監修
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
茨城県地域産科婦人科学講座教授
寺内公一氏

更年期には多様な症状が出現し、症状によっては日常生活に支障を来たすことも少なくありません。更年期障害で医療機関を受診する患者さんや症状の改善を求めてOTC薬を買いに来局する患者さんに接する機会や、ご自身の症状で気になっている方もいるのではないでしょうか。更年期診療に長年携わる東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授の寺内公一氏に、女性の更年期障害を解説いただきました。

女性の更年期障害とは

 更年期に現われる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しないものが更年期症状であり、その症状が日常生活に支障を来たす病態が更年期障害と定義されます。

 日本では、「閉経の前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間」が女性の更年期と定義されていますが、国際的にはstagesofreproductiveagingworkshop(STRAW+10)の分類に基づき、完全に月経が停止する前の閉経移行期後期(latemenopausaltransition)と、閉経した後の閉経期前期(earlypostmenopause)のあわせて4~5年程度が更年期にあたる期間と考えられています。

なぜ起こる?更年期症状発生のメカニズム

 更年期症状の主な原因には、卵巣機能の低下によるエストロゲンの変動と減少、加齢に伴う身体的変化以外に、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することで症状が発現する心身医学的な疾患と考えられています(表1)。

 更年期には、卵巣機能の低下で卵巣から放出される女性ホルモンであるエストロゲンが急激に低下します。これと同時に、女性ホルモンの分泌を促す卵胞刺激ホルモン(FSH)が急激に上昇します。これらの急激な変化は閉経の前2年と後2年、合わせて4年間程度で起こり、この期間が更年期症状の出現するコアタイムと考えられています。

 ここで問題なのが、更年期のエストロゲンの低下が直線的なものではなく、短期的に上昇したり急降下するといった大きな「ゆらぎ」を伴って低下するという点です。よくガス欠の自動車にたとえるのですが、ガソリンが無くなりかけた時にアクセルを踏むと急発進しそれがガソリンを減らすことでさらにスピードが低下することがあります。こうした自動車の速度のゆらぎのように、更年期にエストロゲンの分泌量は大きくゆらぎながら低下することが、身体的、精神的な更年期症状を引き起こす原因になっていると考えられています。

エストロゲンがゆらぎながら低下することで様々な症状が現れる

 エストロゲンの受容体は全身に分布していますので、エストロゲンの分泌が低下することで全身に様々な症状が起こります。しかし、これら全てを一緒に考えるのではなく、エストロゲンの分泌がゆらぎながら低下していく段階で生じる更年期症状と、エストロゲンが完全に欠乏した後に引き起こされる疾患に切り分けて考える必要があります。

 閉経前後のエストロゲンが大きくゆらぎながら低下する更年期に起こる症状として主なものとしては、倦怠感や肩こりなどの非特異的な身体症状、ほてり、のぼせ、異常発汗などの自律神経失調症状(血管運動神経系症状)、不眠、不安、抑うつ、イライラするなどの精神神経症状があります(表2)。一方で、閉経後のエストロゲンの欠乏による影響を受けて起こる疾患には、泌尿生殖器の萎縮症状、高コレステロール血症と心血管系疾患、骨粗鬆症、認知症などがあります。

更年期障害のある状態は更年期女性の4人に1人

 厚生労働省の患者調査によれば、更年期障害の患者数は10万5千人と報告されていますが、病院に受診する人は氷山の一角であり、実際には、45~54歳の女性(935万人)の80%(748万人)が何らかの更年期症状を有しており、25%(234万人)、つまり更年期女性の4人に1人はその症状が生活に支障をきたしている更年期障害の状態にあると推測されています。

更年期症状の中で特に多いのは肩こりと疲れやすさ

 実際にどのような更年期症状で悩んでいる方が多いのでしょうか。我々の調査では、外来を受診する患者さんの5割くらいは、ほてり、のぼせ、発汗などの血管運動神経症状を感じていました。また、気分が落ち込む、不安感、不眠の症状を持っている方は血管運動神経症状と同程度の割合、肩こり、疲れやすいという症状がある方はそれ以上に多いということがわかっています1)。

 前述の通り、更年期障害はエストロゲンの分泌低下と加齢という身体的因子だけではなく、心理的因子と社会的因子が関与する心身医学的な疾患であると考えられています。これを表す一つの重要なデータとして、ライフイベントにおけるストレスと、エストロゲンの変動およびうつ症状の関連を見た研究で、エストロゲンのゆらぎがあるだけでなく、そこにストレス因子が加わったときに更年期症状としてうつ症状がでるということが報告されています2)。

 更年期症状の出方には個人差が大きいのが特徴です。その全てがストレスだけで説明できるわけではありませんが、ストレスという心理社会的因子は更年期症状に関して大きなファクターであるといえます。

他疾患との鑑別特に甲状腺疾患の鑑別が必要

 更年期障害のような症状を主訴とされる患者さんに対しては、まず症状についての質問票を確認します。血液検査でホルモン量を調べることもありますが、エストラジオールやFSHの分泌量はゆらぎが大きく頻回に変動するため、閉経前後の時期にはこれらの測定はあくまで参考程度です。

 更年期症状がみられた場合にそれが本当に更年期症状か否かは簡単に判別できません。例えば、胸が締まるような心地がする訴えがある場合にそれは狭心症かもしれませんし、関節の痛みがあれば関節リウマチによる症状かもしれません。更年期障害の診断は、基本的にはその症状を引き起こす可能性のある他疾患を除外した上で確定診断に至ることになります。 特に注意をしなければいけないのが甲状腺疾患との鑑別です。気力がない、倦怠感、むくみといった症状は更年期症状としてよく見られますが、甲状腺機能低下症でも同じような症状を呈しますし、発汗、イライラ、ほてり、のぼせなどの症状は甲状腺の機能亢進症でも起こる症状です。そのため、更年期障害の診断では甲状腺機能の評価を行い、甲状腺疾患を除外することが非常に重要です(表3)。

治療の基本的な考え方心理社会的な要因の掘り下げや生活習慣が重要

 治療における目指すべきゴールは、完全に症状がなくなるということではなく、多少の症状が残ってもそれを受け入れてそれとともに生きていくというように患者さんが思えるようにサポートすることです。そのためには、まず患者さんの訴えに真摯に耳を傾けて(傾聴)、背後にある心理社会的要因を深く掘り下げていくことが重要です。

 また、更年期症状がある人に対して運動指導を行うことによって、うつ症状が改善するというデータもありますので、患者さんの生活習慣について詳細な問診を行い、食習慣、運動習慣を含めて生活習慣の改善を図っていくことも重要です。認知行動療法などの心理療法によって血管運動神経症状などの身体症状が改善することもわかっていますので、患者さんによっては心理療法も有効な治療法です。こうしたことを前提としつつ、薬物療法を実施します。

更年期障害の薬物療法ホルモン補充療法、漢方、向精神薬

 更年期障害に対する薬物療法としては、閉経期ホルモン療法(ホルモン補充療法)という大きな柱と、それをサポートするような形で漢方薬、向精神薬を用いた治療があります(表4)。

 ホルモン補充療法は女性ホルモンを補う治療ですが、性成熟期の女性ホルモンの量までフルに補充するのではなく、少量のエストロゲンを補充して更年期前の1/2~1/3のホルモンレベルを維持するようにすることで更年期症状を改善させていきます()。さらにホルモン補充療法には骨粗鬆症、動脈硬化、泌尿生殖器の萎縮症状、皮膚の張りやうるおいといった皮膚粘膜症状など、更年期以降のエストロゲンが完全に欠乏したことで起こる疾患の予防効果があります(表5)。

ホルモン補充療法の実際

 ホルモン補充療法ではエストロゲン製剤(経口剤、貼付剤、ジェル製剤)を投与しますが、それに加えて、子宮がある方の場合は子宮内膜増殖症を予防するために黄体ホルモン製剤の投与が必要となります。

 ホルモン補充療法の投与方法には、周期的投与法と持続的投与法の2種類があります(表6)。

ホルモン補充療法の副作用心血管疾患リスクは上がるのか

 ホルモン補充療法は、副作用として心血管疾患や乳がんの発症リスクがこれまで指摘されてきましたので、心配される患者さんもいます。

 一般的に、心血管疾患のリスク因子として、高LDLコレステロール血症、2型糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病や喫煙などが上げられますが、喫煙以外のリスク因子はいずれも、エストロゲンと何らかの関係があることがわかっています。ではホルモン補充療法は心血管疾患とどう関係しているのでしょうか。ホルモン補充療法の実施によってLDLコレステロールが15~20%低下すること3)、冠動脈疾患の相対危険度が低下することが報告されたこと4)などから、1990年代には心血管疾患予防の観点からもホルモン補充療法が盛んに行われていました。その後、2000年初頭に報告された大規模調査研究で、エストロゲン黄体ホルモン併用のホルモン補充療法で冠動脈疾患のリスクが上昇すること5、6)が報告されたことで、ホルモン補充療法の副作用リスクに注目が集まり、世界的にホルモン補充療法の施行数は急激に減少しました。

 その後、2010年代後半には閉経後間もない方でホルモン補充療法を行うことによって動脈硬化を予防することができること、閉経後10年以上経った方ではホルモン補充療法による動脈硬化予防効果がないことがわかりました7)。ホルモン補充療法が動脈硬化を予防するかどうかは閉経との時間的な関係に依存しているという仮説(タイミング仮説)が以前からありましたが、それが立証されたのです。

 閉経前後の更年期障害の症状改善を目的としたホルモン補充療法は、更年期障害の治療となるだけでなく、心血管疾患などの慢性疾患の予防となるという二重の利得が得られるのです。この点で、近年はホルモン補充療法に対し肯定的な見方が強まりました。

乳がんリスクを上げないためには適切な黄体ホルモン製剤を選択

 乳がんのリスクについては、ホルモン補充療法は他の乳がんのリスク因子、例えば週に1回フレンチフライを食べるなどの生活習慣に起因するリスクと同等であることが示されています8)。

 ただし、ホルモン補充療法による乳がんリスクは子宮の有無によって変わります。子宮がない方に対して行われるエストロゲン単独療法の場合は、プラセボに比べて乳がんリスクは低いのですが、子宮がある方に行われるエストロゲン黄体ホルモン併用療法では、プラセボに比べて乳がんリスクが上昇するという研究があります9)。ホルモン補充療法で乳がんリスクを上げるのは、エストロゲンではなく黄体ホルモンと考えられます。

 そこで、黄体ホルモンで乳がんのリスクを上げない薬剤が模索されてきました。日本では2021年の終わりから臨床に導入された天然型のプロゲステロン(エフメノ)*が最も乳がんリスクを上げないということがわかりましたので10)、2023年現在では基本的にはエストロゲン黄体ホルモン併用療法の場合には天然型の黄体ホルモン製剤を用いるという流れになっています。

*天然型のプロゲステロンは、日本での臨床導入は2021年であるが、フランスでは1980年代から使われている薬剤であり新規の薬剤ではない。

ホルモン補充療法の意外なメリット一方、深部静脈血栓症に注意

 近年の研究の最終的なフォローアップデータでは、60代、70代の方にホルモン補充療法を行った場合には死亡率は下がらず、50代の方では死亡率は下がるということが示されています11)。さらに、ホルモン補充療法を行っていた期間の後、長く年月がたった18年後の時点でも死亡率を減少させていることから、最終的には、60歳未満の閉経後間もない方を対象にホルモン補充療法を行うことで、更年期症状を改善させるだけでなく、その後の慢性疾患の予防というメリットも同時に得られるということがわかっています。

 ただし、50代の方にホルモン補充療法を行った場合に唯一リスクとして考えなくてはいけないのが深部静脈血栓症です。エストロゲンを経皮的に投与することで血栓症のリスクが上がらないとわかっていますので、現在の考え方は、経皮的なエストラダイオールと天然型の黄体ホルモンを用いることで、リスクを増加させずにベネフィットを高めるホルモン補充療法ができると考えられています。

漢方薬でも症状の緩和をタイプごとにオススメの漢方

 日本では更年期障害の治療には漢方薬も多く用いられています。漢方薬は基本的には婦人科3大処方といわれる当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸が更年期障害の漢方治療の主軸となっています(8)。

当帰芍薬散

 比較的体力がなくて貧血気味でむくみがある方によく使われる漢方薬です。我々の研究で更年期症状として頭痛がある方で、ホルモン補充療法と比較して当帰芍薬散では症状が軽減した症例が有意に高いことがわかっています1)。

加味逍遙散

 体力が弱く、ほてり、のぼせの他に変化する精神神経症状を訴える方に効果がある漢方薬です。3大処方を比較した我々の研究では、なかなか寝付けないという入眠障害、熟眠障害に対して加味逍遙散は有効であるということがわかっています12)。

桂枝茯苓丸

 体力があって赤ら顔でのぼせを訴える方で、お腹の力が強くがっしりした方に適している漢方薬です。我々の研究で血圧が高い方の血圧を下げるということがわかっています13)。

精神症状には向精神薬を使用することも

 眠れない、イライラする、気分が落ち込むといった精神症状が全面に出ている方に関しては、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬などの向精神薬を併用していくということで対処していきます。

更年期障害における薬剤師の役割に期待

 日本人の平均寿命の延伸に伴い、今や人生100年とも言われる時代となっていることから、更年期はいわば女性の人生の折り返し地点ともいえます。

 更年期障害の時期が過ぎてもエストロゲン欠乏の影響はさまざまな慢性疾患の発症に関与することから、セカンドステージを生き生きと過ごすための鍵は女性ホルモンが握っているともいえます。更年期症状をきっかけにして、自分の身体を見直しリセットする。更年期はリスタートの時期であり、この時期からの女性医療の重要性は非常に高いと考えられます。

 女性が多い薬剤師さんの中には、積極的にこの分野で活動されている方もいらっしゃいますが、全体としてはまだまだ更年期障害とその対処法、そしてホルモン補充療法についての正確な情報が十分に伝わっているとはいえない状況です。日本女性医学学会(https://www.jmwh.jp/)では、更年期だけではなく女性の健康全般に関してさまざまな活動を行っていますので、そういう場で是非一緒に勉強して正しい知識を得ていただければと思っています。

参考文献

1)TerauchiM.etal,EvidBasedComplementAlternatMed.2014;2014:593560.
2)GordonJL.etal,Menopause.2016;23(3):257-66.
3)MillerVT.etal,JAMA.1995;273(3):199-208.
4)GrodsteinF.etal,ProgCardiovascDis.1995;38(3):199-210.
5)RossouwJE.etal,JAMA.2002;288(3):321-33.
6)AndersonGL.etal,JAMA.2004;291(14):1701-12.
7)HodisHN.etal,NEnglJMed.2016;374(13):1221–1231.
8)BlumingAZ.etal,CancerJ.2009;15(2):93-104.
9)AndersonGL.etal,LancetOncol.2012;13(5):476-86.
10)FournierA.etal.JClinOncol.2008;26(8):1260-8.
11)MansonJE.etal.JAMA.2017;318(10):927-938.
12)TerauchiM.etal,ArchGynecolObstet.2011;284(4):913-21.
13)TerauchiM.etal,IntJGynaecolObstet.2011;114(2):149-52.


寺内公一氏 プロフィール

1994年東京医科歯科大学医学部卒業。2005年米国エモリー大学リサーチフェロウ。2012年東京医科歯科大学女性健康医学講座准教授。2016年同教授。2020年東京医科歯科大学茨城県地域産科婦人科学講座教授。日本産科婦人科学会代議員・認定産婦人科専門医・指導医、日本女性医学学会理事・認定女性ヘルスケア専門医・指導医、日本女性心身医学会理事・認定医、日本骨粗鬆症学会理事・認定医、日本心身医学会代議員、日本抗加齢医学会評議員・専門医、北米閉経学会(NAMS)認定医。