するどい鈎をもつロッククライマー
カギカズラは日本の暖かな地方に野生している蔓性の木で、九州をはじめ関東地方の房総半島あたりまで見られます。葉のすぐ上部に短枝が変化して下方に曲がり、先端のとがった鈎状の棘があります。その鈎のつき方に特徴があり、左右に 2個出るものと1個出るものが交互につきます。この鈎状の棘により枝の先端部を他の植物に巻 きつけ登って成長します。6~7月にかけて淡黄色をした筒状の花が球状にかたまって葉の基か ら出た花柄上につきます。
子どもから老人まで
興奮を静める立役者
鈎状の棘の部分を生薬の「釣藤鈎(ちょうとうこう)」として、漢方では鎮痙、鎮静、血圧降下の効があるとして脳動脈の硬化、痙攣、高血圧、頭痛、めまい、小児のひきつけなどに用いられます。最近の研究では、釣藤鈎にアルツハイマー病の原因蓄積物質であるアミロイドβタンパクの凝集抑制作用があると報告されています。医療用漢方製剤148処方には抑肝散(よくかんさん)など4処方に配合されています。その中から代表的な漢方処方を2つご紹介します。
七物降下湯(しちもつこうかとう)
当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・川芎(せんきゅう)・地黄(じおう)・釣藤鈎・黄耆(おうぎ)・ 黄柏(おうばく)の7味(出典『修琴堂』)。四物湯 (しもつとう)に釣藤鈎・黄 耆・黄柏を加味して大塚敬節氏が創製された処方 です。釣藤鈎は黄耆との組み合わせで相乗効果を 示し、脳血管を広げて脳循環を良くする作用があり、高血圧に伴う随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重)に用いられます。
抑肝散
当帰・釣藤鈎・川芎・白朮(びゃくじゅつ。蒼朮(そうじゅつ)も可)・茯苓(ぶくりょう)・柴胡(さいこ)・甘草(かんぞう)の7味(出典『保嬰撮要』)。柴胡、釣藤鈎と甘草で肝気の緊張を緩解し、神経の興奮を静めます。この処方は主として癇症、神経症、神経 衰弱、ヒステリー、不眠症などに用いられます。もともと子どもの夜泣き、疳(かん)の虫に使われていた漢方薬で、昔から母子同服が望ましいとされています。現在は大人の神経症状にも使われ、認知症の周辺症状に対する効果ですっかり有名になった処方です。