2023年8月18日~20日、第23回JAPANドラッグストアショーが開催さ れた。ここでは薬剤師業務にも関わる受診勧奨をテーマにした岸田直樹氏に よる特別講演「セルフケア、セルフメディケーション推進のための臨床推論に基づく受診勧奨への期待」を紹介する。

JACDS学術・調査研究委員会 学術顧問
感染症専門医
総合内科専門医
岸田 直樹 氏

高齢化と医療費抑制、医師の働き方改革にも通じる受診勧奨

 受診勧奨は、高齢化とそれに伴う医療費、さらに医師の働き方改革といった課題の鍵になると岸田氏は説く。

 折しも当ドラッグストアショー開催期間中に、2022年5月、当時神戸市の病院に勤務していた医師が自死した件が労災認定された。長時間労働による精神疾患発症が原因とされている。医師の働き方改革により、2024年4月から基本的に一般勤務医の時間外・休日労働時間の上限は960時間/年(例外では1,860時間/年)となる。岸田氏は患者でごった返す医療機関に疑問を呈し、厚生労働省が推進する「上手な医療のかかり方」の根底には医師の働き方改革も関わると指摘する。かかりつけ医を持つほか、セルフケアと受診勧奨の推進は、日々、現場で尽力する医療者を守ることだと訴える。

臨床推論は医療者間を繋ぐツール

 適切な受診勧奨には、臨床推論が重要な役割を担う。岸田氏は、臨床推論を「患者さんの抱える臨床的問題を解決する際に、自分でどのように考え、アプローチするかというものの考え方であり、①情報収集、②引き出した情報をもとにアセスメント、③アセスメントした情報の伝達、の3つのプロセスからなる」と解説する。

 さらに自身が実施した臨床推論は、どのような情報をもとにその考えに至ったかを医師など他の医療者にも伝達、共有することになる。岸田氏は「臨床推論は医療者同士のコミュニケーションツール」として、患者の状況を的確に伝達し、医療者間を繋げるツールと認識してほしいという。ただし、いきなり臨床推論は難しいこともあるため、まずはセルフケア可能な疾患について危険な兆候(レッドフラッグサイン)を見逃さないよう知っておくことが重要だとした。

頭痛と新型コロナウイルス感染症の臨床推論のポイント

 岸田氏による臨床推論の具体例として、2例のポイントを紹介する。

【頭痛】

くも膜下出血や脳疾患などによる「危険な頭痛」か識別するため、以下の4点を確認する。

❶突然か?
「突然」の認識は個人差があるため、「突然起きたか」ではなく、「何をしているときに起きたか」を問う。医学的には、数秒から数分以内に痛みの頂点に達するものが突然の痛み。
❷人生で最悪の痛みか?
❸痛みは強くなっているか?
❹(片頭痛など常態的な頭痛の患者に対し)普段と異なる頭痛か?

【新型コロナウイルス感染症】

 重症化リスクを検討するため、以下の2点を確認する。

❶上気道症状(咳・喉・鼻)の有無
❷ワクチン接種の有無

 風邪様症状のひとつとして、レッドフラッグサインは風邪と同様と考える。札幌市の重症化率データによると、高齢者が新型コロナウイルスに罹患していた場合でも「のどの痛み」「鼻水」の場合は重症化しにくいと示されている。まずは風邪の3症状(咳・喉・鼻)を確認し、基本的な対症療法を提案する。また、ワクチン未接種の場合は、重症化しやすい。

※「COVID-19の症状の新たな特徴を明らかに」(2023年7月3日北海道大学病院プレスリリース)

社会変化に伴い変化するニーズ
究極は患者さんに寄り添うコミュニケーション力

 高齢化、医師の働き方改革、新型コロナウイルス感染症などさまざまな社会変化があり、薬局やドラッグストアに対するニーズも変化している。ただ岸田氏は、「究極的には、患者さんの訴えにしっかりと耳を傾け、不安に寄り添えられるかが重要」と強調する。患者さんに寄り添い、得た情報を解釈、判断して、伝える、それが臨床推論。患者さんの不安に寄り添えるコミュニケーション力を身に付けることが、大きな力になると語った。