ステロイド、BRAF 阻害剤、MEK 阻害剤の新規リスク

 令和5年12月1日に発出された「使用上の注意の改訂等に繋がりうる注目しているリスク情報」として、ステロイド(デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、コルチゾンなど)や、BRAF阻害剤のエンコラフェニブ、MEK阻害剤のビニメチニブにおける「腫瘍崩壊症候群」が挙げられた。

腫瘍崩壊症候群とは

 「腫瘍崩壊症候群(Tumor Lysis Syndrome;TLS)」とは、がんの治療開始から12〜72時間以内に現れる副作用で、尿酸増加や電解質の不均衡、血液の酸性化、尿の産生減少などの異常を指す。

 化学療法をはじめとしたがん治療を実施することで、腫瘍細胞が急速に崩壊する。それに伴い、細胞内の成分が血液中に多量に放出される。その結果として、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症、急性腎不全などが引きおこされる。がん治療の効果が強いことが証明された状態とも言えるものの、腫瘍崩壊症候群は致命的な病態である。

 腫瘍崩壊症候群は、臨床検査値異常であるLaboratory TLS(LTLS)と、直ちに積極的な治療介入が必要なClinical TLS(CTLS)の2つに分類される。LTLSは、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症(いずれも>基準値上限)のうち、2つ以上を治療開始3日前〜7日後までに認める。CTLSは、LTLSに加え、腎機能障害(血清クレアチニン≧1.5×基準値上限)、不整脈、突然死、痙攣のいずれかを認める、または突然死した場合。

発現しやすいがん腫と原因の薬剤

 腫瘍崩壊症候群は、造血器腫瘍(悪性リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫など)で発現することが多い半面、固形がんでの発現は低くまれな病態と考えられている。ただし、抗腫瘍効果が高い薬剤の開発とともに、近年は固形がんでも増加傾向にある。海外では、分子標的治療薬として、肝細胞がんに対するソラフェニブ、大腸がんに対するベバシズマブやセツキシマブ、腎細胞がんや褐色細胞腫に対するスニチニブ、乳がんに対するトラスツズマブによる腫瘍崩壊症候群の報告がある。また、まれではあるが、胸腺腫に対するステロイドパルス療法実施後に腫瘍崩壊症候群をきたしたケースも報告されている。

腫瘍崩壊症候群の予防

 腫瘍崩壊症候群は一度発現すると致死の可能性がある病態のため、治療開始前の発現の予測とリスクに応じ発現予防が重要となる。日本臨床腫瘍学会によるTLS診療ガイダンスでは、リスク評価を行い各リスクに応じた予防法を行うことが推奨されている。リスク評価は、LTLSの有無や対象の疾患、腎機能、病態の確認により実施され、高リスク疾患(発現率5%以上)、中間リスク疾患(発現率1〜5%)、低リスク疾患(発現率1%未満)の3つに分類される。

 腫瘍崩壊症候群が発現した際の治療を含め、重篤副作用疾患別対応マニュアルで予防法・治療法として推奨されている手段は以下のとおり。また、患者に対しては、がん治療開始後12時間〜72時間以内に尿量減少を認めた場合は医療者にすぐに連絡すること、水分補給などの予防策が重要であること、などの事前指導が望まれる。

⃝水分負荷、利尿
⃝アロプリノール(保険適用外)またはフェブキソスタット
⃝尿アルカリ化
⃝高カリウム血症への対処
⃝乳酸アシドーシスの早期診断
⃝ラスブリカーゼ
⃝血液浄化療法


・平成23年3月(平成30年6月改定)厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 腫瘍崩壊症候群」
・東和薬品 抗がん剤ナビ「抗がん剤全般による腫瘍崩壊症候群の対処法」
・一般社団法人国際医学情報センター せりみっく 今月の症例「メチルプレドニゾロンによる腫瘍崩壊症候群」
・McBride A, et al. J Hematol Oncol. 5 ; 75 : 2012   ・Shiozawa K, et al. Hepatogastroenterology. 57; 688-690: 2010
・Hentrich M, et al. Acta Oncol. 47; 155-156: 2008   ・Nicholaou T, et al. Lancet 369; 1923-1924: 2007
・Taira F, et al. Breast Cancer. ;22; 664-8 : 2015