調剤薬局は診療報酬、薬価の改定による売上の減少、薬剤師不足などの課題を抱えながら、かかりつけ薬局としてサービスの多様化が求められるなか、業務効率化を目指したDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。4月10日にメディアブリーフィング「処方薬の当日配達機能・薬局DX」(株式会社メドレー主催)が開催され、同社Pharms事業推進室室長の亀井翔太氏と、株式会社コンフィード代表取締役の中澤裕太氏が講演しました。
人手不足、薬剤の出荷停止の対応に追われる薬局
薬局選びの習慣がアップデートされない患者
患者本位のかかりつけ薬局の再編を目指す「患者のための薬局ビジョン――門前からかかりつけ、そして地域へ」が2015年に厚生労働省から発表され、「2025年までに、薬剤師としての専門性を発揮し、患者との関わりを強め、地域の多職種と連携して地域包括ケアの一翼を担う存在となる」ことを目指す方向性が示された。
しかし、2022年に第2回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループは「ビジョンに示された薬局の価値が十分に発揮されているとは言い難い状況」として、調剤薬局のDXとしてデータヘルス改革によるICT活用を提示した。
ICTを使って医療ヘルスケア領域の課題解決に取り組む株式会社メドレーの亀井翔太氏は、薬局薬剤師としての専門性やかかりつけ薬局の機能が十分に発揮されていないという評価について、「薬局側は単に変化に向かってアクションを取れていないなどと見られているわけではないと思います」と捉えている。多くの薬局では人手不足、薬剤の出荷停止といった状況への対応に追われ、対人業務に時間が割けず、一方、患者側では薬局選びの習慣がアップデートされない。こうした状況ではかかりつけ薬局になりにくく、DXへの対応が難しいという声が多く届いているという。
薬剤師としての専門性・説明内容に期待
薬局の自助努力で患者に直接的ベネフィット
同社では、今回、処方薬の当日配達までのサービスを提供した、かかりつけ薬局支援システム(Pharms)を開発している。同社が患者を対象に行ったオンラインアンケート調査から薬局・薬剤師に求めることとして、「薬剤師としての専門性・説明内容」(33%)が最も多く、次いで「オンラインでの服薬指導」(23%)が多いことがわかった。ICT活用により、重複投薬や併用禁忌チェックの自動化などが可能となり、情報格差のない服薬指導によって、患者にとって間接的なベネフィットが期待できる(図1)。亀井氏は「患者への直接的なベネフィットについては、オンライン資格確認や電子処方箋サービス以外での自助努力が必要なのではないでしょうか」と指摘した。
対物業務から対人業務にシフト
処方箋受け取りから会計までICTツール活用
亀井氏の講演を踏まえ、株式会社コンフィードの中澤裕太氏は調剤薬局におけるDXの取り組みについて同社の現状を紹介した。同社は東京都港区で調剤薬局を3店舗経営(従業員34名)しており、オンライン服薬指導などでPharmsを活用している。現在、同社がICTシステムを運用している業務は、受付、入力、監査、薬剤師業務、会計、患者コミュニケーション、オンライン服薬指導(委託配送サービス)、社内ツールと広範囲に及ぶ(表1)。
中澤氏はDX取り組み事例として脱対物業務の効率化と顧客体験の向上の2つの側面について紹介した。“紙”と“手”による作業を主体にしたアナログの業務がいまだに多くの調剤薬局で見られるが、従来の方式はヒューマンエラーの発生リスクを常に孕んでおり、早急な改善が課
題となっている。
中澤氏は、「薬ではなく人が頼りにされる医療」というビジョンの実現に向け、患者と向き合うためには薬局内の対物業務を効率化し、マンパワーを対人業務へとシフトしていく必要があり、DXに踏み切った、と話す。
処方箋の受け取りから会計までの業務の流れは、受付 ➡ 入力 ➡ ピッキング ➡ 監査 ➡ 服薬指導 ➡ 会計 の6段階からなっており、ICTツールの導入によって、各段階での作業効率が
改善したという(表2)。
ICTツールを定着させるためには、「導入前は現状の課題を再認識しその解決策としての期待感を高めること、導入後はシステムの運用に積極的で組織横断的に統括できる人材を育成することが重要になると思います」と中澤氏の考えを示した。
顧客体験、満足度の向上目指す
オンライン服薬指導、処方薬配送がシームレスに
薬局は医療を提供する場所だ。その上で、薬という商品を購入してもらう小売業の側面と、薬剤師やその他のスタッフによるサービス業の側面がある。「患者さんの『顧客』としての満足感を高める必要があるのでは。患者さんは、薬局以外の場、例えばネット通販、モバイルオーダーなどで、さまざまな便益を伴う顧客体験をしています。これは薬局における顧客体験とは隔たりがあるのかもしれません」と、中澤氏は薬局の置かれている状況を顧客目線で分析する。
患者の顧客体験向上を意識した取り組みとして、コンフィード社の調剤薬局では、薬局公式LINEアカウントを用いて患者の薬に関する相談を受けたり、フォローアップに活用したりするほか、キャッシュレス端末による電子決済、クレジットカードによるオンライン決済、代引き支払いなどさまざまな決済方式に対応している。
また、オンライン服薬指導と処方薬の配送については、オンライン服薬指導、決済、処方薬の配送(来局による受け取り)の3ステップを1つのツールにまとめることで、管理画面をいくつも開く必要がなく、シームレスに業務を行うことができるという。
オンライン服薬指導で家賃のかからない売上げ
外注の配送サービス利用で急送も対応
同社のような都市型で坪単価の高い小規模な店舗の場合、待合室や投薬カウンターなど限られた物理的スペースを専有することなく実施できるオンライン服薬指導は家賃のかからない売上げを計上できる点で有用だという。
同社ではオンライン服薬指導後の処方薬の配送を外注しているが、その背景にはやはり新型コロナ禍での経験があるという。医薬品の患者宅への配送件数は同社の麻布十番調剤薬局が港区の中で多く、急配のニーズも高かった。自社のマンパワーにも限界があり、配送要員を雇用する余裕もないという中で、外注の配送サービスを利用することで急場を切り抜けた。配送業務には人手が必要であり、梱包用の封筒、配送費用などのコストがかかる。
リフィル処方箋も初回からオンライン服薬指導が可能
独自の対応シートで管理
同社ではリフィル処方箋の応需も多い。リフィル処方箋の3回のうち、2回目と3回目についてオンラインで服薬指導するケースが半数以上を占めるという。「薬局が起点となり病院、患者に案内することで、初回の処方からオンライン服薬指導は可能。ただし、経験上、リフィル処方箋の業務・管理は煩雑になりがちです」と中澤氏。同社では独自のリフィル処方箋対応の管理ツールを作成している(図2)。
導入前に課題の洗い出しが重要
ICTツール活用による顧客獲得も期待
中澤氏は「調剤薬局における業務のDXを検討する際、ICTツールに飛びつかずに、まずは課題を洗い出すことから始めています。それを踏まえたうえでICTツールの導入、外部サービスを活用することでDXを推進させることができるのでは」とし、そのためには「スタッフへの周知や教育が必要で、職種にかかわらずICTリテラシーの高い人材にとって活躍の場が広がることが考えられます。ICTツールの使用は業務の省力化、円滑化、効率化に寄与するのみならず、ツール自体からの顧客の流入も期待できます」とまとめた。
ウーバーイーツと連携した 30分以内の薬剤配達
株式会社メドレーでは4月より、同社サービスとUber Eats Japanのサービスを連携させ、処方薬の即時配達サービスの提供を始めている。全国47都道府県に配達網を持つ「Uber Direct」を通じて30分以内を目安に処方薬を依頼者に届けるという(表3)。