生活習慣や健康上の課題に対して処方薬以外の提案や、未病へのアプローチなど薬局に求められる役割が広がっています。そこで物販への挑戦を考える薬局も多いのではないでしょうか。今回は、調剤薬局に向けて物販のあり方・取り組み方法などの講演を実施している株式会社YRKandの森本和也氏に薬局物販のポイントについてお話しいただきました。
物販は保険点数の埋め合わせではない
「患者さんの固定化」が物販の意義
調剤報酬の改定のたびに点数が引き下げられ、なかなか加算も取りにくくなっている…こうした現状に多かれ少なかれ悩んでいる調剤薬局も多いと思います。そこで、その減収分の埋め合わせとして物販に取り組もうと考えているのであれば、それは難しいといえるでしょう。やはり、物販の収益は通常の処方せん調剤には遠く及びません。
では物販の意義とは何かを考えると「、来局者の固定化」です。ある疾患や症状に悩んでいる患者さんに、「通常の食品よりも多少高価ですが、こんな機能がある食品がありますよ。食事に少し取り入れてみては」「○○が理由でなかなか眠れないのであれば、こうした物を試してみては」と薬剤師が紹介する。商品の購入に至らないにしても、薬にプラスαとして自身に役立つ情報が薬剤師から得られることで、薬局が「ただ薬を受け取る場所」ではなくなり、患者さんがその薬局に継続して来局する意義を感じられます。物販は患者さんを繋ぎとめるコミュニケーションツールになりえるのです。
物販の話から少し逸れますが、こうした患者さんの固定化を図る取り組みとして、自分で爪が切れない高齢者に爪切りサービスの提供や、店舗前に茶屋のようなコミュニティスペースを設置している薬局もあります。
薬局物販の大きな障壁は
薬剤師の意識?
物販に取り組んでいる調剤薬局は、現状ではまだ少ないといえます。その要因は複数あるでしょう。狭い店舗での販売や在庫スペースの確保、在庫管理、商品知識の習得などの難しさも考えられますが、特に課題なのが、薬剤師さんの意識にあるのではないかと私は思っています。薬剤師は医療従事者であり、営業のように商品を「売り込む」ことに抵抗感がある、また薬を「早く・正しく処方する」ことに専念して、それ以外の業務に取り組めていない実情が大きな障壁になっているのではないでしょうか。
物販の土台となるコミュニケーション
「睡眠・食事・排泄」の確認
基本的に薬剤師さんは、服薬指導における患者さんとのコミュニケーションのなかで「睡眠・食事・排泄」に関することを確認していると思います。患者さんの生活や習慣、性格などの背景を含めてどんな人か理解するうえで、こうしたコミュニケーションは欠かせられません。この3点に関するコミュニケーションが薬局での物販実践の土台にもなります。
患者さんを観察し、会話をしながら「最近、痩せてきたのではないか」「眠れていないのではないか」と感じる点があれば、その理由を確認して何か薬局で対処できる方法を提供できないかと考える。これが物販の起点になります。こうしたコミュニケーションもなく処方せんを受け取って「少々お待ちください」と薬を受け渡すだけであれば、物販には適していないかもしれません。
主な顧客像は高齢で慢性疾患患者さん
商品のみでは来局目的にはなりにくい
薬局物販でどういった商品を取り扱うか。それは当たり前のようですが、薬局に来る方の人物像から考えます。
そもそも来局者は、自分あるいは家族の身体に何らかの支障があり、小児科の門前薬局を除けば約7割が60歳以上の高齢者で、そのうちの約7割が慢性疾患の患者さんだといわれています。調剤薬局の顧客像は、スーパーといった一般の小売店よりも明確です。
調剤薬局で、新規の来局者数を増やすために何か目玉となるような特別な商品を取扱い、収益を得ようするのはなかなか難しいことだと思います。当社でも検証したことがありますが、特定の商品購入を目的に患者さんが来局することは、ほぼありませんでした。やはり、調剤薬局へのメインの来局目的は、処方薬の購入や受け取りといえるでしょう。
商品は勧めたいものとニーズに応える視点で
品揃えよりも回転率を上げる
患者さんと日々接しているなかで「もう少し栄養面で何かアドバイスできないだろうか」「こういった物で生活をサポートできれば」と薬剤師さん自身も感じることはあるのではないでしょうか。その思いを物販と結びつけましょう。まずは薬剤師さんが、自分の薬局に来る患者さんに勧めたいと思う商品を取り扱えばよいと思います。
昨今では有機野菜やオーガニック食品を販売する薬局もありますが、これは安全で健康に良い食品を購入したいという方や、来局するついでに買い物を済ませたい高齢者の要望に応えたものでしょう。来局者のニーズを汲み取って、取り扱う商品を検討する視点も求められます。
薬局物販においては、取り扱う商品の品目数よりも回転率
(商品の仕入れから販売に至るまでの速さ)が重要になります。多くの調剤薬局では、物販に割けるスペースは限られているため、取り扱う商品は1品目でもよいのでその商品の回転率を上げることがポイントになります。
物販で大きな役割を担う
POPのポイント
薬局物販の障壁について、薬剤師の意識の課題を挙げましたが、急に意識は変えがたく、興味のなさそうな患者さんに対し商品紹介といった積極的な声掛けを実施するのは難しいと思います。そのため、患者さんの視線を止めて興味を持たせるような仕掛けを用意します。同時に薬剤師側にも患者さんが興味を持っている様子がわかるようにし、声を掛けやすいシチュエーションを作っておくことが重要になります。
その際に大きな役割を担うのが、POPです。POPの掲示・作成時のポイントをP13にまとめます。
「薬局」「薬剤師」である強み
信頼感を物販に活かす
先述したように薬局物販の土台となるのは、来局する患者さんの「睡眠・食事・排泄」の確認を含めたコミュニケーションの積み重ねです。また、薬局で販売している商品は、有効性・安全性の面で安心だと患者さんは潜在的に感じています。普段のコミュニケーションを通して信頼している薬剤師さんから商品の説明を受けることで、患者さんの購入意欲は高まると考えられます。同じ商品でも、一般の小売店で販売員に勧められる場合と、薬局で薬剤師さんに勧められる場合では信頼感が大きく異なるでしょう。
患者さんの困っている、あるいは今後困りそうな健康上の課題への対応策のひとつとして物販を活用し、薬剤師が提案できるかどうか。薬局・薬剤師である特性と強みを活かして物販に取り組んでいただきたいと思います。
まとめ
❶患者さんを継続的に来局させることが物販の最大の意義!
❷「食事・睡眠・排泄」に関する日頃のコミュニケーションが物販の土台
服薬指導でのコミュニケーションの積み重ねがなくして物販は難しい。
❸来局者像こそ、何を店舗で取り扱うかのヒント
多くの来局者が高齢かつ慢性疾患患者である薬局。
来局する患者さんに自分が勧めたいと思うものを結びつける。
❹商品の品揃えよりも回転率を重視
❺POPを使って患者さんに声を掛けやすい状況を作りだす
❻薬局・薬剤師である信頼感も背景に、患者さんの課題を解決する商品の提案を
[その1]患者さんの目線を意識
患者さんの目に入りやすい場所がPOPを掲示するゴールデンゾーン(GZ)。
主に以下の箇所。
❶薬局に入って真っ先に目に入る場所
❷待合の椅子に座った時に目に入る場所
❸投薬カウンター
[その2]患者さんの困り事に響くメッセージで引き付ける
患者さんがある商品群を継続的に購入できない理由や背景を踏まえ、この商品で患者さんのどういった困り事が解決できるのか。患者さんの共感を得て、解決策となるようなメッセージを伝える。
商品の特徴をただ紹介するのではなく、患者さんの悩みや不満に対応したものでなければ、目に留まらず響かない。
(Case1)「まずい」と思われていた経口補水液
経口補水液は、美味しくないという理由で離脱する人が多く、飲みやすいスポーツドリンクなどで代用されるケースが多かった。そのため、経口補水液のメーカー側が作成したPOPには、スポーツドリンクに対抗して「スポーツドリンクに比べて糖分が少ない」などスポーツドリンクと経口補水液の成分を比較したメッセージが強調されていた。
顧客が経口補水液を離脱した根本的な原因は味であり、美味しくないという先入観を強く抱かれていた。そこで、POPでは「まずいものは要らん!!」と患者さんの率直な思いを描き、そこに「りんご風味のおいしい経口補水飲料」と、成分ではなく味の問題点の解消を訴えた。その結果、POPを目にした高齢者や、子どもが経口補水液を飲めずに困っていた親から問合せを受けることなった。また、POPに視線が止まっている来局者に対し、薬剤師が「この商品が気になりますか」など自然に声をかけやすい状況が生まれるようになった。
[その3]自分事に捉えやすい表現を使う
医療用語は、薬剤師にとっては当たり前であっても患者さんには耳慣れないものが多い。患者さんが自分事として捉えられるような表現に変える。
(Case2)フレイル・サルコペニアって…?
来局者の大半は60歳以上である薬局。高齢患者さんにとってフレイル・サルコペニアは喫緊の課題であり、必要に応じて対策を取る必要があると薬剤師が考える一方で、患者さんはこの用語を知らず自分事として捉えにくい。「フレイル・サルコペニア」という単語で啓発しても患者さんの目に留まらないため話題に上がらず、栄養や運動に関する会話にまで発展しなかった。
「フレイル・サルコペニア」ではなく、「今すぐできる10秒筋肉量チェック」と記載したPOPを掲示。調剤の待ち時間にそのPOPを目にした患者さんが、掲載している筋肉量チェックを試みているようであれば、「何か気になることはありますか」と薬剤師が声をかけやすい状況ができる。
そのなかでラコールやエンシュアといった栄養剤が処方されている患者さんに対しては、「飲み切れていますか」という確認も併せて行う。味が濃厚で飲み切れない患者さんも多いという。飲み切れていないという課題があれば、食品にはなるが、飲む量を減らして同等の栄養素を摂取できる商品の紹介に繋げることもできる。