存の予防薬のように毎日服用する必要がないのもメリットのひとつです。ただし、薬価が高く、どの薬剤も3割負担で1本の注射代が12,000円を超えてしまいます(ガルカネズマブの初回投与は2本)。

 これらの抗体医薬品をいつまで使用すべきなのか。現時点では、開始から3カ月間まで様子をみて、効果がなければ中止、効果があれば最低半年継続して使う方が良いと思います。臨床試験の結果から、薬の中止後にすぐに再発するケースと再発しないケースがあることが分かっています。片頭痛は、春秋など季節の変わり目や、仕事の繁忙期などに起こりやすいと言われていますので、休薬や投与間隔をあけるタイミングは、個々の患者さんの状態や生活環境で決めていくことになるでしょう。治療効果、医療費どちらも患者さんが納得した上で治療を進めていくことが大切です。

既存予防薬とCGRP関連抗体薬、どちらを選ぶ?

 他の片頭痛予防薬のロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロールなどは、効果が出るまでに数カ月を要すると言われています。ただ、これらの既存予防薬で十分効果がある方も一定数います。経口の予防薬が奏効している場合には抗体医薬に無理に変える必要もありません。効果がない、あるいは経口の予防薬で有害事象が発現している場合は抗体医薬に切り替えるという選択が良いと考えられます。

既存の経口予防薬は処方意図を薬局でも理解して

 片頭痛の予防療法として多いのが、併存疾患を治療する意味でも投与しているというケースです。たとえば、血圧がやや高めの片頭痛の患者さんではβ遮断薬、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬が片頭痛と高血圧の両方に作用しますので、片頭痛の予防療法にこれらの薬剤を処方することがあります。

 片頭痛の予防療法は、これまで医療関係者にも認知度が高いとは言えませんでした。そのため、併存疾患がない患者さんに経口の片頭痛予防薬を選択した場合、薬局ではしばしば誤解が生じているようです。たとえばCa拮抗薬のベラパミルは片頭痛予防薬のひとつで、厚労省医療課長通知により保険診療における適応外使用が認められます。薬局薬剤師さんに「心臓が悪いのですか」と言われ患者さんが動揺されたケースがありました。また、アミトリプチリンを処方した際も薬剤師さんから「抗うつ剤がでていますね」と言われ落ち込んでしまった患者さんもいました。片頭痛の予防療法を施行する患者さんの多くは基本的に急性期治療薬も同時に処方されていますので、そうした情報を参考に、こうした薬剤が片頭痛の予防として処方される場合があることを認知いただけると助かります(表3)

薬剤の使用過多による頭痛
(薬物乱用頭痛)

 薬物乱用頭痛をご存じでしょうか。鎮痛薬やトリプタンなどの急性期治療薬を過剰に服用することで、以前よりも頭痛発作を起こしやすくなる状態、これが薬物乱用頭痛です。

 薬物乱用頭痛の診断基準は、トリプタン・複合鎮痛薬・エルゴタミンの場合1カ月に合計10日以上の服用、単純鎮痛薬の場合1カ月に合計15日以上の服用、この状態がそれぞれ3カ月以上連続していることです。なお、単独でカウントした時にこの回数に該当しなくても、複数の薬剤を組み合わせて1カ月に合計10日以上の服用となれば、それも薬物乱用頭痛の基準に該当します。

 薬物乱用頭痛では特に市販の複合鎮痛薬には注意が必要です。いつでも簡単に購入できる上に、成分にカフェインや鎮静剤が入っているものが多く、効き目が早いとされる一方で依存性が懸念されます。

 また、薬物乱用頭痛は予防薬にも影響を及ぼします。既存の経口の片頭痛予防薬は急性期治療薬の過剰服用を減らしてからでないと効かないと言われてきました。しかし、痛みが辛くすぐに減量出来ない患者さんも少なくありません。その点で、抗体医薬は急性期治療薬を減らす前から投与しても効果が期待できるメリットがあります。抗体医薬の投与によって頭痛が軽減されていけば、急性期治療薬のスムーズな減薬が可能です。

プラセボ効果を味方に薬の効果を最大に引き出して

 片頭痛は心理的要因が大きく影響しやすい疾患と言えます。薬剤に対する患者さんの主観的な好みが効果に影響することもままあります。

 臨床試験ではプラセボ効果は評価の障害となりますが、実臨床では患者さんの状態が良くなることが一番の目的です。そのためには、薬学的な観点だけでなく患者さんの好みも実は重要です。

 添加物などの違いだけで薬効としては変わらないはずですが、先発品の方が効く、あるいは逆に後発品の方が効くと感じられる患者さんがいることは事実です。OTCでも特別感のある名称がついた製品は、心理的な影響による効果もあるかもしれません。こうしたプラセボ効果のようなものもうまく活用していけるとより良いのではないかと思います。

 片頭痛は辛い症状ですので、薬剤師さんの服薬指導の際には、患者さんに寄り添った服薬指導をしていただくことが薬の効果を最大限に引き出すことにつながると思っています。また、ドラッグストアで大量に鎮痛薬を購入している人を見かけたら、早めに受診を、と声をかけてあげてください。

まとめ
  1. 片頭痛の痛みは、日常生活に支障がある程度で拍動性。悪心・嘔吐を伴う場合が多く、音・光・臭いといった刺激に過敏になる。
  2. 片頭痛のメカニズムとして、三叉神経終末からCGRPなどの神経ペプチドが放出することで、血管拡張と神経原性の炎症をきたし、痛みが発生すると考えられている。
  3. 急性期治療の中心はトリプタン。服用タイミングは早過ぎても遅すぎても効果が減弱する。「痛みの予感ではなく痛み自体が始まったと感じたら早めに」がベスト。頭を振って痛みがある、おじぎすると頭痛が発生するなどが目安。
  4. 各トリプタンは、効果発現までの時間や効果持続時間などに違いがあるとされるが、どの薬剤が良いかは患者による。
  5. 新しい片頭痛予防薬のCGRP関連抗体薬を投与すると、約半数以上の方では頭痛発作の程度や回数が半減、1割はほとんど頭痛発作がなくなると言われる。ただし現時点では高額な治療。
  6. 既存の経口の片頭痛予防薬は、併存疾患や有害事象の少なさが考慮され処方されている。適応外使用も多いが標準的な薬はおさえておく。
  7. 薬物乱用頭痛は月に10~15日の服用が3カ月以上続くことで発生。トリプタンと市販の複合鎮痛薬の過剰服用には特に注意を。

竹島 多賀夫 氏 プロフィール

1984年、鳥取大学医学部卒。医学博士、脳神経内科専門医、頭痛専門医、総合内科専門医。鳥取大学医学部・脳神経内科助手、講師、助教授、准教授を経て、2010年より社会医療法人寿会富永病院脳神経内科部長、頭痛センター長、2021年より副院長。米国国立衛生研究所(NIH)に留学、神経細胞分子生物学研究に従事。日本頭痛学会副代表理事、日本神経学会理事。頭痛症、パーキンソン病に関連した論文、著書、多数。頭痛の知識の普及のため講演活動も積極的に行っている。
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コラム 片頭痛を誘発するのは?

 日常的には同じ意味で使用しがちな言葉だが、片頭痛の「原因(cause)」と「誘因(trigger)」では意味合いが異なる。原因は、片頭痛を引き起こすもとになっているもので、これは遺伝的素因(原因遺伝子)による側面が大きいと考えられている。一方、誘因は日常生活での発作のトリガーと位置づけられる。片頭痛の誘発因子には以下がある。

●精神的因子:ストレス、精神的緊張、疲労、睡眠不足、睡眠過多

●内因性因子:月経周期

●環境因子:天候の変化、温度差、頻回の旅行、臭い

●食事性因子:空腹、アルコール

 中でもストレスは高頻度に誘発する因子だ。片頭痛患者の約60%はストレス下で、約25%はストレスから解放された時に痛みを感じるという。

 アルコールの中では特に赤ワイン。ヒスタミンや血管拡張作用のあるアルコール成分とポリフェノールは片頭痛への関与が認められている。ただし、このことを認識していない患者では発作が誘発されなかったという報告もある。知らぬが仏というわけだ。

 食べ物では、チーズやチョコレート、ナッツ類、柑橘類が片頭痛を誘発することが古くから言われているが、現代の研究によるとこれらは個人差が大きく一概に誘発因子とは言えないようだ。こうしたことから、片頭痛を誘発する因子や傾向について、患者自身が個別に認知しておくことが重要だ。