【インタビュー先】
ブルークロス調剤薬局 薬剤師 加瀨 弘匡 氏

2020年から義務化となった投薬後の患者フォローアップ。診療報酬改定としても患者フォローアップなど対人業務を適切に評価するために服薬管理指導料が新設するなど、薬剤師によるフォローアップが本格化してきています。グループ全体としてフォローアップに取り組み始めているブルークロス調剤薬局を取材しました。

フォローアップ本格化の背景

 当社では、フォローアップが義務化となる2020年以前から、個々の薬剤師の判断で患者さんの不安解消のために、電話でのご体調確認を適宜実施していました。しかし、個人の考えや裁量によるものが大きく、実施状況のバラつきが目立っていました。

 上のでみられるように、個人業務から組織業務へ変換させることが当社の課題でした。また、昨今の流れとして対人業務の加算対象が増えています。取り組みを数値化し、「好事例を店舗間で共有できる仕組み作り」が必要な状況でした。

フォローアップのグループ内への波及

 服薬フォローアップを当社全体に根付かせるためにはどうすればいいのか、服薬フォローアップ機能を提供している株式会社メドレーと協議しながら進めています。フォローアップ実施の組織変革として、目標の設定や推進メンバーの選定、店舗内スタッフへの成功事例の共有、他店舗への拡大などのステップを確認させてもらいました。

 当社は全14店舗の薬局チェーンですが、そのうちの3店舗からフォローアップの組織変革を実施しました。具体的には、まず3店舗に推進メンバー1名を配置し、各店舗でその3名がフォローアップを実施。翌月に3店舗の推進メンバー以外の薬剤師に波及させ、その翌月には3店舗の事務スタッフ含め店舗配属の全メンバーがフォローアップの事例を共有しその重要性について意識する、というステップです。

患者へのフォローアップの紹介と同意取得

 フォローアップをされた経験がない患者さんに対し、フォローアップをどのように紹介し同意してもらうか、これは課題の一つだと思います。当社では株式会社メドレー提供の資材を活用し、来局された患者さんに「アンケート」という形でフォローアップの説明と意思確認を実施しました。その結果、1カ月でお声がけした約550件中、529件でフォローアップ実施の賛同を得ました。

 この96%超のフォローアップ賛同率には事務スタッフが大きく貢献してくれました。事務スタッフは日ごろから処方箋を受け取る際に患者さんに雑談交じりに上手にコミュニケーションをとってくれているので、彼女らからフォローアップを紹介することで患者さんが構えずに聞いてくれます。

 薬が目の前に来たら、話を聞いて受け取って早く帰りたいという患者さんの心理を想像し、調剤監査から服薬指導にかけての若干の「間」をフォローアップ紹介のタイミングとしました。

 なお、本アンケートではご連絡方法として電話か携帯電話のショートメッセージ(SMS)のいずれを希望されるかを調査しましたが、高齢の患者さんでもスマートフォンをお持ちの方が多いといった新しい発見もありました。

集計と数値化の重要性

 フォローアップをグループ全体に浸透させる上で重要なのは、取り組みを集計し、数値化することです。「頑張りました」だけでなく、何がどの程度の期間で何件できたのか。フォローアップ実施の数値を他の店舗に共有すると、他店舗でも同程度あるいはこれ以上もできるのでは、などといった期待感や可能性を示すことができます。

 先述の3店舗のフォローアップの実績は、1カ月(24営業日)あたり3店舗合計で109名のフォローアップを実施、うち17件のトレーシングレポートを提出という数値になりました。アンケートの形でフォローアップの同意を得た患者さんはこの月で529件でした。

 つまり、同意を得た患者さんのうち約20%にフォローアップを実施したことになります。フォローアップを実施する基準は、「初回投与、薬剤変更、用量変更のいずれかに該当する」、「患者さんの実感として体調に不安がある」のいずれかを原則としました。

フォローアップの手段

 フォローアップの手段としては、電話が全体の50%程度、次点でSMSが約40%と多く、後日来局や別のアプリケーションも少数ながらあります。患者さんの個々のご希望に沿った方法を選択していますので、これは現状の患者さんの要望としてある程度当てはまる割合だと思います。

 電話は、特に高齢者の患者さんにとってわかりやすく抵抗感をもたれない点で非常に優れています。昨年までは全て電話対応でした。ただ、かける側の業務負担があるという意見が上がっています。

 SMSは日中労働していて電話に出られない方の希望が多いです。また、内容の漏れがないことや返信がしやすいことでSMSは需要が増加している印象です。その他、別のアプリケーションを使用しているケースが約10%、他のご用ついでに後日来局いただき対面でフォローアップするケースが数件あります。

 ただし、先述のアンケートでは、電話とSMSの両方をご希望(どちらでも良い)という方も一定数いました。実施していくうちに、どちらがより良いのか、使い分ける場合はどうするかが見えてくると思います。今後薬歴などで情報共有を行い、フォローアップ手段も定期的に見直しを行っていく予定です。

フォローアップの事例

 ここから、フォローアップの事例をご紹介します。

 事例2は、当薬局で投薬した薬剤の副作用ではなく、患者さんが別で処方されている薬剤のフォローアップです。患者さんからしてみれば、服用している薬剤がどこの薬局でもらったとしても、服用している薬剤への不安は変わりませんので、当薬局で投薬していなくとも来局された患者さんの体調不安に対しフォローアップを実施することがあります。

 広域の医療機関からの処方箋の応需でフォローアップとトレーシングレポートの提出が発生する際、面識のない医療機関に突然レポートを提出するのは不躾な印象を与えかねません。事例3のようにお電話でトレーシングレポートの提出に関してまずご連絡しておくことが重要と感じています。

グループ全体に拡大しつつ、フォローアップの意義を認識

 この数カ月でフォローアップ実施数が200件以上積み上がり、好事例をグループの管理薬剤師が集う会議や若手のための社内勉強会で共有しています。

 薬歴への記載方法などの管理方法、フォローアップ実施予定の薬剤師が休んだ際の代理実施など、基本方針も決まりつつあり、現在、フォローアップの実施を3店舗から6店舗に拡大している段階です。フォローアップの実施店舗や対象患者数が増えるにしたがい、共有された情報をもとに複数の薬剤師がフォローを実施する機会も増加します。組織として一人の患者さんを長期フォローアップする仕組みも必要になります。中長期的には、所属する全ての薬剤師が、フォローアップを通常業務として実施できることを目指しています。

 一方で、フォローアップの約束を取り付ける際に副作用を強調し過ぎたり、電話に出られないのに度重ねて着信を残したりすると患者さんの不安を煽ることにもなりかねません。義務や加算などといった薬局都合ではなく、フォローアップは患者さんの服用後の健康のために実施することを、薬剤師がしっかりと認識し、患者さんに伝えることが重要だと思っています。