関節リウマチ
治療戦略の体系化で寛解率が大幅に向上
かつて関節リウマチ(rheumatoid arthritis : RA)は、関節の変形・拘縮などによる上下肢の機能障害によって著しいQOLの低下を招く病気だった。しかし、早期診断・治療が可能となり、早期から積極的に治療を開始することで関節破壊を阻止できるようになった。不治の病の代表格だった関節リウマチの治療目標は、今や患者の社会 復帰であり、健常者と変わらない日常生活を送ることに向けられている。今回は、近年、劇的に変化を遂げた関節リウマチの薬物療法について、聖マリアンナ医科大学病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科主任医長の鈴木豪氏にお話を伺った。
Commentator
聖マリアンナ医科大学病院
リウマチ・膠原病・アレルギー内科
主任医長
鈴木 豪氏
専門医の処方を読む
個々の患者への最適医療をめざす治療アルゴリズム
治療薬の進歩と治療戦略で寛解率50%を超える
約70〜80万人が罹患している関節リウマチ(RA)は、多発する関節炎と進行性関節破壊を主症状とし、肺や腎臓、皮下組織などにも病巣が広がる全身性炎症疾患である。炎症症状は寛解と増悪を繰り返すが、目標達成に向けた治療(Treat to Target:T2T、表1)により寛解導入率は高くなっている。公益社団法人日本リウマチ友の会がリウ マチ患者の実態調査の結果をまとめた『2015年リウマチ白書・総合編』によると、1年間の治療による症状改善状況は、2005年と2015年を比較すると、寛解率、改善率ともに2015年の方が向上している。オランダで行われたBeStスタディ(2011年)では、生物学的製剤(biological disease modifying anti rheumatic drug:bDMARD)とメトトレキサート(MTX)の併用により、2年以内に120例中77例(約64%)で寛解を達成し、77例全例がバイオフリー(生物学的製剤の中止)に移行した1)。
このような治療成績の向上に伴い、患者の期待は「関節破壊の進行が止まる」、「関節の痛みや腫れがなくなる」といった症状の改善だけでなく、「健常者と同じように社会生活を送ることができる」といった高いQOLを期待する声が増えてきている。
生物学的製剤の登場でRA治療は新たなステージに
かつてRAの治療は、いかに寛解を達成するかに主眼が置かれていた。1999年、MTXが登場して関節破壊の進行を遅らせることが可能になったが、承認時、国内では8mg/週までの使用しか認められず十分な効果が得られない場合も少なくなかった。しかし、2011年にMTX増量投与(最大16mg/週)が可能になった。また、2003年からはbDMARDが登場した。こうした治療環境の向上によって、関節破壊の進行を強固に抑制できるようになり、多くの症例で寛解導入が可能になった(表2)。現在では、T2Tの考え方が普及して、「寛解導入は(リウマチ専門医にとって)達成しなければいけない目標になりつつある」と、聖マリアンナ医科大学病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科主任医長の鈴木豪氏は言う。
早期の診断・治療により合併症の頻度が減少
従来、RAの診断は1987年に作成された米国リウマチ学会(ACR)の分類基準により行われてきたが、早期にRAを診断するために、現在では米国および欧州リウマチ学会 (EULAR)が合同で発表した分類基準が使用されている(表3)。
この基準では、関節病変、血清学的検査、急性期反応物質、症状持続期間のスコアを合計し、6点以上なら関節リウマチと分類する。この基準は早期に抗リウマチ薬による治療開始が必要な患者を同定することも意図されており、日本リウマチ学会でも早期の関節リウマチの診断にも有用であることが示されている。
RAは、患者が有する合併症により治療が異なる。RAでは種々の合併症を併発するが、最も多いのが肺疾患だ。「初診時、すでに肺疾患を合併している患者さんもいるが、肺疾患を合併していない例が増えており、関節炎症が長期間続くことによる心血管合併症の頻度も改善してきている」(鈴木氏)。RAは内臓にも病変をきたす全身疾患だが、RAの中心的薬剤であるMTXの服用量やbDMARDの使用割合が増え治療が強化されたことにより、合併症を有する患者においても疾患活動性、身体機能障害度は改善されてきている。合併症が少ないほど治療の恩恵を受ける機会は多く、その意味でも早期に発見し標準的治療を開始することが大切である。
RA治療の中心的薬剤はMTX
内臓疾患をもつ患者は慎重投与
RAに使用される薬剤には抗リウマチ薬、免疫抑制薬、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド、生物学的製剤があるが、発症3ヵ月以内の早期から抗リウマチ薬の使用が推奨されている。抗リウマチ薬の中で最も使用されているのはMTXで、RA治療の中心的薬剤(アンカードラッグ)として位置づけられている。
『関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン2016年改訂版』(以下『MTX診療ガイドライン』)では、MTXに含まれる成分に過敏症の既往歴を有し、あるいは胸水、腹水を認める患者、重症感染症や重大な血液・リンパ系障害、肝障害、高度な腎障害、高度な呼吸器障害を有する患者では投与禁忌とされ、軽度の臓器障害を有する患者や高齢者、低アルブミン血症を認める患者では慎重投与が必要だが、鈴木氏によれば、「およそ8割の患者さんでMTXが使用されている」という。
現在、MTXは16mg/週まで投与が認められているが、『MTX診療ガイドライン』は、高齢者、低体重、腎機能低下、肺病変(+)、アルコール常飲、NSAIDsなど複数薬物を内服している患者では2 〜4mg/週から開始し、葉酸併用のうえ、最大投与量は少なめに設定するよう推奨している。鈴木氏も「禁忌、慎重投与例を見極めるためには内臓疾患についての知識が必要。安易に誰でもが投与できる薬剤ではない」と言う。
鈴木氏は「増量する過程で一番問題になるのは肝機能障害。日本人の場合、16mg/週までは増量しにくい。10〜12mg/週の患者さんが多いと思われる」と語っている。1回2mgずつ増量し、高疾患活動性、予後不良因子をもつ非高齢者では2週ごとに2mgまたは4週ごとに4mgずつ増量する。増量するのはMTX治療開始後、4週経過しても治療目標に達しないときである。
MTXとcsDMARDの併用で6ヵ月
効果不十分はbDMARDを追加
MTXを用いる場合、適宜、葉酸と併用するが、一般的には8mg/週まではMTX単独で用い、8mg/週を超えたら葉酸を併用する(図1)。MTXには口内炎、吐き気、下痢、肝機能障害など葉酸の働きを抑制することで生じる副作用があるので、こうした副作用を防ぐために葉酸が併用される。
『MTX診療ガイドライン』によれば、MTXを10〜12mg/週まで増量して効果が不十分な場合は、16mg/週まで増量するか他剤とMTXの併用療法を推奨し、併用薬剤の選択肢として従来型抗リウマチ薬(conventional synthetic desease modifying anti rheumatic drug:csDMARD)、bDMARD、分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)をあげている。かつては重篤な副作用を回避して痛みをとることを主眼に抗リウマチ薬が用いられてきたが、機能予後も生命予後も不良なRAでは、副作用のリスクを十分に管理しながら確実な効果が期待できる薬剤が用いられるようになってきている。
MTXとの併用で有効性が確認されているcsDMARDはブシラミン(BUC)、サラゾスルファピリジン(SASP)、イグラチモド(IGU)、タクロリムス(TAC)である。
『関節リウマチ診療ガイドライン2014』に示されている治療アルゴリズムでは、まずMTX単独またはcsDMARDなどを併用して6ヵ月以内に治療目標(寛解とその維持)が達成できないときは、bDMARDを追加。それでも治療目標が達成できなければ、他の生物学的製剤に変更またはJAK阻害薬(トファシチニブ)を使用するとしている(図2)。「治療アルゴリズム(関節リウマチ診療ガイドライン2014)は臨床に即したものであり有用性は高い。治療アルゴリズムにそった方法で多くの症例で寛解維持が可能だ」(鈴木氏)。
生物学的製剤の先発品は8種類
高齢者や糖尿病患者は感染症に注意
2003年から国内で使用できるようになったbDMARDの主な副作用は感染症であり、特に高齢者、糖尿病合併患者、ステロイド併用患者などでは注意する必要がある。近 年、bDMARDは既存の治療に抵抗性を示す患者においても関節破壊抑制効果に優れ、関節リウマチの治療には欠かせない薬剤である。大別すると、①腫瘍壊死因子(TNF)αを阻害する、②IL-6受容体に結合しシグナルを阻害する、③T細胞の活性化を抑制するものがある。
現在、日本で使用可能なbDMARDは8種類ある(表4)。さらに2剤の後続品(バイオシミラー)も登場している。いずれも皮下注射ないし点滴静注として用いるが、どの薬剤を使用するかは症状の程度や進行、合併症の有無、副作用の起こりやすい背景があるかといった点を考慮して決定される。
bDMARDは生体への負担が少ないといわれるが、感染症にかかりやすく、結核菌やB型肝炎ウイルスなど体内に潜んでいた病原体が活発化するリスクがある。したがって、使用に際しては専門医による適切な評価と注意が必要である。bDMARDや後述のJAK阻害薬使用中の患者では発熱、全身倦怠感、息苦しさや咳、発疹、皮膚の痛みなど副作用の兆候を見逃さないことが求められる。
JAK阻害薬の使い分けは肝機能と腎機能で
JAK阻害薬はヤヌスキナーゼ分子を阻害することでサイトカインシグナル伝達抑制を初めとする免疫抑制作用を介して抗リウマチ効果を示す。低分子化合物で、MTXに効果 不十分の患者を対象にした臨床試験2)において、臨床指標の改善と関節破壊抑制効果が示されている。
JAK阻害薬には2017年に発売されたバリシチニブと 2018年に関節リウマチの適応を取得したトファシチニブがあるが、感染症、肝機能障害、黄疸、消化管穿孔、頭痛などの副作用がある。新規薬剤のため、日本リウマチ学会の『全例市販後調査のためのトファシチニブ使用ガイドライン』では8mg/週以上のMTXを3ヵ月以上継続してもコントロール不良の関節リウマチに対して本剤による治療を行うことを推奨している。鈴木氏は「これまでに行われた大規模臨床試験の結果などからトファシチニブとバリシチニブの効果はほぼ同等。今後、患者さんによってどちらの薬剤が有効か、そうした検討も行われるだろうが、現段階ではJAK阻害薬間の評価は時期尚早」と語る。トファシチニブは肝臓で代謝され、バリシチニブの排泄経路は腎臓である。したがって、肝機能、腎機能をみながら使い分けているのが現状である。いずれにしても、現在、JAK阻害薬はbDMARDで効果が得られない患者に使用されるケースが多いが、将来、さらなるエビデンスの集積によって安全性と有効性が確認されれば、経口投与可能なJAK阻害薬の使用頻度はもっと増える可能性がある。
2割の患者がドラッグフリー寛解
再発誘因の探索が課題
薬物療法の進歩と治療戦略が体系化され早期治療の有用性が認められたことにより、かつて大きな目標であった寛解達成はほぼ実現可能になった。今後の課題は、抗リウマチ薬すべてを休薬できるドラッグフリー寛解をいかに達成するかである。「すでに2割ほどの患者さんではドラッグフリーが可能になっている」(鈴木氏)ことから、バイオフリーあるいはドラッグフリー寛解の達成率を高める戦略が求められている。同時に再発をいかに防ぐかも今後の課題である。「関節リウマチの発症には環境要因と遺伝的要因が重要だが、再発誘因を探ることが大切だ」と、鈴木氏。
bDMARDの登場などにより、薬物療法の治療成績は著しく改善した。それに伴い人工関節置換術のような大きな手術は減少してきているが、鈴木氏は「寛解や低疾患活動性の患者さんに対する手指や足趾の関節温存手術が増えてきている。その理由として正常に近い機能への回復が期待できることと、手や足の変形を直したいという整容目的がある」と言う。
現在は、bDMARDなど新しい薬剤が注目されているが、新規薬剤は薬価も高く、経済的理由から使用できない患者もいる。また、合併症があるため新規薬剤の使用を断念する患者もいる。そうした患者にとっては従来からあるcsDMARDは有用性の高い薬剤だが、使用頻度が減少していることで、「従来から使用されてきた抗リウマチ薬に関する知識が少なくなることが懸念される」と鈴木氏。薬剤師には、csDMARDもおろそかにせず、十分な患者説明ができるような知識を蓄えてほしいと言う。
関節リウマチの好発年齢は40歳〜60歳だが、妊娠中や妊娠可能年齢の患者もいる。そうした患者はもちろん、すべての患者にとって過剰な薬物療法は避けるべきである。その意味で減量、休薬を視野に入れた治療が求められるのが現在の関節リウマチ治療である。3ヵ月ごとの薬剤評価、感染症の兆候など副作用には細心の注意を払うことが必要だろう。関節リウマチ治療に携わる医療者には、常に適切な治療が行われているかどうかをチェックすることが求められる。
■引用文献
1) Klarenbeek NB, et al: Ann Rheum Dis, 2011; 70(6): 1039-1046
2) Van der Heijde D, et al: Arthritis Rheum, 2013; 65(3): 559-570
■参考文献
1) 齋藤和義ほか:関節リウマチにおけるバイオフリー寛解の現状.臨床リウマチ: 24(4):307-313, 2012
2) 鈴木康夫:関節リウマチの診断と治療 〜Up-to-date 〜.日内会誌.104(3): 519-525, 2015
3) 竹内勤:関節リウマチ治療の最新の進歩と今後の課題.日内会誌.104(9): 1773-1782, 2015