肥満症は、「肥満のなかでも肥満に起因ないし関連する健康障害を合併し、医学的に減量が必要なもの」と定義づけられ、適切な治療・管理が提唱されている。近年ではセマグルチド、チルゼパチドが肥満症治療薬として承認を取得し、臨床導入が進む一方、適正使用や適応外の“GLP-1ダイエット”を巡る懸念など課題は残る。本稿では、肥満/肥満症に関するガイドラインに基づいた薬物治療の流れや各薬剤の特徴、新たな疾患概念の登場とともに薬剤師が果たすべき役割について考察する。


肥満症の基本 定義と診断の流れ、治療指針

 日本における肥満症の定義は、体重が重い状態である「肥満」と医学的介入を要する疾患としての「肥満症」を明確に区別している。肥満/肥満症の判定と診断の流れは次の通り。

 まず、BMI(体格指数)によって評価し、BMIが25.0kg/m²以上であれば、「肥満」と判定される。この「肥満」状態であり、以下の(A)(B)のいずれか、あるいは両方に該当すれば、「肥満症」と診断される。さらに、BMIが35.0kg/m²以上の場合には「高度肥満」とされ、そのうち(A)(B)のいずれか、あるいは両方に該当すれば、「高度肥満症」と診断される。

 肥満症の治療目的は、体重を大きく減少させることではなく「肥満に起因・関連する健康障害の予防・改善」である。「肥満症診療ガイドライン2022」で示される治療指針には、肥満症の場合は現体重の3%以上、高度肥満症の場合は現体重の5~10%(合併する健康障害に応じて設定)の減量目標を設定し、まずは治療の基本となる「食事・運動・行動療法」を実施する、とある。これらを3~6ヵ月おこない、1ヵ月あたり0.5~1kg程度の減量が実現できれば、原則として薬物療法は開始しない。薬物療法は、非薬物療法で有効な減量を得られない場合や、合併症の重篤性から急速な減量が必要な場合に併用が検討される。

肥満/肥満症に対する新薬の登場と
適正使用のために押さえておくべきポイント

 近年、肥満および肥満症について新たな薬剤が登場している。これらの薬剤の特徴を整理する。

要指導医薬品「アライ」

 「アライ」(オルリスタット)は、内臓脂肪および腹囲の減少の効能をもつ日本初の内臓脂肪減少薬であり、要指導医薬品として2024年4月に発売された。薬剤師のいる薬局・薬店のみで購入でき、次に当てはまることが購入条件とされている。

● 成人(18歳以上)
● 腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上
● 食事・運動など生活習慣改善の取組みを行っていること

 リパーゼ阻害薬のオルリスタットは、食事由来の脂肪の吸収を抑制し、食事由来の脂肪のうち約25%を便として排泄することが期待できるという。消化管内での局所作用型で、全身循環にほぼ移行しないため、中枢神経系への影響は一般的には少ないといわれている。概要を1に示す。

 「アライ」は要指導医薬品として、薬剤師との関わりや指導が重要になる。SNSやインターネット等から情報を得て購入を希望するケースもあるため、安易なダイエット薬ではないこと、高度肥満や肥満症では服用できないことをしっかり説明することも重要な責務である。注意深く以下のような点を確認し、必要に応じて使用の中止や受診勧奨などを促す。

● 服用にあたっての対象条件やBMIなどを確認し、自己判断での使用の回避
● 食事・運動の重要性を認知、継続させること(服用者による「生活習慣改善の取組み記録」の記入および薬剤師による記入内容の確認要)
● 脂溶性ビタミン欠乏のリスクと兆候を理解し、必要に応じてサプリメント併用を提案(「『アライ』と併用に注意すべきサプリメントは特にない」 
[大正製薬HP「よくあるご質問」参照])
● 副作用への懸念に対し、脂質の多い食事を避けることで軽減が可能であること

肥満症治療薬

 先述のように肥満症の薬物療法は、原則、非薬物療法が有効ではなかった場合に進められ、「高度肥満症」や、「肥満症で高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、BMI≥27kg/m²以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する」といった症例に対し適応が認められている。また、ウゴービ(セマグルチド)およびゼップバウンド(チルゼパチド)の「最適使用推進ガイドライン」では、適切な医療機関・医師および患者要件や、管理栄養士との連携、服用後に一定期間で効果が見られない場合は継続中止といったことも言及されており、適正使用にあたっての規定は多岐にわたる。

 国内で「肥満症」の適応をもつ医療用医薬品の特徴を以下および表2に整理する。

● サノレックス錠(マジンドール)

 視床下部に作用して食欲抑制する中枢性食欲抑制薬で、主要な薬理学的特性はアンフェタミン類と類似しているため、依存性に留意する必要がある。投与期間はできる限り短期間とし、連続で投与できる期間は最大で3ヵ月間まで。一方で、「肥満症診療ガイドライン2022」では当薬剤のADHDに対する有用性に触れており、ADHD合併する高肥満症患者に対する投与が検討される、とある。

● ウゴービ皮下注(セマグルチド)

 GLP-1受容体作動薬「ウゴービ皮下注」は、有効成分としてセマグルチドを含む。セマグルチドは「オゼンピック皮下注」など2型糖尿病治療薬としても使用されているが、血糖コントロールを目的とするオゼンピックは通常0.5~1.0mg/週で投与するのに対し、ウゴービは最大2.4mg/週の投与ができ、投与量に大きな差がある。

● ゼップバウンド皮下注(チルゼパチド)

 「ゼップバウンド皮下注」は2025年4月に発売された肥満症治療薬で最も新しい薬剤。チルゼパチドを含み、当成分は2型糖尿病治療薬「マンジャロ皮下注」と同じ。チルゼパチドはGIP/GLP-1受容体作動薬であり、GLP-1に加えてGIP受容体にも作用することで、従来のGLP-1単独作用薬に比べて体重減少効果が期待できるとされる。

肥満症治療薬の最適使用推進ガイドライン おもな要件による管理

 ウゴービおよびゼップバウンドの「最適使用推進ガイドライン」に規定された「施設要件」、「医師要件」、「患者要件」、「投与の継続・中止の判断基準」の概要を示す。

【施設要件】
● 代謝内科、糖尿病内科、内分泌内科、循環器内科または内科のいずれかを標榜する保険医療機関
● 医師要件に掲げるいずれかの各学会専門医が常勤医師として1人以上所属(自施設にいない医師要件の各学会専門医とは適切に連携がとれる体制要)
● 医師要件に掲げる各学会のいずれかにより、教育研修施設として認定
● 常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる(栄養指導診療録等に記録要)

【医師要件】
● 高血圧、脂質異常症または2型糖尿病並びに肥満症の診療に関する5年以上の臨床経験など
● 日本内分泌学会・日本糖尿病学会・日本循環器学会、いずれかの学会の専門医。日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい

【患者要件】
(●各薬剤の添付文書「効能または効果」参照)
● 適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、当該計画に基づく治療を6ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者(また、この間に2ヵ月に1回以上、管理栄養士による栄養指導を受けた者)
● 本剤で治療を始める前に高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれか1つ以上に対して薬物療法が行われている患者

【投与の継続・中止について】
● 適切な食事療法・運動療法を継続のうえ、2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けたことが管理記録等で確認できること
● 投与開始後、体重、血糖、血圧、脂質等を毎月確認し、3~4ヵ月間投与しても改善傾向が認められない場合には、投与中止
● 最大投与期間(日本人を対象とした臨床試験の評価期間にもとづく):ウゴービ:68週間ゼップバウンド:72週間

FUS提唱の背景
「肥満」「痩せ」など体型に関する正しい知識の啓蒙を

 2025年4月17日、日本肥満学会等はワーキンググループを立ち上げ、新たな疾患概念として「女性の低体重/低栄養症候群(FUS:Female Underweight/Undernutrition Syndrome)」を提起し、ステートメントを公開した。FUSの定義は、「低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・徴候を合併している状態」(18歳以上~閉経前の成人女性を対象)で、①低栄養・体組成の異常(BMI<18.5kg/m²/低筋肉量・筋力低下/栄養素不足[ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど]/貧血[鉄欠乏性貧血など])、②性ホルモンの異常(月経周期異常[視床下部性無月経・希発月経])、③骨代謝の異常(低骨密度[骨粗鬆症または骨減少症])などの状態が挙げられる。

 肥満とは対極にあるようなFUSだが、当ステートメントでは、FUSの原因の1つにSNSやファッション誌などを通じた「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、それに起因する強い痩身願望を挙げている。これは近年、社会問題になっている糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用、いわゆる「GLP-1ダイエット」を助長しうるとも考えられる。過度な痩身志向を是正し、正しい理解を促進するための教育介入を含め、社会的・心理的・経済的要因を含めた多面的な支援体制の整備が不可欠と、ステートメントには明記されており、今後の動向が注視される。

 薬剤師には、要指導医薬品や処方薬の適応判断支援、適正使用の指導や副作用モニタリングに加え、体型や生活習慣に関する啓発活動も期待される。とくに自由診療クリニックやSNS情報に接する機会が多い若年層に対しては、医学的・倫理的視点からの介入が重要である。


肥満症治療の壁、「スティグマ」

 肥満や肥満症の発症には、遺伝的、環境的、生理的、心理社会的要因など、さまざまな要因が複雑に関与している。しかし現実には、食習慣などの個人的な生活習慣に起因するものとみなされる傾向が強く、「自己管理能力が低い」「怠惰の結果である」といった偏見にさらされやすい。

 さらに、肥満や肥満症をもつ当事者自身も、「肥満は自己責任である」という個人的スティグマを抱いていることがある。その結果、「医療の対象ではない」という誤った認識を招き、適切な治療機会を逸してしまうという現状が、肥満症治療における大きな課題となっている。

 このような「オベシティスティグマ(肥満に対する差別や偏見)」については、2019年のLancet Public Healthにおいても、肥満症治療を困難にする「核心的問題」として厳しく指摘されており、その存在は社会全体にとどまらず、医療現場にも根強く残っていることが複数の調査で明らかにされている。

 2025年2月に、日本イーライリリー株式会社と田辺三菱製薬株式会社が実施した「肥満(肥満症)に対する意識調査」(対象:肥満症患者・医師・一般生活者、各300名)から、以下のような結果が報告されている。

【1】「肥満は誰の責任か」に関する意識(単一回答)

※回答選択肢:①100%本人の責任 ②本人の責任が大きいが、周囲の人や環境もやや影響している ③本人と周囲の人や環境の責任が半々 ④本人にも責任があるが、周囲や環境の影響が大きい ⑤100%周囲や環境の責任 ⑥誰の責任でもない

「肥満は自己責任である」との傾向が強い①②の回答割合

患者: ①63%、②24%(計87%)
医師: ①6%、②58%(計64%)
一般生活者:①23%、②47%(計70%)

肥満は自己責任とする意識が全体的に根強く存在していることが読み取れる。特に、肥満症患者では、①の割合が63%と、医師や一般生活者よりも高く、個人的スティグマの存在が顕著であることがうかがえる。

【2】今後取り組みたい体重管理の方法(複数回答可)

肥満や肥満症が複合的要因で起きると認識したうえで、患者が希望する体重管理法は以下のようになっている

(上位5つ)
●「自発的な食事制限」:64%
●「自発的な運動」:66%
●「保険診療で処方される薬物療法」:28%
●「医師・栄養士による指導」: 23%
●「病院での運動指導」/「(薬局で購入できる) 市販薬やサプリメントの服用」: 19%

自発的努力による対処を希望する割合が高く、医療的介入を選ぶ患者は比較的少数にとどまっている。

【3】体重に関する医師と患者のコミュニケーションについて

医師・患者ともに「体重について話したいが、話題にしにくい」 現状があり、その理由について

相談できない理由を、医師は「(患者が)恥ずかしい(と考えている)から」と捉えている一方で、患者は「自己責任である」との意識から相談をためらっている。この認識のズレには、それぞれ異なる形のスティグマが関与していると考えられる。

参考:日本イーライリリー株式会社 / 田辺三菱製薬株式会社プレスリリース「肥満症患者、医師、一般生活者への意識調査結果発表」(2025年2月27日)

 「肥満症診療ガイドライン2022」が示すように、肥満症の適切な予防と治療は、個人の健康維持やQOLの向上にとどまらず、医療財政の負担軽減といった社会的観点からも、きわめて重要な課題である。

 肥満症治療の障壁となっているオベシティスティグマの形成には、従来の治療が食事療法・運動療法・行動療法といった、おもに生活習慣の変容に依存するものであったことも一因として挙げられる。今後は、有効性の高い薬物療法や外科的治療法など、治療選択肢の多様化とその社会的な認知の促進を通じて、スティグマの解消を図り、最終的には肥満・肥満症患者のQOLの向上につなげることが期待されている。