高齢者にとって最も危険な場所は「自宅」!?
わが国の死因の1位は悪性新生物(腫瘍)であり、以下、心疾患、脳血管疾患、老衰、肺炎と続き、6位に入っているの が「不慮の事故」です。この「不慮の事故」による年間死亡者数は、2016年の人口動態調査によれば3万8,306人1)で、そのうちの約83%(3万1,692人)という多数を65歳以上の高齢者が占めています2)。では、高齢者に多い「不慮の事故」の実態はどのようなものなのでしょうか。
「不慮の事故」と聞いて誰もが思い浮かべるのは、交通事故でしょう。しかし、高齢者の交通事故の死亡者数はそれほど多くなく年間3,000人ほど。交通事故よりも2倍以上多いのは、「誤嚥等の不慮の窒息」(8,493人)、「転倒・転落」(7,116人)、「不慮の溺死および溺水」(6,759人)の3つなのです(いずれも2016年のデータ)2)
「誤嚥等の不慮の窒息」の大半は、気道閉塞を生じた食品の誤嚥で、吐しゃ物による窒息も含みます。東京消防庁の救急搬送データによると、窒息の原因は、詳細不明のものを除けば、おかゆ類が最も多く、餅、ごはん、肉の順です3)。おかゆ類と聞いて、意外に思われるかもしれませんが、主食類は口にする頻度が高いので、それに応じて誤嚥の発生率が多いようです。また、このような喉を詰まらせる事故は、男性に多いのも特徴です。
「転倒・転落」は、ものにつまずいたり、すべったり、階段などから転落することが原因です。家庭外の道路や階段、エスカレーターでも発生しますが、同等以上に家庭内の居室、階段、廊下、玄関、ベッドなどで多く起きています。高齢者はカーペットなどの小さな段差でも容易につまずいて転倒し、それが骨折などの重大な事故につながっています。また、起立性低血圧や貧血、脱水、発熱のほか、睡眠導入剤や精神神経用剤の服薬も転倒の原因となります。
「不慮の溺死および溺水」は、浴槽内でおぼれたりすることですが、これは冬の時期に多いヒートショックが大きな原因として挙げられます。つまり、暖かい居間から寒い浴室に移動し、さらにお湯につかることで、血圧の急変動が起こり、入浴中に心筋伷塞や脳卒中をきたして意識を失い、溺死するというパターンです。
こうした結果をみると、家庭内での死亡事故が際立って多いことがわかります。高齢者にとって最も危険な場所は、実は「自宅」なのです。特に高齢者の救急搬送のうち、約80%が「転倒・転落」ですから3)、住居内の段差を解消し、階段や玄関、廊下などに手すりを設置することが大切です。

1)厚生労働省「平成28年(2016)人口動態調査」
2)消費者庁「高齢者の事故の状況について」(平成30年9月12日) ~厚生労働省「人口動態調査」~
3)消費者庁「高齢者の事故の状況について」(平成30年9月12日) ~東京消防庁「救急搬送データ」~