整形外科の門前にあるサイトウ薬局 うらわ岸町店。月1,000枚程の処方箋を応需しながら、外来のほか在宅訪問や物販などの日常業務に対応しています。物販面積は8坪ほどですが、取り組み開始から約2年で物販の月平均売上は約50万円にまで成長しました。今回は、同薬局の渡部 敦氏に実践方法とポイントをお話しいただきました。
物販成功のカギの1つ
インナーコミュニケーションの築き方
同じ目標に向かってメンバーが自発的に動く環境を作るコミュニケーションを「インナーコミュニケーション」といいますが、インナーコミュニケーションができている薬局は、物販に欠かせない接客力・提案力がともに高いと感じています。
では、スタッフが自発的に動く環境をどう作るのでしょうか。まずは、患者さんのために自分が何を提案・提供したいかを考えてもらい、それを薬局のスタッフ全員で取り組みましょう。販売に繋がったエピソードがあれば皆で共有し、活用するのもよいでしょう。小さなことでもよいので、チームでの成功体験を積み上げていくことが重要です。なかなか売上に結び付かない場合でも全員で対策を話し合うだけで、インナーコミュニケーションの強化に繋がります。
そうするなかで、スタッフ間の連携や物販への意識が育っていきます。受付にいる事務スタッフが患者さんの目線の動きを薬剤師に共有して投薬カウンターでのコミュニケーションに繋げたり、日頃から売る側の視点を持って小売店の陳列商品やディスプレイ方法を観察したりといった姿勢が身に付いていきます。
「来局者が意思表示しやすい」=
「コミュニケーションを生み出しやすい」売り場
物販において、もう1つのポイントとなるのが売り場作りです。来局者が「気になること」「質問したいこと」「試してみたいこと」を意思表示しやすい売り場にします。当シリーズ【第1回】(ファーマスタイル2022年5月号掲載)でも触れたように、漠然とスタッフに患者さんとの積極的な物販でのコミュニケーションを求めてもなかなか実践できません。コミュニケーションを生み出しやすい商品配置やコミュニケーションの進め方など、より具体的な実践方法をP10~ご紹介します。
的確かつ付加価値のある商品を紹介
必要な商品を必要な患者さんへ届けることも役割
薬剤師による物販は、患者さんの背景を把握した的確な商品を紹介できるという点が強みです。処方箋や薬歴を見れば、疾患や食事管理の必要性の有無などをある程度推測できます。調剤薬局で扱う商品は、健康維持や疾病予防のために薬剤師がセレクトショップ的に集めた何らかの付加価値を持つものが理想です。そこから患者さん個々に適した商品を紹介し説明する。こうした薬剤師とのコミュニケーションに患者さんが価値を見出せば、継続的な物販の顧客になりうるでしょう。
薬局で扱う商品のなかには、薬剤師がその商品を必要とする患者さんを見つけ出し、提案すべきものもあると思います。例えば、低栄養対策向けの栄養食品です。ただ、こうした商品を紹介すると、相手の自尊心を傷つけることもあるため、勧め方には配慮が必要です。商品紹介までの難易度は高いと思いますが、フレイル対策が求められるいまこそ、薬局の薬剤師として必要な役割だと思います。
まずは会話のきっかけになるよう、栄養食品とともに投薬カウンター横にフレイルの解説資料を設置して知識の提供や声掛けをするだけでもよいと思います。必要なたんぱく質量を知ると、摂取が難しいという高齢者も多いです。そこで対策となる商品の紹介といった自然なコミュニケーションに繋がる流れを作り出します。
患者さんに選ばれる薬局に向けて
新たなコミュニケーションを生み出す物販に取り組む
物販は単なる物売りではありません。患者さんに選ばれ、行きたくなるような薬局にするための1つの手段です。そのために「思わず手が伸びる、質問したくなる」よう店内を演出し、患者さんとの新たなコミュニケーションを生み出します。そのコミュニケーションが信頼関係の構築へと繋がっていきます。今回お話しした取り組みが一助になれば幸いです。
【写真】幅広い年齢層向けのカウンター
写真④ まいにちPOP
当薬局では3年ほど前から足育研究会の協力のもと、看護師のフットケア指導士を出張で受け入れて薬局内で足の爪切りサービスを提供しています。高齢で腰や視力に問題がある、あるいは妊娠中や関節が硬くなって曲がらなくなり自分の爪が切れない方、巻き爪の切り方がわからない方など、私たちが思っている以上にどこに相談したらよいかわからないまま足の状態に不安を抱えている人が多いです。
例えばオーラルケアは、日常の歯磨きや定期的な歯科でのクリーニングにより、多くの方が歯周病などを予防しています。一方、フットケアは日常的なケアの必要性に対する意識が低く、対価を支払ってまでケアをする人は少ないのが現状です。しかし、足のケアを怠れば、水虫の発症だけでなく、巻き爪など様々な爪の痛みによる歩行意欲低下などからフレイルに繋がる可能性もあります。これは日本の社会問題のひとつであり、解決すべき問題だと考えます。足育研究会では日本の爪切り難民の数は、少なくとも約700万人と見積もっています。全国に約6万件の調剤薬局があると考えると、ひとつの薬局に足の爪に困っている方が100人以上いると考えられます。
まずは、より多くの薬局にフットケアの重要性を認知していただき、来局される方に啓発できればと思っています。また、物販の観点からすれば、薬局でのフットケアを通して日々のケアに対する意識の醸成が期待できます。足や爪の保湿剤、爪の清掃用ブラシ、抗真菌薬を含むソープといったフットケア用品の売上に繋がることもあります。地域の方の困り事に対応して薬局プラスαの価値を提供できる薬局となるため、薬局でのフットケア活動に参画いただけると幸いです
足育研究会WEBサイト(別のWEBサイトに遷移します。)