物販戦略シリーズの第4回はスキンケア。保湿剤や日焼け止め、ハンドクリームなどのスキンケア製品を重点的に扱っているミキ薬局田端店は、女性だけでなく年齢や性別を問わず全ての方をサポートすることをコンセプトに、調剤薬局にショップを併設した形で物品販売を専門的に実施されています。
株式会社メディカルファーマシィー
ミキ薬局田端店 ヘルスケア事業部
薬剤師 江黒 ひろ美 氏
薬剤師 北山 ゆりの 氏
管理栄養士 畠山 典子 氏
スキンケアの物販を始めたきっかけ
フランスなど海外ではスキンケアに薬剤師が介入することが一般的のようですが、日本では皮膚のトラブルが起きた時、医療機関を受診するか、自分で何とかしようとすることが多いと思います。一方で、肌トラブルは老若男女誰でも関係します。こうしたことから、薬剤師がスキンケアに介入する余地は大いにあるのではと考えました。ミキ薬局田端店はこれまで物販を小規模に展開していましたが、物販スペースを拡大した形で、2020年11月、調剤薬局内にスキンケアショップ「Mikiluce」をオープンしました。
物品販売の概要
ミキ薬局田端店では処方箋を面で応需し、薬剤師4名で対応しています。この4名とは別に、私たち薬剤師2名と管理栄養士1名が専属で物品販売に注力しています。スキンケアショップオープンまでの準備期間には、社内有志でスキンケアの勉強会などを開催したり、スキンケアマイスターの資格を取得したりしていました。
物販エリアで扱っているのは、保湿剤や日焼け止め、洗浄料などのスキンケア用品や、外用薬・ビタミン剤などのスキンケアに関わるOTC医薬品などです。また、「肌の状態を体内から整える」というコンセプトのもと、健康食品やサプリメントなども販売しています。抗アレルギー薬や鎮痛薬などの一般的なOTC医薬品も扱っています。
物品販売の実際
処方箋なしで来店される方の他に、処方薬の受け取りの待ち時間に物販コーナーを見に来られる患者さんも多くいらっしゃいます。そのような方たちに対し、適宜ヒアリングや製品のお勧めをします。
皮膚疾患のある患者さんには、トラブル肌のために開発された製品、成分の純度の高い製品、皮膚科医監修のもと開発された製品などを中心に、その方に適した製品の紹介を心がけています。
また、高血圧などの生活習慣病の治療薬の処方箋を持ってこられた中年男性の患者さんが、しわやシミを気にしてスキンケアの物販棚に来られるケースもあります。スキンケアは女性のためだけではないことを実感しています。
商品を販売するうえで、OTC医薬品やサプリメントと処方薬との相互作用は注視しています。また以前、保湿剤が処方されている患者さんがさらに処方薬と同じ成分の保湿剤を購入しようとしたケースがありました。こうした処方薬と物販製品の重複にも注意しています。
処方箋なしの来客とオンライン販売
当店は駅前という立地もあり、処方箋無しで20~50歳代を中心に幅広い年齢層の方が来店されます。気になる商品をご覧になってそのまま購入される方もいますが、多くの方にはこちらからお声がけしてお悩みをヒアリングし、肌測定やテスターを勧めています。
来店以外の物品販売ルートとして、オンラインショップも設置しています。店頭販売と同様にお客様とのコミュニケーションを重視しており、注文いただく際に、現在のお肌の状態で気になることや使用アイテム、過去に合わなかった化粧品や発症したアレルギーなどをヒアリングします。そして、それに対しアドバイスを「カウンセリングシート」という冊子に書いて、製品とともにお送りしています。この冊子は薬局オリジナルで制作していて、洗顔や保湿、紫外線対策のポイントを解説しています。こうしたプラスアルファの情報は、他のECサイトや量販店との差別化になります。また、ヒアリングしたお客様の肌に合った試供品を付けることもあります。
物販における工夫
当店では、物品を販売するにあたりいろいろなことを試行錯誤しながら実施しています(表1)。
表1 ミキ薬局田端店の物品販売の工夫
試供品 | スキンケアに興味関心がない層にもアプローチする上で有効なのが試供品のお渡し(サンプリング)です。試供品により商品の良さを実感し、スキンケアに興味を持つきっかけを作ることができます。 私たちの店舗では、冬場はしっとり、夏場はさっぱりとした保湿剤など、季節に合わせて試供品の内容を変えています。サンプリングを多数実践することで、サンプリングが効果的な製品が分かってきて、売り上げにつながるヒントも見えてきます。 |
入口ドア | 入口のドアに製品の写真や宣伝を貼ったところ、2020年度秋冬に16個のみの売上だった製品が2021年度秋冬には72個と、売上が4.5倍になりました。 「ジメジメの梅雨にさっぱり保湿」などといった季節ごとのスキンケアのテーマを決めて、そのコンセプトに沿って製品を紹介しています。 |
商品配置 | お客様の入口からの目線や動線を考えて配置しています。 たとえば、入口のドアにキャラクター製品のPOPや画像を貼り付け、自動ドアが開くとお子様の目線にそのキャラクターの製品が入るよう配置します。 |
SNS | Twitterは毎日、Instagramは1,2週間に1回程度、LINEは月1回程度の頻度でそれぞれ配信しています。 LINEであれば月ごとのテーマとそれに合った製品やキャンペーンの紹介、Instagramでは製品の写真をアップ、Twitterでは文字ベースで製品の紹介、その日のトレンドに合わせた投稿、管理栄養士のコラムなどをアップ。SNSの各特徴によって配信する情報を使い分けています。 |
地域交流 | 産地直送の野菜や小物の販売などを行う地域交流のイベントに参加し、肌測定やスキンケア相談、栄養相談のブースを出しています。店舗内にとどまることなく、地域の方々との接点を持ちたいと考えています。 |
顧客データベース | 全てのお客さまではないですが、店頭やオンラインメッセージでのやり取り、肌タイプなどの肌測定の結果、アレルギー歴などについてデータベース化して管理しています。今後会員カードのようなものと結びつけることを検討しています。 |
好評な製品の紹介
当店で好評の製品についてまとめました(表2)。
表2 当店で好評の製品
ユースキン シソラシリーズ (ユースキン製薬株式会社) | ・うるおい成分しその葉エキス、抗炎症有効成分※を配合(※UVミルク2品目除く) ・無香料・無着色・低刺激性のスキンケアシリーズ ・赤ちゃんからお年寄りまで家族みんなで使える ・さっぱりベタつかないテクスチャーの製品が多く、男性でも使いやすい ・ローション、クリーム、ボディシャンプーでリピートが多い ・さっぱりとしたローションは夏の保湿におすすめ ・サンプル使用後の購入、リピーター(子供のお母さん、肌の弱い男性、中年男性など様々な層)が多い |
ユースキン ハナ ミッフィーデザイン (ユースキン製薬株式会社) | ・数量限定のミッフィーデザインを全種採用 ・ハンドクリームの写真を店外向けにドア掲示→2020年度秋冬に比べ、2021年度秋冬では売上4.5倍達成 ・このデザインを探していたり、存在を知らなかった方にもアプローチでき、プレゼントで購入する方も多く見られた |
薬用フタアミンhiクリーム (ムサシノ製薬株式会社) | ・抗炎症成分の他、保湿成分なども配合 ・秋冬の乾燥や手荒れなどにおすすめ ・SNS掲載で反響あり(仲良くなったお客さんがいる) ・サンプル使用後の購入、リピーターが多い |
Pure Barrier(ピュアバリア) (グランメイト株式会社) | ・湿布かぶれによい商品 ・塗布後30秒待つと乾き、その上から湿布を貼付できる ・湿布の有効成分の吸収を妨げない(一部医薬品を除く) ・汗をかく量が減る+炎症に対する成分+湿布を剥がす際に表皮が剥がれるのを防ぐ ・投薬カウンターにポスター掲示、投薬時に相談に繋がりやすい |
KUMAMOTO PREMIUM BAYU (日本ファーマ株式会社) | ・熊本県の薬局が作った馬油 ・無臭なのが特徴で、テスターで使用感を気に入り購入する方が多い ・純度が高く、添加物の使用が少ない |
物販を通じた受診勧奨
最近経験したケースで、手掌に半透明のぷつぷつとした発疹ができた患者さんに店頭でご相談された際、診断はできないもののその症状がウイルス性のように思われました。そこで、OTCのご紹介ではなく皮膚科の受診を勧めました。
また、OTCの鎮痛薬の購入で来られた方に、アトピー性皮膚炎のような炎症が見受けられました。その方から痒みを相談されたのですが、医療機関を受診しておらず、軽度な肌トラブルと考えていたようでした。アトピー性皮膚炎では症状に合ったランクのステロイド外用薬を使用する必要がありますので皮膚科受診を勧めたところ、皮膚科を受診して症状が改善された旨を後日その方からご報告いただきました。何度かOTCの鎮痛薬を購入されており、双方に認識があったので気軽にご相談いただけたのだと思います。
抗がん剤の副作用を物販でもサポート
抗がん剤を使用されている患者さんには、副作用として手足症候群などの皮膚障害が現れることがありますが、医療機関では主に発現時期に合わせて保湿剤やステロイドが処方されます。しかし、症状発現前に保湿をしておくことで皮膚障害の重篤化を防げるケースも多いので、処方薬として保湿剤が出されていない時期に一般の保湿剤を薬局で勧めるといったこともできるのではないかと思います。
単なる販売ではない付加価値
店頭でもオンラインショップでも、製品を販売するだけでなく、ケアに関する情報の付加が重要だと考えています。スキンケアの資格が情報の深度や広さに貢献しているのはもちろんですが、製品の含有成分の比較や、現在服用中の薬剤を鑑みた製品紹介、栄養状態から見たお肌の状態などの情報をもってお客様のお悩みに答えられるのは、薬剤師や管理栄養士の強みです。
医療機関を受診される患者さんには、医師の診療とともに薬剤師がサポートできますが、私たちはそれ以外の方に対しても、物品販売を通じてトラブルの前や初期段階でアドバイスやケアができると考えています。特に予防の面では、若い世代への啓蒙にも力を入れる必要があります。たとえば、地表に届く紫外線量は数十年前に比べると増加し、皮膚がんの罹患者数も数倍に増加しているというデータがあります。昔は日焼け止めなんて塗らなかったよ、とおっしゃる方もいますが、今と昔では環境が違っているのです。今の子どもたちが強い紫外線を浴び続け、数十年後に皮膚トラブルに悩まされることのないよう、若いうちからお肌を守る意識を持ってもらいたいと考えています。調剤薬局がスキンケアを通して未病の段階で介入し、地域に貢献することは、薬剤師や管理栄養士がスキンケアに関わる価値であり、現在の薬剤師や管理栄養士に必要ではないでしょうか。