2013年の薬事法改正によって設置された「要指導医薬品」。その後、情報通信技術が進展するなか、OTC医薬品の活用といったセルフケア・セルフメディケーションの推進、新型コロナウイルス感染症の影響によるオンラインでの社会活動の増加など、医薬品を巡る状況は大きく変化し、要指導医薬品のあり方にも変化が求められています。今回は、2023年2月より開催された厚生労働省の「医薬品の販売制度に関する検討会」(以下、検討会)で議論された内容を中心にご紹介します。
要指導医薬品の定義と品目
要指導医薬品は、「その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」と定義されています。
1)新医薬品であって、再審査期間中のもの(医療用医薬品を経ずに直接OTCとして承認された品目)
2)医療用医薬品から転用された医薬品であって、製造販売後調査期間中のもの(スイッチ直後品目)
※スイッチ直後品目は、原則3年で一般用医薬品に移行する
3)薬機法第44条第1項に定める毒薬お及び薬機法第44条第2項に定める劇薬
の3種類に大別され、現在の品目は表1のとおり。
要指導医薬品は医療用医薬品に準ずるものとして、対面の情報提供や指導が必要とされ、現状ではオンライン服薬指導は実施できません。しかし、2019年の薬機法改正により、医療用医薬品について、オンライン服薬指導が可能となりました。そこで、規制改革実施計画(2023年6月16日閣議決定)にて、要指導医薬品についてもオンライン服薬指導の実施に向けて、対象範囲および実施要件の方向性を検討し、それに基づいた所要の措置を講ずることが盛り込まれました。
要指導医薬品の取り扱いと販売の状況、近年の動向
厚生労働省の調査事業によると、要指導医薬品を取り扱う薬局や店舗販売業は、限られているといえる状況でした(要指導医薬品を取り扱っていない割合:薬局57.3%[86/150例]/店舗販売業57.0%[53/93例])1)。
さらに要指導医薬品を取り扱う薬局などの薬剤師に要指導医薬品の販売実績を聴取したところ(N=893名)、1ヶ月平均の販売人数が0名との回答が408名(45.7%)、1人以下との回答が631名(70.7%)という結果でした2)。
販売ステップを検証 オンライン対応の可能性と懸念
オンラインで要指導医薬品を販売する際には、①~⑧の流れで進めることが想定されます。
①購入者が使用する者であるかの確認
②症状の確認、製品の聞き取り
③販売の可否判断
④書面(電磁的記録を紙面又は映像に表示する方法を含む)を用いた情報提供
⑤薬学的知見に基づく指導
⑥情報提供・指導の理解の確認
⑦販売する製品の決定
⑧販売後のフォローアップ ※⑧は現在でもオンラインで実施可
オンラインでの実施可能性に関する調査2)(N=893名)では、①~⑧すべての項目で4割以上の薬剤師がオンラインで実施してもよい、という回答結果でした2)。一方で、オンラインで実施可能だが、対面で実施すべき/直接の対面でしか実施できない、と回答した薬剤師からは、次のような指摘が挙がりました。「販売する医薬品、購入者の状況など、場合によっては対面で販売すべき場合もある」、「画面越しよりも対面の方が情報量が多い」、「オンラインでは購入者がどの程度理解したか、聞いているのか判断しづらい」、「本人確認が困難」、「身体の状況が判断できない」、「不正購入を防止するため」など。実際にオンラインで対応する際には、こうした課題や現場の不安を解消していく必要があると思われます。
要指導医薬品と関わり深いスイッチOTC化
スイッチ・ラグ解消に向けた動き
要指導医薬品は、オンライン服薬指導の可否のほか、要指導医薬品を一律に一般用医薬品に移行(スイッチOTC化)すべきか、についても議論されています。
現状、要指導医薬品は一定期間経過後、一般用医薬品に移行する(毒薬・劇薬を除く)制度となっており、一般用医薬品となるとインターネット等による特定販売が可能になります。そこで懸念されるのが、安全性の確保や適正使用の担保です。この懸念がスイッチOTC化の障壁のひとつになっているともいわれています。
一方で、スイッチOTCは、「スイッチ・ラグ」という課題も抱えています。スイッチ・ラグとは、海外での医療用医薬品のスイッチOTC化時点から日本でのスイッチOTC化までに生じる時間差のことで、海外の承認から20年以上ラグが生じている医薬品も複数あります。しかし、この課題については、解消に向けた動きがあらわれています。2023年12月26日の規制改革会議の中間答申において、厚生労働省は2023年末時点で海外2か国以上でスイッチOTC化されている医薬品については、原則3年以内(2026年末)に日本でもOTC化し、スイッチ・ラグを解消するよう求められました。この対象には緊急避妊薬も含まれています。さらに2025年以降に申請された医薬品については、「2年以内」にOTC化の可否判断ができるよう、審査・審議の大幅なスピードアップも促されました。
こうした動きにより、スイッチOTC化が促進することも予想されます。
オンライン販売に向けた課題を踏まえた方向性
検討会は、オンライン診療・服薬指導の制度基盤の整備が進み、実施可能となっている現状を踏まえると、要指導医薬品の販売についても多くの場合は薬剤師の判断で、基本的な患者の状況確認や情報提供などがオンラインで実施できるとの考えでまとまりました。そこには、要指導医薬品のオンライン対応を可能にすることで、薬局で要指導医薬品を取り扱いやすくし、要指導医薬品への国民のアクセス向上を図りたいといった期待もあります。
検討会で作成された取りまとめでは、安全性の確保を含め今後の方針について、次のように述べられています。今後、厚生労働省は、この方針に則って対応を検討する予定です。
①オンライン服薬指導について
● 要指導医薬品についても、薬剤師の判断により、調剤された薬剤のオンライン服薬指導と同様の方法により、必要な情報提供等を行ったうえで販売することを可能とする
● 医薬品の特性に応じて、オンラインではなく対面で情報提供や適正使用のための必要事項等の確認等を行うことが適切な品目※については、オンラインでの情報提供等のみにより販売可能な対象から除外できる制度とする
※薬剤師の面前で直ちに服薬する必要があるもの、悪用防止のため厳格な管理が必要なものなど
②要指導医薬品のあり方について
● 要指導医薬品が一定の時間経過により一律に一般用医薬品に移行する制度を見直し、医薬品の特性に応じ、必要な場合には一般用医薬品に移行しない区分を設けるといった措置が必要である
● 要指導医薬品について、対面販売を必要とし、または、一般用医薬品に移行しないこととするものについては、その明確化を図るよう検討すべき
鍵となる薬剤師 これからの要指導医薬品との関わり
2024年春頃には、内臓脂肪減少薬「アライ」が要指導医薬品として発売予定です。同薬は2023年2月に大正製薬株式会社がダイレクトOTCとして製造販売承認を取得したもので、購入時には薬剤師による購入条件や購入前1か月間の生活習慣記録の確認などが必要とされており、薬剤師が関わる点も多いとみられます(表2)。
今後、働き世代が急速に減少し、高齢者率が高くなる日本では、特に壮年層や若年高齢者などは、自身の健康は自分で管理し、上手に医療にかかることが求められています。セルフケア・セルフメディケーションの面で、要指導医薬品を取り入れる機会も増えてくるかもしれません。そのなかで安全かつ適正に薬を活用させる役割を担う薬剤師は、大いに力を発揮し、地域住民にとって大きな存在になるのではないでしょうか。
【参考資料】
1) 平成29年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働特別研究事業)「国民への安全な医薬品の流通、販売・授与の実態等に関する調査研究」
2) 令和4年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)「オンライン服薬指導の実施事例の調査と適正な実施に資する薬剤師の資質向上のための方策についての調査研究」