COVID-19の“2つの特徴”から示されるマスク着用の有用性

2020年ほど、マスクという言葉が人々の口の端に上った年はないと思われます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてマスクの着用を推奨するかどうかは、未だに国によって違いがみられますが、コロナ禍のなかでマスクの着用をどのように捉えればよいのでしょうか。

COVID-19の特徴として、(1)新型コロナウイルスに感染しても症状が出ない人がいる、(2)飛沫感染や接触感染が主な感染経路だが、空気感染も起こりうる、という2つのポイントが指摘されており、マスク着用の有用性を示す最近の論文や内外の関係機関による声明でも、この点が言及されています。

例えば、COVID-19におけるマスク着用のエビデンスをまとめたSusanna Esposito氏(イタリア・パルマ大学ピエトロ・バリラ病院小児クリニック)らの報告1)では、イタリア北部の約3,000人の村での調査でCOVID-19陽性者の50~75%が完全に無症候性だったことなどから、自分自身の感染に気づいていない患者が多数いることを示唆。さらに、ウイルスは、話したり呼吸したりすることによって生成される呼気中にも存在すると指摘しています。つまり、お互いに健康であると認識していても、換気のよくない部屋で会話をしているだけで、いつの間にか感染したり、感染させたりすることがありうるわけです。この点を踏まえ、同論文では「感染しない」「感染させない」という両面での対策として、マスクの着用を強く推奨しています。

また、米国の大学研究者や臨床医、エンジニアなどが共同で作成するN95DECON文書の「一般利用における医療用マスクと布マスクについてのテクニカルドキュメント」2)でも、「COVID-19 のパンデミックにおいて、公衆における一般的なマスク着用は、他者を守るとともに、着用者もある程度守る」と記載され、エビデンスが示されています。

日本感染症学会と日本環境感染学会の共同声明3)でも、「インフルエンザ対策では飛沫・接触感染対策が中心でしたが、COVID-19においては会話・発声による感染伝播にも注意する必要があります。このウイルスは唾液腺にも感染することから、唾液中に高濃度のウイルスが排出されます。(中略)唾液によるマイクロ飛沫を抑えるためにはマスクの着用が有効です」としています。厚生労働省も、一般向けの「新型コロナウイルスに関するQ&A」4)で、閉鎖空間における人との会話での感染や、無症状の人からの感染の可能性に言及しています。

マスク自体の性能についても議論がありますが、性能よりも「着用の仕方」が重要なようです。日本エアロゾル学会は、
▶「繊維の隙間より小さい粒子はマスクのフィルターを通過する」は間違い。多くの人の想像とは逆に、粒子が小さくなるほどフィルターに捕集されやすくなる。
▶大事なことはマスクのフィルター性能より、マスクの縁と顔表面との隙間からの漏れ(侵入)を少しでもなくすこと。
との見解5)を示しています。

1)Esposito S, et ai.: Eur Respir J. 2020; 55: 2001260.  doi: 10.1183/13993003.01260-2020
2)N95Decon Research Document. Not Peer Reviewed. Version 1.0, 4/24/2020
https://www.n95decon.org/publications内のMasks for Public Use >View Fact Sheet >View Technical Report。
日本語訳は職業感染制御研究会http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_ppewg_n95decon. html内の「一般利用におけるフェイスマスク(使い捨てマスク)」に掲載。
3)日本感染症学会, 日本環境感染学会: 一般市民向け 第一波を乗り越えて、いま私たちに求められる理解と行動(2020年6月15日)
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_rikai_200615.pdf 4)厚生労働省: 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)令和2年10月28日時点版
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
5)日本エアロゾル学会: 新型コロナウイルスや花粉症でのマスク装着に関する日本エアロゾル学会の見解(2020.2.21掲載, 2020.3.26一部修正)
https://www.jaast.jp/new/covid-19_seimei_JAAST_20200327.pdf

※本ページの情報は、2020年11月30日時点までのものです。最新情報は変更となっている可能性があります。