監修
東京都立小児総合医療センター感染症科
部長 堀越 裕歩 氏

子どもの感染症では、自宅療養での注意や医療機関を受診するかどうかの判断など、保護者の不安も尽きません。今回は、子どもがよく罹患するRSウイルス感染症と手足口病について、主な症状や対症療法を中心に東京都立小児総合医療センター感染症科部長の堀越裕歩氏に解説していただきました。また、薬剤耐性対策が進められるなか、ウイルス性疾患に対して抗菌薬の不適正使用を回避する重要性についてもお話を伺いました。

RSウイルス感染症

侵襲性や疾病負荷が高く
二峰性の流行を示すRSウイルス

 RS(Respiratory Syncytial)ウイルスは、気道系の感冒症状を引き起こすウイルスのひとつです。主に子どもが感染し、小児の呼吸器感染症による入院理由として最も多くを占めています。RSウイルスは大人でも感染することが知られており、高齢者では子どもと同様に重症化や死亡に至るケースもあります。侵襲性や疾病負荷が比較的高いウイルスですが、現時点では有効なワクチンや抗ウイルス薬がない最後の呼吸器ウイルスとも言われています。

 RSウイルス感染症は20~30年前は冬に流行していましたが、最近の10~20年は、本州では7~9月頃の夏季に最初のピーク、12月頃の冬季に次のピークがみられるという二峰性の流行パターンを示しています。

 新型コロナウイルス感染症が流行した初期の2020年は、人と人の接触機会が減ったことによりRSウイルス感染症の流行がみられなくなりましたが、その後、人との接触機会が増えたことや、RSウイルスにさらされる機会のあった子どもが少なかったことなどから、2021年の夏は大流行がありました。2023年はおそらく、これまでのような夏季と冬季の二峰性の流行パターンに戻っていくのではないかと予測しています。

軽症例は数日で回復
重症例は細気管支炎や呼吸悪化も

 RSウイルスに感染したときの症状は、健康な大人であれば一般的な感冒とほとんど区別がつかず、少し喉が痛い、咳や鼻水が出るといった「風邪かな?」と思われる症状の範囲で、あまり重症化することはありません。特に苦しくなることや脱水になることがない軽症の場合には、自宅療養により3~4日で回復します。

 典型的な症状として、コンコンと強い咳が出て気管支炎になることがあります。RSウイルスは気管で炎症を起こし、気管の細胞を破壊するなど気管に対する侵襲性が高いため、ウイルスが消失した後も気管へのダメージが残る場合には、数週間ほど咳が続くこともあります。

 1歳未満では基礎疾患がなくても症状が悪化するケースや、2歳未満では気管支の先が狭窄する細気管支炎をきたし、喘息発作のような、ヒューヒュー、ゼーゼー、といった呼吸苦をきたすことがあります。治療を行っても呼吸症状が悪化した場合には、入院した上での酸素投与や人工呼吸器で呼吸管理をしながら、自然回復を待つことになります。

子どもの呼吸悪化と脱水に注意する

 RSウイルス感染症に対しては、これをしておけばよいという具体的な予防策がないため、具合が悪くなったら医療機関を受診することが一番です。RSウイルス感染症を含め、子どもの呼吸器感染症において、医療機関を受診するかどうかの判断のポイントは主に2つで、呼吸の状態が悪くなったときと、水分がとれなくなって脱水になったときです。

 子どもの呼吸が悪化している兆候としては、飲んだり食べたりすることができなくなった、遊んだりすることがあまりできない、呼吸がヒューヒュー、ゼーゼーしているなど、とてもしんどそうに見える、ミルクを飲ませてもすぐに咳込んで吐いてしまう、といったこともあります。また、呼吸器感染症では横になると呼吸が苦しくなりますので、小さな赤ちゃんが抱っこをしていないと全然寝てくれない、起きていないと呼吸が保てない、といったこともあります。このような症状がみられたときには、近隣の小児科を受診されるとよいでしょう。

脱水の回避には水分とともに塩分摂取を

 自宅でできる重症化予防策はあまりありませんが、水分の摂取には気を付けていただくとよいでしょう。おしっこが出ていればあまり心配はいらないと考えてもよいのですが、水分が摂取できずに脱水が起きてしまうと、脱水によって具合が悪くなってしまいます。

 水分摂取の際、水やお茶ばかり飲ませていると、塩分が不足してくることがあります。塩分は通常、食事からもかなり摂取していますが、体調が悪化して食事が全くとれていないときに水やお茶ばかり飲んでいると塩分の不足をきたし、意識が低下したり具合が悪くなることがありますので、適宜、塩分の含まれた飲み物与えましょう(表1)。

熱を下げて消耗を防ぐ
咳込みを考慮した投薬を

対症療法としての解熱剤にはアセトアミノフェンを使用します。熱を下げて消耗を抑えるという目的もありますし、発熱で呼吸がハーハーしているとそれだけでもかなりの水分を喪失しますので、脱水を回避するためにも有効です(表2)。

 RSウイルス感染症は、RSウイルスの単独感染で症状が軽症の場合には抗菌薬はほぼ不要です。ただし、RSウイルスによって発熱や咳などの症状が現れて回復した後に、肺炎球菌などによる二次性の細菌感染症などが生じて病状がもう一段階悪化することがあります。こうしたケースでは、二次性の細菌感染症に対して抗菌薬を処方することがあります。

 RSウイルス感染症では、症状として咳込みや嘔吐などが生じます。1歳未満で咳がひどい場合などはどのようなお薬を飲ませても吐いてしまうことが多いですから、服薬に際しては、吐いてしまった場合の対応法なども薬剤師さんからご指導いただけるとよいと思います。

気管支喘息の小児では貼付剤の選択も

 喘息のあるお子さんで、RSウイルス感染によってヒューヒュー、ゼーゼーといった喘息発作の症状が出ている場合には気管支拡張薬が効果的なケースもあります。ただし、RSウイルスによる細気管支炎に対しては、気管支拡張薬を投与しても改善はあまりみられません。

 β2刺激薬を使う場合には、咳がひどいお子さんではおくすりを飲ませても咳込んで吐いてしまったり、くすり嫌いのお子さんでは嫌がってくすりを飲んでくれないこともありますので、ツロブテロール経皮吸収型テープ(ホクナリンテープ)などの貼付剤を選択することもあります(表3)。内服が可能な場合には、ドライシロップ製剤もあります。

 RSウイルス感染によって喘息発作が出ている場合には喘息に対するステロイド薬の効果はあると思います。一方で、RSウイルス自体に対しステロイド薬はあまり効果的ではありませんので、明らかに喘息だと判断できるとき以外はステロイド薬はあまり使用していません。

重症化リスクの高い子どもへのモノクローナル抗体薬

 RSウイルス感染症の重症化リスクが高い早産児や慢性肺疾患を有する小児には、重症化の抑制を目的としたモノクローナル抗体薬パリビズマブ(シナジス)があります。対象となる小児にはRSウイルス感染流行初期に月1回筋肉注射することで、RSウイルス感染による重症化を防ぎます。日本小児科学会から「日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」が発行されており、適応は患者ごとに検討しますが、現在は、先天性心疾患、ダウン症候群、免疫不全のお子さんにも適応が拡大されています。なお、パリビズマブは月1回投与型の製剤ですが、現在、長時間作用型の抗体薬も開発が進められています。

受動喫煙などの増悪因子を改善
気管支喘息も良好にコントロールを

 呼吸器感染症に対しては、特にタバコの副流煙による受動喫煙が気管を刺激して状態を悪化させる因子となりますので、小さなお子さんがいるご家庭では保護者の健康のためにも禁煙していただくのが最善です。どうしても禁煙が難しい場合には、特にお子さんが風邪をひいて体調を崩しているときにはしっかりと分煙をしていただくとよいでしょう。

 気管支喘息など気道系のアレルギー症状がすでにある場合には、RSウイルス感染が喘息発作の誘因になりますので、日常的にしっかりと喘息をコントロールしておくことが重要です。喘息に対して有効な薬剤は多くのものがありますので、適切な使い方の指導において、薬剤師さんにも活躍していただければ幸いです。

手足口病

夏風邪ともいわれ
手、足、口に発疹が出る

 手足口病では、その名称からも分かるように、手、足、口に発疹がみられます。発疹は手、足、口のすべての部位に発現することもあれば、一部の部位のみに発現することもあります。手足に発疹がみられ手足口病を疑って医療機関を受診することになる場合もあれば、夏の時期に発熱があって受診され、診察時に口の中に手足口病に典型的な発疹が観察されることもあります。口の中でも特に喉に発疹ができるものはヘルパンギーナと呼ばれています。

 手足口病の原因は、腸管内で増殖するウイルスの一種であるエンテロウイルス属のウイルスで、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスなどがあります。近年は新型コロナウイルスの流行によってさまざまな感染症の流行パターンに変化がみられましたが、例年は主に夏の時期に複数のウイルスが各地で流行するため、夏風邪といわれることもあります。基本的には臨床症状と流行時期(夏)から手足口病と診断します。

 手足口病は乳幼児や幼稚園、保育園に通う年齢の子どもによく見られますが、小さい頃に罹患すると免疫ができ、その後はかかりにくくなりますので、小学生ぐらいになるとあまり見られなくなります。なお、まれにですが、子どもの頃に感染しなかった型のウイルスがあった場合、子どもと頻繁に接するお母さんが手足口病にかかることがあります。

ほとんどが軽症で自然回復
発熱にはアセトアミノフェンを選択

 手足口病の症状の程度にはばらつきがあり、比較的高い熱が出る子どももいれば、「言われてみれば手などに少し発疹があったかな?」という程度で、日常生活のなかで気づかないうちに治ってしまうこともあります。ほとんどの場合は非常に軽症で後遺症が生じることもなく、静養して自然回復を待てば3~4日、長くても1週間以内には症状が改善します。

 やや高い熱が出ているお子さんや、口の中の痛みによって飲食がしにくいお子さんには、解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンを処方することがあります。添付文書に記載されているとおりの通常量の使用であれば特に大きな問題はありません。アセトアミノフェンの処方は必須ではありませんが、お子さんがぐったりしているとき、食欲が落ちている時に、消耗を避けるために使用するものと考えていただくとよいでしょう。

 手足口病の発疹は、見た目は周囲がかなり赤く、内側に白っぽいものが溜まっていますが(写真)、水疱瘡やとびひとは異なり、痛みやかゆみなどの煩わしさをともなうことがあまりないため、塗り薬もほとんど必要ありません。ただし、コクサッキーA6ウイルス(CA6)によるものでは広範囲に発疹が出たり、爪がはがれるといったことがありますので、その場合には皮膚科医にも相談します。

中枢神経症状や脱水、免疫不全状態に注意する

 生後一ヵ月以内の新生児ではまれに重症化することがあるほか、エンテロウイルス71(EV71)などではウイルスが中枢神経に移行することにより髄膜炎などをきたすケースもあります。また、口のなかに発疹ができた赤ちゃんでは、口の中の痛みによって水分をとることができなくなり、脱水症状の改善を目的とした点滴のために入院を必要とすることもあります。重症化予防の具体的な方法はありませんが、たとえば白血病など免疫不全状態の新生児やお子さんではさまざまな感染症が重症化しやすいため、特に注意が必要です。

トイレ後や食事前、おむつ処理後は手洗いを

 手足口病やヘルパンギーナを引き起こすエンテロウイルス属のウイルスは腸管内に存在し、発疹が消失した後も便から数週間にわたってウイルスが排出されます。こうしたことから、便のついた手で口の周りなどを触ると感染することがありますので、トイレの後や食事の前には必ず手を洗うことが大切です。

 また、乳幼児のおむつにもウイルスが付着していますので、おむつの処理を適切に行い、おむつの処理後には保護者の方もしっかりと手を洗うことで、ほかのお子さんへの感染も防ぐことができます。

 エンテロウイルス属のウイルスに対してはアルコール消毒の効果があまりないため、石鹸と流水を使って手を洗うことが最も有効な対策だといえるでしょう。

薬剤耐性対策

ウイルス性疾患では抗菌薬をむやみに使用しない

 これまで、感冒症状に対して慣習的に多くの抗菌薬が処方されてきました。抗菌薬の新規開発が少なくなる一方で、さまざまな薬剤耐性菌の出現や耐性菌による感染症の増加が問題となっています。こうした世界的な状況を背景に、日本でも薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策のアクションプランが示されています(表5)。

 手足口病やRSウイルス感染症などウイルス性の疾 患に対して抗菌薬は効果的ではありません。適正使用の観点からも、ウイルス性疾患にはむやみに抗菌薬を処方しないことが大切です。医師からの日常的な処方のひとつひとつに薬剤師さんから疑義照会をしていくことは難しい局面もあるかと思いますが、地域の医師会や薬剤師会などでの勉強会の機会に、薬剤耐性対策や抗菌薬の適正使用に関する知識の習得、周囲への共有や啓発活動をしていただくことが重要です。

抗菌薬の適正使用を推進し、よりよい未来の構築へ

 一定の要件を満たした医療機関では、抗菌薬が必要ないケースにおいて、抗菌薬が必要ではない場合に抗菌薬を使用しないと、小児抗菌薬適正使用支援加算がつくこともあります(表6)。抗菌薬の添付文書には[「抗微生物薬適正使用の手引き」を参照し、抗菌薬投 与の必要性を判断した上で、本剤の投与が適切と判断される場合に投与すること]とも記載されており、この手引きには、ウイルス性の感冒や下痢などでは抗菌薬が不要であるということや、患者さんへの実際の指導例なども記載されています。


 不要な抗菌薬の処方によって薬剤耐性菌が生じてしまうと、思いがけないところでむしろメリットよりもデメリットが大きくなってしまいます。たとえ私たちの世代での影響は大きくなかったとしても、薬剤耐性菌が腸内細菌として選択され、子どもや孫の世代に受け継がれてしまう懸念もあります。ですから、ウイルス性の疾患に対しては的確な臨床診断をした上で、抗菌薬の不適切な使用はしないと決断することも、未来への大きな貢献となるでしょう。薬剤耐性対策や抗菌薬の適正使用において、海外では薬剤師さんが果たす役割も大きくなってきていますので、日本でも薬剤師さんのご協力が得られることに期待しています。

堀越 裕歩 氏 プロフィール
2001年昭和大学医学部卒業。沖縄県立中部病院小児科、カンボジアのアンコール小児病院、昭和大学小児科学教室、国立成育医療研究センター総合診療部、カナダのトロント小児病院感染症科、WHOナイジェリア・マレーシア勤務などを経て現職。専門は、小児感染症、薬剤耐性対策、ワクチン、国際保健。