2024年10月1日より始まる長期収載品に関する選定療養費制度。2024年3月末の厚生労働省からの通知以降、対象品目や計算方法、患者向け案内など様々な情報が示され、対応の準備を急ぐ薬局も多い。今回は、YouTubeチャンネル「薬局のアンテナ」(2024年9月2日時点チャンネル登録者数;8,370名)で、薬局に関わる全ての方に役立つ情報を日々発信する運営者てっちゃん氏に、当制度の要点とよくある疑問点などを伺った。

監修:YouTubeチャンネル「薬局のアンテナ」運営者
てっちゃん 氏


選定療養費制度導入の背景

 2024年10月1日より、長期収載品の処方または調剤について、選定療養費制度が導入されます。長期収載品とは、後発医薬品のある先発医薬品を指します。

 そもそも選定療養とは、患者さんが追加費用を支払って選ぶ特別な医療サービスで、保険診療と併用が認められている、大まかにいえば「特別に医療保険と自費を組み合わせても良い」仕組みと捉えることができます。快適性や利便性、医療機関の選択に係るもの、具体的には個室利用などの差額のベッド代や、紹介状なく大病院を初診で受診した際などが該当します。先発医薬品については、中医協の「長期収載品における保険給付の在り方の見直し」の議論のなかで、医師が先発医薬品を指定する理由として、「患者希望が多い」との調査結果が話題に上がりました。いわゆるブランド選択のような先発医薬品の希望は、選定療養の対象と位置づける流れとなりました。

仕組みのおさらい

 今回の長期収載品に関する選定療養を端的に説明すると、「2024年10月以降に患者さんが後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)を希望する場合は、先発医薬品と、薬価が最も高い後発医薬品との差額の1/4は保険外、つまり自費になる」ということになります。

 多くの長期収載品が選定療養の対象品目に該当します(対象外の成分は全体の3%程度)。基本的な考え方は、①後発医薬品の上市後5年以上のもの(後発医薬品への置換率が1%未満のものは除く)、②後発医薬品の上市後5年を経過していなくても、後発医薬品への置換率が50%に達しているもの、③長期収載品の薬価が、後発医薬品の最も高い薬価を超えていること、です。

 一方で、次のような場合は選定療養の対象外となります。
①医療上の必要性があると認められる場合
②在庫状況等を踏まえ、当該薬局において後発医薬品の提供が困難であり、長期収載品を調剤せざるを得ない場合

対象外の詳細に関しては、後述します。

処方箋様式で選定療養の対象か否かを見分ける

 選定療養費制度の導入に伴い、2024年10月から処方箋の様式も変更されます。「変更不可(医療上必要)」と、「患者希望」欄が設けられることになりました(図1)。「変更不可」の欄にチェックがあれば、選定療養の対象外、つまり「医療上の必要性により後発医薬品に変更できない(長期収載品を処方する)」ことを示します。一方で、「患者希望」欄にチェックがある場合は、選定療養の対象になります。新様式の処方箋を応需した際は、どちらの欄にチェックがあるかの確認が必要です。

 ただし、10月以降も当分の間、現在の処方箋の様式(改正前処方箋)を手書き等で修正することにより使用できます。記載例と確認事項を図1で示します。

計算方法の具体例

 厚生労働省のHPには「長期収載品の選定療養の対象医薬品リスト」が公開されています。当リストには、「薬価基準収載医薬品コード」、「品名」、「成分名」、「メーカー名」、「薬価」、「後発医薬品最高価格」、「長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1」、「保険外併用療養費の算出に用いる価格」などが掲載されており、これをもとに計算します。費用のイメージを掴みやすいよう、具体的例を示します(図2)

 要するに、選定療養による負担分と選定療養分を除く従来の保険対象となる費用、それぞれで薬剤料を計算するというように分けて考えるということです。これは薬剤料だけの話ですので、その他の技術料の部分、調剤基本料や薬学管理料などについては今まで通り別途負担が発生します。頓服や外用、注射についても同様の考え方で計算します。

選定療養と特定薬剤管理指導加算3

 選定療養は、特定薬剤管理指導加算3(ロ)の算定要件にも関係します。特定薬剤管理指導加算3は「保険薬剤師が患者に重点的な服薬指導が必要と認め、必要な説明及び指導を行ったときに算定する点数」であり、通常の指導に加えてより丁寧な説明が必要となる場合を評価した点数です。

● 患者1人当たり、当該医薬品に関して最初に処方された1回に限り算定
調剤前に医薬品の選択に係る情報が特に必要な患者に説明及び指導を行った場合」で、「後発医薬品が存在する先発医薬品であって、一般名処方又は銘柄名処方された医薬品について、選定療養の対象となる先発医薬品を選択しようとする患者に対して説明を行った場合」
● 説明の結果、後発医薬品を選択した場合も算定可能

 当加算を算定する場合は「薬剤服用歴等に対象となる医薬品を分かるように記載すること」とされているため、記載を忘れないようにしましょう。


 2024年7月12日に厚生労働省からの事務連絡で疑義解釈が公開され、「医療上の必要性」に該当する4点が示されました。

①効能・効果に差異がある場合
②治療効果に差異がある場合
③治療ガイドラインにおいて、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合
④後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いにより、長期収載品の処方等をする医療上の必要があると判断する場合。ただし、単に剤形の好みによって長期収載品を選択することは含まれない。

 ①~③は、医療上の必要性について薬局薬剤師から懸念点があれば、医師等に疑義照会することが考えられます。④は疑義照会を要さず、薬局薬剤師に判断が委ねられることが想定され、薬剤師が関わる点として関心が高いでしょう。なお、薬局薬剤師の判断により、長期収載品を調剤した場合は、調剤した薬剤の銘柄等を処方箋を発行した医療機関に情報提供する必要があります。

 使用感など有効成分等と直接関係のない理由の場合、基本的には長期収載品の「医療上の必要性としては想定していない」と疑義解釈で示されています。

 特にヒルドイドが例に挙がることが多いですが、湿布や点眼薬、外用薬などは、しばしば使用感が長期収載品と後発品医薬品で異なるといわれます。このような薬剤について、使用感を理由に長期収載品を希望する場合は、選定療養の対象になるため注意が必要です。皮膚科や整形外科、眼科に関連する処方箋を応需する薬局は、選定療養費制度が始まる前に、処方医と「医療上の必要性」の内容を確認し、連携を取って対応を進めると良いかと思います。

 出荷停止や出荷調整等により、安定供給に支障が生じている品目かで判断するのではなく、あくまで、現に当該薬局で後発医薬品を提供することが難しいかで判断する、とされています。要は、入荷するかではなく提供できるかで判断する、と解釈できます。

 提供可否については、薬局によって判断が異なるかとも思います。在庫がない場合でも提供が困難とは言い切れない場合は、選定療養の対象になるでしょう。一方で、在庫がないため提供が困難と薬局が判断すれば、選定療養の対象外となるかと思います。薬局に判断が委ねられている点かと思いますので、判断基準を検討しておいた方が良いかもしれません。

 保険薬局の判断で後発医薬品を調剤し、保険給付とすることは差し支えない、とされています。

厚生労働省のHPに、医療機関・薬局用の患者さん向けの施設掲示ポスターや窓口での案内チラシが公開されています。案内チラシには、患者さんから想定されるQ&Aも記載されています。
(QRコードURL;https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html

 また、ご参考までに、私は患者さんに次のようにお話ししています。

「〇〇様が使用中のこの薬(先発医薬品)についてご案内があります。2024年10月から選定療養という仕組みがスタートします。ご存じでしょうか?
ざっくりいうと、先発医薬品と後発医薬品の値段の差の1/4が自費になります。〇〇様の場合、今回の処方が続くとすると、約●●円の負担増になります。10月までまだお日にちがあるので、次回以降の来局の際に先発希望・後発希望をお伝えくださいませ。」

 実際の制度運用前からこのようなご案内をしておくことで、患者さんに対応を考える余裕が生まれます。患者さんとのお話によっては、さらに医師との相談も必要になるかもしれません。10月の制度開始時に現場で混乱しないよう、少しずつ備えることが大切だと思います。

 なお、疑義解釈(2024年6月18日事務連絡)にて、10月1日より前の時点で、当制度の対象となる医薬品に関して患者に十分な説明を行った場合でも、特定薬剤管理指導加算3(ロ)は算定できる、と示されています。


てっちゃん 氏 プロフィール

「薬局のアンテナ」の名称でYouTubeチャンネルとLINE公式アカウントを運営し、①薬局・薬剤師が守るべき【法律】、②薬局収支や薬剤師職能に関わる【調剤報酬】、③薬局現場での効率的な【薬局運営】を主なテーマに、薬局に関わる全ての方に役立つ情報を発信している。4年生大学を卒業後、薬局・ドラッグストア・企業での勤務を経験。当初より人前で話すことに苦手意識があり、それを克服するために研修担当を志願して経験を積む。その中で「人に伝える・教える」ことにやりがいを感じるようになる。現在はフリーランスとして、薬局向けに各種研修や経営アドバイス、資料提供などを行う。(「薬局のアンテナ」URL;https://www.youtube.com/@Pharmacy_Channel