2018年9月6日に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震で震度7の被害を受けた北海道厚真(あつま)町。
復興の起爆剤として同町が期待を寄せるのが作付面積日本一を誇るハスカップだ。ハスカップの効能を研究する薬剤師が観光大使となり、官民一体のハスカップPRで町おこしに賭ける厚真町をレポートする。
土砂崩れと地割れ
地中では根が切れ、成長に影響
北海道勇払(ゆうふつ)郡厚真町は北海道の南西部、札幌市内から車で約90分の距離に位置する農村地帯だ。人口約4,600人の小さな町を2018年9月6日、震度7の地震が襲った。町を囲む山の斜面が崩れ、土砂に巻き込まれるなどして36人が亡くなり、多くの農家が被害を受けた。
同町は、太平洋に面した明るい気候を活かし、稲作や畜産が盛んな一方、ハスカップの作付面積日本一を誇る「ハスカップのまち」としても知られる。しかし、今回の地震で多くの農家が被害を受けた。町内有数のハスカップ農家の土居元さんの畑は土砂で一部が埋まり、畑を切り裂くように地割れがおきた。一見、被害を受けていないように見える木も、「地面が動いたことで、根が切れて痛んでいるはずです。例年通りに花をつけてくれるかどうかわかりません」と、土居さんは今後の影響に不安を隠せない。
ハスカップはスイカズラ科の落葉低木で、5 月中旬ごろにクリーム色の小さな花(写真)をつけ、7月には直径2cmほどの黒褐色の実を結ぶ(写真)。甘酸っぱい実はジャムや飴、ジュースなどに加工され、北海道の特産品売り場などで販売される。厚真町ではハスカップの実を 塩漬けにして、おにぎりの具にするなど昔から食卓に欠かせない食べ物だ。
「厚真町の人々は昔からハスカップをとても大切にしています。どこの家でも庭で育てていて、実を摘んで食べるというのが当たり前です」と厚真町産業経済課の小松美香さんは話す。
もともと厚真町のある勇払原野はハスカップの群生地だった。1960年代後半からハスカップの生産が始まり、品種改良を重ねて、甘みと酸味のバランスが取れた「ゆうしげ」「あつまみらい」といったすぐれた品種が生み出された。現在、厚真町内のハスカップ農家は100戸を超え、年間の生産量は29トン(2016年)に上る。
ハスカップは昔から健康に良いとされてきたが、(有)中村薬局代表取締役で北海道大学薬学部研究員でもある中村峰夫さんは、その効能効果を科学的に証明しようと研究に取り組んでいる。研究成果は厚真町が作成するパンフレットなどにも掲載され、厚真町ハスカップのPRに一役買ってきた。その功績から2018年10月、宮坂尚市朗町長より観光大使に任命された。薬剤師が観光大使になるのは異例のこと。中村さんは薬剤師の専門性を活かし、科学的に効能・効果を明らかにすることで厚真産ハスカップを広めたいと意気込む。
こんなにすごい!厚真産ハスカップ
抗肥満化、抗糖化、抗酸化
中村さんが厚真町や国立研究開発法人産業技術総合研究所、北海道薬科大学、名古屋市立大学と実施した研究によると、厚真産ハスカップには抗肥満化、抗糖化、抗酸化、さらには抗菌作用もあることが明らかになった。
抗肥満化の実証実験では、高脂肪食を与えたマウスを使い、厚真産ハスカップ水を摂取させた群と水だけを摂取させた群で体重増加の推移を比較した結果、厚真産ハスカップ水を与えたマウスの方が体重増加の抑制が見られ、内臓脂肪も減少していた(図)。
また、コラーゲンゲルの糖化に与える影響を検証したところ、厚真産ハスカップエキス(濃度5mg/mL)は糖化を98.4%抑制することが分かった。抗糖化により老化を予防できると期待されている。
ポリフェノールが多く含まれていることも明らかになった(表)。ポリフェノールは血中のコレステロールや中性脂肪の酸化を抑制し動脈硬化などの生活習慣病予防に役立つが、厚真産ハスカップはブルーベリーの約5倍のポリフェノールを含有していたのだ。
厚真産ハスカップがもつ未知の効能を解明したいと研究を続ける中村さんは「薬剤師が地域に貢献できる方法はたくさんある」と話す。「昔から身体に良いと地域で親しまれている食物があるはずです。薬剤師がその効能・効果を実証することで町おこしに貢献できます」。
震災から半年が経ち、春の訪れとともにハスカップは花の時期を迎える。厚真町の復興は始まったばかりだ。