緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業(厚生労働省医薬局医薬品審査管理課委託事業)として、薬局における緊急避妊薬の試験販売が2023年11月から開始されました。Part1では、2024年5月10日に厚生労働省が公開した当調査事業の令和5年度結果報告書の内容をお伝えします。


試験販売の背景と目的

 2023年11月28日から開始となった緊急避妊薬の薬局での試験販売。背景には、アクセス向上のために医師の処方箋なしで、薬局等で購入できる仕組みがこれまで繰り返し要望され、そのたびに検討されてきたことがある。

 2017年に緊急避妊薬のスイッチOTC化は時期尚早と結論づけられた。その後、2020年12月の第5次男女共同参画基本計画において、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討することが盛り込まれた。2021年5月には、OTC化を望む市民団体からの新たな要望があった。OTCとする場合の課題や対応策について議論や検討の結果、一部薬局での試験的運用を通じて、データや情報の集積が望ましいとされた。

 当調査事業の目的は、緊急避妊薬の適正販売が確保できるか、また、代替手段(チェックリスト、リーフレット等の活用等)でも問題ないかなどを調査すること。結果は、「緊急避妊薬が要指導・一般用医薬品として薬事承認申請された際の審査・審議における具体的対応策の選択・採否の一助となる」とされている。

試験販売の準備 薬局の条件と選定、説明会

 緊急避妊薬の試験販売にあたり、まずは販売する協力薬局の条件が設定された(表1)

 この条件をもとに、日本薬剤師会と都道府県薬剤師会が連携し、同一都道府県内で相互に連携可能な立地にある2~3の薬局を1モデルとして、都道府県ごとに、原則として1モデル(人口が多い東京都、神奈川県、大阪府は2モデル)が構築され、合計50モデル、145薬局が協力薬局として選定された。そして、これらの薬局に対し、試験販売開始前に説明会が実施され、当調査事業の概要が周知された。

緊急避妊薬の試験販売に関する一般への情報提供

 試験販売を実施する上では、緊急避妊薬が販売されていることを一般にも周知する必要がある。当調査事業の一般への周知の手段は、事業ホームページと、ポスター、リーフレットだ。

 事業ホームページには、調査研究の説明、購入までの手順、留意事項、協力薬局リスト、緊急避妊薬に関する情報提供などが掲載されている。また、現時点で日本では緊急避妊薬は処方箋なしでは販売できず、あくまで調査研究として実施されている点も掲載。ポスターとリーフレットは協力薬局にデータで配布され、当該薬局が緊急避妊薬の販売を行っている旨などが記載されている。

販売対象と販売体制、プロトコールに基づく販売手順

 販売対象者は、緊急避妊薬を購入して服用を希望し、研究参加に同意する16歳以上の女性(本人)、販売品はレボノルゲストレル錠(1.5mg)とされている。

 表1の条件に基づいて選定した薬局で、オンライン診療に基づく緊急避妊薬の調剤の研修を修了した薬剤師が販売を行う。緊急避妊薬を販売する協力薬局リストは、事業ホームページの説明を読み理解した場合に閲覧できる。

 緊急避妊薬の試験販売の手順は表2のとおり。また、販売プロトコールとして、「事前質問票」の記入内容や購入希望者の状態を面談で確認し、説明・指導の上、薬剤師の面前で服用することなどが定められた。

試験販売の結果

 販売を開始した2023年11月28日~2024年1月31日までの集計結果が発表された。販売数量の総数は、約2カ月間で2,181件。都道府県別では東京都が最多の266件、次いで神奈川県 231件、大阪府 169件だった。

 総数から販売対象者のID不一致等などを除いた1,982件が、解析対象とされた。

 来局曜日別の件数は、月曜日が最多の20.5%であったものの、来局の曜日は比較的分散しており、土曜日は16.8%、日曜日は10.3%だった(表3)

 来局時刻別にみると、最も多いのが11時台で10.4%、次が12時台で10.2%。対応が懸念される夜間~早朝にかけて(21時~午前7時台)の来局はわずかだった(表4)

購入者へのアンケート結果

 購入者に対しては、服用直後にアンケートを依頼している。その中で、今回の緊急避妊薬の販売や服用の対応についての満足度を確認している。

 それによれば、「面談した薬剤師の対応」「説明のわかりやすさ」「プライバシーへの配慮」への満足度は高く、「とても満足」の割合が8割以上を占め、「概ね満足」を含めると95%以上を占めた。一方で、「服用するまでの手続き」は「とても満足」が76.1%、「支払った費用」についての「とても満足」は38.4%であった(図1)。なお、処方箋による調剤後に服用した人の満足度においても類似の傾向がみられた。

 購入・服用した人における薬剤師の説明に対する理解度については、99.8%が3段階の選択肢のうち最も高い理解度を示す「よく理解できた」を選んでいた。

 薬局で支払った緊急避妊薬の費用は、7,000~9,000円が99.5%とほぼ全てを占めた。もっとも、それ以外の回答には費用負担への助成制度の利用、他薬剤の購入などが含まれた可能性があるという。

 薬局までの片道の移動時間は、1時間未満が77.4%だった。ただし、1時間未満の内訳は不明(表5)

 購入者には、服用後3~5週間後の状況もアンケートで調査している(回答数:1,063件)。「生理があった」は89.9%、「産婦人科を受診」は14.4%。「産婦人科を受診しなかった」(85.6%)の主な理由は、生理が確認できたためだった。

 また、今後、緊急避妊薬の服用が必要になったらどうしたいか、という問いに対しては、「医師の診察を受けずに、薬局で薬剤師の面談を受けてから服用したい」という回答が最多の82.2%だった(表6)

販売薬局や連携の産婦人科医の振り返り

 販売薬局(145件)への事後アンケートにおいて、販売可否判断に用いたチェックリストについての意見を聞いた結果、「チェックリストによって、緊急避妊薬販売の可否判断は容易にできたか」という問いに対して、「そう思う」もしくは「ややそう思う」と回答した割合は89.7%(130件)だった。「チェックリストに改善すべき項目等があったか」に対して「あった」と回答した割合は48.3%(70件)であった。改善すべき項目としては、「妊娠の可能性」が最も多く挙げられた。

 また、緊急避妊薬販売において役に立った研修や経験として、販売薬局の86.2%(125件)が「オンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤」に係る研修が役に立ったと回答した。

 販売薬局と連携する産婦人科への事後アンケートも集計されている。

 それによれば、「薬局からの紹介内容が不適切と考えられたことはありましたか」という問いに対しては「、あった」が0件、「なかった」が83.3%(10件)、「わからない」が16.7%(2件)だった。「緊急避妊薬を服用した患者さんは、薬剤師の説明を理解していたと考えますか」の問いに対しては「そう思わない」が8.3%(1件)、「わからない」が16.7%(2件)であった(図2)

「そう思わない」の理由(自由記述)は、「本当に危険な時期の説明がない。今後の対策についての説明がない」であった。薬局からの紹介内容や薬剤師の説明は概ね問題ないという回答が多かったと言えるだろう。

図表出典
令和6年3月公益社団法人日本薬剤師会令和5年度厚生労働省医薬局医薬品審査管理課事業「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業報告書」より作成