「あなたはOTC薬を求める来局者にどのように対応しますか?」こう薬剤師に問いかけるのは昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門の木内祐二教授。プライマリ・ケアの担い手としての薬剤師には、症候から疾患と重症度や緊急性を推測し、生活指導、OTCによる対応、受診勧奨、あるいは医療機関や家族への緊急連絡などから適切な選択肢を選び(トリアージ)、責任をもって対応するという臨床判断が求められます。

【 監修 】
木内 祐二 氏
昭和大学医学部薬理学講座
医科薬理学部門教授

はじめに
地域医療で求められる薬剤師の臨床判断

厚生労働省は約800万人とされる団塊世代が75歳以上になる2025年をめどに、住みなれた地域で自分らしい生活を続けられる地域包括ケアシステムの構築を推進しています。その中で薬局薬剤師の果たすべき役割を考えると、来局者(患者)が何らかの症候を示すとき、どのように判断して行動するかが重要になってきます。
薬局は地域の身近な健康相談窓口として地域住民の健康回復、維持、向上に努めてきましたが、1990年代後半から医薬分業が進み、2006年には医療法が改正され、「調剤を実施する保険薬局は医療提供施設」であることが明記されました。2006年の医療法改正は医薬分業が新たな第2ステージに進んだことを示し、薬局薬剤師には、今まで以上に責任ある判断と行動が期待されています。
すなわち第2ステージでは、心身の異常、症候を訴える来局者に対して適切なトリアージとセルフメディケーションの支援が求められています。さらに、在宅訪問時には患者の病状把握と変化時の適切な対応が必要です。
病棟では、入院患者の症状を適切に聴取するとともにしっかり観察して、バイタルサインを含めたフィジカルアセスメントを行い、直ちに担当医、当直医を呼ぶべきか、経過を見るべきか、持ち合わせる知識と経験から判断します。これが「臨床判断」です。薬局薬剤師も医療提供施設のプロの医療人として、薬局窓口や在宅において同様な臨床判断による対応が求められています。
日本OTC医薬品協会は2011年にスイッチOTC薬候補として129品目をリストアップしましたが、その後、スイッチ化された医療用医薬品はわずかです。その理由の1つは、薬剤師が来局者の症状から適切に臨床判 断できるかどうかわからないという医師の不安の声です。しかし、薬剤師が来局者の状態と望ましい対応を適切に判断できるようになれば、医師の不安も払拭されスイッチOTC薬も充実するでしょう。薬剤師の臨床判断が真の意味でのチーム医療を推進します。

プライマリ・ケア、在宅医療を担う薬剤師の次世代のスキル

来局者がしばしば訴える症候として発熱、頭痛、腹痛、呼吸困難・息切れ、咳、動悸、口渇、下痢、便秘、頻尿、排尿困難…などがありますが、臨床判断のためにはまず症候から疾患名を推測して、重症度や緊急性を判断します。
従来の薬学部教育・卒後教育が疾患単位の学習だったため、薬剤師にとっては疾患名から症状を思い浮かべることはできても、症候から病名を推測する(逆引きする)のは難しいようです。したがって臨床判断の最初のステップとして、症候から疾患名を推測する「症候学」を学習する必要があります。「頭が痛い」という訴えからその患者の疾患を推測するためには、頭痛をきたす疾患名をできるだけ多く思い浮かべ、症状に関連する情報(LQQTSFA、後述)から疾患を絞り込めるようにしておくことが大切です。自覚症状だけでなく、既往歴や受診歴、社会的な情報や家族の情報などを聞くことも大切です。
疾患を絞り込むときに重要なのが、「この病気に違いない」と決めつけず、複数疾患程度にまで絞り込むことです。疾患が絞り込めたら、来局者ごとに適切な対応方法を判断・選択して責任をもって実施します(図1)。カウンセリングや生活指導、OTC、受診勧奨、緊急連絡の中からいずれかを選択(トリアージ)します。

木内氏の話をもとに編集部作成

薬剤師に求められる臨床判断能力をまとめると、①基本的な症候を示す疾患を系統的に理解する、②来局者から情報を適切に収集し、疾患とその重症度などを 推測する、③来局者ごとに適切な対応を判断し、責任をもって実施することです(表1)。

木内氏の話をもとに編集部作成

現在の6年制薬学教育では、来局者から情報を適切に収集し疾患を推測、来局者ごとに適切な対応を判断して実施するための授業、ロールプレイ、薬局実習、病院実習などが行われています。また、健康サポート薬局に関する研修の中でも、薬剤師が臨床判断を学ぶカリキュラムが設けられており、私も臨床判断に関する研修を行っています。

臨床判断における医療面接の標準的な手順

臨床判断のための医療面接ではLQQTSFAの順に情報を収集します(図2)。さらに受診歴、既往歴やアレルギーの有無などを聞けば、疾患を推測するための 情報がかなり得られます。LQQTSFAによる医療面接手順は医療系学部教育(医学部、薬学部、歯学部、看護学部など)で学ぶ標準的な方法であり、薬学生でも ほぼ5分以内で聞き取ることができます。

木内氏の話をもとに編集部作成

頭痛の臨床判断

よくある症状である頭痛を例に、具体的な臨床判断の手順と考え方を解説します。頭痛を訴える患者が来局したら、まずは図1に従って、頭痛を生じる疾患をできるだけたくさん挙げてみましょう(表2)。
頭痛は基礎疾患のない一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛)とほかの疾患に起因する二次性頭痛に大別されます。二次性頭痛の中でも緊急性の高い疾患によるものは決して見逃してはなりません。
とくに脳血管障害(くも膜下出血、脳内出血、脳梗塞)は発症から治療を受けるまでの時間が短いほど後遺症が軽減される可能性が高く、一刻の猶予もありません。くも膜下出血における頭痛は「バットで殴られたような」と形容されるほどの、激しい突然の痛みが特徴です。しかし、痛みが弱い場合もあるので、突然発症して1〜3分でピークに達する頭痛の場合は疑ってみる必要があります。嘔吐やさまざまな意識障害を伴うこともあり、髄膜刺激症状として後頸部が硬くなる項部硬直や、頭を左右に振ると頭痛が増強するJolt accentuationの有無を確認する方法もあります。
以上のほかに、見逃してはならない緊急性の高い脳血管障害として、頸部の回旋などがきっかけとなり後頭部・後頸部痛が発症する脳動脈解離、全身倦怠や微熱で発症し、側頭部の持続的な拍動性頭痛・圧痛を伴う側頭動脈炎などがあります。
感染性疾患として緊急性が高いのは髄膜炎や脳炎です。小児の場合、頭痛に発熱が伴えば疑うべきです。髄膜炎では強い頭痛、高熱に加えて嘔気・嘔吐、項部硬直、意識障害のような髄膜刺激症状、脳圧亢進症状が出現します。頻度の高いウイルス性髄膜炎は2週間程度で治癒しますが、細菌性、結核性髄膜炎は重篤化し後遺症を残す場合や、死にいたることもあります。
二次性頭痛の中で薬局でもしばしば遭遇するのが、風邪症候群やインフルエンザによって起こる頭痛ですが、感冒改善後などに発症する細菌性副鼻腔炎でも頭痛が起こります。副鼻腔の相当部位(前頭部や頬部)の自発痛、叩打痛、圧迫感があり、前傾姿勢で増悪します。鼻閉、鼻汁を伴い、頭頂部や後頭部の痛みを訴えることもあります。
うつ病や神経症性障害などでも頭重感や圧迫されるような頭痛を訴えることがあります。抑うつ気分、不安、気力や活動力の低下といった精神症状のほか、不眠、下痢、食欲不振などの全身の不調を訴えますが、一般的には午前中症状が重く、午後になると軽快します。

木内氏の話をもとに編集部作成

症状によって見分ける一次性頭痛

頭痛患者の約90%は一次性頭痛です。重大な頭蓋内疾患による頭痛は1%未満ですが、まず緊急性の高い二次性頭痛を除外してから一次性頭痛を判断する習慣を身につけるようにしてください。
一次性頭痛の症状はタイプによって異なります。最も多い緊張型頭痛は両側の後頭部、後頸部、前頭部あるいは頭全体が締め付けられるような痛みと表現されることが多い軽症〜中等症の頭痛で、日常生活に大きな支障はありません。午後に増強し、肩こりを伴うことが多いのが特徴です。運動不足、ストレス、頭頸部の姿勢異常などが関与しています。片頭痛は発作反復性の心拍に同期したズキズキする拍動性頭痛で、片側性がやや多いのですが、両側性も少なくありません。中等症〜重症の頭痛が4〜72時間持続し、悪心・嘔吐を伴い、光、音、臭いに過敏になります。日常的な動作で痛みが増強するため横になっていることが多く、日常生活に支障がでます。片頭痛の20%程度 は、頭痛の前兆として閃輝暗点(チカチカ)や視野欠損などが認められます。ストレス、過労、寝不足・寝過ぎ、人ごみ、アルコールなどの特定の 食物、天候の変化、月経などが誘因として挙げられます。一次性頭痛の中で最も少ない群発頭痛は、1日に1〜2回、15分~3時間ほど持続する頭痛です。片側の眼球がえぐられるような痛み、と表現されることが多く、じっとしていることができないほどの激しい痛みが数日〜数週間にわたって継続します。結膜充血、流涙、発汗、眼裂狭小を伴います。誘発因子はアルコールです。

頭痛に関する質問と推測される疾患

頭痛を生じる疾患を列挙したら、次は疾患を絞り込むために患者情報を収集します。表3はLQQTSFAを質問したときの患者の回答と、疾患の関係を示しています。片側性に頭が痛ければ片頭痛、群発頭痛、側頭動脈炎、耳疾患、三叉神経痛、緑内障などが疑われ、加えて前兆があれば片頭痛ではないかと絞り込めます。また頭全体の激痛の場合はくも膜下出血や髄膜炎の可能性があり、激痛が突然生じた場合は、くも膜下出血かもしれません。
面談で得られた情報で、突発的な発症か、増悪しているか、これまでで最悪の頭痛の、3つすべてが「いいえ」であれば、脳血管障害、脳腫瘍、髄膜炎などの危険な頭痛はほぼ否定できます。
また、服薬歴の聴取は、薬物乱用頭痛、薬物誘発性の急性頭痛、抗コリン薬による急性緑内障発作の誘発などを推測する上で重要な情報になります。

木内氏の話をもとに編集部作成

頭痛の臨床判断アルゴリズム

臨床判断アルゴリズムを活用すると、来局者の病態を反映する情報や所見を収集して疾患を推測、さらに適切な対処法を選択(トリアージ)して提案するまでの手順が容易につかめます。頭痛の臨床判断アルゴリズムが手元にあれば、LQQTSFAを聞く間に数疾患まで絞り込むことができ、数疾患に絞り込んだ段階で特異的な質問を投げかけてさらに疾患を絞り込むことができます。たとえば、一次性頭痛まで絞り込んだときに肩こりの有無を確認すれば、緊張型頭痛の可能性が高いというように、鑑別はより確実になります。
図3は頭痛の臨床判断アルゴリズム例です。私は卒後研修の一環として薬剤師の臨床判断能力を身につけるためのワークショップを行い、臨床判断アルゴリズムを作成してもらっています。自分でアルゴリズムをつくり、使い勝手のよい頭痛の臨床判断アルゴリズムを手元に置いておくと、疾患の絞り込みと対応方法の決定に役立ちます。

木内氏の資料を参考に編集部作成

OTC薬の選択と服薬指導

臨床判断アルゴリズムに沿って疾患を絞り込み、OTC薬を勧める例としては、軽症〜中等症の緊張型頭痛や片頭痛に対してはアスピリン、ロキソプロフェン、イブプロフェンなどのNSAIDsが有効です。NSAIDsよりやや効果は劣りますが、アセトアミノフェンの有効性も知られているので、これらを含有するOTC薬を推奨します。OTC薬の推奨とともに生活面の指導も必要であり、薬物乱用頭痛のリスクについても十分に説明します。群発頭痛については、通常の鎮痛薬は効果を期待できないので受診勧奨となります。
風邪症候群やインフルエンザが疑われる場合は、症状と重症度に応じてOTC薬を推奨するか受診を勧めます。副鼻腔炎が疑われて鼻閉が強ければスイッチOTCなどの点鼻薬で対応しますが、鼻汁や頭痛、顔面痛(顔の腫れ)などが強ければ、抗菌薬を使用しなければならないので受診を勧めます。
各疾患のガイドラインは科学的根拠(ランダム化比較試験など)に基づいて作成されており、医師はそのガイドラインを参考にして患者に科学的根拠に基づく医療(EBM:Evidence-Based Medicine)を提供します。EBMはチーム医療を担う医療人の共通言語であり、薬剤師が臨床判断する際にも科学的な裏付けが必要です。
現在、主要な疾患では科学的根拠に基づく診療ガイドラインが市販され、学会のホームページから無料で入手できるガイドラインもあります。さらに近年では症候別のガイドラインも発行されているので薬剤師の臨床判断に役立つでしょう。ガイドラインの中にはOTC薬について記述されているものもあります。たとえば、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」には、「市販薬による薬物療法をどのように計画するか」という項目が設けられています。こうしたガイドラインを参考にトリアージし、OTC薬を推奨することが大切です。とくに臨床研究データの多いスイッチOTC薬を勧めるときは、エビデンスに基づく対応が求められます。
生活指導やOTC薬を勧めたときのポイントは再来局を促すことです。プライマリ・ケアの入口である薬局が最後まで責任をもつためにも再来局を促してください。OTC薬で効果が見られなかった場合には、服用のタイミング(発作早期に有効)を確認し、用法が適正なら難治性頭痛を疑い受診勧奨します。ここまで確認して医療人、プロフェッショナルとしての薬剤師の役割が果たせます。

参考文献
1)国立がん研究センター がん情報サービスのホームページより https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/EBM.html
2)木内祐二編「アルゴリズムで考える薬剤師の臨床判断症候の鑑別からトリアージまで」南山堂, 2015

c o l u m n 薬物乱用のリスクに関する説明と対応

薬物乱用頭痛は薬剤師が見落としてはならない頭痛の1つです。国際頭痛分類における薬物乱用頭痛の診断基準では、1カ月に15日以上の頭痛、1種類以上の急性期・対症的頭痛治療薬を3カ月を超えて定期的に乱用、などと定義しています。とくに片頭痛の治療薬であるトリプタン系薬やエルゴタミンを、3カ月を超えて月に10日以上摂取している場合は薬物乱用頭痛を疑う必要があります。鎮痛薬やオピオイドも同様に注意が必要です。1種類の鎮痛薬より複合薬物の方が薬物乱用頭痛を起こしやすいので、OTC薬を勧めるときは1種類の鎮痛薬を選択します。
頭痛薬を頻用したため薬物乱用頭痛になったというケースに遭遇したら受診勧奨して医師の指導のもとで薬物療法を行うべきです。薬物乱用頭痛の予防と治療の原則は、原因薬物の中止、薬物乱用後に起こる頭痛への対応であり、頭痛専門外来などで頭痛専門医による適正な治療と管理が必要です。しかし「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」は、「約3割の患者が再発するため、離脱後も患者に適切な助言を与え、トリプタン、エルゴタミン、鎮痛薬の使用頻度を確認することが重要」としています。
薬物乱用頭痛を防ぐためにも薬剤師は安易なOTC薬(アセトアミノフェン、NSAIDsなどの鎮痛薬)の販売を厳に慎まなければなりません。頭痛患者に対するときは、常に薬物乱用頭痛のリスクを念頭に置くべきです。