患者さんの安全を守り、かつ薬剤師がそのために振り返るためのツールである薬歴。オンラインセミナー「心不全患者の薬歴マネジメント」(一般社団法人リード・コンファーマ主催)が6月14日に開催され、つなぐ薬局 柏(千葉県)の薬剤師、鈴木邦彦氏が心不全の症例を題材に「情報収集のスキルの向上」「自分でプロブレムリストと治療計画を立案」「つながる薬歴管理のPDCAサイクルを回す」「心不全の治療管理を実践」を目指した薬歴管理のポイントを解説しました。

監修
つなぐ薬局 柏 薬剤師
鈴木 邦彦 氏


まずは心不全の概要を整理

2つのTYPEと重症度分類

 心不全は、原因となる基礎疾患があり、息切れや浮腫などさまざまな症状が現れて徐々に進行していきます。大きくはHFrEF(収縮不全)とHFpEF(拡張不全)のTYPEに分類され、TYPEごとに治療戦略が異なる点を踏まえておくこともポイントです。
 重症度の分類には、A~Dの4つのステージに分類したACCF/AHAの心不全ステージ分類や、息切れなどの自覚症状を指標とするNYHA心機能分類(Ⅰ度〈無症候性〉~Ⅳ度〈重症、末期〉)が広く用いられています。

複数の心不全悪循環ルート

 心機能が低下すると、心負荷を上昇させる複数のルートが生じます(参考図)
 ひとつは心拍出量が減少すると、腎血流量も減少し、レニン分泌が亢進するルートです。その結果、アンジオテンシンⅡの産生が亢進し、アルドステロンの分泌が亢進します。アンジオテンシンⅡの産生亢進によって末梢血管が収縮し血圧は上昇。またアルドステロンの分泌亢進により水・Naの再吸収が進み、これらが心負荷を招きます。
 別のルートでは心機能の低下によって交感神経が活性化すると、末梢血管の収縮やレニンの分泌が亢進し、心負荷へとつながります。

4段階で進める薬歴管理(事例参照)

【STEP1】患者情報の収集と作成(患者サマリ)

 網羅的に情報を収集し(主訴、現病歴、既往歴、服用薬[OTC薬・健康食品含む]、アレルギー、社会歴[仕事・飲酒・喫煙・趣味など]、家族歴など)、患者サマリを作成します。情報収集は薬歴管理の“肝”であり、治療計画の質を左右するといっても過言ではありません。重要情報を取りこぼさないために、「先生に言い忘れたことなどありませんか」と患者さんに尋ねることも忘れないようにしましょう。

病歴、服用薬がみえる項目をピックアップ検査値は日付を記載

 血液検査の結果を入手したら、いつの検査結果なのか確認することが重要です。薬歴にはすべての検査値を記載する必要はありません。全体に目を通してベースラインを押さえたら、特に病歴、服用薬、生活習慣が反映される項目をピックアップします。薬剤の排泄経路に関わる肝機能(AST、ALTなど)、腎機能(BUN、Scrなど)にも注目します。
 心不全のマーカーであるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心室から分泌されるホルモンです。これに対して、ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)は心房から分泌されるホルモンです。どちらも交感神経活性、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAAS)活性、心筋障害を抑制する働きがあり、心不全が進行するほど数値が高くなります。
 検査値は時系列で追えるように日付を記録します。

【STEP2】問題点の整理(プロブレムリストの整理)

 患者さんの問題点を合理的かつ系統的に解決する手法であるPOS(problem-orientedsystem;問題志向型システム)を用います。集めた情報に基づいて問題点を浮き彫りにすると、治療目標が明確になり、次に他の薬剤師が薬歴を見た際も患者さんの状況を的確に引き継ぐことができます。
 患者さんの心不全ステージ分類と治療目標はおさえておきましょう。慢性の進行性疾患である心不全のステージを進ませないようにするためには、ステージと病態を常に把握し、治療目標がどこに設定されているのかなどを知っておく必要があります。
 プロブレムリストは、❶問題点を箇条書きで羅列する、❷問題点の優先順位を付ける、❸行動する、の順で作成します。

【STEP3】POSを意識したSOAP記録作成

 POSを意識し、SOAP(S:患者から聞いた主観的情報、O:検査値や処方変更、客観的情報、A:SとOを踏まえたアセスメント、P:治療計画[EP:患者への説明、OP:次回への申し送り])に沿って記録作成を行います。この段階では、処方(変更)された意図や、治療経過において今後予測されることなどを意識しながらアセスメントすることが重要になります。

【STEP4】フォローアップを明確にした治療計画の実施

自分で立てたプランを常に更新

 薬歴管理は引用文、定型文などに頼らず、自分で言語化して立案した治療計画を定期点検していくことが大切です。継続的に課題が確認できるよう意識して作成し、患者さんの状態に応じて見直してください。最優先のプロブレムリストに沿ったSOAP記録と治療計画からPを提案した後はフォローアップに注力します。常に患者サマリの更新を心掛けてください。
 最後に、日々多忙な業務に追われるなかでの薬歴管理のポイントを紹介します。

⚫重要度、緊急性の点から必要なプロブレムを1つに絞る
⚫情報収集シートを工夫・作成する
⚫聞き取れなかったことは電話によるフォローアップや次回来局時に確認する
⚫新規開始薬導入時のチェック項目をフォーマット化する
 (形骸化する恐れがあるので内容は常に振り返る)
⚫血圧、脈拍、体重推移は毎回確認する


鈴木 邦彦 氏 プロフィール

2006年、第一薬科大学卒業。08年、共立薬科大学大学院医療薬学コース修士課程修了。病院薬剤師として7年間勤務後、現在は在宅医療特化型の同薬局に勤務。施設往診同行や個人在宅訪問などで積極的に医師とコミュニケーションを行い、処方提案へとつなげている。(一社)ミライ☆在宅委員会学術委員としてジェネラリスト薬剤師育成にも尽力。