スタチン系10成分の「重大な副作用」として添書改訂指示
厚生労働省医薬・生活衛生局は、2023年7月20日、配合剤を含むスタチン系薬剤10成分(アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ピタバスタチンカルシウム水和物等)について、重大な副作用に「重症筋無力症」を追加し、「重症筋無力症またはその既往歴のある患者」への投与に関して注意喚起した(薬生安発0720第1号)。
概要
重症筋無力症(MG)の患者数は、2018年の全国疫学調査では29,210人と報告されている。2006年の同調査に比べると患者数が約2倍に増加しており、男性より女性の方が若干多い。発症年齢の中央値は59歳で、男性の方がやや高いという。
MGは、臓器特異的自己免疫疾患である。自己免疫の標的分子はニコチン性アセチルコリン受容体が約85%、筋特異的受容体型チロシンキナーゼが約5~10%。これらは神経筋接合部のシナプス後膜に存在する分子であり、重症筋無力症の患者体内ではこれらに対する自己抗体が作られることで神経筋伝達の安全域が低下する。自己免疫性のMGは、遺伝性はないとされる。
臨床症状は骨格筋の筋力低下で、運動の反復により筋力が低下する(易疲労性)、夕方に症状が増悪する(日内変動)といった特徴がある。症状が眼に限局する「眼筋型」と、四肢や体幹にも表出する「全身型」に大別される。
眼症状は初発症状となることが多く、眼瞼下垂(まぶたが下がってくる)や複視(ものが二重にみえる)などの症状がみられる。四肢症状は筋力低下により、整髪時や歯磨きにおける腕のだるさ、階段を昇る時の下肢のだるさなどを認める。四肢筋の筋力低下よりも、嚥下障害や構音障害が目立つこともある。
また、全体の1割程度で筋脱力が急激に悪化し、呼吸筋麻痺をきたして人工呼吸器による管理が必要になる「クリーゼ」(急性増悪)を起こすことがある。クリーゼは感染や過労、ストレスなどにより引き起こされることが多いという。
おもな治療法
対症療法として一時的にコリンエステラーゼ阻害薬を用いるが、抗体の産生抑制や除去のためにステロイドや免疫抑制薬の投与が薬物療法の中心となる。また、重症例や急性増悪時には、血漿浄化療法、免疫グロブリン静注療法が選択され、補体C5を特異的に阻害するモノクローナル抗体製剤が投与されることもある。なお、MGの一部では胸腺腫を合併しており、外科的にこれを取り除く場合もある。
患者さんの症状に関する訴えと受診勧奨
(一社)全国筋無力症友の会では、MGの症状に関する患者さんの訴えを示しており、以下のような症状がみられたら、専門医への受診を促している。(同会HPより一部引用)
⃝髪を洗ったり、ドライヤーで乾かしていると腕がだるくなりやすい
⃝歯を磨いていると腕がだるくなりやすい
⃝走っているうちに脚が動かなくなる
⃝階段を続けてのぼれない
⃝歌を歌っていると、鼻声になる
⃝音読を続けるとろれつがまわらなくなる
⃝午後の授業では、黒板の字がだぶって見える
⃝午後にまぶたが下がってくる