新たに薬剤師になった皆さん、薬剤師免許の意味を改めて考えてみましょう。これから薬剤師としてキャリアを積むにあたり、個人、そして組織の一員としての責任と意識付けを身に付けることが重要になります。今回は、帝京平成大学薬学部薬学科教授、井手口直子氏に新社会人としての心得についてお話しいただきました。

薬剤師免許とは3つの自己責任の付与の証

 薬剤師免許とは、次の3つの自己責任の付与の証と考えていただきたいと思います。

❶自分の仕事に対する責任

命に関わる薬を扱う権利を持ち、責任を取ることができる存在になる

❷自己学習・能力開発の責

与えられるのを待つのではなく、自ら学ぶ姿勢を持つ

❸キャリア開発の責任

自分で自らのキャリアマネジメントをする

 これらの責任が与えられるということは、責任を果たすために自分の判断で動いて良い権利があるということでもあります。これから薬剤師としていかに働くかは皆さんの動き方次第なのです。

自己と組織、2軸のバランスを取って働く 

 働くにあたり、薬剤師には2つの軸が求められます。1つは先に自己責任のなかで述べたような自身の業務や自己学習等への責任といった「個人」、もう1つが「組織」です。仕事はひとりではできず、必ず組織で行っています。組織のビジョンを理解して貢献するという役割も果たさなくてはいけません。個人と組織、両軸でしっかりと立つことこそ、良い仕事とキャリアを積むことに繋がります。

 組織では、❶高い専門性の発揮❷業務管理力❸人材育成

の3点が重視されます。は個人の責任でもあり、言われずとも認識されている方が多いと思います。組織の課題となりがちなのが、です。

 例えば、混雑している外来のなか周りを気にせず患者さんと長時間話し込んでいる、在宅訪問に行ったまま連絡もなく何時間も帰ってこない…熱心に患者さんに寄り添う姿勢は評価すべき点ですが、その間の外来対応や事務作業等は他の薬剤師に負担がかかっており、業務管理力があるとはいえないでしょう。常にQuality(品質)、Cos(tコスト)、Delivery(納期)を意識すること。業務管理力に不可欠な姿勢です。

 人材育成とは、職場のコミュニケーション環境を整えることも含みます。特に経験が浅いうちは周囲と相談する機会が多いでしょう。その時に話しやすい環境を作っておく。新入社員であっても教えてもらうばかりではなく、上司が働きやすい、指示がしやすい関係性を築くことが求められます。

薬局の多様な顧客時と場合で優先順位を判断する

 一般的に、商品やサービスの販売・提供対象となる(ニーズを持つ)個人や法人を「顧客」と呼びますが、それだけでなく仕事の質に影響を及ぼす人すべてを顧客と捉えてみましょう。この考え方において、顧客は「外部顧客」と「内部顧客」に分けられます。

 薬局の外部顧客のうち、最優先顧客は患者さんですが、他の医療機関のスタッフ、MRや卸、近隣の薬局なども対象になります。内部顧客とは薬局組織内の関係者で、上司、同僚、部下、薬局本部などです。このように皆さんにはさまざまな顧客がおり、皆さんに対してニーズを持っています。

 時と場合によって優先すべき顧客は変化し、その都度判断が求められます。たとえ外来が混んでいても検品待ちのために卸を待たせ続けたりすれば、関係性が悪化し、結果的に仕事の質に影響を及ぼします。いま何を優先すべきか順位付けができるということは、その人がきちんと仕事を回せる証でもあります。外部・内部ともに顧客のニーズを満たすことが仕事の質の向上に結び付くのです。

これから働き始める皆さんへ

 着任した薬局の環境は個々別々であり、育成方法も異なると思います。そのなかでも個人、また組織のひとりとして自らを成長させるために、こうした基本の意識付けからまず始めて日々の業務に取り組んでいただきたいと思います。

新たに薬剤師として勤務をはじめた新社会人薬剤師さん向けの心得をまとめました。

下記の内容はこちらからPDFをダウンロードできます。勤務先での新人教育や社内マニュアルとしてご利用ください!

その1 4大基本姿勢

❶早めの出社

前日の業務の整理や自己学習のための情報収集などを行い、始業前に心に余裕を持つ。

❷あいさつ

=明るく、

=いつも、

=先に(返すのは当たり前!自分からすることに価値がある)、

=続けて(挨拶のあとに、天気や何気ないひと言を添えるだけでコミュニケーションが続く)

の精神で。

❸報・連・相の徹底

報告・連絡忘れが多いので注意。何か指示や依頼された業務を終えたら、「終わった」ことも報告を。指示をした人に報告することが原則。

❹掃除・整理整頓

整理整頓をすることで職場の雰囲気は良くなり、問題点に気づくこともある。物の配置を動かすときは、事前に上司などに相談を。

その2 接遇の極意

人は感情の生き物であり、些細な言い方や言葉遣い、言い回しが原因でトラブルになることが多々あります。以下のポイントを胸に刻んでおきましょう。

❶常に相手が選べる状況を作る

接遇の基本は、常に相手を優位に立たせること。こちらが決めるのではなく選択肢を示し、相手が判断して結論を出す状況を作る。

❷否定/命令型は避け、依頼/提案型を用いる

「~してくださいませんか?」「~しましょうか?」といった伝え方を。

(例)「問診票を書いてください」

「問診票をお書きいただけますか?」

「その製品の在庫はありません」

「その製品の在庫はなく、~日後に入荷予定でございます。入荷次第ご連絡いたしましょうか?」

❸友達口調は禁止

親しくなった患者さんでも、馴れ馴れしい会話や友達口調(ため口)は避ける。本人同士は良くても、周囲の人を不快にし、居心地を悪くさせてしまうことがある。

その3 患者さんのプライバシーへの配慮

❶声の大きさや病名等への配慮

建物が小さいため薬局内は距離が取りづらく、声を張ると周囲に聞こえてしまう事がある。病名、診療科名(特に精神科、婦人科、泌尿器科など)は不用意に口に出さない。

❷通院を知られたくない患者さんもいる

  • 薬局外で患者さんに会った際、周囲に知られたくないなどの理由で治療の話題に触れられたくない患者さんもいる。「症状はいかがですか?」など自分からは話題に出さない。
  • 電話で伝言を残す際も、家族に通院を知られたくない場合があるので、伝言の残し方を含めて事前に確認しておくのがよい。

その4 電話対応❶ ―基本姿勢―

❶日頃よりワントーン高めの歯切れのよい明るい発音で。常に丁寧な応対を!

電話は声の印象と言葉遣いがすべて。相手の様子が見えないので、対面よりも慎重で丁寧な対応が求められる。

❷相手の都合に配慮し、確認を

仕事中や外出先、来客など相手が電話対応しにくい状況もある。
「ただいまよろしいでしょうか?」「お忙しいところ申し訳ございませんが…」などの確認や配慮を忘れない。

❸コスト意識を持つ

  • 電話は手際よく、1通話3分以内におさめる気持ちで。
  • 調べもの等で相手を待たせそうなときはいったん電話を切り、あとからかけ直す。相手からかかってきた際も通話が長くなりそうであれば、いったん切ってからかけ直す。
  • 「少々お待ちください」は長くても15秒。それ以上お待たせしそうな場合は、こちらからかけ直すなどの対応を。

その5 電話対応❷ ―状況別の対応方法―

❶名指し人が在席している際の取次対応

  • 「誰から(社名・お名前)」「誰に」をはっきり伝える。
  • 用件を伺っている場合は、簡潔に必ず内容を伝える。

❷名指し人不在の際の相手への伝達および確認事項

1)不在の理由(席をはずしている、外出、会議など)

外出先などの詳細は伝えない。

2)戻りの予定時刻

「すぐに戻る」など、あいまいな表現は避け、「5分程で」など具体的に時間を示す。

3)急ぎの用件かどうか確認

急ぎであれば、代理の者で対応可能か伺う。

(例)「私は○○と申します。お差支えなければ、代わりにご用件をお伺いいたしますが…」

4)折り返す際の連絡先と要否を確認
  • 必ず相手の連絡先を伺う。連絡先は復唱して確認する。
  • 折り返し連絡するタイミングが先方の都合の悪いこともあるので、要否を確認。

(例)「△△が戻り次第、折り返しご連絡するよう伝えますが、よろしいでしょうか?」

❸伝言を受けた際の対応

  1. 用件は必ずメモを取り、復唱する。
  2. 「○○が承りました」と伝言を受けた者の名前を伝える。
  3. 名指し人が戻ったら、口頭でも伝言を受けた旨を伝える。

❹自分で対応できない際の対応

  1. 「私ではわかりかねますので、担当者と代わります」と伝え、早めに担当者に繋ぐ。
  2. 先方に何度も同じ話をさせないように、伺った内容は素早く正確に担当者に伝える。

※担当者は不在の際はとりあえず上司に代わってもらう。

その6 名刺交換の流れとポイント

名刺は“顔”!もてあそんだり、ぞんざいに扱ってはいけません。

  1. きれいな名刺を用意(折れや汚れのあるものは絶対に渡さない)。
  2. 事前に名刺入れから名刺を取り出しておく。
  3. 名刺は渡す相手の正面に立って行う(テーブル越しは×)。
  4. 自分から先に差し出す。差し出す際は胸から胸の高さを基本とし、相手が差し出した名刺よりも少し低い位置で差し出す。
  5. 名刺は相手側から文字が読めるようにして渡す。軽くお辞儀をして名刺を差し出し、社名(薬局名)や所属、名前を名乗る。
  6. 名刺は両手で受け取る。受け取る際は「頂戴いたします」とひと言添え、「○○様でいらっしゃいますね。どうぞよろしくお願い申し上げます」と名前を復唱する。頂いた名刺はその場では胸から下に下げずに持つ。

その7 医師への提出文書の記載マナー

処方医への情報提供やトレーシングレポートも、書き方次第で相手を不快にさせることがあります。以下のポイントを押さえましょう。

❶クッション言葉を用いる

クッション言葉とは、本題に入る前に相手へ配慮した一言。
(例)お忙しいところ恐れ入ります/いつも大変お世話になっております

❷否定/命令形ではなく提案、選択できる形で

処方の最終判断はあくまで処方医。提案は根拠を明確に示し、医師が判断できるよう選択型にする。

❸要点は明確に

多忙ななか読んでいただくため、簡潔で明快な文章に。