2022年11月5~6日、「変革への挑戦~未来の医療を支えるために~」をテーマに、第16回日本薬局学会学術総会が開催された。ここでは、新型コロナウイルス感染症をテーマにした忽那賢志氏による特別講演「COVID-19最近の話題」を紹介する。
大阪大学医学部附属病院感染制御部教授
兼大阪大学大学院医学系研究科
感染制御医学講座(感染制御学)教授
忽那 賢志 氏
オミクロン株の感染力の要因
忽那氏は講演前半で、新興感染症の概要や新型コロナウイルス感染症のここまでを振りかえった後、現在のオミクロン株について解説した。新型コロナウイルス感染症は、オミクロン株が出現したことで爆発的に流行が広がった。オミクロン株の感染力が強い理由として、忽那氏は「世代時間の短さ」と「免疫逃避の強さ」の2つを挙げた。
「世代時間」とは感染者が次の感染者を生み出すまでの間隔を指す。従来株の世代時間は約5日だったがオミクロン株では約2日に短縮された。これにより蔓延するまでの速度が上がる。
「免疫逃避」とは免疫から逃れる力を指す。オミクロン株では感染歴やワクチン接種の経験者であっても感染するケースが多く、感染の連鎖が起こりやすい。「オミクロン株の亜系統のBA5になってから特に免疫逃避の力が強くなっています。」と忽那氏は指摘する。
オミクロン株対応ワクチンの仕組みと効果
こうした中で登場したオミクロン株対応ワクチン。このワクチンは、従来株のmRNAとオミクロン株のスパイク蛋白のmRNAが1対1で配合されている。これにより、オミクロン株のスパイク蛋白に対する抗体が体内で産生され、感染・発症と重症化を防ぐことが期待できる。忽那氏は、「オミクロン株対応ワクチンは、従来のワクチンに比べオミクロン株に対する中和抗体(感染予防効果に相関するとされる指標)を多く産生するとのデータがあります。デルタやアルファなど他の変異株に対する中和抗体もオミクロン株対応ワクチンで少し高くなるというデータもあり、多様性のある免疫を獲得できるだろうと考えられています」と説明する。
軽症患者の治療と重症化リスク
感染後の発症から一定期間は体内でウイルスが増殖している。この時期の治療には抗ウイルス薬や中和抗体薬を用いてウイルスの増殖抑制や中和する。現在では、軽症例に対する治療薬の選択肢が増加している(表)。ただし、今のところ、軽症患者のうちこうした治療薬の対象となるのは重症化リスクのある人のみ。
酸素や人工呼吸管理が必要な重症段階では宿主免疫反応の発生が考えられるため、ステロイドやトシリズマブなど免疫抑制薬を使用する。これまで知られている重症化リスクは、糖尿病、肥満、心不全、肺疾患、高齢などだが、「これらに加えて考慮すべきは、『ワクチン接種の有無』です。接種していない人では亡くなる頻度が高くなるデータがあります」と忽那氏は強調する。
コロナ治療における抗ウイルス薬の特徴
オミクロン株以降、オミクロン株に対する中和抗体の活性が弱くなり、中和抗体薬が使いにくくなったという。そのため、オミクロン株に対する現在の治療薬は、抗ウイルス薬のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビルの3種からの選択が原則となる。
レムデシビルは最初に承認された抗ウイルス薬で、軽症患者への有効性が認められている。ただし、点滴のため軽症患者には使いにくいのが難点。一方、投与量調整で腎機能障害例や肝機能障害例、妊婦にも使用可能など、禁忌が少ないことは利点という。
モルヌピラビルはウイルスのRNA合成でエラーを起こさせることで増殖を阻害する。
ニルマトレルビル/リトナビルは、2剤併用によりニルマトレルビルの血中濃度を高く、長く維持することができる薬剤。効果の高さもデータで示されているが、難点は併用注意の薬剤が多さ。
忽那氏は、「点滴できる状況ならレムデシビルでよいが、多くの場合は内服薬になるので、基本的には有効性が高いニルマトレルビル/リトナビルを使います。併用薬や腎障害などで使用不可の際はモルヌピラビルを選択します」と治療の流れを解説した。
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